『ペイチェック 消された記憶』:2003、アメリカ

マイケル・ジェニングスは、フリーのコンピューター・エンジニアとして働いている。彼は1つの会社から仕事を依頼されると、ライバル会社のテクノロジーを盗み、それを流用して新しい技術を開発する。ネキシム社から依頼を受けたマイケルは、アーク社が発表した立体映像の技術を盗み、2ヶ月のプロジェクトで新たな製品を開発した。マイケルは高額の報酬を受け取る変わりに、機密漏洩を防ぐために開発期間の記憶を抹消される。そんなことを、ずっとマイケルは続けてきた。
マイケルはオールコム社の社長である友人ジェームズ・レスリックから、パーティーに招かれた。親友ショーティーと共に会場を訪れたマイケルは、生物学博士レイチェルに目を奪われて声を掛けた。マイケルはレスリックから別室に呼ばれ、100億円の価値が見込めるストック・オプションの報酬で仕事をやらないかと持ち掛けられた。ただし報酬が高額な代わりに、プロジェクトの期間は3年間と長い。今まで最長の仕事でも2ヶ月だったマイケルだが、その依頼を引き受けることにした。
マイケルがオールコム社のラボへ赴くと、レスリックの部下ウルフが出迎えた。マイケルはレスリックから、記憶マーカーの薬物を注射された。今回は記憶消去の方法として、それを使用するのだという。ラボに入ったマイケルは、レイチェルと再会した。奥の特別室に案内されると、そこにはウィリアム・デッカーという男が待っていた。その男とチームを組むのだという。
やがて3年の歳月が過ぎ、マイケルはプロジェクト期間の記憶を失って意識を取り戻した。レスリックからプロジェクトの成功を告げられ、マイケルはラボを後にした。マイケルはオールコム社からの報酬を受け取るため、レディー・グランド法律事務所を訪れた。そこで彼は、20の物品が入っているという封筒を受け取った。中身はガラクタのように見えるものばかりだった。彼は、自分が1ヶ月前に「株を放棄し、代わりにその封筒を受け取る」と記された書類にサインしたと知らされた。
困惑したまま帰宅したマイケルは、潜入していたFBI捜査官に拘束された。捜査本部へ連行されたマイケルは、ドッジ捜査官やクレイン捜査官から「政府の機密テクノロジーを盗んだ」と指摘される。そしてデッカーが政府の兵器開発者だったこと、失踪してオールコム社に入ったが最近になって事故死したこと、デッカーの技術を使った特許申請の書類に全てマイケルのサインがあることを聞かされた。レスリックが全ての罪をマイケルに被せる気なのだと、ドッジ達は説明した。
協力するよう要求されたマイケルだが、記憶を抹消されているため何も分からない。そこでドッジ達は記憶復元装置を使用するが、何も引き出すことは出来なかった。ドッジは休憩するため、マイケルの封筒に入っていたタバコに火を付けた。すると煙が一気に立ち込め、煙幕のような状態になる。マイケルが封筒に入っていたサングラスを掛けると、煙の中でも周囲がハッキリと見渡せた。マイケルは部屋から脱出し、外へ出た。封筒にあった一日乗車券を使い、マイケルはバスで逃亡した。
再び法律事務所を訪れたマイケルは、封筒の送り主が自分だと知った。改めて彼は、封筒の中のアイテムを確認した。入っていたのはサングラス、タバコ1ケース、バスの乗車券、ダイヤの指輪、ペーパークリップ、フォーチュン・クッキーの中身の紙、管理人の鍵、ライター、ヘアスプレー、紙マッチ、オールコム社のカードキー、BMWのキー、レンズ、スタンプ、ボールベアリング、レンチ、50セント硬貨、クロスワードパズル、弾丸、そして腕時計だ。
マイケルはショーティーと連絡を取り、彼と会って事情を説明した。話している途中、ロトくじ抽選結果のテレビ中継を見たマイケルは、それがフォーチュン・クッキーの紙の裏に書かれた数字と一致していると気付いた。マイケルは、報酬を放棄したのは封筒の中身に注意を向けさせるためであり、自分が未来を知る装置を開発したのだと確信した。マイケルは覚えていなかったが、その装置に彼はウイルスを仕掛けてラボを去っていた。レスリックはエンジニアのスティーヴンスに、ウイルスの除去を命じた。
マイケルは張り込んでいたレスリックの手下達に命を狙われ、慌てて逃げ出した。ウルフに追い詰められたマイケルだが、封筒のアイテムを利用して逃亡した。マイケルは自分がカフェに予約を入れていると知り、レイチェルと会うつもりなのだと気付いた。一方、レイチェルはレスリックから、マイゲルが仕事を終えて記憶を抹消したと聞かされてショックを受けた。
レスリックはレイチェルの部屋を盗撮しており、彼女の様子を監視した。洗面室で鏡を使ったレイチェルの表情が嬉しそうに変化するのを、彼は見逃さなかった。レイチェルがラボに出勤した後、レスリックはウルフ達に部屋を調べさせた。鏡を調べると、湯気でマイケルの記したメッセージが浮かび上がった。マイケルがレイチェルをカフェに呼び出したと知ったレスリックは、それを利用してカードキーを奪おうと企んだ。彼はレイチェルに似せた女性を用意し、カフェに送り込んだ。
マイケルは偽者のレイチェルに声を掛けられるが、記憶が抹消されているために気付かない。偽者レイチェルはレスリックの指示を受け、半ば強引にカードキーを奪う。去り際にキスをされたマイケルは、別人だと気付いた。マイケルは「自分の好きな野球チームは?」と質問された偽者は、誤魔化して去ろうとする。そこへ本物のレイチェルが現れ、偽者を殴り倒した。
レイチェルはマイケルに、「ボストン・レッドソックス」と正解を告げた。レスリックの手下に襲撃されたマイケルは、レイチェルを連れて逃亡する。BMWのバイクを見つけ出し、2人は悪党一味とFBIの追跡を逃れた。マイケルは、封筒のアイテムが19しか無いことが気になった。切手を調べると、そこにマイクロフィルムが隠されていることが判明した。
顕微鏡でマイクロフィルムを見ると、そこには未来の新聞記事が映し出されていた。記事には、オールコム社が未来を予知する機械を発明したことが記されていた。そして未来予知で戦争勃発が分かったため、それを回避するために戦争を仕掛けるという出来事が発生することも記されていた。最後の1枚は、核によって滅ぼされた都市の写真だった。
自分が危険な装置を作り出してしまったと知ったマイケルは、それを破壊しようと決意した。マイケルは同行を申し出たレイチェルと共に、オールコム社に潜入した。一方、レスリックはスティーヴンスがウイルス除去に手こずっているため、苛立っていた。マイケルの侵入を知ったレスリックは、彼にウイルスを除去させてから始末しようと考えた…。

