『アレキサンダー』:2004、アメリカ
紀元前323年6月、ペルシアのバビロンでアレキサンダー大王が死去した。40年後、エジプトのアレキサンドリア。かつてアレキサンダーに仕えていた老プトレマイオスは、筆記者に「我々の帝国は戦で滅びた。私はアレキサンダーの亡骸を運び、防腐処理した。私はファラオとして彼の後を継いだが、それが何になろう?」と口にした。老プトレマイオスは「彼は神だったのだ」などとアレキサンダーの偉大さを語るが、「彼は本当に偉大だったのか。我々は彼を偶像視している」と述べた。
老プトレマイオスは筆記者に、「長きに渡って、ペルシア王はギリシャ兵を黄金で買い、傭兵として戦わせていた。それを変えたのが、フィリッポス2世だ。彼はマケドニアの無学な羊飼いをまとめ上げ、強力な軍隊を作ってギリシャ軍を屈服させた。次の標的は、ペルシアだった。新王のダレイオスは、フィリッポスに怯えていた」と語った。そんなフィリッポスと妃であるオリンピアスとの間に誕生したのが、後に世界を支配するアレクキンダーである。
オリンピアスはマケドニアのペラでアレクキンダーを産み、幼い息子に「王は私を蛮族と呼び、ディオニュソス神を軽んじている」と語る。彼女は息子に蛇を抱かせるが、そのことをフィリッポスは非難した。オリンピアスは野蛮なフィリッポスを嫌悪しており、息子の前で強引に情欲を満たそうとする彼を拒絶した。オリンピアスは家臣に制止されたフィリッポスに対し、「息子は貴方の物にならない。私は子宮で復讐者を育てた」と言い放った。
8年後、アレキサンダーは友との交わりに安らぎを見出す日々を過ごす。彼は仲間のヘファイスティオン、ネアルコス、カッサンドロス、プトレマイオス、ペルディッカスたちと共に、レスリングを習った。ヘファイスティオンに敗れたアレキサンダーは、「いつか、お前に勝つ」と告げた。フィリッポスが雇った教育係のアリストテレスは、子供たちに世界の情勢や歴史を教えた。アレキサンダーが「なぜ劣等なペルシア人にギリシャ人は支配されるのです?東方の地はギリシャ人の夢です」と語ると、アリストテレスは「だが、東方は多くの命や夢を飲み込む」と説いた。
カッサンドロスが「男同士の愛は汚れていると思いますか?」と質問すると、アリストテレスは「情欲のために寝るのは、互いを高め合うことではない」と言う。しかし彼は、「知識や徳の交歓があれば、その関係は純粋で素晴らしい」とも語った。アリストテレスが男同士の関係を認める言葉を口にしたので、アレキサンダーは大いに喜んだ。その頃、フィリッポスは野心に燃え、ペルシア侵略を計画していた。彼はブーケディロスという暴れ馬を手懐けようとするが、言うことを聞かないので諦めて「戦には使えない。食用に売れ」と家臣に命じた。するとアレキサンダーが「僕に売って下さい。乗って見せます」と名乗り出た。
フィリッポスは無理だろうと考えるが、アレキサンダーに「乗ることが出来れば半値で売ってやる」と告げる。アレキサンダーは穏やかな口調でブケーディロスに話し掛け、見事に乗りこなした。フィリッポスは重臣のパルメニオンやクレイトスに、息子を自慢した。大喜びでアレキサンダーを抱き上げる彼の様子を、オリンピアスが冷淡な表情で見つめていた。フィリッポスはアレキサンダーを洞窟へ連れて行き、神話に登場する英雄の壁画を見せた。彼は「母親の影響から逃れるのは難しい。生涯、女には気を付けろ」と忠告した。さらに彼は、「王座を焦るな。人は王に生まれるのではなく、王になるのだ」と説いた。
