『ローン・レンジャー』:2013、アメリカ

1933年、サンフランシスコ。カーニバルの会場では、開拓時代の西部をテーマにした見世物小屋が設置されていた。ローン・レンジャーの仮装をした少年のウィルが小屋に入ると、動物の剥製や蝋人形が展示されていた。インディアン人形の目が動いたので、ウィルは慌てて玩具の拳銃を発砲した。すると人形はウィルに向かって、「キモサベ、馬は連れて来たか」と話し掛けた。「人違いじゃない?」とウィルが言うと、人形は残念そうな表情を浮かべた。
ウィルがマスクを外すと、人形は「外しちゃいけない」と告げた。ウィルにマスクを戻させた人形は、自分とジョン・リードの体験を回想した。ジョンはトントの指示を受け、マスクを装着してローン・レンジャーに変身した。ジョンとトントは馬で町に乗り込み、銀行を襲撃した。ウィルは人形の正体がトントだと察し、「2人は正義の味方だ。銀行強盗なんかしない」と否定した。するとトントは、「良く聞け、キモサベ。善人がそんなマスクをする時代の話だ」と告げた。
1869年、テキサス州コルビーでは大陸横断鉄道の建設作業が進められていた。鉄道王のレイサム・コールは住民たちに対し、無法者のブッチ・キャヴェンディッシュを処刑することを発表した。ブッチを捕まえたテキサス・レンジャーのダン・リードと仲間たちは、汽車で護送されるブッチを駅で待ち受けた。同じ汽車には、ダンの弟である検事のジョン・リードが乗っていた。ブッチはトントと共に、客車とは別の車両に鎖で繋がれていた。
ブッチは見張りの目を盗み、床下に隠しておいた拳銃を取り出した。小便を理由に拘束を外してもらったブッチは、見張りの連中を射殺した。ブッチの手下たちは馬で駆け付け、列車に乗り移った。異変を感じたジョンが後ろの車両に飛び込むと、ブッチがトントに拳銃を向けていた。しかしトントが拳銃を構えたので、ブッチは自分の銃を捨てた。ジョンはトントの銃を奪い取り、「私は検事だ。この男は法の下に裁かれる」と告げてブッチを拘束した。そこへブッチの手下たちが現れ、ジョンを鎖で繋いだ。
ブッチたちは汽車を占拠し、客の金品を奪う。汽車が駅を通過したので、ダンたちは馬で追跡した。トントは拘束を外すが、ジョンと鎖で繋がれていた。線路が途切れているのを見たトントは、飛び降りて脱出しようとする。しかしジョンが「乗客がいる」と鎖を引っ張り、トントの行動を阻止した。2人がブッチの手下たちに見つかって奮闘していると、ダンたちが駆け付けた。ダンは2人と合流し、客車を切り離した。
運良く鎖が切れたのでトントが立ち去ろうとすると、ジョンは「お前を逮捕する」と通告する。彼はダンたちの協力もあり、トントを留置所に入れた。8年ぶりに帰郷したジョンは、ダンの妻であるレベッカと再会した。ジョンは「ブッチを裁判に掛ける」とダンに言い、ブッチ捜索への同行を求めたダンが「ここでは法律は通用しない」と告げると、ジョンは「どこであろうと復讐は許されない」と理想論を語った。ダンはジョンに亡き父のバッジを渡し、テキサス・レンジャーズに任命した。
ブッチ一味の捜索に出発した一行は、崖に立つ白馬を目撃した。ダンはジョンに、コマンチ族が白馬をスピリット・ホースと呼んでいることを教えた。ダンはジョンが都会へ出た後でコマンチ族と親しく接するようになり、彼らに貰った飾りを身に付けていた。テキサス・レンジャーのコリンズが寝返っていたため、一行はブッチ一味に襲われた。テキサス・レンジャーは次々に撃ち殺され、ジョンは馬を撃たれて落下した。助けに戻ったダンは撃たれ、「レベッカはお前を愛してる。後は頼んだぞ」とジョンに告げた。
ジョンは撃たれて意識を失い、ブッチはダンの心臓を抉り取って食らい付いた。ブッチの一味が去った後、崖の上から様子を窺っていたトントがテキサス・レンジャーたちの死体を埋葬する。ジョンが目を覚ましたので、トントは殴り付けて昏倒させた。白馬がジョンに歩み寄ったのを見たトントは、「そいつは違う。ただのバカだ」と告げ。トントは白馬をダンの方へ移動させ、「偉大なる戦士は彼だ。呼び戻してくれ」と言う。しかし白馬がジョンを選んだため、トントは儀式を執り行って彼を蘇らせた。
目を覚ましたジョンは、あの世から戻って来たことをトントから説明される。兄の心臓を抉り出したブッチについて「人間じゃない」とジョンが漏らすと、トントは「砂漠が生み出した悪霊のウェンディゴだ」と言う。悪霊ハンターだと自己紹介した彼は、ジョンに「神のお告げがあった。お前が悪霊狩りを手伝うと」と告げる。ブッチを大地に帰るための道具として、トントは銀の弾丸をジョンに渡した。しかしジョンは弾丸を返却し、「町へ戻って捜索隊を組織する」と告げた。
トントはジョンにコリンズが裏切っていることを教え、「そいつを見つければブッチに辿り着ける」と述べる。彼はダンのベストと黒いアイマスクをジョンに渡し、「奴らはお前が死んだと思っている」と正体を隠して行動するよう促した。ジョンは「捕まえたら法の裁きに掛ける」という条件をトントに承諾させ、彼と手を組むことにした。アイマスクを装着したジョンはトントと共に、白馬で町へ赴いた。2人は情報を得るため、レッド・ハリントンという女が営む売春宿を訪れた。
