『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』:2016、アメリカ&イギリス
1874年、マラッカ海峡。亡き父から引き継いだ貿易船ワンダー号の船長として荒れる海を航海していたアリスは、海賊船に囲まれる。強気な指示で船を進めたアリスは転覆寸前で岩礁を回避し、海賊船を引き離した。翌年、ロンドンに戻った彼女は、アスコット卿が亡くなって息子のヘイミッシュが跡を継いだことを知る。3年ぶりに戻ったアリスだが、すぐに次の航海へ出ようとする。母のヘレンは「この街でも貴方の力は生かせるわ」と言うが、アリスは「次の航海から戻れば何の心配も要らなくなる」と告げた。
アリスはヘレンと共に、ヘイミッシュの新会長就任パーティーへ赴いた。アリスを招待していないヘイミッシュと母のアスコット夫人は、彼女を見て驚いた。ヘイミッシュは妻のアレグザンドラを紹介し、アリスを馬鹿にするような態度を取った。アリスが報告書を渡して次の航海の話をしようとすると、彼は事務職に移るよう要求した。ヘイミッシュはヘレンから株式を家の債権と共に買い取ったことを明かし、船を譲渡すれば家は返すと告げた。
ヘレンはアリスから船を売ったことを責められると、「貴方が再出発するための資金よ。船長は女性の仕事じゃないわ」と述べた。反発して走り去ったアリスの前に、イモムシから蝶になったアブソレムが現れた。アブソレムはアスコット卿の書斎に入り、鏡の中へと消えた。ドアの向こうにヘイミッシュたちが現れたので、アリスはアブソレムの後を追った。すると彼女の体は縮んでしまい、別の書斎に入り込む。アブソレムはアリスに「彼との別れが近い。全ては時が満ちれば分かる。今は急げ」と言い、部屋を出るよう促した。
ドアを開けたアリスは空中を急降下し、白の女王のミラーナたちがティーパーティーを開いている現場に着地した。パーティーに参加していた白ウサギのマクトウィスプやトウィードルダム&トウィードルディーたちが、アリスを歓迎した。ミラーナたちはマッドハッターのことで頭を悩ませていること、彼が塞ぎ込んで笑わなくなったのだと話す。大嵐の後、タルジーの森を訪れたマッドハッターは青い紙帽子を見つけて家族の悲劇を思い出した。何年も前のヘルベンダッシュの日、彼は家族をジャバウォッキーに殺されていた。
ミラーナは「貴方に会えば元の彼に戻るかも」と言い、アリスはマッドハッターの家へ行く。マッドハッターはアリスの訪問を喜び、「君しかいない」と告げる。彼は「僕が初めて作った紙帽子を見つけた。大昔に捨てられたから、ここにあるなんて有り得ない。帽子が無事なら家族も無事だ」と語り、アリスを戸惑わせる。マッドハッターは「僕はハイトップ家の落ちこぼれで、堅物の父に反発して大ゲンカした。家族が生きていれば、謝ることも出来る」と語った後、その場に座り込んだ。
アリスは慌てて、「貴方は病気なの?力になりたい。どうすればいい?」と尋ねる。「僕の家族を連れ戻してほしい」と頼まれたアリスは、「家族は亡くなったのよ。連れ戻すことは出来ない」と説く。マッドハッターが「君なら出来る」と訴えると、彼女は「不可能よ」と言う。するとマッドハッターは「君はアリスじゃない。アリスなら僕を信じる」と冷たく告げて、アリスを家から追い出した。アリスはミラーナの元へ戻り、「マッドハッターは重病よ。このままじゃ死んでしまう」と話した。
「家族を連れ戻してと言われたけど、そんなの不可能よ」とアリスが言うと、ミラーナは「1つだけ方法がある。とても危険な方法だけど、時を遡って家族を救うのよ」と言う。万物の大時計の動力源であるクロノスフィアを持つ者は、時間の海を自由に渡れるという伝説があるのだ。ミラーナは「この国の住人は使えない。もし過去と未来の自分が出会ったら、全てが破壊される」と説明し、別の国から来たアリスは危険を承知で協力を承諾した。