8年後、フィリッポスはマケドニア貴族であるアッタロスの姪、エウリュディケを新しい妻として迎えることにした。エウリュディケは妊娠しており、オリンピアスはアレキサンダーに「息子が産まれたら、アッタロスが後継者だと宣言する。貴方は北方の蛮族を討伐するような旅に送り出されて命を落とし、私は残りの家族と共に殺される」と話す。アレキサンダーは「父上は何も取り上げませんよ」と言うが、彼女は全く耳を貸さなかった。
オリンピアスはアレキサンダーに、「方法は1つだけ。貴方がマケドニアの娘と結婚し、純血の息子を産ませること。そうすれば王座は貴方の手に渡る」と告げる。彼女が「女たちは貴方がヘファイスティオンを好きだと知っている。でもアジアを目指すのなら、世継ぎを残さないと」と言うので、アレキサンダーは「ヘファイスティオンは、ありのままの私を愛しています」と反発した。するとオリンピアスは、「王の考えを読んで手を打たないと、貴方の命が懸かっているのよ」と述べた。
アレキサンダーは「僕は唯一の正統な後継者だ」と感情的になるが、オリンピアスは冷静に「エウリュディケの若き息子は、貴方に王座を譲らないわ」と告げる。婚礼の宴が開かれると、アッタロスは「正当な世継ぎの誕生だ」と上機嫌で口にした。アレキサンダーは憤慨して殴り掛かろうとするが、仲間たちに制止された。フィリッポスは「お前の母は、お前を焚き付けて王座を奪おうとしている。身内に謝罪しろ」と要求するが、アレキサンダーが「身内ではない」と拒絶したので激昂して「城から出て行け」と怒鳴った。
フィリッポスが暗殺されたため、アレキサンダーは20歳で王座を引き継いだ。彼を甘く見たギリシャの諸都市は同盟を破り、反旗を翻した。ペルシアは反乱を応援するが、アレキサンダーは大勢を惨殺してギリシャを打ち破った。21歳でアジア遠征に出た彼は勝利を収めると、ペルシア支配下の国を次々に解放した。西アジアからエジプトまでを征服したアレキサンダーは、ついにダレイオスとガウガメラで対峙した。マケドニアは4万の軍勢だが、敵は25万という圧倒的な差があった。
アレキサンダーは重臣たちに、「敵陣を突破して一気にダレイオスを仕留める」と告げる。パルメニオンは「無理だ、近付けない」と反対するが、アレキサンダーは「息子のフィロタスと共に左翼で敵を塞き止めろ」と指示する。彼は将軍のレオンナトスやポリュペルコンたちにも、それぞれの行動を指示した。ヘファイスティオンは夜襲を提案するが、アレキサンダーは「勝利を盗み取るのは不名誉なことだ」と却下した。ダレイオスが父を暗殺した黒幕だと確信している彼は、強気な態度を崩さなかった。
アレキサンダーはヘファイスティオンに、「恐れが兵を奮い立たせる」と告げる。2人は互いの変わらぬ愛を確認し、翌朝の戦に備えた。次の朝、アレキサンダーは兵士たちに熱い口調で演説し、「ガウガメラの戦いは、自由と栄光とギリシャのためだ」と叫んだ。彼の作戦は当たり、一気にダレイオスの元へ迫る。ダレイオスが逃げ出したため、すぐにアレキサンダーは追跡しようとする。しかしフィロタスからパルメニオンの補給部隊が襲われていると知らされ、救援に向かった。
アレキサンダーは多くの犠牲を出しながらもペルシア軍を破り、25歳で全世界の王となった。バビロンに入ったアレキサンダーの軍勢は、人々から熱烈な歓迎を受けた。王宮に足を踏み入れると巨万の富に溢れていたが、アレキサンダーはダレイオスを追い掛けて捕まえる考えを変えなかった。王宮には大勢の女たちがいたが、アレキサンダーは「アリストテレスは正しかった。美しい女は我々を堕落させる」と口にした。そこへペルシアの侍従が、ダレイオスの長女であるスタテイラを連れて来た。彼女が家族の助命を嘆願するとアレキサンダーは了承し、それどころか今の地位を保ったまま王宮で暮らし続けることまで認めた。
