『80デイズ』:2004、イギリス&ドイツ&アイルランド
19世紀末、ロンドン。中国人ラウ・シンはイングランド銀行に侵入し、翡翠の仏像を盗み出した。警官に追われた彼は身を隠すため、発明家フィリアス・フォッグの屋敷に入り込む。フォッグは危険な実験の最中で、助手は耐え切れずに逃げ出してしまった。ラウ・シンは新しい助手のフランス人パスパルトゥーだと素性を偽り、フォッグに雇われた。
王立科学アカデミー会長のケルヴィン卿は、自信が預けていた仏像が盗まれたことに激怒する。その仏像は、中国のファン将軍が軍事取り引きのために贈ったものだった。キッチュナー警視総監によれば、他に盗まれたものは無いという。ケルヴィン卿はファン将軍に対し、「今回の事件は中国側の問題であり、そちらで仏像を取り戻さねば取り引きはしない」と告げる。
フォッグはパスパルトゥーを伴い、王立科学アカデミーの集まりに出向いた。ケルヴィン卿はフォッグを見下しており、ソールズベリー卿やローズ卿と共にバカにする。アカデミーでは、銀行泥棒が中国人だという情報が広まっていた。フォッグはアカデミーの面々に対し、「イングランド銀行は時代遅れだ。犯人は1ヵ月後には中国に到着するだろう。世界一周なら80日で出来る」と主張する。
ケルヴィン卿はフォッグに対し、「それなら自分でやってみろ。80日で世界一周が出来れば会長の座を譲る。ただし失敗すればアカデミー追放だ」と持ち掛ける。最初は断ったフォッグだが、挑発されたために承諾する。本気でフォッグが勝負を受けると思っていなかったケルヴィン卿は、フィックス警部補を呼び出し、後を追って妨害工作を仕掛けるよう命じた。
旅の2日目、パリに到着したパスパルトゥーは、ファン将軍が雇った黒蠍団の面々が張り込んでいるのに気付いた。パスパルトゥーはフォッグを誘い、画廊に足を向けた。フォッグは1枚の絵に目を留めるが、それは画廊のコート係モニクが勝手に置いた作品だった。そのことが支配人に知られたため、モニクは解雇されてしまう。
画廊に黒蠍団が現れたため、パスパルトゥーは彼らを蹴散らし、フォッグとモニクを連れて逃亡する。モニクが一緒に連れて行ってほしいと言い出し、フォッグは承知した。パスパルトゥーが気球を見つけ、3人はそれに乗ってパリを後にした。パスパルトゥーはモニクに問い詰められ、故郷の村から盗まれた仏像を持ち帰る目的のためにフォッグを利用したことを明かした。もちろん、そのことはフォッグには内緒である。
10日目、トルコのイスタンブールに到着した一行は、ハピ王子の宮殿に招待される。ハピ王子はモニクを第7夫人にしようとするが、一行は何とか逃げ出した。24日目、一行ははインドを列車で移動していた。だが、ケルヴィン卿の指示によってパスパルトゥーとフォッグは銀行強盗の罪で指名手配されており、兵隊が追ってきた。さらに黒蠍団やフィックス警部補まで現れるが、何とか脱出した。
41日目、一行はパスパルトゥーの故郷の村に到着した。フォッグは手紙や写真を発見し、パスパルトゥーの正体と真の目的を知った。フォッグは村を出ようとするが、そこへ黒蠍団が現れて一行を捕まえた。黒蠍団の頭領パク・メイはパスパルトゥー達を始末しようとするが、そこへ黄飛鴻と広東十虎が駆け付け、黒蠍団を退散させた。
フォッグはパスパルトゥーとモニクに別れを告げ、1人で旅行を続けた。しかしアメリカのサンフランシスコに渡った彼は全てが入ったバッグを盗まれ、物乞いに身を落とす。追ってきたパスパルトゥーとモニクが合流し、また3人で一緒に旅を続けることになった。テキサスの砂漠ではライト兄弟に出会い、彼らが考えた飛行機の設計図を見せてもらった。船に乗ってイギリスへ戻ろうとした一行は、ファン将軍の妨害によって乗り遅れてしまう。それでも蒸気船に乗ることが出来た一行だが、途中で燃料が切れてしまう…。監督はフランク・コラチ、原作はジュール・ヴェルヌ、脚本はデヴィッド・ティッチャー&デヴィッド・ベヌロ&デヴィッド・ゴールドスタイン、製作はビル・バダラート&ハル・リーバーマン、製作総指揮はフィリス・アリア&ジャッキー・チェン&ウィリー・チャン&アレックス・シュワルツ&ソロン・ソ、撮影はフィル・メヒュー、編集はトム・ルイス、美術はペリー・アンデリン・ブレイク、衣装はアンナ・B・シェパード、ファイト・コレオグラファーはジャッキー・チェン、音楽はトレヴァー・ジョーンズ、音楽監修はデヴィッド・A・スチュワート。
出演はジャッキー・チェン、スティーヴ・クーガン、セシル・ドゥ・フランス、ジム・ブロードベント、ユエン・ブレムナー、アーノルド・シュワルツェネッガー、キャシー・ベイツ、サモ・ハン(サモ・ハン・キンポー)、ロブ・シュナイダー、カレン・ジョイ・モリス(カレン・モク)、イアン・マクニース、マーク・アディー、ダニエル・ウー、ジョン・クリーズ、オーウェン・ウィルソン、ルーク・ウィルソン、デヴィッド・ライアル、ロジャー・ハモンド、マギー・Q他。
ジュール・ヴェルヌの小説『八十日間世界一周』を換骨奪胎した作品。
