『ピノッキオ』:2002、イタリア&フランス&ドイツ

夜明け前のフィレンツェの街に、200匹のネズミに引かれた馬車がやって来た。乗っているのは青い髪の妖精、御者は執事のメドーロだ。馬車が走り抜ける時、妖精は手に止まった青い蝶を放す。蝶は一本の丸太に止まり、朝が訪れる。丸太は生き物のように街を跳ね回り、憲兵らに追い掛けられる。さらに跳ね回った丸太は、ジェペットじいさんの家に辿り着いて静かになった。
丸太を見つけたジェペットは、それを使って世界一の操り人形を作ろうと考えた。ジェペットがノミを入れて手や口を彫ると、丸太はうるさく喋り出した。人形を完成させたジェペットは、松の木の「ピノ」から取ってピノッキオと名付けた。ピノッキオはわめきながら部屋中を跳ね回り、そして外へと飛び出していく。ワインを台無しにしたピノッキオは憲兵に捕まるが、隙を見て逃げ出した。ジェペットは憲兵から、ワインを弁償しなければ牢獄送りにすると告げられる。
さんざん走り回ったピノッキオが帰宅すると、物を言うコオロギが現われた。コオロギは「親の言い付けに背く子は大変な目に遭う」と忠告するが、ピノッキオは「僕は家を出て行くから平気だ。学校へ行って大嫌いな勉強なんてしない」と言い返す。「学校へ行かないなら、せめて働け」とコオロギが言うと、ピノッキオは「食べて、飲んで、寝て、愉快に暮らす」と返す。「ロクな子にならない」とコオロギが言うと、ピノッキオは追い回して叩き潰した。
腹を空かせたピノッキオは、そのまま椅子に座って眠り込んだ。夜遅くにジェペットが帰宅すると、ピノッキオの足が燃えていたため、慌てて消化してやった。ピノッキオは新しい服を買ってもらうために、「おとなしくするし、学校にも行く」と約束する。ジェペットは自分の上着を売り払って金を工面し、ピノッキオのために本を買い与えた。
ピノッキオは本を持って学校へ向かうが、その途中で操り人形劇団の公演会場を見つけた。ピノッキオは本を売って入場料を作り、劇団の公演を見る。操り人形のプルチネッラやアルレッキーノ達に歓迎されたピノッキオは、舞台に上がった。そこへ人形使いの火喰い親方が現われ、怒りを露にする。火喰い親方は、昼食としてピノッキオを食べようとした。しかしピノッキオが「パパは貧しく、弟が病死しても満足に葬儀も出来なかった」などとと嘘を並べ立てると、親方は同情して金貨5枚を与えた。
火喰い親方に解放されたピノッキオは、キツネとネコに出会い、金貨5枚を手に入れたことを喋る。キツネとネコから「金貨を増やしたくないか」と言われたピノッキオは、2人に付いて行く。キツネとネコは食堂でたらふく食べた後、カシの木の下へ行くようピノッキオに告げた。コオロギが現われて「行くな」と警告するが、ピノッキオは言うことを聞かない。
ピノッキオがカシの木の下へ行くと、フードを被った追いはぎ2人組が現われた。それはキツネとネコだが、ピノッキオは気付いていない。逃げ出したピノッキオは、森の中で妖精の家を発見して助けを求める。しかし妖精は「誰もいない」と言って扉を閉めた。追いはぎ2人はピノッキオを捕まえるが金貨を見つけられず、木に吊るして立ち去った。
翌朝、妖精は動かなくなったピノッキオを木から下ろして家に連れ帰った。そこにコオロギが現われ、「ピノッキオは自分の父が死んでも平気なゴロツキだ」と妖精に告げる。ベッドから起き上がったピノッキオは、「パパが心配だ」と泣く芝居をする。「薬を飲まないと死ぬ」と妖精が告げると、ピノッキオは「苦いのはイヤだから死んだ方がマシだ」と言い返す。
