『俺たちニュースキャスター』:2004、アメリカ

まだケーブルテレビが世の中に出現する以前、ローカルTV局のアンカーマンが世の趨勢を極めた時代があった。この時代、テレビで ニュースを読むことが許されたのは男だけだった。中でもサンディエゴのチャンネル4でニュース番組を担当するロン・バーガンディーは 、誰よりも男らしいアンカーマンだ。彼がアンカーマンを務めるニュース番組は、夕方6時からの放送だ。スポーツ・キャスターは チャンプ・カインド、お天気キャスターはブリック・タムランド、リポーターはブライアン・ファンタナという顔触れだ。ロンたちの番組 は高視聴率を持続しており、あらゆる視聴者層の心を掴んでいる。
先月も全局トップの視聴率が出たことを知り、ロンたちは盛大なパーティーを開く。それは恒例となっており、12年も続いている。ロンは パーティー会場でヴェロニカ・コーニングストーンという女性を見掛け、心を奪われた。ロンは彼女に声を掛け、「いいケツをしてる。 お近付きになりたい」と口説くが、「あら、そう」と軽くいなされる。改めて口説こうとするロンだが、やはり下品な言葉しか出て来ず、 ヴェロニカは立ち去った。
翌朝のミーティングで、報道局長のエド・ハーケンは「数々のネットワーク支局から、ニュース・チームが多様性に欠けるという不満が 出ている。時代は変わるってことだ。それを踏まえ、ニュース・チームに新しい顔を加えることにした」と話す。彼が紹介して部屋に招き 入れたのは、ノースカロライナのテレビ局から来たヴェロニカだった。しかしニュース・チームの3名は、女が加わることに対して強い 不満を抱き、報道局長室でハーケンに怒りを吐露した。ただしロンは彼女に惚れているので、複雑な心境だった。
ヴェロニカはニュース・チームが自分の参加を嫌っていると知り、呆れ混じりに「まただわ。どの局に行っても同じ」と心で呟く。しかし 彼女は、男たちが浮かれている間に自分を磨き、トップに立ってやろうという野心を抱いていた。ロンは仲間3人がヴェロニカを侮辱する 言葉を口にしたので、「失礼だぞ」と注意する。嘲笑されたロンは腹を立て、「あの女ぐらい簡単に落とせるぞ」と宣言した。
ロンたち4人が散歩していると、チャンネル9でアンカーマンを務めるウェス・マントゥースとニュース・チームの面々がいた。ウェス は4人を嘲笑し、ブライアンたちは腹を立てる。しかしバカにされたロンは余裕の笑みを浮かべ、「落ち込んでるんだな、また視聴率が 2番で」と口にした。ウェスは立ち去るロンの背中に向かって「いつか倒してやるからな。俺はお前が大嫌いだ」と怒鳴った。
ヴェロニカは最初の取材対象が猫のファッションショーだったことに納得できず、ハーケンに抗議する。「私は有能なジャーナリストです 。バカバカしくてやってられません」と訴える彼女を、ハーケンは「命じられた取材をこなせばいいんだ。さっさと仕事しろ」と突き放す 。ヴェロニカは「あんなのクソみたいなネタよ」と捨て台詞を吐いて部屋を去った。チャンプは偶然を装ってヴェロニカのオッパイを触り 、下品な言葉で口説くが、金的にパンチを食らった。
ブライアンは自慢の香水を掛け、ヴェロニカを口説きに行く。しかし、その香水はウンコのような悪臭を放っており、ヴェロニカだけで なく他のスタッフたちも顔を歪めて逃げ出した。ブリックはブライアンが考えた「僕のパンツの中のパーティーに来ないか」という下品な 言葉で、ヴェロニカを口説く。しかしヴェロニカから「行けないわ」と断られると、知能の低いブリックはあっさりと諦めた。
他の連中の失敗を受け、ロンは自信満々でヴェロニカをオフィスに呼ぶ。彼はトレーニングをしているフリをして自慢の肉体を誇示するが 、ヴェロニカは呆れ果てて「貴方も同類だったのね」と告げる。ロンは部屋を去る彼女を追い掛け、「僕は君を町案内してやろうと思った だけさ。だって来たばかりで友達もいなくて寂しいだろ」と言う。かなり偉そうな口ぶりだったが、ヴェロニカは「付き合うわ。でも ジャーナリストとして取材する町を知るためで、デートじゃないわよ」と告げた。