ジョンがコリンズのことを尋ねると、レッドは「知らない」と言う。ジョンは検事の身分を明かして「この店には多くの違反がある」と告げるが、レッドは用心棒のホーマーに追い出すよう命じた。しかしトントが「ウェンディゴに逃げられる。人肉を食う男のことだ」と話すと、それがブッチだと悟ったレッドは態度を変えた。かつてバレリーナだったレッドはブッチに右脚を食べられ、現在は銃を仕込んだ義足を装着していた。
レッドはコリンズが1週間前にダンと来店したこと、砂漠で見つけた銀の石について言い争っていたことを話した。レッドが石を出すと、トントはジョンに「それに触るな。呪われた石だ」と告げた。ジョンとトントの入店を知った町の男たちが、殺す目的で乗り込んで来た。レッドはジョンたちに、コマンチ族が協定を破って川沿いの住民を襲ったことを教えた。ジョンとトントは店を飛び出し、白馬に乗って町から逃走した。
レベッカは川向こうの丘に現れた男に気付き、息子のダニーを連れて家へ戻った。しばらくすると馬に乗った一団が現れ、レベッカの家を襲撃した。ジョンがトントと共に駆け付けると、使用人の死体が転がっていた。コマンチへの怒りを示すジョンに、トントは「コマンチじゃない。コマンチが獲物を殺すのは生きるためだ」と告げる。屋内に残っていた男を発見すると、それはコマンチに化けたブッチの手下フランクだった。近くに留まっていた彼の仲間2人が駆け付け、家に火を放った。
白馬に救い出されたジョンとトントは、外にいた悪漢2人を退治した。物陰から様子を見ていたフランクは、密かに逃げ出した。コマンチを偽装していた連中がブッチの手下であることは分かったが、レベッカとダニーの行方は判明していない。するとトントは一味の馬を放し、その後を追うことにした。ブッチの元へ戻ったフランクは、仲間が一人のレンジャーに殺されたことを報告した。ブッチは「レンジャーは皆殺しにした」と言うが、フランクは「ダンの亡霊だ」と口にした。
ダンはコリンズに、レベッカとダニーの始末を命じた。コリンズはレベッカたちを連れて仲間の元を離れ、空砲を放って2人を逃がした。その直後、コリンズは何者かに射殺された。砂漠の真ん中で一味の馬が突然死したため、ジョンとトントは立ち往生する。トントは砂に埋もれた線路を発見するが、そこは先住民の土地なので困惑する。一方、レイサムは記者団を集め、コマンチとの協定を無効にして鉄道を3日後に完成させると宣言した。
ジョンとトントはコマンチに捕まって村へ連行され、檻に入れられた。コマンチが白人との戦に備えていることを知ったジョンは、説得して阻止しようと試みる。トントのアイデアでジョンがマスクを装着していると知った酋長のビッグ・ベアは、「トントは仲間じゃない」と告げて昔話を語る。少年時代のトントは砂漠で行き倒れの白人2名を見つけ、村へ連れ帰って介抱した。川で銀を発見した男たちに安物の懐中時計を貰ったトントは、それと引き換えに川の源流へと案内した。銀の鉱脈を発見した男たちは、その場所を隠すためにトントの部族を皆殺しにした。心の壊れてしまったトントは、男たちがウェンディゴに憑依されたのだと思い込むことにした。
ビッグベアはジョンに、「ダンは我々の土地を守ると誓った。しかし騎兵隊は村を襲った。やはりダンも白人だ。嘘をついた」と述べる。ジョンは「兄は殺された。僕を解放してくれたら約束は守る」と訴えるが、ビッグベアは耳を貸さなかった。ジョンとトントは、頭部を出した状態で土に埋められた。コマンチが戦いに向かった後、白馬が駆け付けてジョンとトントを救った。2人はブッチが銀を狙っていると確信し、川の源流へ向かった。
ブッチは大勢の中国人を使い、鉱脈から銀を運び出させていた。1人の中国人が「先住民の霊がいて呪われる」と怖がって鉱山に入ることを拒否すると、ブッチは即座に射殺した。ブッチはフランクに「呪いなんて無いことを証明してやれ」と告げ、鉱山へ入るよう命じた。フランクが中に入ると、待ち受けていたジョンとトントが殴って昏倒させた。フランクが戻らないので、ブッチは手下のレイとスキニーを行かせる。ジョンとトントは、その2人も退治させた。
ジョンたちが台車を外へ押し出すと、ブッチ一味が発砲した。ダイナマイトが中に入っていたため、大爆発が起きた。手下たちは全滅し、ブッチは大怪我を負う。トントはジョンに、ブッチを始末するよう要求した。しかしジョンは拒否し、ブッチを射殺しようとするトントを殴って気絶させた。ジョンはブッチの両手を縛り付け、町へ連れ帰ることにした。一方、レベッカとダニーはレイサムの列車に保護されていた。レイサムや騎兵隊のフラー隊長たちが夕食を取ろうとしていると、ジョンがブッチを連れて現れた。するとレイサムは、レベッカとダニーを閉じ込めてしまった。列車に乗り込んだジョンは、かつてトントの部族を殺したのがレイサムとブッチであること、全ては2人が銀を手に入れるための策略だったことを知った…。

