『T-フォース べトコン地下要塞制圧部隊』:2008、カナダ&ドイツ

1968年、ベトナムのクチ地方。米軍はベトコンが掘ったトンネルの存在苦しめられていた。そんな中、ホロウボーン隊長やグレイブリッジ 2等兵、小隊のやギャラティー2等兵たちの小隊へ、新しくジョンソン2等兵やハリス2等兵、ミラー2等兵たちが配属されて来る。明日 からはトンネル攻略が行われることになる。ホロウボーンはヘーニー軍曹とグリーン伍長に、部下5名を殺したベトコンの捕虜を絞首刑に しろと命じた。仲間の処刑を木陰から見ていたベトコン兵は、静かに去った。
ハリス2等兵から「あれは犯罪です」と批判されたホロウボーンは、「いい度胸だ」と睨む。ヘーニーは処刑の後、その場で泣き出した。 ジョンソンはポーターソン2等兵から「トンネルのことは聞いてるか?入ったことは?」と問われ、「何回か」と答える。ポーターソン は「そりゃ凄いな」と感心した。ミラーは昼食の不味さに辟易した後、2人に母親の食事の美味しさを自慢する。家に帰りたくなった彼が 別のテーブルに移ると、ポーターソンはジョンソンに「戦争には不向きな奴だ」と言う。「そうだな、戦死するタイプだ」とジョンソンも 同意した。
ハリスはボクシングでホロウボーンと戦うが、一方的に叩きのめされる。ヴェラーノ2等兵は食事に食べ飽きたことを愚痴り、声を掛けて 来たヘーニーに「怖いと思ったことは?」と尋ねる。するとヘーニーは「余計なことは考えるな。ここでは生き残った者が勝つ。何が 正しいかなんて関係ない」と穏やかに語った。聖書を読み、「神を信じている」と語るハリスに、グレイブリッジ「それで神が救って くれるのか。奴らは首を刈って耳で首飾りを作ってるが、お前は神に救われるんだな。信じるだけで救われるなんて、聖書は凄いな」と 嫌味っぽく告げる。
グレイブリッジは風呂場でジョンソンと話し、帰国してからファストフード店をフランチャイズ展開する夢を語る。ジョンソンは微笑を 浮かべ、「俺だって妄想はする。でも現実は、こんな場所にいるわけだ」と述べた。ヴェラーノは、煙草を教えてくれたリドフォードに 家族の思い出話をして「家に帰れるなら何でもする」と漏らす。「家に帰れないと辛くない?」と彼が言うと、リドフォードは苛立って 「寝床に帰れ」と告げた。
翌朝、小隊はジャングルを進み、前日に発見したトンネルの入り口へ向かう。ホロウボーンは罠を警戒しながら、トンネルの板戸を開けた 。ギャラティーが中に入るが、闇の中のベトコン兵に腹を撃たれた。ジョンソンが助けて地上に連れ帰るが、ギャラティーは死亡する。 ジョンソンは手榴弾を投げ込み、ベトコンは2人だとホロウボーンに報告した。ホロウボーンはCSガスを使うよう命じ、ギャラティーの 遺体を兵舎まで運ぶことにした。
ホロウボーンはヘーニーに内部の状況確認を指示し、グレイブリッジとミラーにギャラティーを運ばせる。残った隊員たちは、トンネル内 で死亡したベトコン2名の死体を引っ張り上げる。ジョンソンとポーターソンはガスマスクを装着し、さらに奥へ潜ることにした。土に 埋めてあった手榴弾の罠を解除し、しばらく進むと行き止まりになった。同じ頃、トンネルの下層に設置されたベトコンの基地では、隊長 のトランが次の地点を攻略する作戦を部下たちに説明していた。
ジョンソンはトンネルの出口から顔を出すが、待ち受けていた女ベトコンのマイに竹槍で首を突き刺されて死亡した。マイは手榴弾を投げ 込み、トンネルの出口を塞いだ。ジョンソンたちの無線が途絶えたため、ヘーニーはハリスとリドフォードを入り口に残し、グリーンと ヴェラーノを引き連れて状況確認へ向かった。ジョンソンの無残な死体を発見した彼らは、ひとまずトンネルの入口まで戻った。
ジョンソンはホロウボーンへの無線連絡をハリスに指示し、リドフォードに彼を護衛させる。彼はヴェラーノを伴い、トンネルに入った。 待機するよう命じられたグリーンは「格好の標的になる」と不満を吐露し、勝手にトンネルへ潜った。無線が通じないため、リドフォード は苛立った。トンネルは二手に分岐していたが、ジョンソンは左を選んだ。ベトコン兵のニューエンはトランに、「3人の米兵に女が強姦 されたが、俺は救えなかった。奴らを殺したい」と告げた。
ヘーニーはベトコンの仕掛けた落とし穴に落下し、全身を串刺しにされて死亡した。トンネルの向こうにベトコン兵が現れ、ヴェラーノに 銃弾を浴びせて殺害した。ハリスとリドフォードはベトコンの発砲を浴びて反撃し、トンネルに避難した。ベトコン兵2名は警戒しながら トンネルに歩み寄り、足を踏み入れた。米軍の駐屯地もベトコン部隊の急襲を受け、兵士たちは次々に命を落とす。グリーンはハリスと 遭遇し、攻撃を受けてリドフォードが重傷を負ったことを知らされた。
グリーンたちはトンネルを進むが、最後尾のリドフォードは密かに追って来たマイの不意打ちを受け、腹を刺されて死亡した。グリーンは ヤケになり、煙草を吸い始めて「俺は一歩も動かないぞ」と怒鳴った。ハリスは彼を残し、トンネルを進むことにした。一方、駐屯地では ホロウボーンが無線で本部に連絡を入れ、空爆を求めた。ミラーとグレイブリッジは2名のベトコン兵に追われ、川を走って逃亡した。 グレイブリッジは撃たれて死亡し、ミラーは反撃して1人を撃ち殺す。飛び掛かって来たもう1名と揉み合いになった彼は、川に沈めて 殺害した。グリーンは前後から迫って来たベトコン兵2名を殺害するが、死体に行く手を遮られる…。

