『マッド・ファット・ワイフ』:2007、アメリカ

ある日、ゴールデン・ワンタンという養護施設の前に、ノービットという黒人の赤ん坊が捨てられた。園長のウォンは同じ建物で料理店も営んでおり、孤児には2人1組で行動するよう指示した。ノービットの相棒はケイトという少女で、いつも一緒に遊んだ。2人は結婚を約束し、樫の木の下で誓いのキスをした。しかし2週間後にケイトが貰われていったため、ノービットは相棒がいなくなった。いつか一緒に暮らせる相手と出会えると信じ、ノービットは養護施設での生活を続けた。
やがてノービットは苛める双子から助けてくれた大柄なラスプーシアと出会い、「私が彼女になる」と告げられる。ラスプーシアが周囲を威嚇したので、ノービットは苛めの被害に遭わなくなった。ラスプーシアと付き合い始めたおかげで、ノービットには初めて家族が出来た。彼女にはビッグ・ジャック、ブルー、アールという3人の兄がいた。ラティアモア家の3兄弟は町一番の悪党で、暴力を振るったり脅しを掛けたりしていた。しかしノービットは3兄弟のことを、優しくて働き者だと感じていた。
大人になったノービットは、3兄弟の建設会社で帳簿係として働き始めた。彼はラスプーシアと結婚し、元ポン引きのジーザスやマーシーたちは同情した。結婚生活が何年か続くと、ラスプーシアは何かに付けて苛立つようになった。ウォンは3兄弟から店を売り渡すよう要求されるが、威嚇して追い払った。エアロビ教室に通っているラスプーシアは、講師のバスターに個人レッスンを頼んだ。バスターは引き受ける代わりに、3兄弟にエクササイズビデオ製作への出資を頼んでもらう約束を取り付けた。
ラスプーシアに頼まれた肉を買うため肉屋へ出向いたノービットは、ジーザスとマーシーに遭遇する。ジーザスは肉屋を経営しているだけでなく、他の商売にも手を出していた。ノービットは養護施設で人形劇をやりに行く予定だったが、人形を自宅へ忘れたことに気付いた。慌てて取りに戻った彼は、ラスプーシアがバスターとベッドで浮気している現場を目撃した。バスターは裸のままで、レッスンの最中だとバレバレの嘘をついた。
「僕を裏切ったな。誓いを立てたのに」と怒りを示すと、ラスプーシアは逆ギレして襲い掛かろうとする。ノービットは慌てて家を飛び出し、ゴミ箱に激突して転倒した。走って疲れたラスプーシアは、「そんな走りたければスペアリブを買ってきな」と罵った。ノービットは結婚指輪をゴミ箱に捨て、養護施設で孤児たちに人形劇を見せた。しかし興奮した彼がラスプーシアへ悪口を言い出したため、ウォンが慌てて制止した。そこへ成長したケイトが現れたので、ノービットは再会を喜んだ。ケイトはアトランタのブティックを売却して帰郷しており、ウォンの後継ぎとして養護施設を買い取るつもりだと語る。ノービットは火曜日のランチに誘われ、喜んでOKした。
火曜日、バスターが訪ねて来てもノービットは全く怒らず、ノリノリで出掛ける。しかしレストランへ到着した彼はケイトから、恋人のディオンを紹介される。ケイトはディオンについて、不動産のプロなので養護施設を買う時も手伝ってくれるのだと嬉しそうに語る。翌日、仕事を終えたノービットは、ラスプーシアの運転する車で帰路に着く。するとラスプーシアは突如として犬のロイドに憤慨し、スピードを上げて追い回した。ロイドは死なずに入院だけで済んだが、ノービットは激怒して家を出ようとする。しかしラスプーシアが「赤ちゃんがいる。家族が出来るのよ」と言い出したので、ノービットは思い留まった。