監督はジョン・ウー、原作はフィリップ・K・ディック、脚本はディーン・ジョーガリス、製作はジョン・ デイヴィス&マイケル・ハケット&ジョン・ウー&テレンス・チャン、共同製作はキャロライン・マコーレー&アーサー・アンダーソン、 製作総指揮はストラットン・レオポルド&デヴィッド・ソロモン、撮影はジェフリー・L・キンボール、編集はケヴィン・スティット& クリストファー・ルース、美術はウィリアム・サンデル、衣装はエリカ・エデル・フィリップス、 視覚効果監修はグレゴリー・L・マクマリー、音楽はジョン・パウエル。
出演はベン・アフレック、アーロン・エッカート、ユマ・サーマン、ポール・ジアマッティー、コルム・フィオール、ジョー・モートン、 マイケル・C・ホール、ピーター・フリードマン、キャスリン・モリス、イワナ・ミルセヴィッチ、クリストファー・ケネディー、フ ルヴィオ・チェチェーレ、ジョン・カッシーニ、カラム・キース・レニー、ミシェル・ハリソン、クローデット・ミンク、ライアン ・ズウィック、ディージェイ・ジャクソン、セルジュ・ホード、カルヴィン・フィンレーソン、ケンドール・クロス他。


フィリップ・K・ディックの短編小説『ペイチェック』を基にした作品。
マイケルをベン・アフレック、レスリックをアーロン・エッカート、レイチェルをユマ・サーマン、ショーティーをポール・ジアマッティー、ウルフをコルム・フィオール、ドッジをジョー・モートン、クレインをマイケル・C・ホール、ブラウンをピーター・フリードマンが演じている。

ハリウッド映画界に侵されて、ジョン・ウーはすっかりダメな人になってしまったようだ。
というか、この人は、もう才能が枯渇しちゃったのかもしれない。
この映画の演出なんて、無理矢理にでも鳩を飛ばしたり、弾丸が飛ぶスローモーション映像を入れたり、拳銃を2人が突き付け合ったりという得意のシーンがあったりするのだが、ほとんどセルフ・パロディーにしか見えない。

マイケルはレスリックから仕事を依頼された時、不安を抱いたような態度を見せる。しかし何のためらいも無く、すぐに仕事を引き受ける。
そこに引っ掛かりを覚える。
なぜ不安を覚えたはずの仕事を、すんなりと受けたのか。
面白そうな仕事だということで、意欲を持ったわけではない(その時点で仕事の詳細な内容は分かっていない)。金儲け第一主義にも見えないし、何か多額の金が早急に必要な理由があるわけでもない。
マイケルをリスクの大きい仕事に向かわせるための動機が、何も見当たらない。

