『マーシャル博士の恐竜ランド』:2009、アメリカ

新刊の発売を翌日に控えた科学者のリック・マーシャルは『ザ・トゥデイ・ショー』に出演し、オスロの学会で発表した新しい学説について司会者のマット・ラウアーから質問される。リックは5年の歳月と5千万ドル以上の費用を投じてタイム・ワープについて研究を進めており、「異次元には無尽蔵のエネルギーが眠っている」と主張する。ナンセンスだと捉える専門家も多いことを指摘されると、彼は憤慨した。暴れて司会者に掴み掛かろうとしたリックだが、あっさりと取り押さえられた。
3年後、リックはタキオン増幅器を開発すれば過去や未来だけでなく異次元にも移動できると自信を持っていた。しかしリックは学会を追われた身であり、子供たちの科学教室を開くのが精一杯だった。だが、ケンブリッジ大学で学ぶホリーは理論に興味を抱いてリックの元を訪れ、タキオン増幅器を完成させるべきだと訴えた。やる気を失っているリックに、ホリーは砂漠で発見したという化石を見せる。それは2億年以上も前の化石だが、ライターの跡が付いていた。さらに彼女は、タキオンのエネルギーを発する水晶も見つけていた。
自分の持っているライターと化石の跡が合致することを知ったリックは、翌朝にタキオン増幅器を完成させた。実験する勇気が湧かないと漏らすリックに、ホリーは「近場へ実験旅行に出掛けましょう」と持ち掛けた。彼女は化石を発見したデビル谷の洞窟を探検すると告げ、土産物屋を営むウィル・スタントンに案内を頼んだ。ゴムボートで洞窟の水路に入ったリックがタキオンを増幅させると、突如として流れが激しくなった。3人を乗せたゴムボートは、滝壺に飲み込まれた。
リックたちが意識を取り戻すと、そこは広大な砂漠だった。バイキングの船を見たリックは、自身の理論が正しかったのだと確信して興奮する。しかし滝壺に飲まれる直前に増幅器を落としたため、元の世界へ戻ることが出来ない状況に陥っていた。類人猿3名が1人の仲間をナイフで殺そうとする様子を目撃したホリーは、「やめて」と叫んで姿を見せる。ウィルはライターで脅そうとするが、それを落として類人猿に奪われた。
3名が走り去った後、リックたちは怯えている類人猿に歩み寄った。原始的な言葉の知識を持つホリーは彼に語り掛け、チャカという名前を知る。しかしリックが傷を調べようとすると、彼は暴れて逃げ出す。リックたちが追い掛けると、大きな穴が開いて地下に転落した。ホリーはチャカに、リックは偉大な族長で権力者だと説明した。Tレックスに襲われたリックたちは慌てて逃亡し、洞穴に避難した。洞穴に入れない恐竜が諦めて立ち去ると、ホリーは安堵して「彼をグランピーと呼ぼう」と口にした。
洞穴の奥には兵士2名の骸骨があり、チャカは蓄音機でレコードを掛けて踊った。チャカは自分が部族の王子であり、陰謀によって処刑されそうになったのだと説明した。グランピーは洞穴の前に巨大なクルミを置き、遠くからリックを睨み付けた。リックは自分が強く恨まれていると知り、恐怖の一夜を過ごした。翌朝、リックはビデオを回し、「餓死しそうになったらチャカを料理して食べる」と画面に向かって語り掛けた。
洞穴の外で閃光が放たれるのを見たリックは突然の頭痛に見舞われ、「助けて」と呼び掛けるヒューマノイドの映像が脳内に飛び込んだ。リックたちが閃光の発信源へ行くと、謎の遺跡があった。そこへスリースタックと呼ばれる魚人のようなヒューマノイドの群れが出現し、リックたちを包囲した。リックは遺跡の仕掛けに気付き、黒いパイロンを出現させてホリーたちと共に中へ入った。するとリックが脳内の光景で見たスリースタックがいて、「私はエニック。アルトルジアの民だ」と自己紹介した。
エニックは「私は失われた世界の住人だ。邪悪な敵を倒すため、君を呼んだのだ」とリックに言い、「奴は私の世界を征服し、今度は君の世界を狙っている。奴の名はザ・ザーン」と話す。ザ・ザーンは水晶パワーで世界征服を企んでおり、止めなければスリースタック軍を率いて時空間を暴れ回るだろうとエニックは述べた。ザ・ザーンを止めるためにはダキオン増幅器が必要だと彼は言い、全世界を救うようリックに要請した。
リックはウィルが熱気球に乗ってアンテナで増幅器を探し、自分とホリーが付いて行く作戦を立てた。彼はTレックスから逃れるためにハドロサウルスの尿を集めており、それを頭から浴びれば匂いを察知されないとホリーたちに話す。リックは頭から尿を浴びるが、ホリーとウィルは後に続かなかった。そこへチャカが現れて案内役を買って出たので、熱気球の作戦は中止となった。一行が荒野を歩いていると、アイスクリームの移動販売車が出現した。そこへアロサウルスとTレックスが現れ、リックたちを追い掛ける。尿は全く効果が見られず、リックだけが狙われた。冷却剤を見つけたリックは投石機を使ってアロサウルスの口に放り込み、凍らせて爆発させた。
リックたちは増幅器を見つけるが、プテラノドンが奪って飛び去った。すっかり諦めてしまうリックだが、ホリーの「貴方の学説に感動して研究に没頭したら退学処分になった」いう言葉で気持ちを立て直した。翌日、リックたちがプテラノドンの住処へ登ると、大量の卵が孵化する寸前だった。リックは増幅器を奪還するが、次々に卵が孵化して雛鳥が誕生する。「音楽が子守歌なのよ」とホリーに言われたリックか熱唱すると、雛鳥たちは一斉に眠った。
リック、ウィル、チャカは果物を食べ、含まれている麻薬成分で気持ち良くなった。ホリーは増幅器を修理して作動させ、砂漠に出現したパイロンの中へ入った。異次元の密林を歩いているとザ・ザーンのホログラムが出現し、「私の警告に逆らえば滅びる。囚人のエニックが逃亡した。パイロンと水晶を奪い、スリースタック軍を率いて時空間を暴れ回る計画だ」と語った直後に殺される。驚いたホリーはリックたちに知らせようとするが、実は悪党だったエニックに捕まってしまう…。

