『マンマ・ミーア!』2008、イギリス&アメリカ&ドイツ

20歳のソフィー・シェリダンは、エーゲ海に浮かぶギリシャのリゾート地、カロカイリ島に住んでいる。彼女の母ドナが、15年前から島で ホテル“Villa Donn”を経営しているのだ。結婚式を控えたソフィーは、アメリカの建築家サム・カーマイケル、スウェーデンの冒険家 ビル・アンダーソン、イギリスの銀行員ハリー・ブライトに手紙を出した。それは、自分と恋人スカイの結婚式への招待状だった。
結婚式の前日、ソフィーの親友アリとリサが島にやって来た。ソフィーは「秘密を話したくてウズウズしてたの。パパを招待したの」と 2人に言う。「とうとう見つけたの?」と問われ、彼女は「正確じゃないんだけど」と告げる。そして「ママにパパのことを尋ねると、 いつもこう。ひと夏のロマンス。お腹にいるあなたに気付く前に、彼はいなくなったと。ずっとそう聞かされてきた。でも古い鞄を漁って たら、妊娠してた年にママが付けていた日記が見つかったの」と語った。
ソフィーはアリとリサに、ドナの日記を見せた。そこには3人の男性の名前が記されていた。まずドナは、サムと惹かれ合う関係になった 。しかしサムは婚約しており、島を去った。その後、ドナはビル、ハリーの2人と交際していた。3人の誰が父親なのか分からないので、 ソフィーは全員を呼ぶことにしたのだ。だが、手紙には「私のパパかもしれないので来て」とは書いていない。差出人の名前はドナにして ある。そのドナにも、スカイにも、父親候補を呼んだことは内緒にしている。
定期船に乗り遅れたサムとハリーは、ビルのボートに乗せてもらうことになった。ドナの親友ロージーとターニャは、定期船で島に到着 した。ロージーはベストセラー作家だが、独身だ。船着き場で2人を出迎えたドナは、車でホテルへ戻った。ドナはスカイに2人を紹介 する。部屋にいたソフィーもロージーとターニャに気付き、大歓迎した。しばらくすると、サムたちがホテルに到着した。ソフィーはドナ に見つからないよう、3人をホテルの部屋ではなくヤギ小屋の屋根裏部屋へ案内した。
ソフィーはサムたちに、招待状は自分が出したこと、ドナは何も知らないことを打ち明ける。彼女は「ママにとっては素敵なサプライズに なるわ」と嬉しそうに言うが、サムは「ここにはいられない。最後にドナと会った時、二度と会いたくないと言われた」と困惑する。ドナ が小屋に来たため、ソフィーは黙って隠れているよう頼み、「私が招待したことは内緒にして」と告げる。ソフィーは裏口から外に出た。 ドナは物音に気付いて屋根裏を覗き、サムたちがいることを知って激しく動揺した。
ドナは天井の戸から屋根裏部屋に落下し、サムたちに「ここで何してるのよ」と尋ねる。3人は適当な理由を付けて誤魔化した。「誰か 小屋に案内したの?」というドナの質問に、彼らは「確かギリシャ語の女の子だったな」と嘘をつく。「ボートを手配するわ。貴方たちを 本土へ送り返す」とドナが言うので、3人は「ボートならある」と告げる。するとドナは「だったら、それで本土へ帰って」と冷たく言い 、ヤギ小屋を後にした。
ソフィーが泣きながらホテルに入るのを見たロージーとターニャは、心配になって声を掛ける。するとドナは、自分が同時に付き合って おり、ソフィーの父親かもしれない3人がヤギ小屋に来ていることを話した。するとロージーとターニャは好奇心満々で、様子を見に行く 。慌ててドナが追い掛けるが、サムたちは屋根裏から姿を消していた。ドナが「大事なのは、ソフィーに気付かれないことよ」と不安そう に言うと、ロージーとターニャは笑い飛ばす。2人に励まされ、ドナは笑顔を取り戻した。
サムたちがボートにいるのを見つけたソフィーは、海に飛び込む。ボートに上がった彼女に、サムたちは島を一周するつもりだと話し、 「君のママに見つかった。我々を快く思ってない」と告げた。ソフィーは「結婚式のストレスでおかしくなってるの。自分へのサプライズ だと思ってないのよ」と釈明した。ソフィーが「明日の結婚式には必ず来てね」と頼むと、3人は「ああ、約束する」と述べた。
