『プリンス アンダー・ザ・チェリー・ムーン』:1986、アメリカ
アメリカ出身のクリストファー・トレイシーは、フランスのバーでピアノを弾いている。だが、彼の本職はジゴロだ。親友のトリッキーとコンビを組み、女を物色する。クリストファーは、狙った女は必ず落とす男だ。今回も、ウェリントン夫人から金を巻き上げた。
クリストファーとトリッキーは、大船主アイザック・シャロンの娘マリーが、5000万ドルの財産を21歳の誕生日に相続するという新聞記事を目にした。早速、2人はマリーの誕生日パーティーの会場に出向いた。マリーを落として金を巻き上げようと考えたのだ。
クリストファーはマリーに近付くが、言い争いになった末に会場から追い出されてしまった。だが、最初は反抗的な態度を取っていたマリーも、やがてクリストファーに対する気持ちを素直に表現するようになった。ところが、マリーに横恋慕したトリッキーが、クリストファーが金目当てで近付いたことを彼女に明かしてしまう…。監督はプリンス、脚本はベッキー・ジョンストン、製作はロバート・カヴァロ&スティーヴン・ファーグノリ&ジョセフ・ラファロ、撮影はミヒャエル・バルハウス、編集はエヴァ・ガードス&レベッカ・ロス、美術はリチャード・シルバート、衣装はマリー・フランス、音楽はプリンス&ザ・レボリューション。
主演はプリンス、共演はジェローム・ベントン、クリスティン・スコット=トーマス、スティーヴン・バーコフ、エマニュエル・サレ、アレクサンドラ・スチュワート、フランチェスカ・アニス、パメラ・ルドウィグ、バーバラ・ストール、カレン・ジーアリングス、ヴィクター・スピネッティー、ミリアム・タデッシー、モーネ・デ・ヴィヴィエ、アモーリー・デスジャーディンス他。
初主演映画『パープル・レイン』が何の間違いかヒットを記録してしまい、たぶん気を良くしたであろうプリンスが初監督を務めた作品。
クリストファーをプリンス、トリッキーをジェローム・ベントン、マリーをクリスティン・スコット=トーマス、アイザックをスティーヴン・バーコフが演じている。
クリスティン・スコット=トーマスは、これが映画デヴュー。プリンス様の信者にとっては、この映画は大きな試練になるだろう。
信者なのだから、避けることをせず、絶対に見るべきだ。
しかし、信者だから酷評するわけにはいかない。
必死に誉める所を探さねばならない。
それは、大変な作業になるだろう。
そしてプリンス信者以外の人々は、寒さか眠気のいずれか、あるいは両方に耐えることを強いられることになるだろう。『パープル・レイン』のヒットによって、プリンスは「きっと自分の魅力が大勢の人々を虜にしたのだ。そこを全面に押し出せばいいのだ」と勘違いしてしまったのだろう。
だからなのか、この映画では、『パープル・レイン』以上に、彼のナルシスティックなオーラに満ち溢れている。プリンス様は、独り善がりな物語の中で、これでもかと言わんばかりに独り善がりな存在感を発揮する。プリンスは、演じるキャラクターからして、狙った女を必ず落とすジゴロ役である。
鏡に向かって「この世で最もセクシーなのは誰だ」と尋ねるような男である。
歯の浮くようなセリフを並べ立て、「俺様って、どこから見ても、何をやってもカッコイイだろ」と言わんばかりに、全身でアピールしながら演技を続けるのだ。色男じゃないのに色男として振る舞うという設定で、笑いを取りに行っているわけではない。プリンスが演じているのは、マジもマジ、大マジに色男の役だ。
よほどのナルシストでもなければ、自分が監督を務める作品で、そんな役などは恥ずかしくて演じられないだろう。しかし、プリンスは大マジなのだ。『パープル・レイン』にも増して、登場人物が何を考えているのか、どうしてそういう行動を取るのかを理解することが困難になっている。例えばクリストファーとマリーは、いつから本気で惹かれ合うようになったのか、そういうことも分からない。
クリストファーなどは、いきなりアイザックに電話を掛けて「お前の奥さんは俺の女だ。お前の娘にはキスをしてやった」などと言ったりするのだから、何がしたいんだかサッパリ分からない。単なるクレイジー・ガイだ。
しかし、プリンスは、「俺様の言いたいことなんて、わざわざ説明しなくても分かるはずだ」と思ったのだろう、たぶん。この作品、一応はコメディー・タッチで作られている。
しかし、いきなりドラキュラの真似をする場面とか、足を滑らせて転びそうになる場面とか、そういうコミカルを狙った場面では全く笑えない。
一方で、マジメにやっている部分が笑いを誘う。
ただし、失笑だが。
第7回ゴールデン・ラズベリー賞
受賞:最低作品賞
受賞:最低監督賞[プリンス]
受賞:最低脚本賞
受賞:最低主演男優賞[プリンス]
受賞:最低助演男優賞[ジェローム・ベントン]
受賞:最低オリジナル歌曲賞「Love Or Money」ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最低助演女優賞[クリスティン・スコット・トーマス]
ノミネート:最低新人賞[クリスティン・スコット・トーマス]
第9回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:最悪作品賞