『ワイルド・レース』:2019、アメリカ&スペイン

アラバマ州タラデガで開催されたダートトラック・レースの最終戦で、キャム・マンローとボブ・リンスキーは激しくトップを競い合った。キャムのチームで監督を務めるのは、伝説のダートトラック・レーサーである父親のサムだ。かつてサムはボブとライバル関係だったが、現在は息子が年間王者を争う立場となっている。ゴール直前でトップに立ったキャムだが、エンジントラブルに見舞われた。ボブは優勝を飾り、3年連続の年間王者となった。キャムは度重なる車のトラブルに、激しい苛立ちを見せた。
サムは故障した車が運び出されるのを眺めながら、過去を回想した。妻のジャネットを乗せて運転している最中、彼は衝突事故を起こしていた。翌朝、恋人のベッカと湖へ釣りに出掛けたサムは、なぜ田舎の村へ引っ越して来たのか尋ねる。ベッカは「離婚して、思い出の全てから離れたかった」と答え、「次は貴方の番よ」と言う。サムはジャネットと幼馴染だったこと、レースでは連戦連勝だったこと、しかし交通事故でジャネットを失ったことを語った。
サムは自宅でベッカと夕食を取り、レースについて訊かれる。彼は親子三代でレーサーをしていること、従弟は現役で叔父は引退したことを話す。キャムはボブから、整備士の仕事と来季のシートを用意すると持ち掛けられた。帰宅したキャムは、妻のシンディーにボブから誘われて迷っていることを話す。シンディーが「あんな奴のために走るなんて危険よ」と反対すると、キャムは「親父のチームじゃ王者になれない」と告げた。
翌日、キャムはサムの元へ行き、ボブのチームに移籍することを告げる。サムは激怒し、「お前はクビだ」と言い放つ。後から話を聞いたシンディーもキャムに幻滅した。サムは親友であるスタンピーの忠告に耳を貸さず、現役復帰を決めた。新しいシーズンの開幕戦、キャムは第1ヒートでトップに立った。続く第2ヒートはボブ、第3ヒートはサムが制した。決勝レースでは、サムがキャムやボブを引き離して優勝を飾った。
レース後、キャムが素直に「いいレースだった」と声を掛けると、サムは「ガレージの工具を取りに来い」と冷たく突き放した。次の日、キャムがガレージに来るが、サムは彼と話そうとはしなかった。ベッカは「彼が心配だ」と言うサムに時間を置くよう促し、自分が話すと告げる。彼女がガレージへ赴いて「お父さんの心が傷付くわ」と告げると、キャムは「心って傷付くものだろ」と口にする。ガレージにはサムがジェニーを死なせた時に運転していたマスタングが、そのまま置いてあった。キャムはベッカに、「それでもレースをしてる。母親の望みだ。血筋なのさ」と語った。
残り5レースで得点ランキング3位に付けたサムは、保安官のバックが司会を務めるラジオ番組『トレーディング・ポイント』にゲストで出演した。キャムとの関係について質問された彼は、「息子の目的は優勝だ。だから勝てるチームを選んだ」と答えた。キャムもボブも、作業をしながらラジオ番組を聞いていた。番組がサムの大ファンであるリスナーの女性と電話を繋ぐと、彼女は「リンスキーは本物のクソ野郎よ。レース界の恥さらし。ぶちのめして」と告げた。
フォード50・スーハーレイトモデル・レースの日、キャムはボブから「お前の親父は俺をポイントでリードしてる。潰せ」と指示された。レースが始まるとサムがトップを快走し、残り1周で追い付いたキャムとデッドヒートになった。しかしキャムは衝突を避けるために速度を落とし、サムが優勝を飾った。ボブはキャムから「これでクビだろ」と言われ、「いや、親父を潰せるわけがない。悪かった」と告げる。しかし彼は協力を申し出たレーサーのジャック・ダンに、サムとキャムの両方を潰すよう依頼した。
84歳になった大ベテランのレッドがレース界からの引退を決め、パーティーを開いた。酒を飲み過ぎたキャムがトイレに行くと、サムが来て「飲み過ぎだ。シンディーと一緒に帰れ」と促す。しかしキャムは「助けなんか要らない」と声を荒らげ、「アンタに何が分かる?」と反発する。彼は「大事な話もしたことがないくせに」と言い、サムが家庭を疎かにしたことを指摘した。トイレを去った彼は、「親父と喧嘩した」とシンディーに告げて一緒に会場を去った。
次のレースで、ジャックは不自然に速度を落とした。彼はボブを先に行かせてトップに立たせてから、キャムにマシンをぶつけた。キャムのマシンは停止した、サムは回避できずに猛スピードでマシンを突っ込ませた。キャムのマシンは炎上し、彼は救助されるが重傷を負った。キャムが病院で意識を取り戻すと、見舞いに訪れたサムは「パーティーの夜、お前に言われてから考えた。ダメな父親だったら謝る」と告げる。キャムがボブから潰すよう指示されたことを明かすと、サムは「俺の所に戻れ」と誘った。
サムはキャムの退院に備え、マシンを用意することにした。エンジンが損傷して今までのマシンは使えなくなっており、サムはスタンピーからレイトモデルを造っている人物の存在を知らされた。しかしマシンを手に入れるには高額が必要となるため、サムはマスタングを売却して工面することにした。彼はボブの元へ行き、マスタングを買ってほしいと持ち掛けた。彼はレースから引退する考えを明かし、ボブはマスタングの引き取りを了承した。サムはレイトモデルを手に入れ、退院したキャムは父のチームに戻ってレースに挑む…。