その夜、スカイは男友達と、ソフィーは女友達と集まってパーティーを開き、それぞれに独身最後の夜を楽しんだ。ソフィーたちが騒いで いると、ドナ、ロージー、ターニャの3人が“ドナ&ダイナモス”を一夜限りで復活させ、衣装に着替えて歌い踊った。歌声を耳にした サムたちは、パーティー会場に足を運ぶ。歌っている最中、ドナは3人に気付いた。歌が終わると、ロージーがサムたちに「これは女性 オンリーのパーティーなの」と言う。ソフィーは屋内に戻り、「結婚式を潰すつもりかしら」と苛立ちを示した。
ソフィーはバルコニーに一人で佇んでいるサムを見つけ、声を掛ける。彼が「下心は無いとママに伝えようと思ってね」と言うので、 ソフィーは「今はダメ。ママにお酒が入るまで待って」と告げる。ソフィーはハリーの元へ行き、会話を交わす。「お父さんは?」と質問 されたソフィーは、「父親が誰か分からないの」と答えた。ビルはソフィーと話し、自分の大叔母がドナに遺産を残したこと、その金で 彼女がホテルを買っていたことを知る。
当惑したビルが歩き出したので、ソフィーは後を追った。ソフィーから「貴方がパパなの?」と問われ、ビルは「ああ、そのようだね」と 答えた。ソフィーが「明日、花嫁の父として私をエスコートしてくれる?」と頼むと、ビルは喜んで承諾した。「当日までは内緒よ」と ソフィーが言い、ビルは彼女と抱き合った。ソフィーが仲間たちと踊っていると、サムとハリーが順番にやって来た。彼らは自分が父親 ではないかと思い、結婚式のエスコートを申し入れた。ソフィーは頭が混乱し、その場に倒れてしまった。
翌朝、ソフィーはドナから「昨夜、スカイと何があったの?どうしたのよ?」と声を掛けられた。「どうしたらいいか分からない」と彼女 が言うと、ドナは勘違いして「分かってるはずよ。何もしなくていい。結婚式はキャンセルできるわ」と言い出す。ソフィーが「それは ママの望みでしょ」と指摘すると、ドナは「違うわ」と否定する。しかしソフィーは「ママには分からないわ。ママは結婚しなかった。 やったのは子供を産んだことだけ」と批判的な口調で言う。
ドナが「ママはそれで良かった。なぜ貴方が私から去っていくのが分からない」と反論すると、ソフィーは「私はスカイが好きだし、子供 が欲しい。そして父親を知らないまま大きくなってほしくない」と主張して立ち去った。サムはドナの元へ行き、「結婚するのがソフィー だと、なぜ言わなかった?」と訊く。「貴方には関係ないからよ」とドナが言うと、彼は「なぜ結婚して島に落ち着く?私なら広い世界を 見ろと言う」と語る。ドナは「でも、娘には娘の考えがある」と静かに反論した。
サムは「だが若すぎる。本当にやりたいことが分かってるのか」と言った後、「君を残しても大丈夫だとソフィーが感じたら、彼女は自分 の道を歩くんじゃないか」と口にした。サムは一緒に暮らすことを持ち掛けたのだが、ドナは「私は一人が好きなの」と拒否した。ハリー はドナの元へ行き、「女一人で娘を育てるのは大変だろうと思った。だから結婚式に小さな贈り物をしたいと思った」と小切手を渡す。 ドナは「受け取れないわ」と困った顔になるが、ハリーは「受け取ってくれ」と言って走り去った。
ソフィーはスカイの所へ行き、「私を助けて。とんでもないことをやっちゃった」と言う。彼女は、サムたちが3人とも父親として結婚式 のエスコート役をやりたがっていること、父親候補を内緒で招待したことを打ち明ける。スカイに「なぜ俺に言わなかった」と尋ねられ、 彼女は「話したら止めるでしょ」と答える。するとスカイは不機嫌そうに、「この結婚式は何だ?パパを見つけるためか。立会人が2人 いれば結婚は出来る。でも君は幸せな家族を演じるため、このサーカスをしたいと言い出した」と述べた。
ソフィーが「自分を知った上で結婚したかったのよ」と説明すると、スカイは「父親捜しからは自分なんて見えて来ない。君は自分自身を 探すべきだ。僕は君のために全て棚上げしていたが、もう分からないよ」と腹を立てて去った。ソフィーが追い掛けようとすると、サムが 現れて「幸せは永遠に続くものじゃない」と言う。ソフィーが「それは貴方のことでしょ。私は世界中の誰よりスカイを愛してる。結婚 する時、そんな気持ちが貴方にあった?」と苛立ちながら問い掛けると、サムは「いいや」と答えた。ソフィーはホテルへ戻り、ドナに ウェディング・ドレスの着付けを頼む…。

