『８８ミニッツ』：2007、アメリカ＆ドイツ＆カナダ
1997年９月１日の深夜、双子の姉妹ジョーニーとジェイニーが暮らす部屋に、女性をロープで吊るして切り刻む連続殺人事件の犯人が侵入 した。犯人はジョーニーの寝室に忍び込み、彼女を吊るして殺害した。ジェイニーを吊るしたところで隣人が猫を疎んじて怒鳴ったため、 犯人は逃走した。容疑者としてジョン・フォースターが逮捕され、裁判でＦＢＩ異常犯罪分析医ジャック・グラムは検察側の人間として彼 の有罪を裏付ける証言を行った。ジャックのやジェイニーの証言により、フォースターには死刑判決が下った。
それから９年後、シアトル。フォースターの死刑執行の日の朝、ジャックは目を覚まし、サラ・ポラードと会話を交わす。昨晩にバーで 開いたパーティーで、ジャックはサラと知り合い、関係を持ったのだ。秘書のシェリーから電話が入り、ＦＢＩ特別捜査官フランクから 連絡があったことを伝えた。最近、９年前と同じ手口の殺人が２件発生していたが、昨夜も同様の犯行があったのだという。
ジャックが事務所に赴くと、フランクは連続殺人事件特別捜査班のボスであるジェレミー・グーバーを伴っていた。ジェレミーはジャック に、９年前の事件でフォースターは無実だったのではないかという意見を述べた。フランクはジャックに、３人目の犠牲者がデイル・ モリスだと教える。ジャックは大学で教えており、デイルは生徒の一人だった。現場には、フォースターの無実を主張するよう犯人に脅迫 されてから殺害されるビデオテープが残されていた。
ジャックはシェリーに、この24時間のデイルの行動を調べるよう指示した。彼が大学に向かって歩いていると、電話が掛かって来た。女性 の悲鳴が聞こえた後、機械で音声を変えた人物が「お前の命は あと88分だ」と告げて切った。助手のキムが講義をしている教室に、 ジャックは遅れて現れた。生徒のローレンやマイクたちに向けて話していると、また携帯が鳴り、先程の人物が「あと83分」と告げた。 シェリーに調べてもらった結果、携帯の所有者はジャックの死んだ妹ケイティーの名義になっていることが判明した。
シェリーと話している最中、ノイズが入り、また機械音声の人物が出た。相手は「ケイトは苦しんで死んだ。まだ悔やんでいるのか、証拠 の改ざんを」と告げる。携帯を触っていた生徒アルバートを疑ったジャックだが、彼は野球の結果を見ていただけだった。そこに学生部長 のキャロルが現れ、大学に爆弾を仕掛けたという電話があったことを知らせた。ジャックは、昨晩のパーティーに参加していたキャロルに 「バーを出てから、どうした？」と質問した。
ジャックはシェリーと話している最中、携帯を落として壊してしまった。彼が駐車場に行くと、車に「あと72分」という落書きが残されて いた。キムが駐車場に現れたので、ジャックは彼女に疑いを掛けた。昨晩、キムはデイルと一緒にバーを去っていた。ジャックは、昨晩の 行動について尋ねた。ジャックはキムに携帯を借り、ジェリーに連絡を入れた。悲鳴が聞こえたので駆け付けると、ローレンが怪我をして いた。革のジャンパーを着た男に襲われたのだという。その手口は、９年前の事件と同じだった。
ジャックは大学の警備室にローレンを連れて行き、警備員ジョニー・ドゥフランコに渡された書類にサインした。ジャックはシェリーに 電話を掛け、フォースターに関連する危険人物リストを調べるよう指示した。さらに彼は、自分の関係者がフォースターと面会しているか どうか、フランクに尋ねるよう指示した。ジャックはキムが拳銃を所持していると知り、厳しく問い詰めた。キムは護身用に所持している こと、別れた夫ガイに脅されていること、彼が刑務所に入っていたことを語る。それはフォースターと同じ刑務所だった。
ジャックはフランクに連絡を取り、ドゥフランコを調べるよう頼んだ。フランクは彼に、この６週間で４度もマイクがフォースターと 会っていることを教える。研究目的であり、提出された書類にはジャックのサインもあるという。しかしジャックは許可した覚えなど 無かった。ジャックはフランクに、ガイを調べるよう頼んだ。キャロルから電話が入り、教室にダイナマイトの写真とタイマーの入った リュックが置かれていたことをジャックは知らされた。