脚本&製作&監督はウーヴェ・ボル、原案はダニエル・クラーク、製作はクリス・ローランド&ダニエル・クラーク、製作協力は ジョナサン・ショア&フレデリック・ドゥメイ、製作総指揮はショーン・ウィリアムソン&マティアス・トリーブル&ホルスト・ ヘルマン、撮影はマティアス・ニューマン、編集はカレン・ポーター、美術はシルヴァン・ジングラ、衣装はディハンタス・ エンゲルブレヒト、音楽はジェシカ・デ・ローイ。
出演はウィルソン・ベセル、ミッチ・イーキンス、マイケル・パレ、エリック・アイデム、ブランドン・フォッブス、ジェーン・リー、 スコット・リイ、ロッキー・マークエット、ギャリカイ・ムタンバーワ、ネイト・パーカー、ブラッド・シュミット、ジェフリー・ クリストファー・トッド、ジョン・ウィン、 エイドリアン・コリンズ、スコット・クーパー、トゥーフィーク・アドニス、シー・ジョー=アン、デヴァン・“ヤンキー”・リャン他。


『ブラッドレイン』『アローン・イン・ザ・ダーク』のウーヴェ・“マスター・オブ・エラー”・ボル先生が監督&脚本&製作を務めた 作品。
『ハウス・オブ・ザ・デッド』以降は『アローン・イン・ザ・ダーク』『ブラッドレイン』『デス・リベンジ』『POSTAL』とゲーム を基にした映画ばかりを手掛けていたボル先生だが、これは『SHOCKER ショッカー』に続いてオリジナル脚本の作品だ。
原案のダニエル・クラークは主にプロダクション・マネージャーや映画プロデューサーとして活動している人で(この作品の製作にも 携わっている)、映画のシナリオに関わるのは本作品が初めて。

