『マチェーテ』:2010、アメリカ

メキシコの連邦捜査官を務めるマチェーテは誘拐された女性チカを救出するため、麻薬王トーレスの村へ向かう。強大な力を持つトーレスを恐れる相棒は強硬に反対するが、マチェーテの決意は揺らがない。上司は「トーレスを捕まえるな。。我々の命まで危険にさらされる」と命じるが、マチェーテは無視を決め込んだ。マチェーテは車を村に突入させるが、相棒は発砲を受けて即死した。マチェーテはチカを見つけて連れ出そうとするが、武器を奪われて刺されてしまう。そこへトーレスが側近の女とマチェーテの上司を引き連れて現れる。上司もトーレスと結託していた。側近はチカを射殺する。トーレスは拉致してきたマチェーテの妻を目の前で殺害した。彼は既にマチェーテの娘も殺害していた。
3年後、テキサス州。ICE(入国・税関取締局)捜査官のサルタナは上司の指令を受け、メシキコからの移民を支援する組織を監視していた。組織のリーダーはルースという女で、普段はタコス屋台を営んでいる。屋台の近くに現れたマチェーテに気付いたサルタナは、不審を抱いた。深夜、メキシコ人のグループが国境を越えて不法入国しようとすると、ヴォン・ジャクソンが率いる移民狩りの自警団が現れた。逃げ遅れた妊婦を、ヴォンは冷徹に射殺した。同行していた上院議員のジョン・マクラフリンは、妊婦の夫を始末した。
マクラフリンは移民問題で強硬な立場を取っているが、それが原因で支持率が急激に低下していた。そんな中、マチェーテはある男から、マクラフリンの抹殺を15万ドルで依頼される。一度は断ったマチェーテだが、「断ればお前の安全は保証しない」と脅され、結局は承諾した。彼は15万ドルを「同胞のために使ってくれ」とルースに渡した。翌日、マチェーテは演説会場に現れたマクラフリンを狙撃しようとする。だが、依頼した男の手下スナイパーが別の場所でライフルを構えており、マチェーテに発砲した。
スナイパーはマクラフリンの脚部を撃ち、会場にいた依頼人がビルの屋上にいるマチェーテを指差して「あそこだ、奴が撃った!」と叫ぶ。依頼人の男は、マクラフリンの側近マイケル・ブースだった。ブースはマクラフリンの支持率を上昇させるための作戦として狙撃計画を思い付き、マチェーテは罠に掛けられたのだ。マチェーテは駆け付けた警官たちに銃を向けられ、パトカーに乗せられる。しかし偽警官と分かったため、背後から突き刺した。パトカーは停まっていた車に激突し、爆発炎上した。
ブースは狙撃の現場を撮影したビデオを、トーレスに送った。トーレスはマクラフリンを再選させるため、資金提供していた。映像を見たトーレスは、ブースが使った男がマチェーテだと気付いた。意識を失ったマチェーテは、移民支援組織の息が掛かった病院に担ぎ込まれた。スナイパーと手下たちが病院に来るが、マチェーテは逃亡した。マチェーテを見つけたルースは、トラックに乗せて家に連れ帰った。マチェーテはルースが組織のリーダーだと知った。
サルタナはマチェーテについてデータベースで調べ、彼が元捜査官だと知った。スナイパーはルースの家を突き止め、彼女の留守中に手下を差し向けた。マチェーテは一味を始末するが、スナイパーは爆弾を家に投げ込んで立ち去った。マチェーテは脱出するが、サルタナが現れて拳銃を構えた。マチェーテが車に乗り込むと、サルタナは情報提供を要求する。マチェーテは罠に掛けられたことを話した上で銃を奪い、車を走らせるよう指示する。
ブースはマチェーテの正体を知って驚愕し、トーレスがテレビ電話の映像を見ている前でスナイパーを始末する。ブースはマチェーテを殺すため、テキサスで一番の殺し屋オサイリス・アマンポウを雇おうと考える。トーレスは「マチェーテが逮捕されれば俺の稼業がバレる。24時間以内に始末しろ」とブースに指示した。マチェーテはサルタナに「俺を罠に掛けた奴を見つけ、アンタに引き渡す」と告げ、拳銃を返して立ち去った。
ルースは仲間のジュリオとホルヘを連れて、大量の武器を隠してあるアジトに行く。彼女は「ヴォンたちの襲撃に備えなきゃ。もし私が殺されたら、その時はマチェーテに頼って」と述べた。張り込んでいたサルタナは、銃を構えてアジトに乗り込んだ。しかしルースが「ヴォンの自警団が移民を襲っている。アメリカの法律は移民を助けない。だから我々が助ける」などと説明すると、彼女は「マチェーテに私が捜してると伝えて」と言って立ち去った。
マチェーテは神父になった元同僚のパードレと3年ぶりに再会し、協力を要請する。マチェーテはパードレから、教会に通っているブースの情報を手に入れる。「ブースは麻薬取引の黒幕だが、そのことをマクラフリンは知らないだろう」とパードレは語った。ブースの屋敷に乗り込んだマチェーテは、ビデオ撮影の相手と勘違いした彼の娘エイプリルと妻のジューンに誘われ、2人を抱いた。マチェーテは2人を眠らせ、車でパードレの元へ連れて行く。
帰宅したブースは、「これを見ろ」というメモが貼られているビデオカメラに気付く。映像を見て驚愕している彼に、オサイラスから電話が掛かって来た。オサイラスは、マチェーテにパードレという義兄弟がいることを調べ上げていた。ヴォンはマチェーテを始末したいと考え、トーレスと連絡を取った。マチェーテはサルタナの家へ行き、ブースの告解を撮影した映像を渡した。ブースの家で入手したDVDを調べると、マクラフリンやヴォンとの関係を示す証拠が入っていた。さらにデータを調べると、トーレスが不法入国防止の柵を利用し、麻薬の独占を狙っていることが明らかになった。
ヴォンはルースの元へ行き、銃弾を浴びせた。ブースはオサイリスたちを率いて教会に乗り込み、パードレを捕まえてマチェーテの居場所を吐くよう要求した。拷問してもパードレが白状しなかったので、ブースは彼を始末した。サルタナの家にも、ブースの殺し屋たちが乗り込んできた。マチェーテはサルタナと共に始末し、パードレの危機を察知する。教会に急行した彼は、パードレの死体を発見した。怒りに燃えたマチェーテは、ゴミどもの始末を誓う。一方、トーレスはマチェーテを始末するため、アメリカに乗り込んできた…。

