『エンジェル・アイズ』:2001、アメリカ

シカゴのハイウェイで大規模な交通事故が発生し、シカゴ警察の警官シャロン・ポーグは現場に駆け付けた。相棒のロビー達と共に現場で対応に当たった彼女は、瀕死の重傷を負って車内で動けなくなっている被害者を発見した。シャロンは必死で呼び掛け、「死なないで、私を見て」と被害者を励ました。そんな彼女の顔を、被害者はボンヤリとした意識の中でじっと見つめていた。
それから1年半後。シャロンはサウスサイドで仕事に励んでいる。一方で私生活では男性とデートするが、他人の詮索を嫌がる性格のため失敗に終わる。一方、1人の男が街を徘徊している。彼は車の照明が故障しているのを見つけるが、所有者に泥棒と間違えられた。男は「親切だ」と怒鳴るが、すぐに自分の態度を謝った。アパートに戻った彼は、住人キャンディスにドアの鍵が開いていることを教える。
キャンディスはピザを一緒にどうかと誘うが、男は無表情で断った。シャロンは伝言を受け、兄ラリーの職場へ赴いた。ラリーはシャロンに、両親が結婚の誓いを更新するパーティーを催すことを告げた。だが、シャロンは10年前のことで父が怒っているのを自覚しており、行く気にならない。ラリーは「その制服で仕事場をうろつかれると迷惑だ」と不機嫌になり、妹を追い払った。
シャロンは同僚の警官たちとダイナーで昼食を取っている時、通りの向こう側から自分を見ている男の姿に気付いた。その直後、店の前に車で現れたストリート・ギャングが銃を乱射してきた。シャロンはロビーと共に、逃亡した犯人を追跡した。路地裏に犯人の1人を追い詰めるシャロンだが、銃撃を受けて倒れ込む。その時、先程の男が犯人にタックルを浴びせ、そこへロビーが駆け付けて犯人を逮捕した。男は車椅子の婦人ノラの家を訪れ、食料を配達して去った。
バーで同僚と一緒にいたシャロンは、1人で座っている男を見つけた。シャロンは男のテーブルに行き、話し掛けた。男は、ただキャッチという名前を名乗るだけで、それ以上のことを話したがらない。シャロンはキャッチに「送っていくわ」と告げ、車に乗せた。彼女は自宅アパートの前に車を停め、部屋に誘う。キャッチは「巡り合う運命なんだ」と告げ、2人はシャロンの部屋で熱烈なキスをした。だが、シャロンは帰るよう促し、キャッチも素直に立ち去った。
シャロンが実家を訪れると、ちょうどラリーの妻キャシーが帰るところだった。シャロンはキャシーから、両親のパーティーに来るよう誘われた。父カールは不在で、家には母ジョセフィーヌだけがいた。シャロンが「なぜ誓いを更新するのか」と尋ねると、母は再出発だと答えた。ささいなことから、2人は言い争いになった。10年前、父の母に対する暴力を見たシャロンは、警察に通報した。それ以来、彼女と家族の関係はギクシャクしたものになっていた。
その夜、シャロンはキャッチが残した電話番号に掛け、「翌朝の8時、ダイナーで一緒に朝食を」と誘った。しかし翌朝の7時過ぎになって、シャロンは「寝不足で気が進まない。友達でいましょう」と留守番電話にメッセージを残した。だが、キャッチは既にダイナーでシャロンを待っていた。彼はシャロンの部屋に押し掛け、「約束は守れ」と非難した。シャロンはキャッチの素性を尋ねるが、「言いたくない」と拒まれた。シャロンが彼を尾行してアパートへ押し掛けたると、そこは生活臭が全く無かった。
キャッチは「今までの自分は死んでいた。今は君がいて輝いている」とシャロンに告げる。シャロンはロビーから「どの記録にもキャッチという男の名前は無い」と警告されるが、「余計なお世話よ」と言い返した。キャッチはノラからシャロンに自分のことを話すよう勧められるが、苛立ちを見せるだけだった。キャッチがシャロンに電話を掛け、2人はデートすることになった。公園へ赴いた2人は、そこで肉体関係を持った。
ラリーがキャシーに暴力を振るったことが隣人の通報で判明し、シャロンは同僚と共に現場へ赴いた。しかしキャシーは告訴するつもりは無いという。「なぜ黙っていたのか」と問うシャロンに、キャシーは「首を突っ込まないで」と逆ギレし、家から追い出した。シャロンはラリーに怒りをぶつけるが、兄は開き直ったような態度で逆に口撃してきた。
その夜、シャロンのアパートにキャッチがやって来た。シャロンはキャッチに、10年前の出来事を語る。「パパの暴力は家族の問題だとママが言っていたのに、自分は通報した。だから私は家族のルール破りなの」と言うシャロンを、キャッチは「君は正しいことをした」と慰めた。シャロンはキャッチに、両親のパーティーへ一緒に行ってほしいと持ち掛けた。
シャロンとキャッチは、夜の街に出た。ジャズクラブにキャッチが目を留めたため、シャロンは彼と共に店へ足を踏み入れた。キャッチはトランペットを手に取り、ジャム・セッションに参加した。店を出た直後、トニーという男がキャッチに「スティーヴ」と呼び掛けた。「どうしていたんだ?」と問われたキャッチだが、「僕は知らない」と首を横に振った。シャロンが詳しい事情を尋ねても、やはり彼は「何も知らない、自分はキャッチだ」と言うだけだった。
シャロンは独自に調査し、キャッチの正体を知った。本名はスティーヴ・ランバート、1年半前に発生した多重衝突事故で妻子を失っていた。そして、その時にシャロンが励ました男こそ、キャッチだった。シャロンはキャッチを墓地に連れて行こうとするが、激しく拒絶された。シャロンはキャッチの妻の母であるノラの元を訪れ、話をする。シャロンは両親の誓いの式に出席し、その後のパーティーにも参加する。一方、キャッチは一人で墓地へ行き、そこで眠る妻と息子に話し掛ける…。