監督はゴア・ヴァービンスキー、原案はテッド・エリオット&テリー・ロッシオ&ジャスティン・ヘイス、脚本はジャスティン・ヘイス&テッド・エリオット&テリー・ロッシオ、製作はジェリー・ブラッカイマー&ゴア・ヴァービンスキー、製作協力はパット・サンダーソン&メリッサ・リード&シャリ・ハンソン&トム・エンゲルマン&モルガン・デ・グロゼイユ、製作総指揮はマイク・ステンソン&チャド・オマン&テッド・エリオット&テリー・ロッシオ&ジョニー・デップ&エリック・エレンボーゲン&エリク・マクラウド、撮影はボジャン・バゼリ、編集はクレイグ・ウッド&ジェームズ・ヘイグッド、美術はジェス・ゴンコール&クラッシュ・マクリーリー、衣装はペニー・ローズ、視覚効果監修はティム・アレクサンダー&ゲイリー・ブロゼニッチ、視覚効果製作はシャリ・ハンソン、音楽はハンス・ジマー。
主演はジョニー・デップ、共演はアーミー・ハマー、トム・ウィルキンソン、ウィリアム・フィクトナー、ヘレナ・ボナム=カーター、バリー・ペッパー、ジェームズ・バッジ・デール、ルース・ウィルソン、レオン・リッピー、スティーヴン・ルート、マット・オリアリー、ジェームズ・フレイン、ホアキン・コシオ、デイモン・ヘリマン、ハリー・トレッダウェイ、ギル・バーミンガム、ロバート・ベイカー、リュー・テンプル、ブライアント・プリンス、メイソン・クック、JD・カラム、サギノー・グラント、W・アール・ブラウン、ティモシー・V・マーフィー、デイモン・カーニー、ケヴィン・ウィギンズ、チャド・ブルメット、ジョニー・バティスタ、ジョセフ・E・フォイ他。


