『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』:1986、アメリカ

宇宙には、アヒルが地球における人間と同様に生活する惑星が存在している。27歳のハワードは、音楽の道を諦めてコピーライターになったばかりだ。ある日、帰宅してエッチ雑誌を見ていた彼は、急に発生した強力な渦に吸い寄せられた。抵抗することも出来ず、彼は惑星から放り出された。ハワードが到着した先は、地球のアメリカ合衆国クリーヴランドだった。
訳が分からないまま、ハワードは不良グループに襲われてゴミ箱に身を隠した。そこへ、ロック・バンド“チェリー・ボム”のヴォーカルを務めるビヴァリーが通り掛かるが、彼女はチンピラ2人組に襲われた。ハワードはゴミ箱から飛び出し、得意のカンフーでやっつけた。喋るアヒルに驚くビヴァリーだが、雨の中で佇む姿を不憫に思い、自分の部屋に招いた。
ハワードの説明を聞き、ビヴァリーは事情を把握した。ビヴァリーは彼を元の惑星に戻すため、博物館の清掃人をしている友人フィルに協力を求めた。だが、彼はハワードを使って名声と金を得ることしか考えなかった。ビヴァリーは謝るが、ヘソを曲げたハワードは「同情は要らない。一人で解決する」と彼女の親切を拒絶した。しかし結局、彼女の元に戻るしかなかった。ハワードはチェリー・ボムから搾取している悪徳マネージャーのジンジャーを叩きのめし、契約を打ち切らせた。
ビヴァリーとハワードの元に、フィルが友人カーターと彼が師事するジェニングス博士を連れてやって来た。ジェニングスは、自分達の行った実験でレーザーが制御不能となり、その影響でハワードが地球に吸い寄せられたことを説明した。「逆の作業をすれば帰郷できる」とハワードに言われ、ジェニングスは実行する。だが、再びレーザーが制御不能となり、研究所で爆発事故が発生した。
現場にやって来たウェルカー刑事は、難癖を付けてハワードを逮捕した。ビヴァリーの協力で手錠を外したハワードは、ジェニングスと合流して研究所から逃亡した。だが、今回の失敗により、宇宙に幽閉されていた暗黒騎士団の1人が地球に吸い寄せられてしまった。彼はジェニングスの体を乗っ取り、レーザー装置を使って仲間を地球に呼び寄せようと企んだ。ジェニングスはビヴァリーを拉致し、パワーを得るため原子力発電所を襲撃した。ハワードはフィルと合流し、ビヴァリーの救出に向かう…。

監督はウィラード・ハイク、原案はスティーヴ・ガーバー、脚本はウィラード・ハイク&グロリア・カッツ、製作はグロリア・カッツ、共同製作はロバート・レイサム・ブラウン、製作協力はイアン・ブライス、製作総指揮はジョージ・ルーカス、撮影はリチャード・H・クライン、編集はマイケル・チャンドラー&シドニー・ウォリンスキー、美術はピーター・ジェイミソン、衣装はジョー・トンプキンズ、音楽はジョン・バリー。
出演はリー・トンプソン、ジェフリー・ジョーンズ、ティム・ロビンス、エド・ゲイル、チップ・ジーン、ティム・ローズ、スティーヴ・スリープ、ピーター・ベアード、メアリー・ウェルズ、リサ・スターツ、ポール・ギルフォイル、トミー・スウェードロウ、ジョーダン・プレンティス、リズ・セイガル、ドミニク・ダヴァロス、ホリー・ロビンソン、リチャード・エドソン、マイルズ・チャピン他。


マーベル・コミックスでスティーヴ・ガーバーとヴァル・メイエリックが生み出した人気コミックを実写化した作品。
ビヴァリーをリー・トンプソン、ジェニングをジェフリー・ジョーンズ、フィルをティム・ロビンス、ウェルカーをポール・ギルフォイル、ジンジャーをトミー・スウェードロウが演じている。監督は『おかしな関係』のウィラード・ハイク。