祭りの日、ケイトはディオンが「今、施設を買い取るのは良い投資じゃないと思う」と語るので、「投資じゃないの。分かってくれると思ってたのに」と困惑したように言う。ディオンは電話を受けると「大事なビジネスの話だ」と告げ、祭りの会場を後にした。入れ違いにノービットが現れ、ケイトに声を掛けた。ノービットは「誰と来てるの?」とケイトに質問されて、仕方なくラスプーシアを紹介した。ラティモア家の娘だと知ったケイトが「改築のことで話があって」と言うと、ラスプーシアは「仕事の話なら兄貴たちの所へ行けば」と冷淡な態度を取った。
ケイトが去った後、ラスプーシアはノービットにワインを持って来るよう命じた。「赤ちゃんがいるのに、お酒はダメだよ」とノービットが言うと、彼女は「あれはガスだったのよ」と悪びれずに告げた。ケイトは3兄弟に養護施設を買うことを告げるが、孤児たちからダンスに誘われたので早々に立ち去った。ワインを持ってラスプーシアの元へ戻ろうとしたノービットは、ケイトに誘われてダンスに参加した。その様子を目撃したラスプーシアは激怒し、ノービットに大型スピーカーを投げ付けた。
3兄弟はディオンに接触し、養護施設を買う方針を確認した。するとディオンは「俺の考えとは違う。俺は施設なんて買いたくない」と言い、ケイトを捨てて町を去ろうとする。3兄弟は彼を引き留め、施設のある場所におっぱいバーを建てる計画を明かした。彼らはあこぎな商売で稼ぐ計画を説明し、「あの施設を買え。上手く行けば共同経営者にしてやる」と告げる。ディオンが「ケイトはどうする?」と尋ねると、3兄弟は「結婚すれば女房の物はお前の物だ」と述べた。
ケイトは入院したノービットの見舞いに訪れ、一緒に施設をやらないかと持ち掛けた。翌日に孤児たちと湖へサイクリングに行く予定があるケイトは、ノービットも誘う。しかしノービットが自転車に乗れないと言ったので、彼女は行き先をウォーター・パークに変更した。その夜、ケイトはディオンにプロポーズされ、大喜びでOKした。翌朝、ノービットは内緒で出掛けようとするがラスプーシアに見つかり、ウォーター・パークへ行くことを喋ってしまった。
ラスプーシアは彼に同行し、ウォーター・パークへ赴いてケイトや孤児たちと会う。彼女はケイトの前でウォーター・パークへの不満を連発し、ノービットとの性生活を自慢した。ケイトはノービットと2人になり、ディオンと土曜日に挙式することを明かした。ノービットはショックを隠し、笑顔を作って祝福した。翌日、ノービットはケイトから電話で誘われ、ラスプーシアに内緒で彼女の元へ行く。ケイトは自転車を購入し、ノービットに乗る練習をさせた。その後もノービットはラスプーシアに嘘をつき、ケイトとの密会を繰り返した。彼はケイトから披露宴の料理を決める相談に乗ってほしいと頼まれ、夜7時に行くと約束した。
3兄弟はディオンを呼び出し、「酒のライセンスは途中譲渡だけでは付いて来ない。譲渡申請書を出しておく必要がある。ケイトが申請書にサインする方法を考えろと言われたディオンは、ノービットを利用する計画を思い付いた。ノービットは3兄弟から「ケイトを見つけてサインさせろ」と書類を渡されると、何の迷いも見せずに承諾した。ノービットはジョヴァンニのレストランへ行き、ケイトと会う。彼はディナーを楽しみ、「ラスプーシアとの結婚を後悔することもある」と吐露する。書類を見つけたケイトに「何?」と問われたノービットは、「改築の書類だよ」と告げる。ケイトは書類の内容を確かめもせず、すぐにサインした。
ラスプーシアの元へピザを届けたアールは、うっかりノービットがケイトとデートしていることを喋ってしまう。激昂したラスプーシアは、車に乗り込んでレストランへ向かう。ノービットはケイトと教会の下見へ行き、神父に促されて結婚式のリハーサルをすることになった。まだ誓いの言葉を考えていなかったケイトは、ノービットに「貴方なら何て言う?」と尋ねる。ノービットが愛の言葉を語るとケイトは感動し、2人はキスをしてしまう…。