レスリックは記憶マーカーという薬物注射を使うのだが、なぜ今回に限って、記憶抹消にそのような方法を選んだのかが良く分からない。
ネキシム社の時には、何かしらの機械による記憶抹消という方法を取っていた。たぶん、それまでも機械による記憶抹消をやっていたものと推測される。
記憶マーカーを使用することによるメリットも特に見当たらないし、それを選んだ理由は何なのかと。

アイテムの使い方には、かなり無理を感じる。
それは「マイケルが装置で未来を目撃し、危機を回避するために事前に用意していた」ということなんだが、例えばドッジが封筒のたばこを吸うのは、偶然に過ぎない。そこで彼が自分のタバコを吸っていたら、煙幕は発生しなかった。
また、その時にマイケルはサングラスを掛けるが、そのような行動を取った理由は何なのか。記憶が無いのだから、煙が発生した時にサングラスを使うべきだということも、何かのメッセージで伝わるようにしておかねばならないはず。

レスリックはマイケルがFBIから逃げ出したのを知り、殺害を手下に命じる。
だったら、もう最初から殺しておけばいいでしょ。どうせデッカーも事故死に見せ掛けて殺しているんだから、同じようにやればいい。
「記憶を消して解放→FBIが逮捕→逃げたので殺害指令」という手間を掛ける意味が分からん。FBIに捕まった時点で計画が露呈する危険性はあったんだから、マイケルの記憶を抹消するとかしないとかいう以前に、始末すべきでしょ。

っていうかさ、レスリックは装置のウイルスを除去できたわけでもないのに、マイケル抹殺指令を出していいのかと。
仮に首尾良く殺害できたとして、その後でスティーヴンスが「やはりウイルス除去が出来なかった」となったら、どうするつもりだったのかと。
そんでスティーヴンスが除去に手こずったので「だったらマイケルに侵入させてウイルスを除去させよう」と考えているが、侵入したマイケルがウイルスを除去せずに装置を破壊したらどうするつもりだったのかと。

でもマイケルもレスリックに負けず劣らずの阿呆なので、ラボに潜入すると「破壊する前に未来を見てみるか」と言い出す。
いやいや、未来予知装置が世界を滅ぼす危険なものだと分かったから破壊に来たのに、なんでテメエだけ軽いノリで未来を見ようとしてんだよ。そういう行動に出る説得力ゼロだぞ。
それを何とか受け入れるにしても、ウイルスで汚染されていると分かった時点で、そのまま破壊すべきだろうに。なんで、わざわざウイルスを除去してまで未来を見ようとするかね。
っていうか「危険だから」ということで自分がウイルスを仕込んだのに、なんで除去の方法をメモに残したんだよ。

FBIから逃亡した段階で、「なぜマイケルは自分にガラクタだらけの封筒を送ったのか」「この3年間に何があったのか」「彼は何のプロジェクトに携わっていたのか」という疑問が生じ、彼の記憶を巡るサスペンスへ移行するものと思われた。
ところが、それに対する意識は淡白なものだ。
そんなことは適当に流して、アクションに気持ちが思い切り傾いている。
ちなみにマイケルは、「エンジニアなのに、なぜ俺は格闘の技術にも優れているんだろう」という疑問は抱かない。

ようするにジョン・ウーは、SFサスペンスをやる気が全く無いのだ。
『北北西に進路を取れ』を意識した作りにしても、サスペンスとして演出していないんだから、意味が無い。
そもそもジョン・ウーに演出をオファーするのであれば、そこのトコロを理解して、脚本は原作を大幅に改訂してアクション重視にしなきゃダメなんだよな。
どうせジョン・ウーは、アクションにしか力を入れないんだから(もしくはサスペンスをやっているつもりで、それがヘタなだけなのかもしれんけど)。

マイケルのアイテムの使い方は、「未来を見ているので、それを使えば危機が回避できると分かっている」というものではなく、「危機に陥った際に、たまたま手持ちのアイテムを使って回避を試みる」というものだ。
何しろアイテムの使い方までは分からないのだから、「どんな時に、どのアイテムを、どのように使用するのか」は、その場で本人が考えているのだ。

それを見ている限り、必要不可欠であるカードキーやマイクロフィルム等を除くと、「仮に他のアイテムであったとしても、それなりに危機を回避できたのではないか」と思える。
例えばFBIから逃走する際に、例えばウルフの追跡を逃れる際に、「絶対にそのアイテムでなければダメなのか」というと、そうではない。
だったら最初から封筒のアイテムは前述の必要不可欠な品目に限定し、「ピンチの時は周囲にある物品を利用して回避する」という冒険野郎マクガイバーにしちゃえばいいんじゃないのかと思ってしまう。


第24回ゴールデン・ラズベリー賞

受賞:最低主演男優賞[ベン・アフレック]
<*『デアデビル』『ジーリ』『ペイチェック 消された記憶』の3作での受賞>


第26回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪の主演男優】部門[ベン・アフレック]
<*『デアデビル』『ジーリ』『ペイチェック 消された記憶』の3作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会