『蝋人形の館』:2005、オーストラリア&アメリカ

カーリー・ジョーンズは大学フットボールの試合を観戦するため、恋人のウェイド、親友のペイジ、ペイジの恋人ブレイク、兄ニック、 ニックの親友ドールトンの6人で2台の車に分乗し、スタジアムへ向かっていた。6人は途中、ダイナーで休息を取った。カーリーは ファッション雑誌の研修生としてニューヨークに行くことになっており、ウェイドにも一緒に来て欲しいと考えている。だが、ウェイドは 故郷を離れることに対し、消極的な態度を取っている。
ウェイドはカーリーの前で、彼女の兄ニックが付いて来たことへの不満を漏らした。カーリーは顔をしかめ、「ブレイクが誘ったのよ」と 弁明する。態度の悪いニックとドールトンに、ウェイドは苛立ちを示した。ニックはカーリーに嫌味っぽい態度を見せた。通行止めで近道 が出来なかったため、一行はキャンプで一泊することにした。ブレイクの先導でキャンプ場へ向かう途中、ウェイドは「トルーディーの “蝋人形の館”」という看板を見て興味を示した。
一行は誰もいない公有地に到着し、そこでテントを張ることにした。カーリーはペイジがブレイクに妊娠したかもしれないことを告白して いないと知り、ちゃんと話すべきだと諭した。ニックはカーリーに、「どうして俺のことをサツにチクッたんだ」と詰め寄った。ニックは 自動車泥棒で逮捕されていた。「兄貴は車を買ったのかと警察に訊かれて、『さあ』って答えただけよ」とカーリーが言うと、ニックは 「妹なら庇えよ」と非難した。
カーリーは「車を盗んで捕まったのは私のせいで、抵抗したのは警官のせいだって言うの。アメフト特待生だったのにチームをクビに なったのはコーチのせいで、勘当されたのは両親のせい?」と、ニックに鋭い口調で告げる。しかしニックはカーリーから仕事に就いても 全く続かないことを指摘されても、「どいつもマヌケなのさ」とせせら笑う。そして彼は、ウェイドのことをバカにした。
キャンプ場に風が吹くと、どこからか強烈な異臭が漂ってきた。しばらくするとトラックが停止し、カーリーたちをヘッドライトで照らす 。ライトを消してくれと頼んでも、応答は無い。ニックが酒瓶を投げて左側のヘッドライトを壊すと、車は走り去った。一行はテントに 入り、眠りに就く。夜中に物音がしたので、カーリーはテントの外に出た。しかし周囲を見回しても、誰もいなかった。
翌日。寝過ごした一行は、慌てて出掛ける準備を始める。するとドルートンのカメラが見当たらず、ウェイドの車のファンベルトは切断 されていた。また異臭がしたので、カーリーは突き止めたくなり、ペイジを誘って林の中を進んだ。足を踏み外して転落すると、たくさん の動物の死骸が捨てられていた。その中には人間の腕もあった。悲鳴を聞き付け、ウェイドたちが駆け付けてカーリーを助けた。
そこへ昨夜のトラックに似た車がやって来るが、ヘッドライトは壊れていない。降りて来た男は、動物の死骸を荷台から投げ捨てた。 カーリーたちは男に、人間の腕があることを教える。すると男は腕を引っ張り出し、「作り物だ。道で拾ったんだ」と笑った。ウェイドが 「ファンベルト」が欲しいんだと言うと、男は「アンブローズの町に、ボーのガソリンスタンドがある。24キロ北だ」と述べた。
男が「乗せていってやろうか」と持ち掛けたので、カーリーとウェイドだけがアンブローズへ向かうことにした。車で進んでいると、道が 流されて途中で途絶えていた。男は「四輪駆動にチェンジしないと先へ進めない」と言う。しかし男の態度が薄気味悪くなったカーリーと ウェイドは、そこで降ろしてもらう。しばらく歩いた2人は、アンブローズの町へ到着した。一方、スタジアムへ向かっていたニックたち は、大渋滞に巻き込まれていた。
カーリーとウェイドがアンブローズに入ると、すっかり静まり返っており、人の姿は見えない。ガソリンスタンドへ行くが、誰もいない。 ペイジからカーリーに電話が入り、「大渋滞だから引き返すわ」と言う。そこでカーリーは、キャンプ所から進んで道が無くなる場所で 合流しようと提案した。カーリーたちが教会に入ると、葬儀が執り行われていた。2人は邪魔だと思い、すぐに外へ出た。すると一人の男 が、教会から出て来た。彼がボーだった。
ウェイドが「ファンベルトを買いたい」と言うと、ボーは「葬儀が終わってからだ。30分後にガソリンスタンドで待っていてくれ」と口に した。ウェイドは、カーリーを眺めるボーの視線に苛立った。カーリーとウェイドは、町にあったトルーディーの蝋人形館へ行ってみる。 すると建物全体が蝋で出来ていた。閉館中の札が掛かっていたが、興味津々のウェイドは勝手に入った。カーリーも後を追う。展示されて いる蝋人形は有名人に似せた物ではなく、誰なのか全く分からなかった。