監督はブラッド・シルバーリング、原案はシド・クロフト&マーティー・クロフト、脚本はクリス・ヘンチー&デニス・マクニコラス、製作はジミー・ミラー&シド・クロフト&マーティー・クロフト、製作総指揮はダニエル・ルピ&ジュリー・ウィクソン・ダーモディー&アダム・マッケイ&ブラッド・シルバーリング&ライアン・カヴァナー、共同製作はジョン・スワロー&ジョシュア・チャーチ、製作協力はウィル・ウェイスキ&ミシェル・パネリ=ヴェネティス&ジェシカ・エルボーム、撮影はディオン・ビーブ、美術はボー・ウェルチ、 編集はピーター・テッシュナー、衣装はマーク・ブリッジス、視覚効果監修はビル・ウェステンホーファー、クリーチャー・デザインはクラッシュ・マクリーリー、音楽はマイケル・ジアッキノ。
出演はウィル・フェレル、ダニー・マクブライド、アンナ・フリエル、ヨーマ・タコンヌ、ジョン・ボーイラン、マット・ラウアー、ボビー・J・トンプソン、シエラ・マコーミック、シャノン・レムケ、スティーヴン・ウォッシュJr.、ブライアン・ハスキー、ケヴィン・ブイトラゴ、ノア・クロフォード、ジョン・ケント・エスリッジ二世、ローガン・マヌス、ベン・ベスト、スコット・ドレル、ショーン・マイケル・ゲス他。
声の出演はレナード・ニモイ、ポール・アデルスタイン、アダム・ベーア、ダーメン・J・クラル。


1974年から1977年に掛けて放送され、1991年から1992年にもリメイク版が放送されたTVドラマ『Land of the Lost』の映画版リメイク。
監督は『シティ・オブ・エンジェル』『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』のブラッド・シルバーリング。
脚本はTVシリーズ『スピン・シティ』『アントラージュ★オレたちのハリウッド』のクリス・ヘンチーと『レディース★マン』のデニス・マクニコラス。
リックをウィル・フェレル、ウィルをダニー・マクブライド、ホリーをアンナ・フリエル、チャカをヨーマ・タコンヌ、エニクをジョン・ボーイランが演じている。ザ・ザーンの声を、レナード・ニモイが担当している。

リメイクと前述したが、その内容はTVシリーズと大幅に異なっている。
TVシリーズのリックはパーク・レンジャーであり、2人の子供と共に不可思議な世界へ迷い込むというファミリー・アドベンチャーだった。しかし映画版のリックは科学者だし、子供もいない。エニックのキャラクターも、大幅に変更されている。
つまりザックリとした設定を拝借しただけで、まるで別物になっているのだ。
そして出来上がったのは、「ウェル・フェレルが自分の色を出しまくった、おバカ満開のヌルい喜劇」である。