ジャックがキムを連れてアパートへ向かっていると、バイクが猛スピードで突っ込んできた。ジャックは慌てて避けた。携帯が鳴り、あの 人物が「あと56分」と告げた。ジャックは、バーや大学で見掛けていた男が実行犯であり、それがガイだと推測した。ジャックはキムに、 「フォースターが外にいる協力者を動かし、私を殺すつもりだ」と語った。アパートに戻ると、荷物が届いていた。さらにジャックは、 革のジャンパーでヘルメットを持った男がアパートに来ていたことを知った。
ジャックがキムを連れて部屋に入り、しばらくするとローレンが現れた。彼女はシェリーに預かったという危険人物リストを持参していた 。シェリーからの電話を受けたジャックがテレビを付けると、フォースターが生番組のインタビューで自身の無実を主張していた。 ジャックはシェリーから、弁護士見習いと言っていたサラが実際には出張ホステスだったことを知らされた。ジャックはシェリーに、 「テレビ局と連絡を取れ、フォースターと話したい」と告げた。
フランクからジャックに電話が入り、ドゥフランコの身柄を拘束したことが告げられた。ジャックの元に届いた荷物には、ケイティーが 殺人鬼に殺された時の音声テープが入っていた。それはニューヨーク市警とジャックの保管庫に２つしか存在しないものだ。ジャックは、 キムが保管庫から盗み出したのではないかと疑った。テレビ局と回線が繋がり、ジャックは番組に電話出演してフォースターを挑発した。 その最中、連邦裁判所がフォースターの死刑執行を停止したという知らせが届いた…。監督はジョン・アヴネット、脚本はゲイリー・スコット・トンプソン、製作はジョン・アヴネット＆ランドール・エメット＆ゲイリー・ スコット・トンプソン、共同製作はマイケル・フラナガン＆サミュエル・ハディダ＆マンフレッド・ヘイド＆ヨッヘン・カムラー＆ ゲルト・ケックラン＆マーシャ・オグルズビー＆ジョン・トンプソン、製作協力はトッド・ギルバート、製作総指揮はジョン・バルデッチ＆ ローレンス・ベンダー＆ボアズ・デヴィッドソン＆ダニー・ディムボート＆ジョージ・ファーラ＆ヨゼフ・ローテンシュラガー＆アヴィ・ ラーナー＆トレヴァー・スコット＆アンドレアス・ティースマイヤー、撮影はドニ・ルノワール、編集はピーター・バーガー、美術は トレイシー・ギャラカー、衣装はメアリー・マクロード、音楽はエド・シェアマー。
出演はアル・パチーノ、アリシア・ウィット、リーリー・ソビエスキー、エイミー・ブレネマン、ウィリアム・フォーサイス、デボラ・ カーラ・アンガー、ベンジャミン・マッケンジー、ニール・マクドノー、リーア・ケアンズ、スティーヴン・モイヤー、クリストファー・ レッドマン、ブレンダン・フレッチャー、マイケル・エクランド、クリスティーナ・コープランド、タミー・ヒュイ、ヴィッキー・ホアン 、ヴィクトリア・テナント、マイケル・ヤナイ他。
『アンカーウーマン』『北京のふたり』のジョン・アヴネットが監督を務めた作品。
脚本は『ワイルド・スピード』のゲイリー・スコット・トンプソン。
ジャックをアル・パチーノ、キムをアリシア・ウィット、ローレンをリーリー・ソビエスキー、シェリーをエイミー・ ブレネマン、フランクをウィリアム・フォーサイス、キャロルをデボラ・カーラ・アンガー、マイクをベンジャミン・マッケンジー、 フォースターをニール・マクドノー、サラをリーア・ケアンズ、ガイをスティーヴン・モイヤーが演じている。2005年の上映が予定されていたが、2007年まで延期された。
製作の延期ではなく、公開時期の延期である。
公開時期が遅れる映画には、例えば「賞レースに参加させたいから」とか、「同じジャンルの他の映画が少し前に公開されたので、被らないようにするため」とか、 そういうケースもある。
だが、「出来が良くないから、しばらくお蔵入りになっていた」というケースもある。
で、この映画の場合、たぶん最後に挙げたケースではないかと推測される。これ、ミレニアム・フィルムズの作品なんだよね。
そこにアル・パチーノが主演するってのは、時代の流れを感じるなあ。