その夜、ロンとヴェロニカはドライブに出掛け、丘の上から夜景を眺める。ロンは友人のティトがオーナーを務めるジャズクラブへ彼女を 連れて行き、ステージに立ってフルート演奏を披露した。ロンがネットワークの番組に出演する夢を口にしたので、ヴェロニカは自分も 同じ夢を持っていることを明かす。ロンから「なんて美しい目だ」と口説かれた彼女は、慌てて「同僚とは恋愛しないって決めてるの」と 去ろうとする。しかし彼女はロンに惚れており、さらに強く口説かれると完全に落ちてしまった。
ロンとベッドを共にしたヴェロニカは、「貴方のことは好きだけど、ちゃんと仕事で評価されたいの。この先も付き合うのなら、局の人間 には内緒にしておきましょう」と告げる。ロンは「そうしよう」と約束したが、テレビ局に行くと大声で「ヴェロニカとセックスした。 俺たちは愛し合ってる」と叫んだ。さらに彼は、その夜のニュースでも視聴者に向かって「私は新人リポーターのヴェロニカと交際中です 。ベッドの中の彼女は、かなりワイルドです」と語った。
ヴェロニカから「内緒にするって言ったでしょ。アンカーになりたい夢が台無しだわ」と批判されたロンは、何食わぬ顔で「あまりに幸せ だから叫びたくなったんだよと」と告げた。ロンはヴェロニカと交際を開始してから、ブライアンたちとの付き合いより彼女との時間を 優先するようになった。付き合いが悪くなったことを仲間たちから責められたロンは腹を立て、「いずれ俺は彼女と結婚するぞ。だけど、 お前たちは式に呼んでやらない」と告げた。
ヴェロニカはジャーナリストとして満足できるような取材を全くさせてもらえなかったが、じっと我慢の日々を過ごした。一方、ロンは車 でテレビ局へ向かう途中、食べ掛けのブリトーを外に捨てるが、バイカーに命中してしまう。転倒したバイカーは激昂し、ロンが連れて いた愛犬のバクスターを川に投げ込んだ。放送時間が迫ってもロンが来ないので、ヴェロニカはハーケンに「私がやります」と申し入れる 。ハーケンは「女のアンカーなんて無理だ」と反対するが、ヴェロニカは強硬な態度で代役出演を承諾させた。
ショックの大きいロンは、錯乱しながらテレビ局に電話を掛けた。ブライアンからヴェロニカが代役でニュースを読むと聞かされたロンは 、急いでテレビ局へ向かう。生放送が始まると、ブライアンとチャンプはカメラに写らない場所でヴェロニカを妨害する。しかし番組の 最後まで、ヴェロニカはキッチリと代役を務め上げた。女性スタッフのヘレンたちは拍手を送り、ハーケンも「なかなか良かったよ。最後 の台詞も気が利いてた」と彼女を褒めた。
スタジオへ走り込んだロンは、もう番組が終わったことを知らされる。ヴェロニカは完璧にニュースを読んだことを話し、ロンにも喜んで もらおうとする。しかしロンは「なんてことしてくれたんだ、僕のニュースだぞ」と激怒する。ロンは彼女を侮辱するような態度を取り、 「失せろ」と言い放つ。その日の視聴率が良かったため、ハーケンはミーティングで「次の放送からロンとヴェロニカの2人体制にする」 と通達した。大喜びするヴェロニカを見て、ロンは憤りを隠せなかった。
全米初の女性アンカーとなったヴェロニカは、スターへの階段を駆け上がって行く。ロンとヴェロニカは音声が消えて番組のエンドロール が流れている間、互いに笑顔のままで悪口を言い合った。ロンはネットワークの人間に成り済まして彼女に電話を掛け、モスクワ転勤を 通告するが、すぐに嘘だとバレた。ロンは番組ナレーターに原稿を渡し、自分を褒めてヴェロニカをバカにする紹介コメントを読ませる。 しかしヴェロニカは全く動じず、すました顔で切り返した。
ロンは幼稚な嫌がらせを繰り返すが、ヴェロニカはスタッフ全員を味方にしていた。危機感を抱いたロンとニュース・チームの3人は、 とりあえずスーツを買いに行くことにした。なかなか店が見つからない中、ロンたちはチャンネル9のニュース・チームと遭遇した。2組 が武器を構えて対決しようとしていると、チャンネル2のニュースチームがやって来て「俺たちも忘れるなよ」と言う。さらに公共放送の ニュース・チーム、続いてスペイン語放送のニュース・チームも現れる…。