オリンピアスはアレキサンダーに手紙を書き、「スタテイラは貴方にピッタリの女でしょうが、おやめなさい。バビロンに行って3ヶ月、私は貴方の敵に囲まれています。貴方が統治を任せたアンティパトロスは権力を笠に着ているし、パルメニオンと通じていて危険よ。全ての側近には気を付けなさい。いつ裏切るか分からない。例外はヘファイスティオンだけよ。私をバビロンへ連れて行き、守って」と綴る。ヘファイスティオンは「母上も喜ぶ」とオリンピアスをバビロンへ連れて来るよう勧めるが、アレキサンダーは拒絶して「私は母の歪んだ野心を写す鏡だ」と口にした。
ヘファイスティオンはアレキサンダーに、「将軍たちは、なぜダレイオスを追うのかと疑問を抱いている」と告げる。アレキサンダーは彼に、「彼らは財宝のことしか考えていない。私はもっと豊かな未来を思い描いている。ここの民は変化を求めている。アリストテレスは誤解していた。彼らは野蛮なのではなく、学が無いのだ。しかし私の配下になれば、前途が開ける。世界中にアレキサンドリアを建てて、多くの国と民を一つに結ぶのだ」と語った。
ヘファイスティオンが「君は母上から逃げているのではないか。何を恐れている?」と尋ねると、アレキサンダーは「君に分かるか?」と感情的になった。彼が「愛しているのは君だけだ。君が必要だ」と口にすると、ヘファイスティオンは「誰より君が大切だが、世界制覇を目指すせいで、離れてしまいそうで怖い」と不安を吐露して抱き締める。アレキサンダーは彼の気持ちを迎え入れ、「いつも君と一緒にいる。最後まで」と約束した。
ペルシア北東部でのダレイオス討伐は、各地で小競り合いが起きたこともあって3年近くに及んだ。アレキサンダーはバクトリアまで追い詰めたが、ダレイオスは裏切った臣下によって暗殺された。アレキサンダーは裏切り者の臣下を追うべくオクソス川を渡り、ソグディアスに入った。スキタイの草原へ兵を進めた彼は、10番目のアレキサンドリアを建てた。アレキサンダーは元兵士や女たちを入植させ、抵抗する部族は容赦なく叩き潰した。
バクトリアに入ったアレキサンダーは、山岳民族の娘であるロクサネと結婚することを決めた。重臣たちは誰も賛同せず、フィロタスは「妾で充分だ」と言う。アレキサンダーは「世継ぎが欲しい。アジアの女を妃にすれば、結び付きも強まる。いずれはマケドニアの女も妻にする」と告げるが、重臣たちは納得しない。パルメニオンは「7年の遠征はアジアの民に町を与えるためか?祖国の利益は?王として、マケドニアの正当な血を引く世継ぎを」と訴えるが、アレキサンダーは「式の後、バビロンへ戻れ」と命じた。
カッサンドロスが「アリストテレスの言葉を忘れたか?約束を守らぬ部族に結婚など無意味だ」と告げると、アレキサンダーは「お前たちには愚かな優越感しか無い」と怒鳴り付けた。結婚の宴を開いても、重臣たちは祝福しなかった。そんな中でヘファイスティオンだけはアレキサンダーに指輪を贈り、「立派な世継ぎを」と述べた。2人が抱き合っている様子をロクサネが目撃すると、アレキサンダーは「愛には様々な形がある」と告げた。彼は拒絶するロクサネを押し倒し、強引に服を脱がせた。