監督はフィリダ・ロイド、原作はキャサリン・ジョンソン、原案はジュディー・クレイマー、脚本はキャサリン・ジョンソン、製作は ジュディー・クレイマー&ゲイリー・ゴーツマン、製作総指揮はベニー・アンダーソン&ビョルン・ウルヴァース&リタ・ウィルソン& トム・ハンクス&マーク・ハッファム、撮影はハリス・ザンバーラウコス、編集はレスリー・ウォーカー、美術はマリア・ジャーコヴィク 、衣装はアン・ロス、振付はアンソニー・ヴァン・ラースト、作詞&作曲はベニー・アンダーソン&ビョルン・ウルヴァース、一部作曲は スティッグ・アンダーソン、音楽監督はマーティン・ロウ、音楽監修はベッキー・ベンサム。
出演はメリル・ストリープ、ピアース・ブロスナン、コリン・ファース、ステラン・スカルスガルド、ジュリー・ウォルターズ、ドミニク ・クーパー、アマンダ・サイフリッド、クリスティーン・バランスキー、フィリップ・マイケル、レイチェル・マクドウォール、 アシュリー・リリー、リカルド・モンテス、ナイアル・バギー、マイラ・マクファッデン、レオニー・ヒル、ジェーン・フォウファス、 ノーマ・アタラー、クリス・ジャーヴィス、エンツァ・スキリーノJr.他。


スウェーデン出身のポップグループ“ABBA”の曲で構成された同名ミュージカルを基にした作品。
ブロードウェイ・ミュージカル版の脚本を手掛けたキャサリン・ジョンソン、演出を務めたフィリダ・ロイドの両名が、映画版でも脚本と 監督を担当している。
両名とも、映画を手掛けるのは本作品が初めてだ。
ドナをメリル・ストリープ、サムをピアース・ブロスナン、ハリーをコリン・ファース、ビルをステラン・スカルスガルド、ロージーを ジュリー・ウォルターズ、スカイをドミニク・クーパー、ソフィーをアマンダ・サイフリッド、ターニャをクリスティーン・バランスキー が演じている。

まずキャスティングに2つの意味で難がある。
1つ目は、メリル・ストリープの年齢。
彼女はブロードウェイの『マンマ・ミーア』に心を打たれ、映画版への出演を熱望していたらしく、だから「まず彼女の起用が決まって、 それから他のキャストも」という流れだったようだ。
そういう事情があるので、彼女がドナを演じるのは仕方が無いのかもしれんが、ソフィーとの年齢差が大きすぎるのは厳しい。
アマンダ・サイフリッドは1985年で、メリル・ストリープは1949年だから、36歳も離れている。

もちろん、世の中には高齢で出産する人もいるだろうけど、ドナって「父親が誰だか分からない」というぐらいプレイガールだったはずで 、そんな人が36歳で出産って、ちょっと違和感がある。
っていうか、きっと「アラフォーになってから出産した」という設定じゃないはずだし。
メリル・ストリープが実年齢より若く見えるならともかく、年相応に老けて見えるので、そこは大きなマイナスになっている。
だからって、メリルに合わせてソフィー役の女優の年齢を上げるのは、どう考えたって違うしね。

もう1つの問題は、歌唱力が決して高いとは言えない俳優を起用していることだ。
ミュージカル劇のキャリアを持つクリスティーン・バランスキーやジュリー・ウォルターズは、何の問題も無い。
たぶんミュージカルへの適応力も考慮した上で起用されたであろうアマンダ・サイフリッドやドミニク・クーパーも、そんなに悪くない。
コリン・ファースやステラン・スカルスガルドも同様。
メリル・ストリープは、やや声質が細いかなあという気はするが、まあ許容範囲。
で、やはり問題はピアース・ブロスナン。
他の面々と順番に歌うシーンでは、明らかに彼だけが落ちる。

ただし、実はミュージカルシーンにおける一番の問題は、歌よりもダンスにある。
主要キャストにダンスの技術が無かったからなのか、ほとんど踊らないのである。
冒頭でソフィーが歌う『I Have a Dream』はバラードなので、ダンスが無くても気にならない。彼女が親友と話してからの『Honey, Honey 』はノリのいい曲だが、やはりダンスと言うほどのモノは無い。
「親友が集まって浮かれ、少し体を動かしてリズムを取った」という程度の動きはあるけど、その程度。