1933年のラジオドラマから始まり、TVドラマやコミックスにもなった人気作品の4度目となる映画化作品。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの3作目までを手掛けたゴア・ヴァービンスキー監督、製作のジェリー・ブラッカイマー、製作総指揮のマイク・ステンソン&チャド・オマン、脚本のテッド・エリオット&テリー・ロッシオ、編集のクレイグ・ウッド、衣装のペニー・ローズ、音楽のハンス・ジマー、主演のジョニー・デップという顔触れが結集している。
トントをジョニー・デップ、ジョンをアーミー・ハマー、レイサムをトム・ウィルキンソン、ブッチをウィリアム・フィクトナー、レッドをヘレナ・ボナム=カーター、フラーをバリー・ペッパー、ダンをジェームズ・バッジ・デール、レベッカをルース・ウィルソンが演じている。

この映画はキャスティングの段階で、既に失敗している。
具体的には、ジョニー・デップをトント役に据えた時点で、既に映画が失敗する可能性が高くなっているってことだ。
ジョニー・デップがトントを演じたがったのも、製作したディズニーが彼をトント役に起用したのも、良く分かる。ジョニー・デップはインディアンの血を引いている人だから、トント役には適任と言ってもいい。
ただし問題は、彼をトント役に据えた場合、トントが主役になってしまうってことだ。

この映画ではトップ・ビリングとしてジョニー・デップの名前があり、その後にアーミー・ハマー以下の面々が表記されるという形になっている。
それは俳優としてジョニー・デップがダントツのトップだから」という意味だけでない。
実際にも、トントが主役のような扱いになっているのだ。
「ローン・レンジャーの相棒がトント」という関係ではなく、「トントの相棒がローン・レンジャー」という形になっているのだ。

もちろん、タイトルが『ローン・レンジャー』なのだから、その関係性は本来であれば大間違いであり、修正されるべきだ。
しかしながら本作品の場合、それは仕方が無いことだと言える。
何しろ、ジョニー・デップとアーミー・ハマーでは格が違い過ぎる。シナリオや演出面でジョンを主役として扱おうとしても、俳優としての存在感が違い過ぎて、どうしてもバランスが悪くなってしまう。
ジョニー・デップをトント役に起用するのなら、ジョン役も彼と見合うような役者を連れて来る必要があったのだ。それが出来ないのであれば、ジョニー・デップにはジョンを演じてもらうべきだったのだ。

キャスティング以外の部分でも、色々と問題は多い。
まず構成に難がある。
この映画は1933年のサンフランシスコから始まり、「かつてローン・レンジャーと一緒に過ごした日々を、トントがウィルに語る」という入れ子構造になっている。
しかし、そういう構造にしている意味が全く無い。むしろ、そんな余計な構造にしたことで、無駄に上映時間が長くなっている。
この映画は149分の上映時間なのだが、どう考えても長すぎるし、そこまでの尺を必要としない内容である。