ロクサネは隙を見てナイフを手に取り、アレキサンダーの首筋に突き付けた。するとアレキサンダーは冷静に対応し、「やれ。私が君なら、そうする」と口にした。ロクサネはアレキサンダーを殺すことが出来ず、「世継ぎを産んでくれ」と言う彼と関係を持った。しばらくして暗殺の陰謀が露呈し、実行犯の小姓が黒幕だと証言したフィロタスをアレキサンダーは処刑した。彼はクレイトスとアンティゴノスを駐屯地へ派遣し、パルメニオンを殺害させた。その後もアレキサンダーは遠征と領土拡大を続けるが、2年が経過しても世継ぎは誕生しなかった。ロクサネの馬車へ行く回数も減少する中、ついにアレキサンダーはインドまで遠征する…。監督はオリヴァー・ストーン、脚本はオリヴァー・ストーン&クリストファー・カイル&レータ・カログリディス、製作はトーマス・シューリー&ジョン・キリク&イアイン・スミス&モリッツ・ボーマン、製作総指揮はポール・ラッサム&マティアス・ダイル、共同製作総指揮はジャンニ・ヌナリ&フェルナンド・サリシン、共同製作はハンス・デ・ヴィールス、製作協力はロブ・ウィルソン、撮影はロドリゴ・プリエト、美術はヤン・ロールフス、編集はトム・ノードバーグ&ヤン・エルヴェ&アレックス・マルケス、衣装はジェニー・ビーヴァン、音楽はヴァンゲリス、音楽監修はバド・カー。
出演はコリン・ファレル、アンジェリーナ・ジョリー、アンソニー・ホプキンス、ヴァル・キルマー、クリストファー・プラマー、ジャレッド・レト、ロザリオ・ドーソン、ジョナサン・リス=マイヤーズ、ブライアン・ブレスド、ティム・ピゴット=スミス、ゲイリー・ストレッチ、ジョセフ・モーガン、ジョン・カヴァナー、エリオット・コーワン、イアン・ビーティー、デニス・コンウェイ、ニール・ジャクソン、ギャレット・ロンバード、ローリー・マッキャン、クリス・アバーデイン、フランシスコ・ボッシュ、ニック・ダニング、ラズ・デガン、コナー・パオロ、トビー・ケベル、パトリック・キャロル他。
製作費200億円を投じ、史上初めて世界を統一したマケドニア王アレクサンドロス3世の生涯を描く大作映画。
監督は『エニイ・ギブン・サンデー』『コマンダンテ』のオリヴァー・ストーン。
脚本はオリヴァー・ストーンと『悪魔の呼ぶ海へ』『K-19』のクリストファー・カイル、『ナイト・ウォッチ/NOCHNOI DOZOR』のレータ・カログリディスによる共同。
アレキサンダーをコリン・ファレル、オリンピアスをアンジェリーナ・ジョリー、老プトレマイオスをアンソニー・ホプキンス、フィリッポスをヴァル・キルマー、アリストテレスをクリストファー・プラマー、ヘファイスティオンをジャレッド・レト、ロクサネをロザリオ・ドーソン、カッサンドロスをジョナサン・リス=マイヤーズが演じている。マケドニア王アレクサンドロス3世の生涯を描く伝記映画で、しかも173分という上映時間の長さなんだから、多くの観客がスケールの大きな歴史スペクタクルを期待しても当然だろう。
しかも監督はオリヴァー・ストーンなので、重厚なテイストの歴史活劇を期待しても当然だろう。
ところが一筋縄では行かないオリヴァー・ストーンが作り上げたのは、ママンに溺愛されてプレッシャーを掛けられたアレキサンダーがホモセクシャルな関係と戦争に逃げ込み、情けない姿をさらす映画だった。
そりゃあ、多くの観客が「コレジャナイ感」を抱くのは当然であり、酷評を浴びて興行的に惨敗するのも当然と言えよう。冒頭、老プトレマイオスは「彼は神だった。多くの恩恵を与え、世界を変えた。彼を信じ、彼に従えば、不可能は無かった。彼の存在が我々を無敵にした。多くの人々に会ったが、偉大だと思えるのは彼一人だけだ」などと語る。
「いかにアレキサンダーは偉大だったか」ということを長い台詞で説明しているんだから、そこからの回想に対する期待感は高まる。
ところが、さんざんアレキサンダーの偉大さを説明していた老プトレマイオスが、急に「彼は本当に偉大だったか。我々は彼を偶像視している」と言い出すので、「おやっ?」という感じになってしまう。