パスパルトゥーをジャッキー・チェン、フォッグをスティーヴ・クーガン、モニクをセシル・ドゥ・フランス、ケルヴィン卿をジム・ブロードベント、フィックス警部補をユエン・ブレムナー、ファン将軍をカレン・モク、キッチュナー警視総監をイアン・マクニースが演じている。同じ原作を基にした映画『八十日間世界一周』が1956年にアメリカで作られているが、それのリメイクという形は取っていないようだ。ただし、1956年年版では、行く先々で豪華な俳優陣がゲスト出演するという作りになっていたが、この映画も同じような作りになっている。なので、明らかに意識はしているってことだ。
では、そのゲスト陣を登場順に紹介していこう。まずモニクがいる画廊の支配人はアイルランド人歌手ペリー・ブレイクで、ゴッホ役は過激な物言いで人気を得たテレビ司会者ミカエル・ユーン。気球に乗るフォッグ達を見ている男は、ヴァージン・グループの創設者サー・リチャード・ブランソン。気球が上昇していく際、パスパルトゥーが火事を消す部屋で眠っている女性は、ハスキー・ヴォイスの歌手メイシー・グレイ。
イスタンブールのハピ王子はアーノルド・シュワルツェネッガーで、インドで襲ってくる女刺客はマギー・Q。ウォン・フェイフォンはサモ・ハンで、パク・メイはダニエル・ウー。サンフランシスコのホームレスはロブ・シュナイダーで、物乞いになったフォッグに怒る通行人はフランク・コラチ監督。ライト兄弟はオーウェン&ルーク兄弟で、蒸気船の船長はマーク・アディー。フォッグ達がロンドンへ戻る際に灰まみれになる警官はジョン・クリーズで、ヴィクトリア女王はキャシー・ベイツだ。日本語吹き替え版では、ジャッキー・チェンとシュワルツェネッガーに関しては石丸博也&玄田哲章という本職に任せているものの、他は原田泰造(フォッグ)、中山エミリ(モニク)、松方弘樹(ケルヴィン卿)、杉本彩(フォン将軍)、魔裟斗(パク・メイ)、蝶野正洋(黄飛鴻)、中川家(ライト兄弟)、森久美子(ヴィクトリア女王)と、有名タレントが声を担当している。
ファミリー映画だから字幕版より吹き替え版をオススメしたいところだが、本職以外のメンツでマトモに聞いていられるのが松方弘樹ぐらいで、後は悲惨なモノなのでオススメしかねる。
大体、なんでサモ・ハンの吹き替えが蝶野正洋なんだよ。そこは水島裕じゃなきゃダメだろうが。せめて、その程度の誠意は示せよ。1956年の時点では、まだ世界旅行なんて遥か遠い夢だった。
で、2004年になると、もちろん庶民にとって世界旅行は未だに遠い夢だが、昔より世界は近くなっている。それに、テレビなどで世界観光の番組を見ることもあるだろう。
なので、「世界各地を紹介する観光映画」としての色付けだけでは、訴求力としては非常に弱いだろう。前述したように豪華なゲスト出演者がセールスポイントの1つになっているが、それは1956年版にもあった要素だからね。この映画は、「どうやって国から国へ移動するのか」というところでの旅の醍醐味が薄い。
もう少し具体的に説明すると、「設定された時代に実在した様々な交通機関を駆使して、いかにして速く移動するか」というところに面白味を持たせる意識は全く無いということだ。「どうやって移動したのか」という部分の描写がスッ飛ばされているトコロもある。
基本的に、この映画は「行く先々で敵が現れ、ジャッキー・チェンが中心になってアクションをこなし、また次の場所に移る」ことの繰り返しになっている。製作総指揮にも携わっているだけに、「まずジャッキー・チェンの主演ありき」で企画されたものなんだろうけど、そもそも彼が主演したことによってバランスが崩れてしまったんじゃないかと言う気がしてしまう。パスパルトゥーが単なる従者ではなく「仏像を村に戻す」という彼独自の目的を持って旅に出ているが、これは失敗だったと思う。
仮にフォッグとパスパルトゥーの目的が違っていても、結果的に行動として「80日間世界一周が必要だ」ということであれば、それほど大きな問題ではない。しかし、パスパルトゥーの目的は80日間世界一周ではなく、故郷の村へ戻ることだ。そのため、パスパルトゥーは村に戻った段階で目的が達成されてしまう。しかし、それ以降も物語はまだまだ続くのである。
一応、その後もパスパルトゥーはフォッグに同行しているが、最初に仏像を盗み出すパスパルトゥーを主役として話が始まっているのに、その目的が途中で果たされてしまうという構成は、いかにも不恰好だという印象を受けてしまうのだ。
パスパルトゥーに独自の目的を持たさず、「フォッグに付き合う良き相棒」という扱いに留めておけば、そんな問題は起きなかっただろう。ジャッキーのアクションを見せるために、行き先々で一行が襲われるという状況を作り出している。行く先々で起きる困難は、ほとんどが「敵に襲われる」というもので、それが単調な印象を強くしている。
格闘アクションを見せる意識が強すぎたためか、映画そのものから「80日間で世界を一周しなければ」というスピードへの意識、タイムリミット設定の意味合いが薄くなっている。
言っちゃ悪いが、そもそも映画化しようと企画したことが間違いだったんじゃないかと思ったり。
第25回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低リメイク・続編賞
ノミネート:最低助演男優賞[アーノルド(Ah-Nuld)・シュワルツェネッガー]
第27回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【最悪の助演男優】部門[アーノルド・シュワルツェネッガー]
ノミネート:【最も嬉しくないリメイク】部門