監督はカールサン・カーデル、脚本はクレイグ・R・ウェルチ&ゲーリー・ゲラーニ、製作はアンドレア・イェルヴォリーノ&モニカ・バカルディー&ジョン・トラヴォルタ&シルヴィオ・ムラグリア&アレクサンドラ・クリム&ファン・アントニオ・ガルシア・ペレド&アルベルト・ブルゲーニョ、共同製作はハリー・フィンケル&オータム・ベイリー=フォード、製作総指揮はウォーレン・ゴッズ&エリック・ゴールド&ジェームス・マシエロ&ウィリアム・V・ブロマイリー&シャナン・ベッカー&ジョナサン・サバ&ミカエル・ウィレン&デヴィッド・ロジャース&ジェイソン・ギャレット&オスカー・ジェネラル&アンソン・ダウンズ&リンダ・ファヴィラ、製作協力はトレヴァー・オズモンド&マシュー・シダリ、撮影はホセ・デヴィッド・モンテーロ、美術はジョー・レモン、編集はフリア・フアニス&アレックス・フレイタス、衣装はタミカ・ジャクソン、音楽はヴィクター・レイエス。
出演はジョン・トラヴォルタ、シャナイア・トゥエイン、トビー・セバスチャン、ロザベル・ラウレンティー・セラーズ、ケヴィン・ダン、マイケル・マドセン、グロリア・リバルドーニ、リン・フィリップス、マーガレット・A・ボウマン、レッド・ファーマー、チェイス・リーヴス、デニー・メンデス・デ・ジーザス、バリー・コービン、ルイス・ダ・シルヴァJr.、リー・バーデット、バック・テイラー、クリス・マリナックス、カート・デイマー、ジェン・ベイカー、フェイス・ブルナー、ジョナサン・エイダン・コックレル他。


ジョン・トラヴォルタが人気カントリー歌手のシャナイア・トゥエインと共演した作品。
2012年の『Bekas』で注目を集めたスウェーデンのカールサン・カーデル監督が、初めてのアメリカ映画を手掛けている。
脚本は、これがデビューとなるクレイグ・R・ウェルチと、『パンプキンヘッド』のゲーリー・ゲラーニによる共同。
サムをジョン・トラヴォルタ、ベッカをシャナイア・トゥエイン、キャムをトビー・セバスチャン、シンディーをロザベル・ラウレンティー・セラーズ、スタンピーをケヴィン・ダン、リンスキーをマイケル・マドセン、ケリーをグロリア・リバルドーニが演じている。

サムはリタイアした車が運ばれるのを見ながら、ジャネットを乗せて運転していた時に事故を起こした出来事を回想する。
翌朝のシーンに切り替わり、彼はベッカに「ジャネットは車の事故で死んだ」ってことを話す。
でも、それなら回想シーンはベッカに話すタイミングでもいい。
あと、その事故はサムの余所見が原因で起きているようにしか思えないのだが、「妻を死なせてしまった」ということへの罪悪感が全く見えないのは気になるぞ。

っていうか、もっと根本的な問題を言っちゃうと、「ジャネットが事故で死んだ」という過去が、現在のストーリー展開に大きな影響を及ぼしているとは思えないってことだ。
それがサムとキャムの親子関係をギクシャクさせているわけではないしね。
なので、病死ってことでもいいんじゃないか。
もっと言うと、別にジャネットが生きている設定でも構わないんじゃないかと。サムのロマンスなんて、この映画に全く要らない要素だし。

そのシーンでは、もう1つ引っ掛かることがある。ベッカが登場した時に「誰だよ」と言いたくなるのだ。たぶんサムの恋人なんだろうってことは分かるけど、出し方が下手すぎる。
これはシンディーにも同じことが言えて、出し方が雑。どっちのキャラも、手順を1つ2つ飛ばしているかのような印象を受ける。
でも、それは実際に「その前にシーンを追加する」という作業が必要なわけではない。劇中に用意されているシーンだけでも成立するけど、その中での見せ方に問題があるってことよ。
っていうかさ、実はベッカやシンディーの存在意義って皆無に等しいので、いなくても全く問題が無いのよね。

シンディーはボブを信用できない男と評し、サムも「クソ野郎」と扱き下ろす。
しかし、その時点ではボブがいかにクソ野郎なのかを紹介するようなシーンが何も無いので、そこまで嫌悪される理由が全く分からない。
確かに「いかにも卑劣な悪玉でござい」という芝居ではあるのだが、そこはボブの性格を匂わせるような言動が1つぐらい欲しいところだ。
昔の東映時代劇みたいに、「演じているのが山形勲や月形龍之介だから悪玉はほぼ確定」といった感じで、役者の説得力に頼っているわけでもないでしょうに。