ウサギが棺を担いで現われると、ピノッキオはようやく薬を飲んだ。ピノッキオは金貨をどうしたのかと妖精に問われ、森で無くしたと答えた。すると、ピノッキオの鼻がニョキッと伸びた。ピノッキオが嘘を重ねると、さらに鼻が長くなった。「本当はここにある」とピノッキオが言って金貨を見せると、鼻は元に戻った。
妖精の家を後にしたピノッキオは、キツネとネコに再会する。ピノッキオは金貨を増やすため、キツネとネコに言われるまま、畑に埋めた。街に行ったピノッキオが畑に戻ると、コオロギが現われて「キツネとネコが金貨を盗んで逃げた」と告げる。ピノッキオはアホだましの街の裁判長に訴えるが、逆に5年の懲役刑で牢獄に入れられてしまった。
牢屋に入ったピノッキオは、ちょうど出所するルシーニョロと出会った。ルシーニョロは学校に行く時に家出して、駄菓子屋でキャンデーを盗んだことを話した。そしてルシーニョロは、隠し持っていたオレンジ味のキャンデーをピノッキオに舐めさせた。「いい子になる」と口にしたピノッキオに、ルシーニョロは「俺は絶対に改心しない」と告げて牢屋から出て行った。
4ヵ月後、王様に男児が誕生し、ピノッキオは恩赦で釈放となった。急いで森へ向かったピノッキオは、妖精の墓を発見する。そこには、「ピノッキオの行いを嘆いて」という言葉が刻まれていた。そこに鳩が飛んで来て、ジェペットの元へ案内するという。ピノッキオが鳩に付いて行くと、砂浜に辿り着いた。そこにいた人々は、ジェペットが息子を探して小舟で海に出たことをピノッキオに説明した。
ピノッキオの目の前で、ジェペットは小舟ごと波に飲まれて姿を消した。街に出たピノッキオは通り掛かりの女性に声を掛け、「荷物を運ぶから食べ物をちょうだい」と持ち掛けた。「もう人形はイヤだ。人間の子供になりたい」と言うピノッキオに、その女性は「人の言うことを聞けばなれる」と告げた。その女性は、妖精だった。彼女は生きていたのだ。ピノッキオは泣いて喜び、「きっと改心する。学校にも行く」と約束した。
ピノッキオは学校へ行こうとするが、その途中で帽子を奪い返そうとしてエウジェーニオや仲間達と揉み合いになる。その内の1人がピノッキオの教科書を投げ付け、頭に命中したエウジェーニオは卒倒する。そこに憲兵が現われ、ピノッキオに手錠を掛けた。隙を見て逃亡したピノッキオだが、畑でイタチの罠に足を挟まれる。
畑の農夫に捕まったピノッキオは、番犬代わりに犬小屋に繋がれる。そこへニワトリを盗もうとしたルシーニョロが現われ、ピノッキオは鎖を外してもらった。妖精の家に戻ったピノッキオは、「学校で色々なことを教わった」と嘘をつく。しかし鼻が伸びたため、すぐに本当のことを打ち明けた。妖精は、「改心したから人間の子供にしてあげる」と告げる。
ところがピノッキオは、ルシーニョロから「遊んで暮らせるオモチャの国へ行こう」と誘われ、付いて行ってしまう。オモチャの国で楽しく遊んだピノッキオだが、ルシーニョロと共にロバに変身してしまう。サーカスに売られたピノッキオは、妖精達が観客席に座る会場で芸を要求される。しかし怪我を負ったため、ピノッキオは海に沈められる。
鮫に飲み込まれたピノッキオは、その腹の中で生きていたジェペットと再会する。2人は何とか鮫の腹から脱出し、ジェペットの知り合いの農夫ジョンジョの家に辿り着く。ピノッキオは弱っているジェペットをベッドで休ませ、農作業に精を出す。ピノッキオはロバの姿のまま衰弱しているルシーニョロを見つけるが、彼はそのまま息を引き取った…。