クロノスフィアはタイムという男が所持しており、彼は永遠の城に住んでいる。アリスはミラーナに案内された振り子時計の中へと入り、タイムの城に辿り着いた。タイムを見つけたアリスは身を隠し、彼の後を追った。タイムは「アンダーランドの生者たち」という看板が掲げられた部屋に入り、上空から吊り下げられている無数の懐中時計を確認した。音が止まったブリリアム・ヒンクルの時計を見つけた彼は、それを回収した。彼が時計の蓋を閉じると、ブリリアムは死亡した。
「アンダーランドの死者たち」の部屋に入ったタイムは、アルファベット順に並べた時計の中にブリリアムの物を入れた。タイムに発見されたアリスは事情を説明し、クロノスフィアを貸してもらおうとする。タイムが「君の望みは歴史を破壊することだ」と言うと、彼女は「でもハッターの病気を治すために必要なの」と訴える。タイムは助手のウィルキンズを呼び、アリスを放り出すよう命じた。アリスが部屋を出て行く時、彼は「過去は変えられない。そこから何かを学びたまえ」と告げた。
城を出ようとしたアリスは、赤の女王のイラスベスが来たことを知った。タイムはイラスベスに惚れており、高慢な態度の彼女を手厚く歓迎した。しかしイラスベスはクロノスフィアを使って妹に復讐し、時間を支配しようと企んでいた。アリスがクロノスフィアを盗むと、助手のロボットたちが合体して追って来る。タイムとイラスベスも駆け付ける中、アリスはクロノスフィアを落として起動させてしまう。彼女は紐を引っ張ってクロノスフィアを操縦し、時空の穴に入った。
タイムは急いで後を追い掛け、「クロノスフィアを返せ。さもないと私は存在しなくなる」と叫んだ。アリスはホルベンダッシュの日に戻ろうとするが、タイムの攻撃を受けてトゥーマリーの日に降り立ってしまう。過去のマッドハッターを見つけたアリスが話し掛けると、彼は「タラントだ」と自己紹介する。「貴方の家族を捜してるの」とアリスが言うと、彼は「運がいい。こっちだ」と教会へ案内した。教会ではミラーナの成人式とイラスべスの王位継承式が執り行われ、大勢の住民が集まっていた。
頭の大きいイラスベスは用意された王冠が入らず、人々に嘲笑されてしまう。憤慨したイラスベスが怒鳴り散らしていると、エルズメア王妃が注意した。オレロン王はイラスベスの振る舞いを「国王の器ではない」と叱責し、ミラーナを王位継承者に指名した。イラスベスはタラントが最初に笑ったことを気付いており、「よくも笑ったね。ハイトップ一族に復讐してやる」と言い放つ。ミラーナが声を掛けようとすると、イラスベスは「アンタのせいでしょ。どうして本当のことを言わないの」と詰め寄った。ミラーナが黙り込むと、イラスベスは「誰も私を愛してくれない」と泣きながら走り去った。
タラントは父のザニックから「分別を持って行動しろ。姫に王冠を失わせた。家名に泥を塗った」と説教されて反発し、「家を出て行けば満足だろ」と告げて立ち去った。アリスはタラントの後を追い、家族の元に戻って。ホルベンダッシュの日が危ないと警告して」と促す。しかしタラントは相手にせず、その場を後にした。アリスがザニックたちの元へ戻ると、ミラーナがやって来た。彼女はザニックに「姉は不幸な出来事があって、あんな風に」と謝罪した。
ミラーナはザニックに、「フェルの日に午後6時に広場で頭を打ってから、姉は全てが変わってしまった」と説明した。事故が無ければハッターは助かると確信したアリスは、フェルの日へ向かった。タイムはマッドハッターたちがティーパーティーを開いている現場に現れ、「アリスがガラクタを盗んだ。居場所を知っているか」と尋ねた。マッドハッターは「ちょうどアリスを招待している。一緒に待とう」と告げ、タイムを座らせて質問を投げ掛けた。
フェルの日に着いたアリスは、少年のタラントと遭遇した。タラントはアリスに話し掛け、客としてザニックの元へ案内した。彼は自分が初めて作った青い紙帽子を取り出し、ザニックに見せた。ザニックは「リボンの向きが逆だ」と言い、直そうとして破いてしまう。しかし彼は全く気にせず、「明日、ちゃんとした帽子の作り方を教えてやろう」と告げて紙帽子をゴミ箱に捨てた。タラントが泣いて走り去ると、入れ違いで母のタイヴァがやって来た。「あの子に厳しすぎる」と言われたザニックは、「帽子作りは厳しい仕事だ。浮付いた考えを許して才能を潰したくない」と述べた。