監督はロバート・ロドリゲス&イーサン・マニキス、脚本はロバート・ロドリゲス&アルヴァロ・ロドリゲス、製作はリック・シュウォーツ&ロバート・ロドリゲス&エリザベス・アヴェラン、共同製作はドミニク・キャンシラ、製作協力はトム・プロッパー、製作総指揮はアラン・バーノン&マイルズ・ネステル&アショク・アムリトラジ&エドワード・ボーガーディン、共同製作総指揮はピーター・フラックマン&ジェリー・フラックマン&ジャック・ジラルディーJr.&ダービー・パーカー&アラステア・バーリンガム&スティーヴ・ロビンス&アンソニー・ガダス、撮影はジミー・リンゼイ、編集はレベッカ・ロドリゲス&ロバート・ロドリゲス、美術はクリス・スチュル、衣装はニナ・プロクター、視覚効果監修はロバート・ロドリゲス、音楽はチンゴン。
出演はダニー・トレホ、ロバート・デ・ニーロ、ジェシカ・アルバ、ドン・ジョンソン、スティーヴン・セガール、ミシェル・ロドリゲス、ジェフ・フェイヒー、チーチ・マリン、リンジー・ローハン、ダリル・サバラ、トム・サヴィーニ、シェー・ウィガム、ギルバート・トレホ、アラ・セリ、ビリー・ブレア、フェリックス・サバテス、エレクトラ・アヴェラン、エリース・アヴェラン、マーシー・マディソン、ヴィク・トレヴィーノ、メイラ・リール、アレハンドロ・アントニオ、ファン・パレハ、アリシア・マレク他。


ロバート・ロドリゲスとクエンティン・タランティーノによる2本立て映画『グラインドハウス』に含まれていたフェイク予告編の1つを下敷きにした作品。
ロドリゲスと編集マンのイーサン・マニキスが共同で監督を務めている。脚本はロドリゲスと従弟のアルヴァロ・ロドリゲスが担当。
フェイク予告編の時と同じく、ダニー・トレホがマチェーテを演じている。アクの強い脇役俳優として活動してきた彼にとって、これが初めての主演作だ。
日本で言えば、六平直政が主演を務めるようなものかな(ちょっと違うかも)。
他に、マクラフリンをロバート・デ・ニーロ、サルタナをジェシカ・アルバ、ジャクソンをドン・ジョンソン、トーレスをスティーヴン・セガール、ルースをミシェル・ロドリゲス、ブースをジェフ・フェイヒー、パードレをチーチ・マリン、エイプリルをリンジー・ローハン、ジュリオをダリル・サバラ、オサイリスをトム・サヴィーニ、スナイパーをシェー・ウィガム、ホルヘをダニー・トレホの息子であるギルバート・トレホが演じている。

『グラインドハウス』と同様、これもロドリゲスとタランティーノが若い頃にグラインドハウスで上映されていたB級映画のノリを意識して作られた映画である。
グラインドハウス映画としては、そんなに珍しいこと、目新しいことをやっているわけではない。そういうノリのB級映画を、普段はそういう作品と縁の無いようなキャストを起用して作ることにより、大きな話題性が生まれているわけだ。
この映画を、無名の監督が無名のキャストばかりを起用して作っていたとしたら、それほど大きな話題を集めなかっただろうし、興行的にもパッとしなかっただろう。
話の中身だけを抽出してみれば、「一部のマニアが喜びそうな、ちょっと面白いB級映画」という感じの作品じゃないだろうか。