監督はロベルト・ベニーニ、原作はカルロ・コロディー、脚本はヴィンセンツォ・セラミ&ロベルト・ベニーニ、製作はエルダ・フェッリ&ジャンルイジ・ブラスキ&ニコレッタ・ブラスキ、製作総指揮はマリオ・コトネ、撮影はダンテ・スピノッティー、編集はシモーナ・パッジ、美術&衣装はダニーロ・ドナーティー、視覚効果監修はロブ・ホッグソン、音楽はニコラ・ピオヴァーニ。
出演はロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ、ミーノ・ベレイ、カルロ・ジュフレ、ペッペ・バーラ、フランコ・イァヴァローネ、マックス・カヴァラリ、ブルーノ・アレーナ、コーラッド・パニ、キム・ロッシ・スチュアート、ルイス・モルテーニ、アレッサンドロ・ベルゴンゾーニ、ヴィンセンツォ・セラミ、ジョルジオ・アライアニ、トマッソ・ビアンコ、フランコ・ジャヴァローネ、ジョルジオ・ノエ、リカルド・ビザーリ他。


カルロ・コロディーの童話『ピノッキオの冒険』を基にした作品。
元々、フェデリコ・フェリーニが遺作『ボイス・オブ・ムーン』に出演したロベルト・ベニーニを「ピノッキオ」と呼び、彼を主演にしたピノッキオの映画を構想していたという経緯があるらしい。フェリーニが亡くなり、ベニーニは自ら主演だけでなく脚本と監督も兼ねて映画化したというわけだ。

この映画を見るに当たって、観客はロベルト・ベニーニに関わる2つの違和感を乗り越えなければいけない。
1つは、ロベルト・ベニーニが操り人形に見えないということだ。
ジェペットによって作られたピノッキオが初めて画面に登場した段階で、既に操り人形ではない。人形らしいカクカクした動きを見せるわけでもないし、操るための糸さえ付いていない。
ピノッキオは途中で「人形ではなく人間の子供になりたい」と言うが、その時点で人間にしか見えていない。肌の質感を木彫り人形っぽいメイクにしてあるわけでもないし、どこからどう見ても、人間以外の何者でもない。
ところが、外に出たピノッキオを捕まえた憲兵は、「とんだ人形だ」と口にしている。
つまり、この映画においては、「ピノッキオは誰が見ても人形だ」という設定になっているのだ。これを観客は受け入れなければいけないわけで、かなり大変な作業だ。

もう1つの違和感は、ロベルト・ベニーニが子供に見えないということだ。
キャーギャーと騒がしく喋り、落ち着くことなく跳ね回るが、それは「イタズラ好きの子供」ではなく、「不自然に子供じみたフリをするオッサン」か、「キチガイのオッサン」のいずれかにしか見えない。
何しろ1952年生まれで50歳なのだから、そう見えないのも当然だ。ある意味、グロテスクである。
ロベルト・ベニーニは本作品の観客に対して「スクリーンに登場して10秒後には、きっと私のことを“ピノッキオ”だと感じていただけるでしょう」というメッセージを発信しているが、感じていただけない。

しかし年齢的な無理など、ロベルト・ベニーニには柴田恭兵ばりに「関係ないね」ということだったんだろう。何しろ、自分の奥さんであるニコレッタ・ブラスキに妖精を演じさせるぐらい、ふてぶてしいのだから(彼女は1960年生まれだから42歳)。
イタリアでは興行記録を塗り替えるほどの大ヒットを記録したらしいから、たぶんイタリア人には「ロベルト・ベニーニはピノッキオだ」と10秒後には感じられたんだろう。
もしくは、イタリア人にとってのベニーニが、日本人における片岡千恵蔵や市川右太衛門のような存在だということなんだろう(つまり年齢を越えた役柄を演じても許されるという存在という意味)。