監督はブライアン・ロビンス、原案はエディー・マーフィー&チャールズ・マーフィー、脚本はエディ・マーフィー&チャールズ・マーフィー&ジェイ・シェリック&デヴィッド・ロン、製作はジョン・デイヴィス&エディー・マーフィー、製作総指揮はブライアン・ロビンス&マイク・トーリン&デヴィッド・ハウスホルター、撮影はクラーク・マシス、美術はクレイ・A・グリフィス、編集はネッド・バスティール、衣装はモリー・マギニス、特殊メイクアップ効果はリック・ベイカー、音楽はデヴィッド・ニューマン。
主演はエディー・マーフィー、共演はタンディー・ニュートン、キューバ・グッディングJr.、エディー・グリフィン、テリー・クルーズ、クリフトン・パウエル、カット・ウィリアムズ、レスター・“ラスタ”・スパイト、アンソニー・ラッセル、フロイド・レヴィン、マイケル・コルヤー、パット・クロフォード・ブラウン、ジャネット・ミラー、マーロン・ウェイアンズ、アレクシス・リー、カマニ・グリフィン、オースティン・リード、リンジー・シムズ=ルイス、チャイナ・アンダーソン、クリステン・シャール、ロブ・ヒューベル、マイケル・ヴォスラー、トラヴィス・ヴォスラー、メイソン・ナイト他。


エディー・マーフィーが1人3役を演じ、原案&脚本&製作も兼任した作品。
監督は『陽だまりのグラウンド』『シャギー・ドッグ』のブライアン・ロビンス。脚本はエディー・マーフィーと兄のチャールズ、『ナショナル・セキュリティ』『ゲス・フー/招かれざる恋人』のジェイ・シェリック&デヴィッド・ロンによる共同。
ケイトをタンディー・ニュートン、ディオンをキューバ・グッディングJr.、ジーザスをエディー・グリフィン、ジャックをテリー・クルーズ、アールをクリフトン・パウエル、マーシーをカット・ウィリアムズ、ブルーをレスター・“ラスタ”・スパイト、ジョヴァンニをアンソニー・ラッセル、エイブをフロイド・レヴィン、モーリスをマイケル・コルヤーが演じている。
辻一弘が特殊メイクアップのスーパーバイザーとして参加しており、兄弟子のリック・ベイカーと共にアカデミー賞メイクアップ賞にノミネートされた。

エディー・マーフィーは1988年の『星の王子ニューヨークへ行く』で1人4役、1996年の『ナッティ・プロフェッサー/クランプ教授の場合』で1人7役、2000年の続編『ナッティ・プロフェッサー2/クランプ家の面々』で1人8役を演じている。
全て特殊メイクアップによって複数のキャラクターに扮しており、それを担当したのはリック・ベイカーだった。
今回は1人3役なので、それらに比べると種類は少ない。
エディー・マーフィーの場合、もはや「特殊メイクによる1人3役」ってのは大した売りにならないのだ。

今回のエディーが扮している3つのキャラクターは主人公であるノービットの他に、ラスプーシアとウォンだ。つまり「成人男性」の他に「成人女性」と「老人」に扮しているのだから、普通に考えれば大きなセールスポイントになるはずだ。
しかし前述した作品でエディー・マーフィーは、もう女性や老人に扮している。ついでに書くと、白人にも扮している。
なので、そこは「既にやっていること」に過ぎない。何の力も発揮しないとまでは言わないが、そこを一番の売りにするのは厳しいってことだ。
しかし実際には、そこが一番の売りになっているわけで。
その時点で、映画としての力は今一つってことになる。