グリーンをウィルソン・ベセル、ハリスをミッチ・イーキンス、ホロウボーンをマイケル・パレ、ジョンソンをエリック・アイデム、 グレイブリッジをブランドン・フォッブス、マイをジェーン・リー、トランをスコット・リイ、ヴェラーノをロッキー・マークエット、 ポーターソンをギャリカイ・ムタンバーワ、リドフォードをネイト・パーカー、ヒーニーをブラッド・シュミット、ミラーをジェフリー・ クリストファー・トッド、ニューエンをジョン・ウィンが演じている。
ちなみに『アローン・イン・ザ・ダーク』にはクリスチャン・スレイター、タラ・リード、スティーヴン・ドーフ、『ブラッドレイン』 にはクリスタナ・ローケン、ミシェル・ロドリゲス、ベン・キングズレー、マイケル・マドセン、ビリー・ゼイン、ウド・キア、マイケル ・パレ、ジェラルディン・チャップリン、『デス・リベンジ』にはジェイソン・ステイサム、リーリー・ソビエスキー、レイ・リオッタ、 ロン・パールマン、ジョン・リス=デイヴィス、マシュー・リラード、バート・レイノルズ、クレア・フォーラニと、知名度のある役者が 何人も出演していた。
しかし本作品はボル組のマイケル・パレが出ているぐらいで、後は無名役者ばかりだ。

ウーヴェ・ボルがラジー賞にノミネートされたのは、現時点では本作品が最後。
そして、たぶん今後もラジー賞にノミネートされることは無いだろう。
それは彼が優れた作品を撮るようになった、ということではない。もう映画を作らなくなったわけでもない。その後も毎年、 ボル先生はコンスタントに映画を撮り続けている。
ようするに、「もはやラジー賞からも相手にされなくなった」ということだ。

そもそも本作品だって、出演者の顔触れや、800万ドルという製作費からして、明らかに低予算のC級映画なので、本来ならラジー賞に ノミネートされるような映画ではない。
これが仮にシドニー・J・フューリーやアイザック・フロレンティーンの撮った映画だったら、絶対にノミネートされていない。
ってことは、いかにウーヴェ・ボルがポンコツ映画界でビッグ・ネームだったかということだ。

いつものように序盤からボル節が炸裂しており、無駄が多くてテンポが悪く、ものすごくダラダラしている。
ただ、今回は意外なことに、それが思ったほどのストレスにならない。
というのも、この映画では明日をも知れぬ任務に就いている兵士たちの姿が描かれており、そのヌルいテンポは、彼らが抱いている絶望感 や疲労感、閉塞感といったモノと何となくマッチしているのだ。
悲哀を帯びた重厚な戦争映画としては、意外に悪くないムードに繋がっているのだ。

ボル先生がそういうことを意図してダラダラした進行にしているとは思わないが、結果オーライとなっている。
なので、「ひょっとして、これはボル先生に舞い降りた奇跡なのかも」と思っていたのだが、そんな淡い期待は序盤だけで打ち砕かれた。
やはりボル先生はボル先生なので、偶然に起きた奇跡など軽く打ち壊してしまう圧倒的な「駄作力」を発揮してくれる。
でも、それはそれで「さすがはボル先生」と嬉しくなってしまう自分がいたりする。
むしろ、何かの間違いで傑作なんて作ってしまったら、ボル先生らしくないもんな。

前述したように、序盤の雰囲気はそんなに悪くない。ただ、あくまでも「雰囲気は」という限定だ。
しかも、序盤が過ぎても、その後もずっとダラダラしているし、チェンジ・オブ・ペースが無い。
ダラダラした雰囲気は、最初は上手くマッチしていたが、同じ調子が続くと次第にダレてくる。
やっぱりボル先生は、絶望感や疲労感を表現するために、わざとタルいテンポにしていたわけではなかったのだ。

小隊がトンネルに入るまでの時間帯はキャラクター紹介のためのモノではあるんだが、無名キャストばかりを使っていることもあり、 そして同じコスチュームなので、誰が誰なのか見分けるのは、それほど容易な作業ではない。
正直なところ、上述した粗筋の中の人物表記が正しいかどうか、自信は無い。30分ほどの時間をキャラクター紹介に費やしているのだが、 かなり人数が多いってのが厳しい。
前述のように、無名キャストばかりなので見分けるのが大変であり、そっちに意識を向けるだけで精一杯になってしまい、それぞれの キャラ設定がちゃんとした形で頭に入って来ない。
しかも、そこまで苦労して各キャラを見分けても、その後のストーリー展開にはほとんど影響を及ぼさないのだ。