そして映画を見ていると、その「おやっ?」は正しいリアクションだったことが証明される。アレキサンダーがカリスマ性やリーダーシップ、知性や勇猛さなど優れた部分をアピールするためのチャンスは、序盤から何ヶ所も用意されている。
しかしガウガメラの戦いに至るまでは、暴れ馬を見事に乗りこなすシーンぐらいしか見当たらない。
しかも、それは少年時代の出来事だし、「父が喜んで母が複雑な気持ちになる」ということを見せるためのシーンになっているので、ほぼ効果が無い。
っていうか、もっと根本的な問題として、「そもそも少年期のパートって必要かね?」と思ってしまう。婚礼の宴のシーンなんかは、「フィリッポスやアッタロスは激怒しても、アレキサンダーの行動に仲間たちは心を掴まれる」という内容にすることは可能だっただろう。
しかし実際には、「アレキサンダーはオリンピアスの支配下に置かれている」「アレキサンダーは感情をコントロールすることが出来ない」ってのを露呈しているだけだ。アレキサンダーが「王座を継ぐにふさわしい資質」を全く感じさせてくれないまま、王位継承の手順に到達してしまうのだ。
しかも、「激昂したフィリッポスから追放処分を下されたけど、その彼が暗殺されたので王位を継承した」ってのが老プトレマイオスの台詞でサラッと説明されてしまうので、「アレキサンダーが宴で母を選択して父を拒絶し、怒りを買って追放処分を下された」という展開が、ほぼ死んでしまう。
フィリッポスが本気でアッタロスの息子を王位継承者として優先していたのか、アレキサンダーへの追放処分は酔っ払った勢いでなく本気だったのか、その辺りも良く分からないままで放り出されてしまう。フィリッポスが暗殺されてアレキサンダーが王位を継承する経緯に限らず、老プトレマイオスが「こんなことがありまして」と筆記係に語るシーンは、ほぼ解説のための時間帯だ。
アレキサンダー大王の生涯に起きた出来事を全て描くことは無理なので、台詞による説明に頼るってのは分からなくもない。
ただ、省略のために老プトレマイオスを使うのはいいとしても、ホントに「説明のためだけ」のシーンになっているので、格好はよろしくない。もう1つの問題として、「省略する箇所が違うんじゃないか」ということが挙げられる。
アレキサンダーが王位を継承した時点では、まだ20歳だし、周囲からの信頼が厚いとは言えず、懐疑的な家臣や不安を抱く兵士もいた はずだ。そんな中でアレキサンダーが見事な知略や優れたリーダーシップを発揮して最初の戦に勝利するエピソードを描けば、「家来たちが彼を信頼し、付いて行こうと決める」というトコに説得力が生まれたと思うのだ。
ところが、アレキサンダーが王位を継承した後、「反旗を翻したギリシャを破り、21歳でアジア遠征に出て勝利し、西アジアからエジプトまでを征服する」ってのを老プトレマイオスの台詞で片付けてしまう。しかも、甘く見て反旗を翻したギリシャを破る手順では、「憤慨したアレキサンダーが大勢を惨殺し、残りは奴隷として売り払った」という残忍さの部分を説明する。
彼が見事やリーダーシップや知略を発揮したことには、まるで触れないのである。ガウガメラの戦いの直前には、アレキサンダーが兵士たちをアジって気持ちを奮い立たせる様子が描かれている。
しかし、そこは「圧倒的な数の差があるが、これまでの実績があるので兵士たちはアレキサンダーを信奉しており、彼の言葉で燃える」ということになっていた方がいいと思うんだよね。
それまでの蓄積が見えない状態で、「アレキサンダーがアジったら兵士が燃えました」ってのだけを見せられても、手順を1つ飛ばしているように思えるし、取って付けたような印象を受けてしまうのよ。