冒頭、ノービットのモノローグによって物語が進行する。
「親は僕のことを愛していたけど、育てていけない事情があったんだと思う。きっと近くの施設をあちこち調べ、苦労して選んだんだ。可愛い息子が、出来るだけ良い環境で育つように」という語りが入ると、車から乱暴に投げ捨てられた赤ん坊が地面を転がる様子が写し出される。
たぶん「語りと映像の内容が大きく異なる」ってのを狙っているんだと思うが、笑いに転化するほどギャップを上手く描けているわけではない。

ちなみに、ノービットの実の両親は最後まで登場しない。冒頭シーンでも車から投げ捨てられる赤ん坊が写るだけだ。
ろくでもない両親なのは明白だし、登場させなくても問題は無い。
ただ、それなら冒頭で「両親が赤ん坊を車から投げ捨てた」というシーンも描かない方が望ましい。たった1つのネタを描くために、そこで余計な引っ掛かりを生じさせる必要性は無い。
っていうか、そのネタは前述したように全く笑いに繋がっていないので、デメリットと引き換えに得た物はゼロだし。

ウォンは養護施設と共に中華料理のテイクアウト専門店を営んでいるのだが、そこに大きな意味は無い。
極端なことを言ってしまえば、ノービットの「施設には何でも揃ってた。ペットもいるし」という語りに合わせて、それまでノービットが遊んでいたカモをウォンが調理するというネタのためだけにあるような設定だ。
実際、それ以降のシーンで、そこが料理店であることはストーリーに全く絡んで来ない。
それどころか、料理店でウォンが仕事をするシーンさえ出て来なくなる。

ウォンは言葉が汚くてノービットを拾った時も「ブサイクな黒人だな。誰も貰ってくれないぞ」などと言うのだが、では憎まれ役なのかというと、ちゃんと大勢の孤児を育てている。決して虐待したり、酷い環境で住まわせたりはしていない。
しかし「クジラ狩りが大好き」という設定が示されると、孤児たちにクジラの書き割りを持たせて、そこに銛を投げ込む様子が描かれる。危うく銛は孤児たちに命中しそうになるのだが、ウォンは興奮しているだけ。ノービットたちが怯えて逃げると、「逃げるな」と叫ぶ。
ここだけ見ると完全に虐待なのだが、そういうキャラとして描こうとしている様子は見えない。
ウォンというキャラを、どういう風に描きたいのかが判然としない。

ラスプーシアから「私が彼女になる」と言われた時、ノービットに嫌がる様子は見えない。モノローグでも、彼女への感謝を口にしている。
だったら彼はホントにラスプーシアを愛しているはずなので、結婚式で誓いのキスを嫌がる態度を見せるのは整合性が取れない。
一方、ラスプーシアは全くモテそうにないノービットに自分から声を掛けて恋人にした上、結婚して喜んでいる。
つまりノービットを愛しているはずなんだから、バスターを誘惑して浮気に走るのはキャラとして違和感がある。

結婚式のシーンでジーザスとマーシーが登場し、「俺がポン引きやってた頃に」などと話している。
こいつらはノービットの友人という設定なのだが、ここで初めて顔を見せるので「いや誰だよ」と言いたくなる。
いつの間にノービットは、そんな連中と仲良くなったのか。「元ポン引き」とか言われても、ポン引きだった頃のシーンは無いし、その設定の必要性が全く分からないし。
彼らをノービットの友人として配置するのなら、結婚式より前に出しておいた方がいい。

結婚式の後、「何年か経過するとラスプーシアがカリカリするようになった」という描写がある。
前述したバスターとの浮気も含めて、その辺りはラスプーシアを悪妻にするための設定だ。
こいつを悪役にしておかないと、「ノービットがケイトと再会し、カップルになってハッピーエンド」という形に上手く持っていけないからだ。
だけど、そういう事情のために、ラスプーシアの動かし方が強引で違和感のあるモノになっているのよ。