ようするに、ロバート・ロドリゲスという有名監督が、グラインドハウス映画には似つかわしくない豪華キャストを起用したことに、大きな意味があるのだ。
そういう意味では、ロバート・デ・ニーロやジェシカ・アルバはともかく、ドン・ジョンソンやスティーヴン・セガール、リンジー・ローハンといった辺りは、ちょっと微妙な線かな。
この人たち、B級映画の顔触れだよね。
ただし、「無敵のスティーヴン・セガールが悪役、やられ役を演じる」ということでの新鮮味はあるだろうし、リンジー・ローハンに関しては、「ドラッグで問題を起こした女がヤク中の役を演じる」というトコロにエクスプロイテーション映画チックなモノを感じる。

前述のように、ロバート・デ・ニーロやジェシカ・アルバは、「グラインドハウス映画には似つかわしくない豪華キャスト」という意味では合格なのだが、その役柄かを考えると、ジェシカ・アルバはミスキャスト。
サルタナって、お色気を振り撒く役回りでもあるのよね。
だけどジェシカ・アルバは、信仰上の理由でヌードにならないことを公言している。
だから、幾らセクシーなシーンが用意されていても、「どうせ脱がないし」という冷めた気持ちになっちゃうんだよね。

実際、この映画でも、シャワーシーンはあるけど、ジェシカ・アルバはバストトップを隠している。
それでも横からのショットでは全裸だから「セミヌード」の状態だし、彼女にしては相当脱いでいる方だけどね。
ただ、ここは、ちゃんと脱いでくれる女優を起用すべきじゃないかと。
女優の脱ぎっぷりの良さも、この映画には必要じゃないかと思うのよ。
「バストトップだけは頑なに守る」って、柏原芳恵じゃあるまいし(例えが古いわ。せめて矢部美穂にしろよ)。

ちなみに、崖っぷちの状態だったとは言え、リンジー・ローハンはちゃんとした形で脱いでいるし、知名度はそう高くないけど、チカ役のメイラ・リールやジューン役のアリシア・マレクは脱いでいる。
まあ他に脱いでくれる女優が登場するので、「お色気サービス」という部分はクリアしているとも言えるんだけど、サルタナも中途半端じゃない形で脱いでほしいなあ。
それはジェシカ・アルバのヌードが見たいってことじゃないよ。前述のように、絶対にヌードにならないことは分かっているんだから。
えっ、「ミシェル・ロドリゲスも全く脱いでいないのに、それはいいのかよ」って?
うーん、まあ、それは別にいいかなあ。だって、ほら、ミシェル・ロドリゲスだし(どういう意味だよ)。

っていうか、なんか女優が脱ぐか脱がないかってことばかり書いちゃってるなあ。
一応は中身に関しても触れておくと(一応なのかよ)、意外に「ちゃんとしてる」んだよね。そつなくキレイにまとまっている。
ちゃんとしてるのは映画として悪いことじゃないんだけど、ある程度は整合性が取れなくても、ある程度は伏線を無視しても、それを感じさせない、あるいは「そんなの別に構わない」と思わせるぐらいに、もっともっとクレイジーなパワーで弾けまくった映画にしても良かったんじゃないかと。
キャラ造形や動かし方も、もっともっとイカれていたっていいんじゃないかなと。

でも、なんか文句ばかり書いちゃってるけど、実はワシ、この映画、かなり気に入っているのよね。
残酷描写は多いし、クセは強いから、自信を持って万人にオススメできる映画ではないけど、おバカなB級バイオレンス映画としては、結構イケてるよ。
クライマックスのバトルに関しては、前述したような「クレイジーなパワー」も感じるし。
あと、個人的には、「ダニー・トレホの主演する暴力映画」ということだけで、プラス査定になるし。

クライマックスの戦いでは、支援組織に脅されたマクラフリンが一緒に戦うとか、尼僧の服に身を包んだエイプリルが現れて発砲するとか、すげえデタラメな展開がある。
だけど、それが本作品の場合は面白さになっている。
でも、やっぱり死んだと思われていたルースが眼帯を装着して救急車から登場するのが、クライマックスのシークエンスにおける一番の盛り上がりかな。
その後にはマチェーテとトーレスのタイマン対決が待っているけど、ぶっちゃけ、そんなにテンションは上がらない。

(観賞日:2013年3月25日)


第31回ゴールデン・ラズベリー賞(2010年)

受賞:最低助演女優賞[ジェシカ・アルバ]
<*『キラー・インサイド・ミー』『ミート・ザ・ペアレンツ3』『マチェーテ』『バレンタインデー』の4作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会