監督はアダム・マッケイ、脚本はウィル・フェレル&アダム・マッケイ、製作はジャド・アパトー、共同製作はデヴィッド・ ハウスホルター、製作総指揮はショーナ・ロバートソン&デヴィッド・O・ラッセル、撮影はトーマス・アッカーマン、編集はブレント・ ホワイト、美術はクレイトン・R・ハートリー、衣装はデブラ・マクガイア、音楽はアレックス・ワーマン。
出演はウィル・フェレル、クリスティーナ・アップルゲイト、ポール・ラッド、スティーヴ・カレル、デヴィッド・ケックナー、フレッド ・ウィラード、クリス・パーネル、キャスリン・ハーン、フレッド・アーミセン、 ジャック・ブラック、ベン・スティラー、ルーク・ウィルソン、セス・ローゲン、ポール・F・トンプキンズ、ダニー・トレホ、スコット ・ロビンソン、イアン・ロバーツ、ダーシー・ドノヴァン、レニー・ウェルドン、ジェリー・マイナー、ホームズ・オズボーン、 チャールズ・ウォーカー他。


1995年から2002年まで『サタデー・ナイト・ライブ』にレギュラー出演して人気者になったコメディアン、ウィル・フェレルの主演作。
監督のアダム・マッケイは、『サタデー・ナイト・ライブ』で演出やコント台本を手掛けていた人で、これが映画デビュー作。
ロンをウィル・フェレル、ヴェロニカをクリスティーナ・アップルゲイト、ブライアンをポール・ラッド、ブリックをスティーヴ・カレル 、チャンプをデヴィッド・ケックナーが演じている。 他に、ハーケンをフレッド・ウィラード、ハーケンの部下ガースをクリス・パーネル、ヘレンをキャスリン・ハーン、ティノをフレッド・ アーミセン、バイカーをジャック・ブラック、スペイン語放送のアンカーマンをベン・スティラー、チャンネル2のアンカーマンをルーク ・ウィルソン、カメラマンのイーガーをセス・ローゲンが演じている。
アンクレジットだが、ウェス役でヴィンス・ヴォーン、公共放送のアンカーマン役でティム・ロビンス、動物園の飼育員役でミッシー・ パイルが出演している。

この映画、1970年代の時代設定なのだが、その必要性がイマイチ分からない。
いや、もちろん、「当時のニュース番組は男性社会であり、そういう環境を利用したかった」という理由は分かるのよ。
ただ、「ニュース番組は男性社会」という部分以外で、1970年代の時代設定にしていることが意味を持っているようには思えない。当時の ファッションなんかも盛り込まれているけど、それほど効果的とは思えないし。
むしろ「ロンが時代錯誤なファッションに身を包んでいる」というキャラにしておけば、それはそれで面白いし。「本人はイケてるから 人気があると思っていたが、実はダサいのが受けていた」ってことにすれば、そこで笑いを作れるし。

っていうか、実は「ニュース番組が男性社会」という時代設定も、実はそんなに必要性が高くないんだよな。
ヴェニロカの加入に反対するニュース・チームだが、では取材の最中に嫌がらせをするとか、番組の放送中に無視するとか、そういう 「彼女を排除するための卑劣な行動」を取るのかというと、そういう展開にならず、なぜか彼女を口説き落とそうとする。
そういうことなら、別に「仲間入りに反対」とか、「女性蔑視の時代」とか、そういうのって必要性が無いでしょ。
単に「女好きの連中」ってことでいい。

で、そういうことであれば、むしろ時代設定は現代にして、その中で時代錯誤的な考えに凝り固まっている男たちという設定にするとか、 そういうことでも良かったのかなと。
ヴェロニカが強い野心を抱いているってのも、別に1970年代という時代設定が無くても成立するし。
1970年代に比べれば、この映画が公開された2004年のニュース番組には多くの女性が進出していただろうが、それでも男性の方が多かった はずだし、まだ男性中心の考え方を持っている人間もいたと思うし。
とにかく、「女性蔑視が当然の世界」ってトコでしか1970年代の時代設定を活用できていないのが、あまり上手くないなと感じる。

まずヴェロニカがニュース・チーム加わることが分かる前に、ロンたち4人が女に対して差別的な考えを持っていることを観客に示して おくべきだ。そうじゃないと、ロンはヴェロニカがチームに加わることを知った時点では彼女に惚れているので、微妙な反応になって しまう。
そのために、そもそもロンがブライアンたちと同様、女性蔑視の考え方が強いのかどうかが分かりにくくなってしまう。
先にロンの中で女性蔑視の考えが強いことを示しておけば、「そんな考えを持っているロンだけど、加わる相手が惚れた女性なので強硬な 態度に出られない」ってことが明確になるし、喜劇としてもそっちの方が効果的なはずだ。
っていうか、ホントはロンの態度を変えた方がいいと思うんだけどね。
「ロンはヴェロニカに惚れているけど、女性はチームに要らないと普段から仲間たちの前で強く主張していたこともあり、彼女に対して 邪険な態度を取って嫌われる。仲間のいないところで何とか彼女に気に入ってもらおうとするが、ことごとく失敗に終わる」とか、 そういうことで物語を作って行っても良かったんじゃないかなと。