最終的に「ノービットとケイトがカップルに」というゴールに辿り着くことぐらい、たぶん誰でも分かっている。そこから逆算した時に、ラスプーシアの動かし方を登場の段階から間違えているように感じるのだ。
当初のラスプーシアは強引だけど、本気でノービットを愛している。一方のノービットも、ラスプーシアを愛している。
そこから夫婦を始めたもんだから、「ラスプーシアの性格が変化し、ノービットを裏切る」という展開を用意しなきゃいけなくなっている。
だけど、それってラスプーシアをウォンが「ゴリラ」と評するような容姿にしている仕掛けを、上手く活用しているようには思えない。

例えば、ラスプーシアを「最初からヒステリックでアバズレ体質。ノービットと結婚したのは愛していたわけじゃなくて、下僕として扱き使うのが目的」みたいな設定にしておけば、上述した手順を踏む必要は無くなる。
それだけでなく、ノービットの方も「ラスプーシアを愛していた」という段階を挟むことが避けられる。
「好きじゃないけど、ラスプーシアと3兄弟が怖いので仕方なく結婚した」という形にでもしておけば、何かと都合がいいはずだ。

ケイトと再会したノービットは喜び、ランチの約束を交わして浮かれる。そこには明らかに、「惚れた相手とのデート」という意識がある。実際に好意を寄せる相手であることは確かなので、大きく間違った描き方をしているわけではない。
ただ、ついさっきまでラスプーシアとの結婚生活に不満は抱いておらず、その時の彼は「浮気を知ってショックを受けた」という状態だ。しかし、そこでの態度を見る限り、もはやラスプーシアへの愛などゼロになっている。
ノービットにしてみれば、浮気を知るまでは「愛する妻」だったはずで。それが一気にゼロとなり、ケイトへの愛が10割になるってのは違和感がある。
ここも前述したようにラスプーシアの初期設定を変更しておけば、「最初からノービットにラスプーシアへの愛など無い」という状態なので、ケイトと再会して恋心に浮かれても全く問題は無い。

ノービットはラスプーシアから妊娠を聞かされ、家出を思い留まっている。「家族が出来る」ってことに対して喜びを感じているのかと思ったが、次に描かれる祭りのシーンでの様子を見る限り、そういう意識は無さそうだ。
そんな彼はケイトから「奥さんはどこに?」と問われると、明らかに紹介するのを避けたそうな様子でラスプーシアを示す。そこには明らかに、「容姿が悪いので紹介したくない」という気持ちが感じられる。
だけど、ノービットはラスプーシアと交際中、容姿に関して不満を抱いていなかったはず。抱いていた設定だとしたら、「それでも交際して結婚に至った理由は何なのか」というトコの説明が付かないぞ。
で、実はここに関しても、前述した改変を行えば問題なくクリアできるのである。

ラスプーシアは家を出て行こうとするノービットを止めるため、妊娠したという嘘をつく。ところが祭りの日、あっさりと「ガスだった」と明かしてしまう。
だけど、妊娠が嘘だと分かれば、またノービットは家を出て行く可能性が考えられるわけで。なので、そこで簡単に真実を明かすのは不可解だ。
例えば「軽率な発言によってノービットが妊娠は嘘だと気付き、問い詰められたラスプーシアが開き直る」みたいな形にでもしておけば、そこの不可解さは解消できる。
とにかく、この映画って全てにおいて雑なのよね。

ケイトはディオンとの交際にこれといった不満を抱いておらず、プロポーズされると喜んでOKしている。つまり彼女の気持ちはディオンから全く揺らいでいないはずなのに、入院中のノービットをウォーター・パークへ誘う。
それが単純に「幼馴染としての付き合い」ということなら、ノービットが「また内緒で出掛けたら妻に酷い目に遭わされる」と怯えた時点で遠慮するはずだ。
ところがケイトは冗談ではあるものの、脅しを掛けて一緒に来るよう要求している。結婚を決めた後も、ノービットとの密会を繰り返している。
それは不可解な行動じゃないかと。
「実はノービットに気持ちが揺れている」ってことだとしたら、それを全く表現できていないし。