例えば、ジョンソンは女ベトコンに竹槍で首を突き刺されて死亡するが、そのシーンにおいて、トンネルに入るまでに描写された彼の キャラ設定が効果を発揮することは無い。
あえて挙げるなら、ミラーを「あいつは戦死するタイプだ」と言っていたジョンソンが戦死する、というところに関係性を見出すことは 出来る。ただ、そのセリフが無かったとしても、それほど大差があるとは思えない。
どうせ誰かが死んでも、そこでドラマが盛り上がるわけでもないし、こっちの感情も動かない。
「1人が死んだな」と思うだけだ。

誰か1人を主人公にするのではなく、小隊の面々にまんべんなく触れている。
群像劇として構築しようという意識だったのかもしれないが、かなり散漫になっているという印象しか受けない。
誰か1人を「語り手」や「観客の目線」にして、そいつの目から見た小隊、という描き方をした方が良かったんじゃないか。
あと、まんべんなく触れているけど、何となく表面を触っているだけで全員が薄っぺらいので、誰一人として感情移入したくなったり共感 を誘ったりする奴はいない。

いざトンネルに入ると、中が真っ暗なので、何がどうなっているのか、ほとんど分からない。
手榴弾を投げ込んだジョンソンが「ベトコンが2人いた」とホロウボーンに報告しても、「2人もいたのかよ」と言いたくなる。ジョン ソンがトンネルに入ったシーンでは、敵兵の存在なんて全く見えなかったぞ。
そもそも、なぜリスクを冒してトンネルへ潜らなきゃいけないのか、それも良く分からんし。
入り口を見つけたら、爆破して封鎖すれば済むことなんじゃないかと思ってしまうんだよな。
当時の戦況や、わざわざ中に潜って調査する必要性についての説明が何も無いのよね。

そもそも、主な舞台となる場所の設定からして間違ってるんだよな。
封鎖された環境における閉塞感が緊迫感に繋がりやすいからってことはあるけど、幾らなんでもトンネルが狭すぎる。
這った状態で1人ずつしか入れないんだぜ。立った状態で進むことも出来ないのだ。
そうなると、カメラが写し出す視界も当然のことながら狭くなるし、キャラクターの移動制限も厳しくなる。激しく動かすことが出来ない し、例えば走って逃げるなんてことも無理だ。
アクションシーンとしての派手な展開が、不可能な環境なのだ。

じゃあアクションの面白さは諦めてサスペンス方面に特化して演出したらどうなのかっていうと、前述のように真っ暗なので何が何やら 良く分からないのだ。
また、トンネルの全体図や経路もサッパリ分からない。
登場人物の現在地がどこなのか、敵や仲間との距離や位置関係はどうなっているのか、それは全く分からないのだ。
あまりにも情報量が少なすぎることで、「閉鎖された環境」が醸し出すべき緊迫感ってのも、逆に薄れてしまう。

じゃあ地上戦はどうかというと、米兵とベトコン兵の描き分けがボンヤリしているし、カメラワークも上手くないので、混乱していること だけは分かるが、ミリタリー・アクションの迫力は伝わらない。
そもそもボル先生って、アクション演出は下手だからね。「じゃあ何が得意なのか」と問われたら、返答に困ってしまうけど。
あと、地上戦って、「トンネルを舞台にした話にしたけど、それだけじゃ絵変わりが無いし、話も膨らまないから、地上戦も描こう」と いう雑な感じで挿入している印象なのよね。
それに、大半は「良く知らない誰かと良く知らない誰かが戦って、良く知らない誰かが死ぬ」という図式でしかないから、ボンヤリした シーンになっちゃうし。

(観賞日:2014年1月24日)


第29回ゴールデン・ラズベリー賞(2008年)

受賞:最低監督賞[ウーヴェ・ボル]
<*『T-フォース べトコン地下要塞制圧部隊』『Postal』『デス・リベンジ』の3作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会