ミレニアム・フィルムズがデカくなったということなのか、アル・パチーノの役者としてのランクが下がって来たのか、その辺りは微妙だが。
で、ミレニアム・フィルムズの作品なので、「シナリオがグダグダなのは仕方が無い」と諦めるしかないのかな。
作品ごとに脚本家は異なるけど、ミレニアム・フィルムズの映画は総じてシナリオが粗いんだよな。まあＢ級専門の映画会社だからね。冒頭で９年前の事件と裁判のシーンが描かれるが、法廷でのフォースターの態度や女性弁護士を虜にしているらしき様子からして、９年後 に同じ手口の連続殺人が発生しても、「過去の事件はフォースターの仕業ではなかった」と感じることは無い。
デイルたちの殺害は９年前と同じ犯人の仕業ではなく、明らかに模倣犯による犯行だ。
さらに、何らかの形で、９年後の事件にもフォースターが関与しているのであろうという推測も容易に浮かぶ。
これは序盤の構成に問題がある。
「フォースターは無実だったのかも」というミスリードを狙うなら、現在のシーンから始めて、９年前の出来事は回想で描いた方がいい。
あと、もっと話に深く関与してくるのかと思ったジェイニーが冒頭シーンだけで消えるのは、キャラの使い方として上手くない。
彼女を有効活用しないのなら、ますます９年前の双子襲撃を冒頭で丁寧に描いている意味が薄い。デイルの殺害現場には、彼女が犯人に脅されて「９年前の事件はフォースターの仕業じゃない」と言わされているビデオテープが残されている。
だが、そんな脅迫テープが存在することによって、逆に「ってことは９年前の事件はフォースターの仕業だ」と感じさせる。そして 、虚偽の証言をさせているのだから、実行犯はフォースターの仲間や信奉者といった人物であろうという推測も浮かぶ。
ジェレミーがジャックに対して告げる「なぜデイルは犯人に指示された伝言を読んだのでしょうか」という言葉は、その裏に「９年前の 事件でフォースターは無実だったから、その伝言を読んだのではないですか」という意味が込められているようだ。
だけど、それは無理があるぞ。
大体、デイルが伝言を読んだ理由は簡単だよ。それは犯人に脅されたからに決まっているじゃないか。
そこでジャックが何も言わず、その場を立ち去るのもワケが分からない。っていうか、もうジャックは最初から「９年前の事件はフォースターの仕業であり、 今回は彼が関与した人間の犯行だ」という意見で全くブレていない。
キムにも「フォースターが外部の協力者を使って私を殺そうとしている」と言っている。
さらには、「ジャックの考えが間違っているのかも」と観客に思わせるような描写も無い。
そんな風だから、ジェレミーに「フォースターは無実だったのかも」と言わせたり、犯人が模倣した事件を起こしたりしても、まるで意味が無いんだよな。色々な手口でサスペンスを盛り上げようとしているんだが、まとまりが無くて話が散らかっている。
まずデイルが殺されるので、そこから「ジャックに近い人間がどんどん殺される」という展開になるのかと思ったら、「あと88分で死ぬ」という脅しが来る。
ではジャックが「俺を殺そうとしている奴がいる。なぜだ、誰だ、どこにいるんだ」というところで焦りながら行動する展開に行くのかと思ったら、直後 に爆弾騒ぎがある。
だが、それはジャックを狙った犯行ではないので、脅迫メッセージとは繋がらない。
しかも最後まで映画を見ても、犯人が爆弾騒ぎを起こした理由はサッパリ分からない。まだ11時45分まで時間があるのに、犯人はジャックに向けて発砲する。
その後、デイル殺害の疑いも掛けようとする。
そこで「ジャックが犯人として疑われる」というサスペンスも持ち込もうとする。
欲張りすぎて、まとまりが無くなっている。
さらには、サスペンスとして進めていたのに、アパートの火事騒ぎとか、銃の乱射とか、車の爆発とか、アクション的な要素まで盛り込んでいる。犯人は電話で「あと何分」と予告するだけでなく、ＯＨＣや車にもメッセージを残す。 ジャックが駐車場に行くと車に「あと72分」というメッセージが残されているんだが、それはおかしい。
なぜなら、ジャックがちょうど残り72分のタイミングで駐車場に到着し、自分の車を見るとは限らないからだ。
もしジャックが途中で１分間、立ち止まっていたら、車に「あと72分」とあるのに、実際には残り71分ということになってしまう。