ラジオ番組のリスナーもボブについて「本物のクソ野郎。レース界の恥さらし」と扱き下ろすけど、何があったのかと。
ボブについての悪評がそこまで広まっているなら、絶対に何かデカいことをやらかしているはずでしょ。でも、そういうことが全く説明されていないのよ。
キャムにサムを潰すよう命じたり、ジャックにサムとキャムを潰すよう依頼したりするトコで、ようやく彼の卑劣さがアピールされる。
だけど、それだけでは「ボブがクソ野郎呼ばわりされる理由」の説明にはなっていないからね。過去に彼が手を出した卑劣な行為を説明しないのは、完全なる手落ちだからね。

伝説だったサムが現役に復帰するってのは、かなり大きなニュースのはず。
それにしては、ものすごくサラッと処理されている。レースの関係者が復帰を知って騒然とするとか、専門誌や番組で取り上げられるとか、そういう描写も無い。
特にダメなのは、サムが復帰を決めた時にボブやキャムのリアクションを見せていないこと。
特にキャムに関しては「自分がボブのチームに移籍したら父が復帰してライバルになる」という流れなんだから複雑な思いもあるだろうに、そこを全く掘り下げようとしないのは明らかに手落ちだよ。

サムは復帰レースでキャムやボブと互角の争いをするだけでなく、あっさりと優勝してしまう。
車の性能は大きく劣る上に6年のブランクがあるのに簡単に優勝できるって、どんだけ圧倒的な強さなんだよ。そこは「健闘するけど優勝には至らない」という程度に留めておいた方が良くないか。
そこで簡単に優勝しちゃうと、「今までキャムが優勝できなかったのはマシンの性能が原因」ってことが成立しなくなるでしょ。でも実際、今まで何度も車がトラブルを起こしていたわけで。
っていうか、キャムの時は何度も車がトラブルを起こしていたのにサムの時は何の問題も無いって、それもどうなのよ。もしもキャムの乗り方に問題があるならサムが指導すべきだけど、そういうことでもないんでしょうに。

復帰レースでサムが優勝すると、キャムは素直に父親を称賛する。それをサムは冷たく拒絶するのだが、その態度はどうなのよ。そのくせ、翌日にはベッカに「彼が心配だ」と言うし、どういうつもりなのかと。
むしろ、キャムが素直になれない方が良くないか。なんでサムの方が器の小ささを見せてるんだよ。
そもそも勝つためにチームを移籍するってのは、レースの世界じゃ良くあることで。資金の無さや車の性能の低さは、サムも認めているんだし。
前述したように、ボブの卑劣さを示す具体的な描写が無いから、「ボブのチームだから反対」ってのも理由が分からない状態になってるし。

開幕戦のレースがあった後、サムがラジオ番組に出演するシーンでは「残り5レースで得点ランキング3位」と紹介されている。
いつの間に、そんなに時間が経過していたんだよ。全てのレースを詳細に描けなんてバカなことは言わないけど、各レースの結果や得点ランキングの推移をダイジェストで説明するぐらいの作業は入れた方がいいでしょ。
製作費の都合でレースの映像を何度も挿入することが難しいとしても、例えばバックが番組で紹介するとか、そういう形で処理することは出来るはずで。
そうじゃないと、開幕戦で優勝したサムが3位になっている経緯が全く分からないだろ。その時点での1位や2位が誰なのかも分からないし。

得点ランキングでサムが3位ってことは1位と2位はキャムとボブなんだろうと思っていたら、ボブが「サムは自分より上だから潰せ」とキャムに命じる展開がある。
3連覇しているのに、得点ランキングは4位以下なのかよ。そこまでポイントが上げられていない理由は何か、まるで分からんぞ。
あと、そのレースにボブが参加していない理由もサッパリ分からない。
レース関連の描写は超が付くぐらい雑だし、「作ってる連中はホントにレースが好きなのか」と疑いたくなるわ。

ジャックはボブに協力を申し出るが、なぜなのかサッパリ分からない。サムとキャムを潰すのって、余程の大金を貰わないと割に合わない仕事だぞ。下手すりゃ自分も事故に巻き込まれる恐れもあるし。
あと、やり方が下手で露骨なので、悪意があるのはバレバレなんだよね。
レース界から追放されても仕方がないぐらいの行為だけど、そんな処分が下った形跡は無い。また、ボブの関与も疑われるような事故だが、調査が入った様子も無い。
その辺りも、ものずこく雑な展開だなあ。
そんで最後のレースでボブは何も卑怯なことをせずに敗れるので、それも「なんだかなあ」と言いたくなるし。

(観賞日:2020年12月18日)


第40回ゴールデン・ラズベリー賞(2019年)

受賞:最低主演男優賞[ジョン・トラヴォルタ]
<*『ファナティック ハリウッドの狂愛者』『ワイルド・レース』の2作での受賞>

ノミネート:最低スクリーン・コンボ賞[ジョン・トラヴォルタ&彼が受け入れた全ての脚本]

 

*ポンコツ映画愛護協会