6時が迫っていることに気付いたアリスは、慌ててザニックの元を去った。一方、イラスべスとミラーナはタルトを食べていて口論になり、母に叱られてキッチンから追い出された。しかしミラーナは密かにキッチンへ戻り、残っていたタルトを持ち出した。彼女はイラスベスのベッドの近くでタルトを頬張り、食べかすをこぼした。タイムはマッドハッターたちが騙していたと知り、「アリスが来るまで、お前たちはティーパーティーが始まる1分前を何度も繰り返す」と告げて去った。彼が言った通り、マッドハッターたちはティーパーティーを延々と続ける羽目になった。
イラスベスは母からタルトを食べたことを指摘され、「私は食べてない。ミラーナよ」と主張した。しかしミラーナが「知らない」と嘘をついたため、イラスベスは母から「妹のせいにして」と叱られた。家を飛び出したイラスベスは、転倒して頭を打った。その様子を目撃したアリスは、タイムの「過去を変えることは出来ないが、そこから学ぶことは出来るかもしれない」という言葉を思い出す。ハイトップ家を覗いた彼女は、ザニックが紙帽子を大事そうに懐へ入れる様子を目撃した。
アリスは「アンダーランドの死者たち」の部屋にハイトップの時計が無かったことを思い出し、タラントの家族が生きていると確信した。そこへタイムが現れ、アリスにクロノスフィアを返すよう要求した。しかしアリスは「ホルベンダッシュの日へ行ってハッターを助ける」と言い、鏡の中に飛び込んで逃亡した。彼女が意識を取り戻すと、病院のベッドに寝かされていた。目の前にはヘレンがいて、「貴方はアスコット家の2階にいて、ヘイミッシュが連れて来た。行動が変だったらしいわ」と説明した。
医師が注射を打とうとするのでアリスは逃亡し、馬車を盗んでアスコットの屋敷に戻った。彼女は屋敷の2階段へ行って鏡に飛び込み、クロノスフィアを操ってホルベンダッシュの日へ向かった。するとハイトップ邸は炎に包まれ、イラスベスの軍隊がタラントの家族を連行していた。イラスベスは「復讐してやる」言い、不敵な笑みを浮かべてアリスの前から姿を消した。アリスは衰弱しているハッターの元へ戻り、家族が生きていてイラスベスに捕まっていることを教えた…。監督はジェームズ・ボビン、キャラクター創作はルイス・キャロル、脚本はリンダ・ウールヴァートン、製作はジョー・ロス&スザンヌ・トッド&ジェニファー・トッド&ティム・バートン、製作総指揮はジョン・G・スコッティー、共同製作はジェレミー・ジョンズ、撮影はスチュアート・ドライバーグ、美術はダン・ヘナー、編集はアンドリュー・ワイスブラム、衣装はコリーン・アトウッド、視覚効果監修はケン・ラルストン&ジェイ・レッド、アニメーション監修はトロイ・サリバ、音楽はダニー・エルフマン。
主演はジョニー・デップ、共演はアン・ハサウェイ、ミア・ワシコウスカ、ヘレナ・ボナム・カーター、サシャ・バロン・コーエン、マット・ルーカス、リス・エヴァンス、リンゼイ・ダンカン、レオ・ビル、ジェラルディン・ジェームズ、エド・スペリーアス、アンドリュー・スコット、リチャード・アーミティッジ、ハッティー・モラハン、ルイス・サーキス、ジョアンナ・ボビン、アメリア・クラウチ、レイラ・デ・メサ、シモーヌ・カービー他。
声の出演はアラン・リックマン、スティーヴン・フライ、マイケル・シーン、ティモシー・スポール、バーバラ・ウィンザー、マット・ヴォーゲル、ポール・ホワイトハウス、ポール・ハンター、ウォーリー・ウィンガート、ミーラ・サイアル、オウェイン・リス・デイヴィス、エドワード・ペサーブリッジ。
2010年の映画『アリス・イン・ワンダーランド』の続編。
前作の監督を務めたティム・バートンは製作に回り、代わって『ザ・マペッツ』『ザ・マペッツ2/ワールド・ツアー』のジェームズ・ボビンが起用された。脚本は前作に続き、リンダ・ウールヴァートンが担当。
マッドハッター役のジョニー・デップ、白の女王役のアン・ハサウェイ、アリス役のミア・ワシコウスカ、赤の女王役のヘレナ・ボナム・カーター、ダム&ディー役のマット・ルーカス、ヘイミッシュ役のレオ・ビル、アンクレジットだがイモージェン役のフランシス・デ・ラ・トゥールは、前作からの続投。