壁の新聞記事を見たカーリーは、蝋細工師のトルーディーと夫が町の名士だったことを知る。棚にあった蝋細工を裏返すと、そこには 「ヴィンセント」の文字があった。その時、カーリーは仮面の男が窓から覗いているのに気付いた。すぐに男は、姿を消した。ウェイドが 「見て来る」と外に出たので、カーリーは館に残された。怖くなった彼女は外に飛び出し、ウェイドに「もう行こう」と告げる。一方、 キャンプ場に戻ったブレイクは、ニックとドルートンに「今夜はペイジとヤるから、迎えはお前らに頼む」と言う。
カーリーとウェイドは、ボーのガソリンスタンドに赴いた。ボーは来ていなかったが、ウェイドは勝手に中へと入った。15インチのベルト が無かったため、ウェイドは16インチを手に取って立ち去ろうとする。そこへボーが来て、「15インチなら家にある」と言う。カーリーと ウェイドは、彼の家へ向かう。その途中、ウェイドは蝋人形館に入ったことを話した。カーリーがヴィンセントについて尋ねると、ボーは 「トルーディーの息子だ」と告げた。
ボーはカーリーたちに、トルーディー・シンクレアの一家について語る。トルーディーの夫ヴィクターは、ある町で医者をしていたが、 違法な手術で免許を剥奪された。それで妻と一緒にアンブローズへ引っ越してきた。彼は医者として出直すことに決め、トルーディーは 蝋人形製作に打ち込んで館を建てた。やがて夫婦は、2人の息子にも恵まれた。しかしトルーディーは頭に腫瘍が出来て蝋人形を作れなく なった。病状は悪化し、最後はベッドに縛り付けられて死亡した。絶望したヴィクターは自殺し、残された息子たちは里子に出された先で 死んだという。
ボーは家に到着すると、カーリーを自分のトラックで待たせる。ウェイドはトイレを借りるため、家に入った。ボーは2階へ上がった。 ニックとドルートンは、アンブローズへ向かっていた。その道中、ニックはドルートンから「なんで俺の罪を被ったんだ」と問われ、 「お前には前科が無い。俺は前科があるから、1つ増えてもどうってことない」と答えた。カーナビにアンブローズが表示されないので、 2人は怪訝な表情を浮かべた。
ウェイドはトイレを出た後、勝手に部屋を物色する。室内には、幾つものデスマスクが飾られている。なかなかウェイドが出て来ないので 、カーリーは車を降りた。そこで彼女は片方のヘッドライトが壊れているのに気付き、クラクションを鳴らしてウェイドに知らせようと する。その時、部屋の証明が消え、仮面の男がウェイドの背後から現れた。男はハサミでウェイドのアキレス腱を切り、胸を突き刺し、 蹴りを食らわせて失神させた。
カーリーはブレイクに電話を掛けるが、彼はペイジに夢中で出ようとしなかった。ボーが家から出て来たのでカーリーは車をロックして 「キャンプ場に来たでしょ」と言う。するとボーは窓を壊し、カーリーを捕まえようとする。カーリーは車を発進させてボーを振り落とす が、縁石に乗り上げて動かなくなる。刹那、目の前に動物の死骸を運んでいた男が現れた。カーリーは車を捨てて逃走した。
仮面の男ヴィンセントはウェイドを工房に連れ込み、注射を打って胸の傷を縫い合わせる。そして全身に蝋を塗り、生きたまま蝋人形に 仕立て上げる。カーリーが走っていると、急に町中の照明が点灯する。彼女は教会に飛び込み、助けを求める。だが、座っていたのは全て 蝋人形だった。葬儀の時、教会にいた人間はボーだけだったのだ。そして棺に安置されていたのは、蝋人形にされたトルーディーだった。 ボーが来たので、カーリーは慌てて隠れた。するとボーは棺に近付き、「ごめんよ、ママ」と口にした。
カーリーはボーに捕まり、ガソリンスタンドの地下室に連れ込まれた。ボーはカーリーを椅子に拘束し、瞬間接着剤で口を塞いだ。ニック がガソリンスタンドに現れたので、ボーは外に出て応対した。カーリーは換気口から左手の人差し指を出し、ニックに気付いてもらおうと する。しかしニックは気付かず、ボーはペンチで彼女の指を切断した。ボーはニックの隙を見て、彼を殺そうとする。カーリーが接着剤を 剥がして叫び、ニックは襲ってきたボーを殴り倒した。
ニックがガソリンスタンドに入って締め出すと、ボーはどこかへ走り去った。その間にニックはカーリーを助け出す。一方、蝋人形館に 入ったドルートンは、ウェイドが生きたまま蝋人形にされているのを発見した。ドルートンは蝋を剥がそうとするが、皮膚まで剥がれて しまう。そこへヴィンセントが現れ、ドルートンに襲い掛かる。彼はハサミでドルートンの首を切断し、体を引きずって運ぶ。
ニックは警察を呼ぼうとするが、固定電話は通じない。カーリーの携帯電話はトラックに置いたままだ。カーリーは、ボーに襲われた時に カーテンを開けた女性がいたことを思い出す。彼女は助けを求めに行くが、それは生きたまま蝋人形にされた婦人だった。一方、ペイジと ブレイクは、キャンプ場で夜を迎えていた。そこにヴィンセントが現れ、まずブレイク、そして逃げるペイジを次々に惨殺した…。