初めてアレキサンダーがリーダーシップや知略を見せるのがガウガメラの戦いってのは、なんか違うんじゃないかと。ガウガメラの戦いは、大勢のエキストラを雇っているし、大規模なバトルシーンになっている。「歴史活劇」としての面白味を意識したシーンが、全く用意されていないわけではない。
しかし全体的にみると、そっち方面は物足りなさが残る。
何しろ、前半と後半、それぞれ1つずつしか用意されていないのだ。
しかも後半に用意されているインドの森での戦闘は、将軍や兵士たちがアレキサンダーに激しく反発して統率力が落ちている状況下だし、アレキサンダーは敵の攻撃を受けて落馬しちゃうし、ちっとも高揚感が無い。
だから、ガウガメラの戦いがピークなのよね。アレキサンダーはバビロンに入った後、ヘファイスティオンに遠征を続ける理由について語るシーンがある。
しかし、そこまでに彼が東方へ遠征したいと思うようになった出来事や経緯が描かれていないので、取って付けたような印象が強い。
少年時代にフィリッポスから神話の英雄について聞かされるシーンがあるけど、そんなのは何の説得力にもならない。
で、志を語る言葉がペラペラだなあと思っていると、直後にヘファイスティオンが「母上から逃げているのではないか」と問い掛け、アレキサンダーが「痛いトコを突かれた」みたいな反応を示す。
なので、「さっきのは建前に過ぎず、ホントはママンが怖くてマケドニアに戻りたくなかっだけ」ってのが真相なんだろうという確信を持ってしまうのよね。アレキサンダーは庶民に対し、「自分の支配下に入れば人々の前途は明るい」と語る。
だが、そんなのは傲慢な思い上がりだし、抵抗する部族は容赦なく惨殺しているわけだから、まるで賛同できないし、「偉大な王」と感じ取ることも出来ない。ところが「間違った思い上がりで暴走する愚かな男」として描きたいのかと思いきや、普通に「偉大な王」として描写している部分もあったりする。
「アレキサンダーをどういう人物として描くのか」ってことが、ちゃんと定まっていないような印象を受ける。最後に老プトレマイオスが「理想主義者の夢物語には付いて行けない」とアレキサンダーを批判するが、そもそもアレキサンダーの夢が何だったのかがボンヤリしている。
序盤で「東方の地はギリシャ人の夢」と口にしているけど、具体的なモノが全く見えないのよね。だから、彼が東方を目指すことが「理想を追い求める行動」には見えない。
ぶっちゃけ、アレキサンダーが最終的に「途方も無い夢を見る理想主義者」ってことになっても、それはそれで有りだと思うのよ。そういう人物として描写したとしても、魅力的な大王として感じさせることは可能だったと思うのよ。
でも、この映画のアレキサンダーって、結局はどういう奴だったのか良く分からない。ただし、「極度のマザコンだけど、一方で母親から逃げたがっていた。ホモセクシャルで、ヘファイスティオンだけを愛していた」ってことだけはハッキリと伝わって来る。
っていうか、そこにしか興味が無くて、他はどうでも良かったんじゃないかとさえ思える。
衆道を描くのは、全面的に否定すべきことではない。当時は同性愛なんて普通にあったことだし、アレキサンダーがバイセクシャルだったことも歴史的記録として裏付けがあるわけだし。だから、それを積極的に取り込むのは、アイデアとして有りだと思う。
でも、ママン恐怖症のホモセクシャルってことを伝えるためだけに、約3時間も費やすのは違うでしょ。
「壮大なスケールの伝記映画だから時間が長くなるのは当然」と思うかもしれないが、その尺に見合うだけの壮大さが感じられないのよ。アレキサンダーがロクサネと結婚する理由も、サッパリ分からない。
そこに愛が無いことは確かだし、「アジアとの結び付きが云々」という説明も全く説得力が無い。