監督はルイス・マンドーキ、脚本はジェラルド・ディペゴ、製作はマーク・キャントン&エリー・サマハ、共同製作ドーン・ミラー&レスリー・ワイズバーグ、製作総指揮はアンドリュー・スティーヴンス&ニール・キャントン&ドン・カーモディー、撮影はピョートル・ソボチンスキー、編集はジェリー・グリーンバーグ、美術はディーン・タヴォラリス、衣装はマリー=シルヴィー・デュヴォー、音楽はマルコ・ベルトラミ、ミュージック・スーパーバイザーはマニシュ・ラヴァル&トム・ウルフ。
出演はジェニファー・ロペス、ジム・カヴィーゼル、ソニア・ブラガ、シャーリー・ナイト、テレンス・ハワード、ジェレミー・シスト、モネット・メイザー、ヴィクター・アルゴ、ダニエル・マグダー、ガイレイン・セント・オンジ、コナー・マコーリー、ジェレミー・ラッチフォード、ピーター・マクニール、エルドリッジ・ハインドマン、カリ・マチェット、マイケル・キャメロン、マルセロ・セドフォード、デイヴ・コックス、ロン・ペイン他。


『メッセージ・イン・ア・ボトル』の監督&脚本コンビによるラブストーリー。
シャロンをジェニファー・ロペス、キッャチをジム・カヴィーゼル、ジョセフィーヌをソニア・ブラガ、ノラをシャーリー・ナイト、ロビーをテレンス・ハワード、ラリーをジェレミー・シスト、キャシーをモネット・メイザー、カールをヴィクター・アルゴが演じている。

キャッチは他人に親切にする時も能面のように無表情だったのに、シャロンと喋る時にはぎこちないながらも最初から笑顔を見せている。シャロンはシャロンで、デートは苦手なのにキャッチに対しては最初から「車で送る」と自分から誘っている。しかも「目を閉じると胸に埋まる弾丸を感じる」と、同僚には言えないことを打ち明ける。
「なぜ貴方には素直に言えるのかしら」とシャロンは口にするが、そんなこと、こっちにも分かんねえよ。

その後も、シャロンが家に誘い、キャッチが承諾し、熱いキスを交わすという急接近。会ったばかりなのに、しかも互いに異性との交際に積極的ではないように見えたが、そこでは着火が早い。
特にシャロン側の「なぜ彼に惹かれたのか、なぜ積極的になったのか」という部分には説得力が必要だが、それを監督&脚本家は全てジェニファー・ロペスの芝居とジム・カヴィーゼルの存在感に頼っている。
それは2人に高望みしすぎだよ。