ノービットは3兄弟から「ケイトに書類を渡してサインさせろ」と言われ、即座に承諾している。
それは「改築の書類だと思い込んでいるから」ということなんだけど、何の不審も抱かない愚かしさは不快感に繋がってしまう。「ノービットは3兄弟を信じている」という設定はあるんだけど、それも含めての不快感に繋がる。
一方、書類を渡されたケイトが全く内容を確かめずにサインするのも愚かしい。こっちに関しては、もはや何の言い訳も出来ないし。
3兄弟やディオンが悪役なので「卑怯な手口でノービットやケイトを騙す」という形にしておきゃいいのに、こいつらがボンクラで落ち度がありまくるので、余計な引っ掛かりが生じてしまう。

ケイトが書類にサインした翌朝、ディオンは彼女に「改築の件でラティモア建設へ行ったら、机にこれがあった」と申請書を見せる。何か分からないケイトに、彼は「施設の酒のライセンスをラティモアに譲るって書類だ。君のサインがある」と告げる。ケイトが「なぜ酒のライセンスを欲しがるの?」と言うと、ディオンは「あいつらは施設をストリップクラブに建て替えるつもりなんだ」と教える。
だけど、こいつはラティモア兄弟と組んでいるんでしょ。だったら、そんなのバラさない方がいいだろうに。
そこで真実をケイトに教えて、何の得があるのかサッパリ分からない。その時点では、まだ「このままだと結婚を断られるかも。だから彼女がノービットを嫌うようにしよう」と考えることも無いはずだし。
っていうか、そんな狙いがあるようにも思えないので、まるで意味が分からない。

この映画で致命的なのは、どのキャラにも全く魅力が感じられないってことだ。
ノービットには主人公としての魅力が無いし、ケイトにはヒロインとしての魅力が無い。
ラスプーシアには悪妻としての魅力が無いし、3兄弟やディオンには悪役としての魅力が無い。
ウォンやジーザスやマーシーは、個性的な脇役としての魅力が無い。っていうか、それ以前に、存在感が乏しい。たまに姿は見せるものの、「別にいなくてもいいんじゃないか」としか思えない存在意義の薄さだ。

後半、ラスプーシアにケイトとのデートがバレたノービットは、庭へ投げ飛ばされて倒れ込む。そこへロイドが近付き、ノービットは彼に話し掛ける。
ここで驚くべきことが起きる。なんとロイドが突如として人間の言葉を喋り、「あいつを殺せ。息の根を止めろ」と言うのだ。
いやいや、そういうの全く要らないから。なんで急に取って付けたような設定を導入するかね。
そのシーンしか喋らないから、完全に浮いちゃってるし。
そういう変なトコに細工を施す暇があったら、もっと他に改善しなきゃいけないトコが幾つもあるでしょ。

(観賞日:2018年10月1日)


第28回ゴールデン・ラズベリー賞(2007年)

受賞:最低主演男優賞[エディー・マーフィー(ノービット役)]
受賞:最低助演男優賞[エディー・マーフィー(ミスター・ウォン役)]
受賞:最低助演女優賞[エディー・マーフィー(ラスプティア役)]

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演男優賞[キューバ・グッディングJr.]
<*『チャーリーと18人のキッズ in ブートキャンプ』『マッド・ファット・ワイフ』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低スクリーン・カップル賞[エディー・マーフィー(ノービット役)&エディー・マーフィー(ミスター・ウォン役)かエディー・マーフィー(ラスプティア役)のどちらか]
ノミネート:最低監督賞[ブライアン・ロビンス]
ノミネート:最低脚本賞

 

*ポンコツ映画愛護協会