ハッキリとした理由が見当たらない中で、頑張って勝手に推測すると、「オリンピアスがマケドニアの娘と結婚して純潔の世継ぎを産むことを求めていたので、そのことに反発した」という答えが思い浮かぶ。っていうか、それぐらいしか答えが思い浮かばない。
で、そうなると結局、この映画って、どこを見渡しても「ママンに縛られて、ママンから離れようとするマザコン男としてのアレキサンダー」しか浮かび上がって来ないのである。アレキサンダーは遠征を続ける中で、「どこかにある故郷を目指す」と口にしている。
彼にとってママンのいるマケドニアは「戻りたくなる故郷」ではないので、「それに代わる場所を見つけたかった」ってことが言いたいんだろう。
でも、彼が勝手に突き進むのは結構だが、そのせいで故郷に帰らせてもらえず、ずっと付き合わされる家臣たちからすると、たまったモンではない。
突き進むアレキサンダーの理念が崇高だったり人々のためだったりすればともかく、いつまでも精神的に成長できない甘ちゃんの愚かな「自分探し」なわけだから、「そういうのはテメエ一人でやってろよ」って話だわな。カッとなったアレキサンダーがクレイトスを殺害した後、8年前に近衛兵がフィリッポスを殺害したシーン、オリンピアスが黒幕だろうと確信したアレキサンダーが詰め寄るシーン、でも結局は抱き合って終わらせてしまうシーンが描かれる。
そして老プトレマイオスの語りで、オリンピアスがエウリュディケと幼子を殺害したこと、仕方なくアレキサンダーがアッタロスを処刑させたことが説明される。
だけど、そんなタイミングで今さらそんなことを挿入する効果は全く無い。あと、その時点でアレキサンダーが「フィリッポスを暗殺した黒幕はオリンピアス」と確信していたのなら、「父を暗殺した黒幕だから」という理由で執拗にダレイオスを追跡した行動は、ただ愚かしいだけだったことが露呈するわけで。
ただでさえアレキサンダーの情けなさやボンクラぶりがアピールされまくっているのに、この期に及んで、さらに貶めて矮小化しちゃうのかと。
それが狙いだとしたら、ある程度は成功していると言ってもいいだろう。
ただ、映画としては大失敗だぞ。
最後まで、アレキサンダーというキャラクターには微塵も魅力が感じられなかった。(観賞日:2016年5月8日)
第25回ゴールデン・ラズベリー賞(2004年)
ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低監督賞[オリヴァー・ストーン]
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最低主演男優賞[コリン・ファレル]
ノミネート:最低主演女優賞[アンジェリーナ・ジョリー]
<*『アレキサンダー』『テイキング・ライブス』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低助演男優賞[ヴァル・キルマー]
受賞:【最悪の言葉づかい(女性)】部門[ロザリオ・ドーソン&アンジェリーナ・ジョリー]
ノミネート:【最悪の作品】部門
受賞:【最もでしゃばりな音楽】部門
ノミネート:【最悪の演出センス】部門[オリヴァー・ストーン]
ノミネート:【最悪の脚本】部門
ノミネート:【最悪の主演男優】部門[コリン・ファレル]
ノミネート:【最悪の助演女優】部門[アンジェリーナ・ジョリー]
<*『アレキサンダー』『スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー』の2作でのノミネート>
2005年度 文春きいちご賞:第6位