声優陣では、アブソレム役のアラン・リックマン、チェシャ猫役のスティーヴン・フライ、白ウサギ役のマイケル・シーン、ベイヤード役のティモシー・スポール、ヤマネ役のバーバラ・ウィンザーが続投。
他に、タイムをサシャ・バロン・コーエン、ザニックをリス・エヴァンスが演じている。前作は『不思議の国のアリス』の映画化ではなく、『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』をモチーフにした後日談だった。
つまり、世界的に有名な『不思議の国のアリス』や、その続編である『鏡の国のアリス』とは、全く異なる話だった。
それだけでなく、作品のテイストとしてもアクションの色が濃くなっており、そういう意味でも原作ファンには全くオススメできない映画となっていた。
今回の映画は、そんな映画の続編なので、ますます原作とは無関係の内容になっている。冒頭、アリスがヘイミッシュから「女性が船長なんて」と嘲笑されたり、ヘレンから「船長は女性の仕事じゃない」と言われたりする様子が描かれる。「お父様の船よ。お父様なら絶対に売らない」とアリスが反発すると、ヘレンは「お父様はもう死んだ。全て思い通りにすることは出来ない。女は受け入れるしかない。私もそうした」と言う。
何となくウーマン・リヴ的なテーマを匂わせる導入部のやり取りに、嫌な予感を覚える。
「そういうの、『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』とは全く相容れぬメッセージだぞ」と感じる。
ただ、前述したように原作とは全く別物なので、それも仕方が無いんだろう。アリスが再び不思議の国へ戻るのは、最初から分かり切っている。だからアブソレムが鏡の中に消えた時点で、それを追って行くことも簡単に読める。
だから、さっさと鏡に入ればいいものを、「ヘイミッシュたちがドアの向こうに来て騒いだので、逃げるために慌てて鏡の中へ」という手順を踏んでいる。
そんな手順、まるで必要が無いでしょ。
ってことは、ヘイミッシュたちが来なかったら、アリスは鏡の中へ入らなかったのかと。違うでしょ。今でも冒険心と好奇心旺盛な性格なんだし、イモムシから蝶に変貌してもアブソレムのことを覚えているんだから、絶対に追い掛けるでしょ。アリスはマッドハッターと会った時、どうやら具合が悪そうだと感じている。
でも、だからってミラーナに「このままじゃ死んでしまう」と言うのは、あまりにも安直でしょ。なぜマッドハッターが死ぬと思ったのか、この根拠がサッパリ分からない。
こっちが「このままじゃマッドハッターは死ぬ」と思えないから、「家族を連れ戻し、マッドハッターの幻想が現実になれば元気になる」という話に乗ることも難しくなっている。
そんなのは、ティー・パーティーのシーンで「マッドハッターは病気で、このままだと長くない」と誰かに言わせておくだけでも、あっさりと解消できちゃう問題なのに。タイムはアリスから話を聞いてほしいと頼まれると、手短にと要求する。アリスが「友達が死にそうなの」と言っただけで、「ダラダラ話すな」と怒鳴る。
ウィルキンズに話し掛けた時も、自分で質問しておきながら相手が話そうとすると「黙れ」と制止する。
では異様にせっかちな性格なのかというと、生者の時計を確認したり死者の部屋に並べたりする時は、そんなに急いでいない。
「お喋りに関してのみ、異様に短く切り上げたがる」ってことなのかもしれないけど、キャラ設定がボンヤリしているように感じる。タイムの城には大勢の助手がいるのだが、それは小さなロボットだ。
前作では様々な種類のキャラクターがいたが、ロボットはいなかった。ただ、それでも小さな助手たちの時点では、その造形が幸いして、あまり違和感は抱かせない。
しかしアリスがクロノスフィアを盗み、タイムの助手たちが合体すると、人間型ロボットになってしまう。こうなると、完全にアウトだ。そのロボットは明らかに異質であり、不思議の国には馴染まない。
そういうキャラを平気で登場させられるんだから、いかに製作サイドが原作に対する愛やリスペクトを持っていないかってことだ。