ヴェロニカがチームに加わることが決まった後、散歩に出たロンたちがチャンネル9のニュース・チームと遭遇して言い合いになるという 展開があるが、ここは順番を逆にした方がいい。
ヴェロニカが登場したら、しばらくは彼女の加入に伴って発生するエピソードを続けるべきだろう。
それなのに、すぐにウェスたちを登場させて寄り道しちゃうから、せっかく勃発した「ニュース・チームvsヴェロニカ」と いう対立の構図が、あっという間に脇へ追いやられてしまう。
それは構成として上手くない。

ロンから偉そうな口ぶりでデートに誘われたヴェロニカが、それを簡単にOKするのは違和感が強い。
最初にパーティーで口説かれた時は呆れて立ち去っていたし、マッチョでも何でもない肉体を誇示された時も嫌悪感を示していたのに、 なぜOKなのかと。
しかも待っている最中に、「これはマズいわ。でも彼は素敵だし」とドキドキしているぐらい完全に惚れちゃってるのよね。
だけど、どこでロンに惚れたのか、そのきっかけもタイミングもサッパリ分からないぞ。

ヴェロニカがロンの代役でニュースを読むことになった時、ブライアンたちは嫌がらせをする。
でも、これは「ニュース番組は男性中心の社会だから」とか、「彼らが女性蔑視の考え方を持っているから」という設定なんて必要が 無くて、「仲間だったロンがヴェニロカとラブラブでパーティー野郎じゃなくなったので、邪魔な女を排除しようとする」ということでも 成立する。
ヴェロニカが高評価を得た後、ロンは彼女への対抗心を剥き出しにするが、これも「ロンが自分の座を脅かす相手に対抗心を燃やす」と いうことで成立する。
つまり、この映画は1970年代という時代設定も、男性中心の現場という設定も、それが無くても成立しちゃうんだよな。

ロンたちはヴェロニカへの幼稚な嫌がらせを繰り返した後、彼女がスタッフを味方に付けていることに対して危機感を募らせる。
で、それに対して手を打つべきだと考えたロンたちは、なぜか「こういう時はスーツを買いに行こう」と言い出す。
その時点で「なんでやねん」とベタなツッコミを入れたくなるが、それより問題なのは、そこからの展開。
さっさとスーツを買いに行く手順は済ませて、もしくは省略して、また「ニュース・チームとヴェロニカの対立」というところの話に 戻るのかと思いきや、そうではないのだ。

スーツを買いに行ったロンたちは、チャンネル9のチームと遭遇し、武器を構えて戦おうとする。
その時点で既に「道を逸れてるなあ」と感じるが、さらに他のテレビ局のチームも次々に現れる。そういうのって、「ロンたちと ヴェロニカの対立」とは何の関係も無い。
これが「ロンたちが他のテレビ局と視聴率争いをしながら奮闘するコメディー」であれば、そういうところを膨らませても別に 構わないよ。でも、そうじゃないんだから、明らかに寄り道でしかない。
それに、その寄り道が、あまりにも大きく扱われてすぎている。しかも残り30分程度で、いよいよ物語が佳境に入って行かなきゃいけない ようなタイミングで、その道草なんだよな。どういう構成だよ。

その後には「ロンとヴェロニカが殴り合いの喧嘩をする」「ヴェロニカの策略でロンが不適切な発言をやらかしてクビになる」「ロンが バッシングを浴びて酒浸りになる」「ヴェロニカがパンダ出産の取材中に突き落とされる」「ロンが代役で動物園へ急行する」「熊の近く へ落とされたヴェロニカを救うためにニュース・チームが戦おうとする」といった展開がある。
だが、これも「なんか違うなあ」と感じてしまうんだよなあ。
一応、ちゃんとしたストーリーを追ってはいるのよ。
だけど、どうも「ホントに進むべき筋道から逸れてるんじゃないか」という印象を受けてしまう。

(観賞日:2013年9月12日)


第25回ゴールデン・ラズベリー賞(2004年)

ノミネート:最低主演男優賞[ウィル・フェレル]
<*『ポリーmy love』『俺たちニュースキャスター』『ドッジボール』『隣のリッチマン』『スタスキー&ハッチ』の5作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会