この映画が公開された時、アメリカ国内で否定的な評価が多かったのは、「オリジナル版と似ても似つかぬ作品になっている」ということが大きく影響している。
例えば『サザエさん』の実写版映画を作るとして、「独身のサザエさんが下品なことを言いまくるドタバタ喜劇」になっていたら、たぶん嫌がる人が多いでしょ。
その例えは極端かもしれないけど、ともかくリメイク作品を手掛ける時には細心の注意を払う必要があるってことだ。
余程のことが無い限り、愛とリスペクトは必要だわな。

ウィル・フェレルの大ファンからすれば、「これが彼の特徴なんだから、それを否定しちゃったらダメでしょ」ってことになるだろう。
それでも製作サイドがコントロールすれば、ウィル・フェレルの持ち味を抑制することは出来ただろう。だが、それだとウィル・フェレルを起用する意味が無くなってしまう。
っていうかウィル・フェレルを主役に据えた時点で、どういう内容になるかは製作サイドも分かっていたはずだ。
つまり「ウィル・フェレルの主演で『Land of the Lost』の映画版リメイクを作る」という企画の時点で、ちと難しいモノがあったんじゃないかと。

さて、そろそろ内容に触れていこう。
この映画のテイストがどういうモノかは、オープニングのシーンから分かりやすく示されている。
スタジオで質問を受けるリックは、「詳しくは本に」と言って著書をカメラに向け、宣伝を強引に挟む。司会者から学説について疑問を提示されると、唐突にポケットからパイプを取り出す。「喫煙を?」と訊かれた彼は、「風船で動物を作る」と言う。
「ホーキング博士も学説をナンセンスだと否定している」と言われた彼は「その話はしない約束だ」と腹を立てて出て行くが、戻って司会者に掴み掛かろうとする。しかし取り押さえられ、消火器を噴射されて撃退される。
この段階で、「ああ、ウィル・フェレルがふざけまくるユルいコメディーなのね」ってことが、たぶん大半の観客には伝わるはずだ。

タキオン増幅器を完成させたリックは、「実験する勇気が出ない。空腹のせいかと思ってローストビーフサンドを食べたがダメ。フライドチキンでもダメ。健康のためにサブウェイで野菜サンドを食べたら看板に向かって独り言だ」と漏らす。
間違いなく笑いを取りに行っている台詞なのだが、ここで笑える人って、どういうセンスなんだろうか。
もしかすると、アメリカ人なら大笑いできるのか。
だとしたら、笑いに関しては永遠にアメリカ人と分かり合えそうにないわ。

ホリーがタキオン増幅器のスイッチを入れると『コーラスライン』の曲が流れ、リックは「パソコンの残存データだ」と説明する。
ウィルはリックたちに「30ドルでデラックス・ツアーだ。金は建設基金に」と言い、デビル谷のリゾート&カジノ計画を明かす。彼は黄金の豪華ホテルの模型を見せ、「完成したら惚れた女と暮らす。喧嘩したら女を奴隷として監禁する」と話す。
彼が「ツアー」と言っているように、リックたちは洞窟探検にツアーとして行く。
洞窟の入り口は怪物の顔を模した形に作られており、内部にはカラフルな照明器具が設置されている。つまり、完全に観光用として加工されているってことだ。

「探検に行ったら異次元へワープしてしまう」という展開を考えれば、その前に余計なネタで寄り道するのが得策とは思えない。
「突然の異変によって、予期せぬ出来事に巻き込まれる」という仕掛けを妨害するだけだからだ。
そういうトコでユルいネタを色々とやるのは、SFアドベンチャーよりも笑いを優先していることの表れだ。
SFアドベンチャーを描く上でコメディーとしての味付けを施しているのではなく、ユルい喜劇を描く上で『Land of the Lost』の要素を幾つか拝借していると捉えればいいのだろう。

ホリーが「彼は偉大な族長で権力者だ」と説明すると、チャカはリックの足に擦り寄って一生の忠誠を誓う。しかし恐竜に襲われると、あっさりと見捨てて先に逃げ出す。石の橋を渡った彼が待ってくれているのかと思いきや、橋を落として自分だけ助かろうとする。
リックたちが橋を渡ると、Tレックスは諦めて去ろうとする。しかしリックが「脳味噌はクルミの大きさしか無い。世界で奴らほどバカな生き物もいない」と嘲笑っていると、怒って踵を返し、橋を飛び越えて襲い掛かる。
大きなクリスタルのパイロンを遺跡で発見したウィルは両手で触れ、「振動してる」と言う。リックが「触るな」と止めても彼は従わず、歌を歌って声にビブラートを掛ける。
それを見たリックは「バカなことを」と言うが、自分も両手で触れて歌う。