ドナ、ロージー、ターニャの『Money, Money, Money』では、次々に場面が切り替わっていくが、ダンスは無い。ただのPVになっている。
大体、ミュージカルなのに顔のアップが多いって、どういうことなのかと思っちゃうし。
ヤギ小屋のサムたちを見つけたドナが歌い出す『Mamma Mia』でも、彼女の動きをリズムに合わせている部分はあるけど、ダンスと呼べる ほどのモノではない。
ロージーとターニャがドナを心配して歌う『Chiquitita』も、全く踊らない。

ロージーとターニャがドナを励まして歌い出す『Dancing Queen』は、「仲間たちがふざけて踊りました」という感じのダンスであり、 ミュージカルとしての本格的なダンスではない。
ドナが参加して室外に飛び出すと、従業員たちもバックダンサーとして加わり、ようやくマトモな「ミュージカル」の雰囲気が見える。
だが、それも一瞬で、すぐに場面が切り替わり、また踊りが消える。
みんなで島を歩いて移動するシーンは、バラバラの動きで手を振っているだけ。埠頭に移動すると全員が同じ振り付けで踊るが、カットを 切り替えたり、全体を見せないカメラワークにしたりと、見せ方がマズい。
それに、ダンスそのものも同調性が足りない。

ドナ&ダイナモスの『Super Trouper』で、ようやく振り付けによるダンスを長く見せる。
ただ、やはりカメラワークに難があるし、それに所詮は「素人たちがステージで踊ってる」という感じ。
だから動きの質は、お世辞にも高くない。
3人の手の動きがピッタリと合っているわけじゃないし(バストショットが多くて下半身の動きは良く分からないが、たぶん足のステップ はあまり使っていないと思う)。

バチェラー・パーティーの女性たちによる『Gimme! Gimme! Gimme!』は、みんながクラブみたいに自由に踊るだけ。
歌が流れても、ダンスがそこに付随していないので、ただ単に「みんな浮かれてる」という印象ばかりが強くなる。
『Voulez-Vous』では全員が踊るが、その途中で会話を入れたり、カットを細かく切り替えたりするので、ダンスの様子が良く 分からない。
決してダンスの質が高いようには見えないけど、一応は同じ振り付けで踊っているし、数は多いのでそれなりに見栄えがするんじゃないか と思うんだけど、見せ方がマズい。

ターニャが浜辺で若い男たちを取り巻きにして『Does Your Mother Know』を歌うシーンでは、ちょっとだけダンスがある。
だが、せっかく彼女が踊り出しても、取り巻きの男たちは参加せずに眺めているだけ。
そして男たちが踊り出すと、今度はターニャが踊らない。
どういうことなのかと。
ミュージカル映画のはずなんだけど、ただのミュージカルごっこ、もしくは学芸会のようになっている。

話している途中でキャストが歌い出すという、古典的なミュージカルのスタイルを取っているのに、そこにダンスが付随していない箇所が 大半ってのは、どういうつもりなんだろう。
クラシカルなミュージカルのスタイルで作るのなら、もっと踊りまくってくれよ。
それも、素人芸のレベルじゃなくて、舞台劇でも成立するぐらいのクオリティーでさ。
っていうか、クラシカルなスタイルかどうかを抜きにしても、やっぱりダンスが著しく不足しているよなあ。
音楽映画じゃなくて、ミュージカル映画のはずでしょ。

ここまでミュージカルの部分について書いて来たけど、ちなみに物語の方は、ものすごく薄っぺらいよ。
ただ、ミュージカルシーンの質が高くて充実していれば、そこの薄さは大した傷にならなかったはず。でも肝心のミュージカルシーンが 丸出だめ夫なので、物語の薄さも気になってしまう。
それと、終盤にドナが「父親が誰なのかは分からない」と言い出しても、ソフィーが「ママはママだもの」と何の迷いも無く許しちゃう のは、どういうことなのかと。父親が誰なのか知りたかったはずじゃねえのかよ
。あと、サムが婚約破棄のために戻っている間に、ドナは勝手に彼が去ったと思い込み、すぐに他の男と付き合い始めているんだけど、 それってどうなのよ。彼女の苦労が全く見えて来ないから、ただのズベ公にしか思えんぞ。

(観賞日:2012年12月18日)


第29回ゴールデン・ラズベリー賞(2008年)

ノミネート:最低助演男優賞[ピアース・ブロスナン]

 

*ポンコツ映画愛護協会