その一派にティム・バートンまで含まれているのは、心から残念だわ。ミラーナはマッドハッターを救う方法として、「クロノスフィアを使って過去へ戻れば家族を救えるかも」とアリスに提案する。しかし、クロノスフィアを持ち出すと、それだけで国には影響が出始める。そしてクロノスフィアが戻らないと、タイムも国も崩壊してしまうのだ。
そりゃあマッドハッターを救うことは大切かもしれないけど、そのために国を存亡の危機にさらすってのは、あまりにもリスクが大きい。
そこには「1人の命と国の存亡、どっちが大事なのか」という難題があるのだが、そういう重厚なテーマは全く無視している。
だけど無視するぐらいなら、最初から持ち込んじゃダメだろ。そのせいで、アリスの行動を全面的に応援できなくなるわ。アリスに時間旅行をさせるってのは、まあ良しとしよう。だが、それに伴ってアンダーランドの住人たちの存在意義が皆無に等しくなっているのは、決して賛同できない問題だ。
今さら原作の魅力について評しても無意味なのは承知で書くが、ダム&ディーやチェシャ猫など個性的なキャラクターが次々に登場するってのは、かなり大きなポイントなのだ。しかし今回、アリスが出会う相手の大半は、ごく普通の人間だ。
アリスがハッターの家族を助けに行く展開に入ると、ようやくアンダーランドの住人たちが一緒に動く。しかし、もう本編の残りは20分ぐらいしか残されていない。
おまけに、ハッターを除く面々は「ただ城まで付いて来ただけ」という扱いなのだ。そりゃあダム&ディーたちは前作で登場させているから、初対面のインパクトを与えることは出来ない。
だが、それでもヘンテコな住人を積極的に使うってのは、単純に見栄えもするという利点もある。
だから新キャラを幾つか投入して積極的に活用するという手もあるが、タイムの助手たちが少し活躍する程度。
新キャラでは最も大きな扱いであるタイムにしても、見た目の面白さは皆無だし、中身にしても「何だかボンヤリしている奴」になっている。
ハッキリ言えるのは、映画を引っ張るような魅力は何も無いってことだ。「マッドハッターを助けるための冒険」というアイデアにも、賛同しかねる部分が多い。
マッドハッターってのは名前が示す通り、基本的にはイカれた男であるべきキャラクターなのだ。
ところが今回のハッターは「家族が生きていると確信し、病気で塞ぎ込んでいる」という設定であり、弾けた様子は少ない。おまけに、こいつもアリスの冒険に絡んでくるシーンが少ない。
アリスが単独行動するシーンが続き、アンダーランドの住人たちとの交流は少ない。アリスが前作で出会った仲間たちと協力して、目的を果たすための冒険を繰り広げるわけではないのだ。
そうなると、アリスがヒロインである意味も、アンダーランドが舞台である意味も、見出せなくなってしまう。今回の映画では、イラスベスがデカ頭になった事情が明かされている。
それに伴って感じるのは、「ハッター家の悲劇を招いたのは、元を辿ればミラーナが原因だよね」ってことだ。
ミラーナがタルトを盗み食いした罪を被せていなければ、イラスベスは家を飛び出して頭をぶつけることも無かった。そのせいでデカ頭にならなければ、タラントが笑ってしまうことも無かった。タラントが笑わなければ、恨みを買うことも無かったのだ。
ミラーナが罪を認めて謝罪するチャンスは幾らでもあったのに、ずっと彼女は無視してきたわけだ。イラスベスが嫌われ者の悪人として扱われていたけど、「ミラーナって酷い奴」という印象になるぞ。最後の最後でようやく謝るけど、それだけで全てを水に流すイラスベスは「なんて優しい姉なんだ」と感じるし。
いや、イラスベスがベビーフェイスにターンするのは別にいいんだけどさ、「ミラーナが早く謝っておけば今回の危機は無かった」と考えると、なんかモヤっとしたモノが残るわ。(観賞日:2018年11月27日)
第37回ゴールデン・ラズベリー賞(2016年)
ノミネート:最低序章&リメイク&盗作&続編賞
ノミネート:最低助演男優賞[ジョニー・デップ]
ノミネート:最低スクリーン・コンボ賞[ジョニー・デップ&吐き気がするほどキラキラした衣装]