監督はジャウマ・コレット=セラ、原作はチャールズ・ベルデン、脚本はチャド・ヘイズ&ケイリー・W・ヘイズ、製作は ジョエル・シルヴァー&ロバート・ゼメキス&スーザン・レヴィン、共同製作はリチャード・ミリッシュ、製作協力はエリック・オルセン、 製作総指揮はハーバート・W・ ゲインズ&スティーヴ・リチャーズ&ブルース・バーマン、撮影はスティーヴン・F・ウィンドン、編集はジョエル・ネグロン、美術は グレアム・“グレース”・ウォーカー、衣装はアレックス・アルヴァレス&グレアム・パーセル、視覚効果監修はジョン・ブレスリン、 音楽はジョン・オットマン。
出演はエリシャ・カスバート、チャド・マイケル・マーレイ、ブライアン・ヴァン・ホルト、パリス・ヒルトン、ジャレッド・パダレッキ 、ジョン・エイブラハムズ、ロバート・リチャード、 ドラギスタ・デバート、トーマス・アダムソン、マーレイ・スミス、サム・ハーケス、デイモン・ハーリマン、アンディー・アンダーソン 他。


チャールズ・ベルデンの舞台劇を基にした1933年の映画『肉の蝋人形』のリメイク。
ジョエル・シルヴァーとロバート・ゼメキスが設立したホラー専門の映画制作会社ダーク・キャッスル・エンタテインメントの制作した 映画では、初めてR-15指定を受けた作品。
カーリーをエリシャ・カスバート、ニックをチャド・マイケル・マーレイ、ボー&ヴィンセントをブライアン・ヴァン・ホルト、ペイジを ヒルトン姉妹のパリス・ヒルトン、ウェイドをジャレッド・パダレッキ、ドールトンをジョン・エイブラハムズ、ブレイクをロバート・ リチャードが演じている。
ミュージック・フィルムやコマーシャルのディレクターとして活動していたジャウマ・コレット=セラが、映画初監督を務めている。

『肉の蝋人形』のリメイクは、これが2度目だ。
1度目のリメイクは1953年で、その時にはヴィンセント・プライスが主演し、立体映画として作られている。1996年にも『肉の蝋人形』と いう邦題の映画があるが、それはガストン・ルルーの原作を基にした別物だ。
『肉の蝋人形』のリメイクではあるが、「火傷で醜怪な容貌になった男が、人間を蝋人形にして陳列する」という部分を拝借しているだけ であり、登場人物や内容は1933年とも1953年とも全く違っている。
ただし、その一方で、『悪魔のいけにえ』や『デビルズ・ゾーン』、『13日の金曜日』、『悪魔のシスター』、『悪魔のいけにえ』と いった既存のホラー映画から様々な要素を拝借し、それを組み合わせて物語を構築しているようだ。

まず上映時間が112分ってのは、どう考えても長すぎる。
スラッシャー映画なんだし、この内容なら、せめて100分以内に収めようよ。
キャンプ場のシーンとか要らないから、さっさとアンブローズに移動しようよ。そこまでの時間帯でキャラ描写をしようという意識が あったのかもしれないけど、そんなに意味が無いし。
前半でニックを「嫌味が多くて不愉快な不良」としてアピールしておき、後半に入って「妹を助ける良き兄貴」へとイメチェンさせている けど、そういう一捻りも、別に要らないなあ。
最初から「頼りになる良き兄貴」という印象であっても、作品評価でそんなに大きな差が出るとも思えない。