また、そこから回想劇に入る展開にも、ギクシャクしたところがある。
人形のトントが「マスクを外してはいけない」と言い、ウィルが「どうして?」と尋ねると、馬に乗ったローン・レンジャーとトントが崖から見下ろす過去のシーンに切り替わり、町の銀行を襲撃する様子が描かれる。そして2人がジャンプしたところで「待って」というウィルの声が入り、再び映像が小屋に戻って「2人は正義の味方だ。銀行強盗なんかしない」と彼が言う。
ってことは「回想シーンで描かれたことをトントはウィルに喋っていた」という設定ということになる。
しかし、この映画の見せ方だと、それが分かりにくいのだ。
そもそも、中途半端に回想シーンを挟む必要性さえ感じない。そういう見せ方をしてしまうと、むしろ「ローン・レンジャー登場」の高揚感が相当に減退する。
それよりは、トントが台詞だけで強盗のことを語り、ウィルが否定し、そこから始めて回想劇に入る形にした方が、よっぽどスムーズだ。

「それがローン・レンジャーのキャラクター設定だから」と言われたら、そこは受け入れなきゃいけないのかもしれない。
だけど、やはり「アイマスクを着用したらジョンの正体がバレない」というのは無理がありすぎるでしょ。
顔全体を隠すマスクならともかく、目の部分を隠しているだけなんだぜ。
実際、アイマスクを装着したジョンに詰め寄られたブッチは、たちまち正体に気付いているし。
そうなると、アイマスクの意味が無いぞ。

それはローン・レンジャーのコスチュームだから、アイマスクを装着するなとは言わない。むしろ装着しなきゃ意味が無い。
ただ、そこに「正体を隠すため」という目的を設定しているのは違和感があるので、何か別の理由にするか、もしくは理由なんて特に決めなくてもいいんじゃないかと。
それを考えると、もう「始まった時点で既にローン・レンジャーは誕生している」という形にした方が何かと都合が良かったんじゃないかなあ。
そうすれば、ジョンがローン・レンジャーとしての自覚を持つまでのダラダラして退屈極まりない話も、バッサリとカットできるしね。

どうやら最初からシリーズ化を想定していたようで、今回は「ローン・レンジャー誕生篇」になっている。
最初からシリーズ化を想定するのも、誕生篇として作るのも、それは一向に構わない。しかし、幾ら誕生篇とは言え、あまりにもローン・レンジャーが活躍するまでに時間が掛かり過ぎている。
何しろ、ジョンがローン・レンジャーになるのは、もう映画も終盤に入ってからなのだ。
ってことは当然のことながら、それまではローン・レンジャーの活躍が見られないってことになる。
それはどう考えたって失敗でしょ。
『ローン・レンジャー』というタイトルなのに、ローン・レンジャーが終盤まで活躍しないって、どういうつもりなのかと。

ジョンが復活した段階で、もう映画は50分ほど経過している。
とは言え、そこから「復活したジョンが法律至上主義の原則を捨て去り、ローン・レンジャーとしての意識に目覚めて悪党たちと戦う」という展開に移行すれば、何の問題も無い。
そこまでの時間帯でジョンは全くと言っていいほど活躍していないけど、派手なアクションシーン自体は「列車の攻防」があったし、一方的ではあったけど峡谷での戦闘もあったので、それほど強烈に退屈な印象は受けずに済んでいる。
しかし残念ながら、ジョンが復活してからの展開が、ものすごく退屈でダラダラした内容になってしまうのである。

ローン・レンジャーの格好になった後も、ジョンはヘタレっぷりを露呈するばかりだし、トントも「お前がスピリット・ウォーカーだ。お前がやれ」と告げて、率先して戦おうとはしない。
基本的にトントは、コメディー・リリーフとしての立場を崩そうとしない。
そんなコンビがメインなのに、アクションシーンを多く持ち込んでいるせいで、終盤まで「最も活躍しているのは白馬」という状態が続く。
2人がレッドの店から逃げられたのは白馬のおかげだし、レベッカの家でブッチの手下たちに襲われた時も白馬が助けてくれる。
埋められたジョンとトントがサソリの群れに襲われた時も、やはり白馬が駆け付けて助けてくれる。

普通に考えれば、中盤辺りでジョンに正義のヒーローとしての自覚を持たせて、後半はローン・レンジャーの活躍を大々的に見せるべきだろう。
しかし本食品は、あまりにも前置きが長すぎて、途中で、っていうか相当に早い段階で退屈になってしまう。
ローン・レンジャーのアイマスクを装着した後も、ジョンは勇ましく戦おうとはしない。
相変わらず「法律こそ正義」という考え方を変えないし、ローン・レンジャーとしての自覚も芽生えない。