つまり、それはアバウトなメッセージということになる。ローレンが襲われ、それが９年前と同じ手口だったことが示されるが、そこに違和感を覚える。
確かに布に薬品を含ませて口を塞ぐのは同じ手口かもしれないが、ジェイニーやデイルの時とは大きな違いがある。
大学の廊下でローレンを襲っても、そこで逆さに吊り下げることは難しい。
しかも、これまでの犯行は夜だったのに、今回は昼間だ。
だから、その時点で「何となく怪しいな」と感じる。ジャックは午前11時45分に死ぬと予告されているのだが、タイムリミットの緊迫感は全く無い。
カウントダウンがあるわけでもないし、何かが目に見える形で少しずつ迫って来るとか減っていくという犯人サイドの仕掛けがあるわけでもない。
犯人の姿は見えないし、殺す手口も分からない。
「あと88分で死ぬ」というだけだと、ジャックが感じるのは、かなり漠然とした不安なんだよね。
その一方、たぶん「息つく暇も与えずにテンポ良く畳み掛けよう」ということだったんだろうけど、ものすごく慌ただしい印象を受ける。
ジャックが「あと88分で死ぬ」と予告されてからはリアルタイム進行になるのだが、そういう問題じゃない。
そして「残り時間が迫っている」というところから来るモノでもない。
単純に、落ち着きが無いだけだ。終盤に入り、キャロルとキムが「私が殺した」「私が電話した」などと電話で証言するが、何の狙いがある展開なのか良く分からない。
だって、そんなことをしても、何のミスリードにも繋がっていないからね。
犯人に脅されて嘘のコメントをさせられていることは一目瞭然だからね。
で、犯人が判明するのだが、「そうだったのか」と膝を打つような感覚は味わえない。
そこに繋がる伏線やヒントはゼロなのだ。
「あの時のアレは、そういうことだったのか」というモノが無い。
一方で「一人で被害者を吊り下げるだけの力があるのか」とか「フォースターはそんなに容易に洗脳するだけの力を持っているように見えない」とか、違和感は抱かせる。ジャックは異常犯罪分析医なので、犯人の言動や残されたヒントを冷静に分析し、犯人や次の犯行を推理していくのかと思いきや、そんな 理知的な行動は皆無に等しい。彼は周囲の人間を片っ端から疑うだけだ。
誰か一人に絞っていくわけでもない。キムを疑いつつ、フランクに頼んでドゥフランコを調べさせる。しかし彼が捕まった後も、ガイを調べてもらう。
ではガイに絞り込んだのかというと、相変わらずキムへの疑いは持ち続けている。
冷静に分析し、容疑者を絞り込んでいく作業は全く行われない。ジャックが若い頃に妹ケイティーを殺されているという設定には、何の意味も無い。
ケイティーが殺されるまでに犯人が費やした時間が88分なのだが、そのことを犯人が知っているからと言って、それが犯人を突き止めるヒントになるわけでもない。
その事件が今回の事件と関係しているわけでもない。
その心の傷によって、ジャックが冷静に判断力を失うわけでもない。
「妹の事件があったからジャックが判断を間違えたのでは」というミスリードを図るわけでもない。
今回の出来事で、そのトラウマを乗り越えるわけでもない。
仮にケイティーの事件を排除したとしても、話の展開には何の影響も無い。もっと言ってしまえば、９年前の事件さえ、大した意味が無い。
今回のデイルの殺害も、その事件の模倣じゃなくても構わない。
そもそも、今回の連続殺人の意味さえ良く分からない。
ジャックを「あと88分」というところで追い込みたいのなら、模倣事件を起こす必要が無い。
逆に、死刑の執行を阻止することが目的なら、模倣殺人を起こすことで目的は果たされている。
その当日にジャックを時間制限で追い込む必要性が分からない。
その行動によって、死刑の阻止に繋がるわけじゃないんだし。
第29回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート：最低主演男優賞［アル・パチーノ］
＜＊『８８ミニッツ』『ボーダー』の２作でのノミネート＞
ノミネート：最低助演女優賞［リーリー・ソビエスキー］
＜＊『８８ミニッツ』『デス・リベンジ』の２作でのノミネート＞