ベニーニは、「これはファンタジーです」というメッセージも発信している。しかし同時に、「これは心の問題です」とも言っている。心の問題なので、ファンタジーを成立させるために、映画としての仕掛けよりも観客に委ねる部分が大きくしてあるのだろう。
だから、物を言うコオロギも、キツネもネコも、普通のオッサンだ。コオロギのCGに喋らせているわけでもなければ、俳優にコオロギっぽいメイクをさせているわけでもないし、着ぐるみを着用させているわけでもない。ただ縮小化しただけのオッサンだ。
ルシーニョロはどう見ても成人男性だが、「学校へ行く途中で家出してキャンデーを盗んだ」などという設定からすると、ピノッキオと同じく小学生程度の子供という設定なのだろう。それもまた、観客はファンタジーとして受け入れる必要がある。
鳩の動きは「こっちは操り人形という設定なのか」と思うほどカクカクしているが、これもファンタジーとして受け入れよう。

前述したようにピノッキオはどう見ても人間でありながら、「操り人形である」という設定になっている。一方で、そんなピノッキオが観劇する劇団の人形は、手に操るための糸が付いており、人形らしいカクカクした動きを見せる。ただし、サイズは人間と一緒だ。
だが、火喰い親方が登場すると、劇団の人形だけでなくピノッキオまでサイズが小さくなる(というより親方が巨大なのか)。この唐突なサイズの変化も、「心の問題」として、ファンタジーとして受け入れることを観客は要求される。

キャラクターだけでなく、物語においても、受け入れなければいけないことは少なくない。ピノッキオが妖精と再会するまでに、彼が嘘をついて鼻が伸びるのは一度だけ。そこまでに映画開始から1時間ほど経過しているわけで、いかに無駄な寄り道をしているかということだ。
しかし「なるべく原作に忠実に」というベニーニの意思を尊重するためには、それも仕方が無いのだろう。
それに、「エウジェーニオは病気になった」と憲兵に嘘をつくシーンではピノッキオの鼻が伸びないので、どうやら妖精の前でしか鼻は伸びない設定のようだ。そうなると、妖精と離れて行動している時間が続くのだから、どうせ嘘をついても意味は無いってことになる。
つまり、「嘘をつくて鼻が伸びる」という設定は、物語においてそれほど重要視されていないということだ

では代わりに何を重要視しているのかというと、「自分でピノッキオを演じたい」というベニーニの願望、それに尽きる。
とにかくベニーニがピノッキオを演じられればそれで満足なので、ぶっちゃけ、好き放題に暴れることが出来れば、物語なんてどうでも良かったのだろう。
ようやく心底から改心してサメの腹から脱出したら、後はエピローグだけでいいのに「農場で働いてルシーニョロの最後を看取って」とダラダラと続くが、そんなことは柴田恭兵ばりに「関係ないね」ということなんだろう。

この映画、アメリカでも上映された。吹き替えのキャストは、ピノッキオがブレッキン・メイヤー、妖精がグレン・クローズ、メドーロがエリック・アイドル、コオロギがジョン・クリーズ、他にもジェームズ・ベルーシやクイーン・ラティファなど豪華な面々を揃えた。その結果、「非英語圏の映画では初となるラジー賞作品賞ノミネート」という栄誉を勝ち取った。


第23回ゴールデン・ラズベリー賞

受賞:最低主演男優賞[ロベルト・ベニーニ(ブレッキン・メイヤーが『ゴジラ』方式で吹き替えしている)]

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低リメイク・続編賞
ノミネート:最低監督賞[ロベルト・ベニーニ]
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最低スクリーンカップル賞[ロベルト・ベニーニ&ニコレッタ・ブラスキ]


第25回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪のグループ】部門[映画史上で最もミスキャストな声優陣]

ノミネート:【最悪の作品】部門
ノミネート:【最悪の演出センス】部門[ロベルト・ベニーニ]
ノミネート:【最悪の主演男優】部門[ロベルト・ベニーニ&マーティン・ショートがチャネリングした英語吹き替えのブレッキン・メイヤー]

ノミネート:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門
ノミネート:【最も痛々しくて笑えないコメディー】部門
ノミネート:【最悪のリメイク】部門
ノミネート:【最悪のカップル】部門[ロベルト・ベニーニ&英語吹き替えの声]
ノミネート:【最もでしゃばりな音楽】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会