キャンプ地での異臭とか、不気味なトラックとか、誰かがテントを覗いている様子とか、あるいはSEなんかも使って、キャンプ場で複数 の恐怖描写を用意しているけど、そこには違和感を覚えるなあ。
恐怖はアンブローズに限定すべきでしょ。アンブローズに到着するまでは、恐怖は要らないのよ。キャンプ場は恐怖の舞台じゃないん だからさ。
もうタイトルでネタバレしているんだし、さっさと町へ行こうよ。
「一行の誰かが殺されて蝋人形にされる」という展開は、完全に分かり切っているんだし。

動物の死骸を運んでいた男が不気味な態度だったり、カーリーが着替える時や車に乗った時に体をじろじろと舐め回すように見つめたり、 商売道具のナイフを手に取ったりというのも、焦点がボヤけちゃってるなあ。
そいつが恐怖の大元になるのなら、分からないではないよ。だけど、そうじゃないんだからさ。動物の死骸や作り物の腕も含めて、それは 蝋人形の館にリンクしている要素じゃないのよ。
そりゃあ、そうでもしないと観客を怖がらせる要素が無いまま30分ぐらい経過しちゃうけど、そもそも「なかなかアンフローズに到着 しない」という構成に問題があるわけで。そっちを手直しせずに、本筋とは別の恐怖を用意して観客の御機嫌を窺おうというのが間違い でしょ。
最初の犠牲者が出るのが始まって50分ぐらいで、蝋人形にされるのが55分ぐらいってのは遅すぎるでしょうに。
それなりに雰囲気で怖がらせるトコロは幾つかあったけど、前述したように、蝋人形の館からは外れたポイントでの演出だからね。

最初の犠牲者はヒロインの恋人だけど、それは特に意外性を感じない展開だ。
だって、ウェイドって勝手に色んな場所を物色していて、とてもじゃないが好感の持てる男ではなかった。そして、うかつな行動が 多かった。
そういう奴は、殺されると相場が決まっているのよ。
他にも、ペイジにしろドルートンにしろブレイクにしろ、明らかにアーパーだったり不用意な行動を取ったりで、スラッシャー映画に おいて殺されるために登場するキャラの典型的なパターンを踏襲している。

ヒロインが口を接着剤で塞がれたり、指をペンチで切断されたりと、後に残るような傷を負わされるのは意外だった。 だけど、その意外性は、まるでプラス評価に繋がらない。
その手の悪趣味な演出は、個人的な趣味・嗜好は大いに関係するだろうけど、ワシは嫌いだね。すげえ不愉快だった。
この手のスラッシャー映画って、ある種の安心感が欲しいのよね。
それは「ヒロインはどれだけ甚振られても、どれだけ辛い目に遭っても、絶対に回復可能な傷しか付けられない」というものだ。

そりゃあ、今の医療技術なら、瞬間接着剤を強引に剥がした唇も、切断された指も、ひょっとすると元通りに回復させることは可能なの かもしれない。
だけど医術の素人からすると、元通りにするのは難しいように思える。
やっぱり、そこは暗黙のルールとして守ってほしいと思うのよ。
そこをやらないのは、私としては「新鮮味」「意外性」という部分でのプラス評価に繋がるものではなく、ただの「やってはいけない ルール違反」にしか思えない。

キャンプ場にいるペイジとブレイクが襲われるのも、広義ではルール違反に感じられる。
やはり舞台はアンブローズに限定すべきだよ。
そこだけを特殊な異空間としてアピールすべきであって、町の外にまで惨劇を持ち込むべきではない。
だから、そもそもボーがキャンプ場まで来ているという設定の時点で間違いだ。
彼らは町から外に出るべきではない。「アンブローズにいる殺人鬼」であるべきだ。

この映画がラジー賞に好かれたのは、たぶん「パリス・ヒルトンが主要キャストとして出演しているから」ってのが大きいんじゃないかと いう気がする。
だけど、そのパリス・ヒルトン、スラッシャー映画における殺され役としては、そう悪くないんじゃないか。
殺人鬼に惨殺される若い女のキャラって、あんな感じでもいいと思うぞ。
あと、終盤にボーがヴィンセントに「ママの夢がもうすぐ叶うぞ。あと2体だ。頑張って作ろうぜ」と言っているが、あと2体で何が完成 するのか全く分からないぞ。
あのセリフ、どういう意味だったんだろうか。

(観賞日:2012年4月21日)


第26回ゴールデン・ラズベリー賞

受賞:最低助演女優賞[パリス・ヒルトン]

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低リメイク・続編賞


第28回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪のリメイク】部門
ノミネート:【ちっとも怖くないホラー映画】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会