スリースタックに包囲されたホリーが戦闘態勢を取って腕を振り回すと、水晶を見たリックは、そこから放たれる光を像に当てる。すると光が反射し、黒いパイロンが出現する。
そういう仕掛けに、なぜリックが気付いたのかは分からない。パイロンに入るとスリースタックが襲って来ないことに気付いた理由も、これまたサッパリ分からない。
パイロンの中でエニックと話した後、カットが切り替わるとリックたちは森の中にいる。
どうやって包囲していたスリースタックから逃れたのかは、全く分からない。

プテラノドンに増悪器を持ち去られたリックはやる気を失うが、ホリーの言葉で意欲が復活する。洞穴へ戻った彼はバンジョーを演奏し、礼を歌で伝える。ホリーとウィルが「もういいよ」と言っているのに、彼は続きを歌い始める。
気付かない内に虫が首元へ止まり、リックの血を吸う。何も気づいていないリックの顔は真っ白になり、「眠たくなってきた」とアクビをする。
血を吸った虫の腹は、巨大に膨れ上がる。リックはウィルから「ちょっと虫が止まってたんだ」と言われ、「なんだ、そうか」と返して倒れ込む。
翌朝になってリックが起きると背中の左上が赤く腫れ上がっているが、まるで気付かない。

私はオリジナル版のファンでも何でもないので、「それとは全くの別物だから」という理由で査定する気は全く無い。でも独立した1本の映画として捉えても、ちっとも面白くないんだよな、これが。
ここまでの幾つかのネタに触れて来たが、中途半端な状態で放り出したり、繰り返せば笑いが増幅するのに淡白に処理したりしている。
例えば背中が腫れ上がっているシーンは、それを見せるだけで終わりなのよね。そうじゃなくて、あと1つ何か足さないと、ネタとしては消化不良でしょ。
例えば「リックが上着を着ようとするが、何か引っ掛かる様子を見せる」とか、あるいは「大きな腫れに気付いて卒倒する」とか。
ベタでもシュールでも、形はどうでもいいんだけど、とにかく笑いの取り方が徹底されていないなあと。

前半の内に、「ザ・ザーンの野望を阻止して全世界を救う」という目的が提示される。これにより、「異次元を冒険し、様々な生物と遭遇したり様々な体験をしたりする」というパートは、あっけなく終了してしまう。
では「悪党であるザ・ザーンとの対決」という図式を鮮明に描くのかというと、これまたボンヤリしたままで終盤まで辿り着いてしまう。何しろザ・ザーンが終盤まで登場しないんだから、それも当然だ。
そしてザ・ザーンが登場しないだけでなく、「野望の実現に向けた動きが着々と進行している」という描写も無い。リックたちの行動が、ザ・ザーンを止めるために機能しているという印象も受けない。
なので、目的は示されているのに、そこに向けた道筋がフワフワしたまま時間が過ぎて行くという状態になっている。

終盤に入り、「実はエニックこそが世界征服を目論む悪党であり、それをザ・ザーンは警告していた」ということが明らかになる。なので「ザ・ザーンとの対決」という図式が見えなかったのは、当然っちゃあ当然のことだ。
でも、どっちにしろ道筋がフワフワしていることに変わりは無い。
「実はエニックが悪党だった」と明かされても、それによるサプライズの効果よりも、「どうでもいい捻りだわ」という印象の方が圧倒的に強い。
そんな無意味なトコに神経を注ぐ暇があったら、もっと「ワクワクするようなSFアドベンチャー」を描き出すことに集中すればいいのに、と思ってしまうのだ。

(観賞日:2018年4月7日)


第30回ゴールデン・ラズベリー賞(2009年)

受賞:最低リメイク&盗作&続編賞

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演男優賞[ウィル・フェレル]
ノミネート:最低助演男優賞[ヨーマ・タコンヌ(チャカ役)]
ノミネート:最低スクリーン・カップル賞[ウィル・フェレル&共演者orクリーチャーor“Comic Riff”]
ノミネート:最低監督賞[ブラッド・シルバーリング]
ノミネート:最低脚本賞

 

*ポンコツ映画愛護協会