『マーキュリー・ライジング』:1998、アメリカ
FBIのオトリ捜査官アート・ジェフリーズは、エドガー率いる銀行強盗団の説得を試みていた。強盗団の中にはエドガーの2人の息子も含まれている。まだ少年である彼らの命を救うためにも、なんとか警察に投降させようとするアート。
だが、もう一歩で説得できるというところで、アートの指示を無視して警官隊が一斉に突入し、強盗団を射殺してしまう。アートは突撃命令を出した特別捜査官ハートリーに殴りかかり、そのことでオトリ捜査の仕事から外されてしまった。
9才の少年サイモン・リンチは自閉症で、普通の人間よりも感覚が異常に優れていた。ある日、彼はパズル雑誌に掲載されていた難解な問題を瞬時に解読し、導き出された番号に電話を掛ける。しかし、それは単なるパズルの問題ではなかった。
それは“マーキュリー”と呼ばれる暗号コードで、アメリカの情報員を守るためにNSA(国家安全保障局)が開発した国家機密だった。その安全性を確認するため、開発メンバーのディーン・クランデルとレオ・ペドランスキーがパズル雑誌に掲載したものだったのだ。
マーキュリー開発の責任者であるニコラス・クドロー大佐は機密保持のためにサイモン暗殺を計画。元特殊部隊のピーター・バレルを使い、サイモンの自宅を襲わせる。バレルはサイモンの両親を殺害するが、サイモンは姿を隠していたために助かった。
盗聴の任務に就いていたアートに、サイモンを捜索しろという新しい任務が下された。自室に隠れていたサイモンを発見したアートは彼を入院させ、そこでサイモンが自閉症だと知る。病院にもバレルがやって来るが、アートが間一髪でサイモンを救い出した。
なぜサイモンが命を狙われるのかも分からないまま、彼を連れて逃亡するアート。しかし、アートにはサイモンを守ってやりたいという強い気持ちがあった。クドローの策略によって犯罪者に仕立て上げられながらも、アートは真相の究明とサイモンの保護のために奔走する…。監督はハロルド・ベッカー、原作はライン・ダグラス・ピアソン、脚本はローレンス・コナー&マーク・ローゼンタール、製作は ブライアン・グレイザー&カレン・ケヘラ、製作協力はトム・マック、製作総指揮はジョセフ・M・シンガー&リック・キドニー、撮影はマイケル・セレシン、編集 はピーター・ホーネス、美術はパトリシア・フォン・ブランデンスタイン、共同製作はモーリーン・ペイロット&ポール・ニーサン、衣装 はベッツィー・ハイマン、音楽はジョン・バリー、音楽監修はスティーヴン・R・ゴールドマン。
出演はブルース・ウィリス、アレック・ボールドウィン、マイコ・ヒューズ、チ・マクブライド、キム・ディケンズ、ロバート・ スタントン、ボッジ・パイン・エルフマン、キャリー・プレストン、L・L・ギンダー、ジョン・キャロル・リンチ、ピーター・ ストーメア、ケヴィン・コンウェイ、ケリー・ヘイゼン、ジョン・ドーマン、リチャード・リール、チャド・リンドバーグ、ハンク・ハリス、 ジェームズ・マクドナルド、カムリン・マンヘイム、ジャック・コンリー、マリセラ・オチョア、ピーター・フォンタナ他。
とっても出来の悪い映画なので、先に誉めるべき部分を挙げておこう。自閉症児サイモンを演じたマイコ・ヒューズが素晴らしい。彼が天才子役ぶりを発揮していることが、この作品のわずかな救いだろう。
賞賛できるのは、それぐらいである。『刑事ジョン・ブック/目撃者』のように少年と彼を守る男が次第に絆を深めていくという形なのだが、あまり上手くいっているとは思えない。サイモンがアートに心を開くきっかけとなるような場面が見当たらない。サスペンスとアクションに消されてしまっている感じがする。
事件の発端となる部分が既におかしい。国家機密に関する重要な暗号なのに、なぜパズル雑誌に発表してしまったのかが分からない。安全性の確認をするとしても、まだ暗号が実際に使用される以前に発表するはず。
というか、おそらくパズル雑誌になど発表しないはず。国家の重大機密に関わる問題なのに、サイモンを追う殺し屋はおそらく数名。途中からはバレル一人だけ。そりゃ警察はサイモンの行方を追ってるわけだけど、どう考えても人が足りないでしょ。クドローが本気で抹殺を考えているのなら、もっと殺し屋の人数を増やすべきじゃないだろうか。
しかも、彼の思考回路はどう考えても奇妙。暗号をガキに解読されたということは、他の人間にも解読されてしまう可能性があると考えるのが普通だ。
しかし、暗号システムをさらに複雑に改良しようとする動きは見られない。だから、再びサイモンが電話を掛けてきたりする。まず番号を変えろよ。既に死んでいるはずのバレルがなぜ生きているのかという疑問は放っておかれる。で、彼は元特殊部隊の人間なのだが、レオの部屋に侵入した時に、ゴミ箱の中を見ずに出ていってしまうという初歩的なミスを犯している。
あまり有能ではないらしい。全く無関係の女性ステイシーを事件に巻き込むアートの神経が分からない。あと、ステイシーは何のために出て来たのか分からない。「とりあえず女も出しておかないとマズイだろ」といった程度の扱いなので、後半になって登場したのはいいが、作品に何の効果も生み出していない。
で、結局、マーキュリーが解読されてどうなったんだろうか。サイモンはもう命を狙われなくなったのだろうか。実は様々な問題が解読されないままに映画が終わっているような気がするのだが。
それも全て、サイモンのような少年になら解読可能なのだろうか。
第19回ゴールデン・ラズベリー賞
受賞:最低主演男優賞[ブルース・ウィリス]
<*『アルマゲドン』『マーキュリー・ライジング』『マーシャル・ロウ』の3作での受賞>