何の仕掛けも無いのに、芝居だけで男に惹かれるところを観客に納得させるなんて、そんなのキャサリン・ヘップバーンでも難しいだろう。
ジム・カヴィーゼルにしても、そりゃゲイリー・クーパーやケイリー・グラントなら「彼なら絶対に女が惚れる」という説得力になったかもしれんけど、何の武器も持たされずに勝負するのはキツい。しかもキャラとしても、完全に目が死んでいて陰気で生命力の薄い男なのよ。
これがロマコメなら、そして明朗なキャラ造形ならハードルは下がるかもしれんが、本作品では逆にハードルが上がっているのに、何の配慮も無い。

他人に心を開かなかったをシャロンが、キャッチだけは特別扱いし、どんなところに惹き付ける要素を感じたのか、サッパリ分からない。自分のことは何も喋ろうとしない不気味な男に、そこまでベラベラとシャロンが相棒にさえ話さないことを打ち明ける感覚に付いて行けない。
しまいには、全くの部外者なのに、両親のパーティーにまで誘うんだよな。
シャロンがキャッチに惹かれる要素を、あえて探すとすれば、「素性が不明でミステリアスだ」というところだろうか。
ただし残念ながら観客にとっては、それが機能しない。
冒頭での「カメラが被害者視点になる」という表現を経て、キャッチがシャロンを見つめる様子などが描写されると、もう彼が事故の被害者で家族を失っていることが読めるので、こっちとしてはミステリアスな存在ではない。

キャッチを墓地に連れて行こうとしたことに関して「現実を受け止めてほしくて」と言うシャロンに、ノラは「焦りすぎ。皆せっかち」と返すが、そうでもないでしょ。それに、仮にシャロンの行動が急ぎすぎだったとしても、そうさせたのはキャッチだよ。
キャッチの知人や親族なら、「焦らずじっくり」という対応も当然かもしれん。しかしシャロンの場合、見知らぬ男からアプローチされているわけで、その相手に対して何も知らないんだから、「心を開かせよう」として焦った態度になっても仕方の無いことだ。
で、シャロンがキャッチの心を開かせようと努めたのに、彼がようやく墓地を訪れて妻子に本当の心で「愛してる、もう忘れない」と語り掛けるという肝心の場面にシャロンが関わっていないってのは、どういうことなのかと。
一方でシャロンの抱える問題に関しても、キャッチが全く関わらないところで勝手に話を進めてしまう。最後まで、そこにキャッチは一切関与しない。

ラスト、シャロンは「完璧を望みすぎて貴方に強制した」と詫びるが、そんなことは無いでしょ。ただ何者かを知りたがっただけであり、完璧なんて求めていなかったぞ。
でも、そこよりさらに引っ掛かることが残る。
シャロンは最後まで家族から除け者にされたままで、その問題に関しては何の光も無く終わっているのよ。そしてシャロン本人も、家族にはキッパリと諦めを付けて新しいスタートを、という考えになっているわけでもない。
だったら、そこの要素は要らんと思ってしまうよ。
なんじゃ、その陰鬱な決着は。

キャッチはシャロンの引き出しを勝手に開けたりするし、彼女に文句を付けたりもするが、自分のことは何も話そうとしない。ただの身勝手なのに、「これが自分のルールだ」と開き直る。
そりゃ本人は傷付いているんだろうけど、キャッチが単なるエゴイストにしか見えないってのがツラいところだ。自分が傷付いているということ、悲しみを抱えて暮らしているということにアイデンティティーを置いているようにも感じられる。
キャッチは自分のことは何もかも隠したまま、愛や幸せを手に入れようとするのだが、それは虫の良すぎる話である。で、シャロンと彼と双方の抱える心の傷や、それに関する話から判断する限り、シャロンよりもキャッチを主人公にすべきじゃないのかと思うんだが。
「頑なに心を閉じていたキッャチが、記憶に残っていた運命の女に導かれ、過去を受け止めて再出発する」という物語にした方がいいような気がするぞ。シャロンの側は、キャッチの関与ゼロで、しかも問題が解決されないままで終わってしまうんだし。


第22回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演女優賞[ジェニファー・ロペス]
<*『エンジェル・アイズ』『ウェディング・プランナー』の2作でのノミネート>


第24回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最も苛立たしいインチキな言葉づかい(女性)】部門[ジェニファー・ロペス]

ノミネート:【最悪の主演女優】部門[ジェニファー・ロペス]
<*『エンジェル・アイズ』『ウェディング・プランナー』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会