この映画、どういう作品にしたかったのか、どういう観客層を狙っていたのか、それがサッパリ分からない仕上がりになっている。
元々のハワードは、ディズニーのドナルド・ダックをパロディー化したキャラクターだ。原作コミックでは社会や政治を風刺しており、大人向けの作風だったようだ。この映画でも、口が悪くて皮肉を言い、生意気な態度を取るという辺りに原作の匂いが残っている。

ところが、その一方で、ハワードの仕草や表情、あるいは地球に落ちてきた時のドタバタ劇などを見ると、明らかにハワードの可愛さをアピールしようとしている。また、ハワードの皮肉も、社会や政治を斬るわけではないので、大人の観客を意識したシニカル度数はゼロ。
その辺りでは、ファミリー映画、子供向け映画としての方向性も感じさせる。

しかし冒頭から『プレイボーイ』ならぬ『プレイダック』を読んでいたり、ビヴァリーに性的興味を覚えたり、しまいにはベッドシーンまであったりする(実際に肉体関係は持たないが)のだから、子供向け映画としてはアダルトな部分が残りすぎている。
だが、大人向け映画とも言えない。中身が幼稚なので、大人の観賞に耐えるモノでもないのだ。

ハワードは単なる騒がしいだけの不気味なアヒル男と化しているのだが(見た目が違うだけで、中身は「口の悪い人間」と全く変わらない)、その造形も、ちっとも可愛くない。
ハワードをアニメで描いて実写と合成するプランもあったそうだが、結局は着ぐるみを使用して小人俳優が中に入っている。
ただし、「着ぐるみにしたからダメだったのだ」とも言い切れない。世の中に、可愛いと思える着ぐるみなど幾らでもある。
ようはデザインの問題だ。

製作総指揮を担当したジョージ・ルーカスとしては、アニメ合成じゃなくて着ぐるみを使用することには賛成だったはずだ。何しろ、彼が大好きな小人を何人も起用することが出来たのだから。
ただし、この映画がボロコケして資産を切り崩すハメになったので、公開後にどう思ったかどうかは知らないが。
本人も、この映画に関しては汚点として喋りたがらないようだし。

研究所から逃げる際にカーチェイスがあるが、ハワードが運転するわけではない。暗黒の騎士がジェニングに憑依したことが明らかになった直後、それとは全く無関係にハワードとダイナーの連中の間でいざこざが起きて乱闘シーンに突入する。
そんな感じで、物語の展開もデタラメで行き当たりバッタリ。
そもそも暗黒の騎士が絡むなら、前半から伏線を張っておけと。
っていうか、そもそも宇宙スケールの巨悪を絡ませた時点で、映画としては失敗だったように思えるが。

SFアクションとして派手に飾り付けて、年齢層の低い観客を惹き付けようとしているのかもしれない。しかし、まずハワードの格闘アクションに関しては、ただ小人がヨタヨタと動くだけなので全く惹き付ける力は無い。しかも偉そうなことを言う割りに、大して強く無いし。
そこで特殊効果を使って驚異的な動きを見せることも無い。
前半はこれといった特効の場面も用意されておらず、つまり見せ場は何も無いということになる。
そうなると、もう後半に期待するしかない。

後半、ちゃんとセールスポイントになるモノが用意されていた。
ただし、それはSFXでもアクションでもなかった。
そんなのは何の魅力も持ち合わせていない。
そこにあったのは、暗黒の騎士に憑依されたジェフリー・ジョーンズの突き抜けた狂いっぷりだった。
この人のクレイジー・アクトだけが、本作品のわずかな救いだ。
それ以外は、見事に何も無い映画なのだ。


第7回ゴールデン・ラズベリー賞

受賞:最低作品賞
受賞:最低脚本賞
受賞:最低新人賞[アヒルの衣装に身を包んだ6人の男女]
受賞:最低視覚効果賞

ノミネート:最低監督賞[ウィラード・ハイク]
ノミネート:最低助演男優賞[ティム・ロビンス]
ノミネート:最低オリジナル歌曲賞「Howard the Duck」


第9回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:作品賞

 

*ポンコツ映画愛護協会