ジョンが戦いに消極的で、戦士としての自覚もゼロだから、当然のことながらアクション映画としての盛り上がりに欠ける。
しかも、尺が149分もあるもんだから、それだけ退屈な時間も長引いてしまうってことになる。
なかなかローン・レンジャーの活躍が描かれない中で、それに代わるような魅力的な要素、引き付けるドラマがあればともかく、そんなモノは何も無いのだ。
そして、いつまで経っても現実を直視せず理想論ばかり唱えているジョンに、だんだんイライラしてくる。

終盤になってジョンは「ここに正義は無い。レイサムが全てを牛耳っている。あんな男が法の代表なら、無法者の方がいい」と語り、ようやくローン・レンジャーとして戦う自覚に目覚めるのだが、そのきっかけが弱い。
その直前にコマンチの部族が全滅しているが、それをジョンは見ていない。
彼が「法を守るより無法者の方がいい」と言うきっかけになるのは、「レイサムがブッチと組んで悪事を働いていたことを知り、銀の力で騎兵隊まで懐柔するのを目にした」という出来事だ。
ダンが惨殺されてもブッチへの復讐心を抱かなかった奴が無法者になるきっかけとして、それはあまりにも弱すぎわ。

「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズと同様、コミカルとシリアスをミックスさせて演出しているのだが、これも上手く行っていない。
単純な問題として、コミカルに描くにはジョンとトントの抱えている問題が深刻すぎるのだ。
ジョンは兄をブッチに惨殺されているのに、その後もトントとコミカルな掛け合いをやるのは、ちょっと不快感さえ抱いてしまう。
トントの方も、「自分のせいで部族が白人に惨殺され、心が壊れた」という事情が明らかにされると、そのコミカルな振る舞いを素直に笑えなくなってしまう。

明朗快活なテイストにするのはいいとしても、コミカル度数を高く設定しすぎた。
ジョンとトントを喜劇のキャラクターにしたのは、明らかに失敗だ。
どうしても喜劇のノリを強くしたいのなら、誰かコメディー・リリーフでも用意して、そいつに任せるべきだった。
もしくは、トントをコメディー・リリーフとして使うなら、それは有りだけど、その場合は彼の抱えているシリアスすぎる過去の出来事をバッサリと削ぎ落とす必要がある。

クライマックスのアクションシーンは明朗快活なテイストで描かれており、ジョンとトントがコミカルな動きを見せたり、ジョンがレベッカを褒めてキスしたりする。
そして最後まで、ジョンは自らの手で殺しを遂行することが無い。
ブッチもレイサムも「銃殺される」という形ではない。
ブッチは「車両に取り残され、そこに別の車両が激突する」という形だし、レイサムは「車両ごと橋から川に落下する」という形だ。

どうしもてジョンに人殺しをさせたくないのなら、それは別にいいとしよう。
ただし、そこを徹底させたいのなら、そこまでに犠牲者を多く出しているのは失敗だ。
「ダンを惨殺し、他にも大勢の人間を容赦なく殺した相手」に対しても「不殺」を徹底されても、そんな主人公を魅力的だとは思えないのよ。
そこでジョンにブッチやレイサムを銃殺させると、明朗快活な雰囲気と合わなくなるけど、そもそも序盤から雰囲気と話の中身にズレがあるわけだから。
前述したように、ジョン&トントの抱えている事情が深刻すぎるという時点で、「明るく楽しいアクション映画」としての演出には必ず無理が生じるわけだから。

(観賞日:2015年1月18日)


第34回ゴールデン・ラズベリー賞(2013年)

受賞:最低リメイク&盗作&続編賞

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演男優賞[ジョニー・デップ]
ノミネート:最低監督賞[ゴア・ヴァービンスキー]
ノミネート:最低脚本賞

 

*ポンコツ映画愛護協会