『パペット大騒査線 追憶の紫影(パープル・シャドー)』:2019、アメリカ
カリフォルニア州ロサンゼルスでは、パペットが人間から差別や迫害を受ける光景が日常になっている。パペットの私立探偵であるフィル・フィリップスはチャイナタウンの外れに事務所を構え、パペットの面倒を見る仕事を引き受けている。事務所に向かっていたフィルは、パペットが「踊ろうか」と持ち掛けて人間の少年たちに目玉を抉り取られる現場を目撃した。フィルは少年たちを殴って撃退し、「人間のために踊る時代は終わった」とパペットに言う。するとパペットは、「それでも踊りたい。それがパペットだから」と述べた。
フィルは事務所に入り、人間である秘書のバブルスと話す。コニー・エドワーズ刑事から連絡を求める電話があったことを聞いたフィルは、今朝の件だろうと察知する。彼は幸運のお守りとしてパペットの足を密輸した闇商人の取引現場へ行き、叩きのめしていた。バブルスはフィルに、新しい依頼人が来ていると教える。依頼人のサンドラ・ホワイトから「刑事」と呼ばれた彼は、「今は探偵だ」と否定した。サンドラは「35万ドルを払わないと秘密を暴露する」と書かれた脅迫状を見せ、地味に見えるがヤリすぎ病だと明かす。所構わずセックスしてしまう病気だと彼女は説明し、手付金を渡して去った。
脅迫状を確認したフィルは、どこかで見たPの文字だと感じる。彼はダウンタウンにあるポルノショップ『ヴィニーのパペット天国』へ行き、店主のヴィニーに会う。フィルはポルノ雑誌の『パペット・プッシー』を見せてもらい、Pは表紙の文字だと断定した。彼は雑誌の購入者に関する記録を見せてもらうため、奥のオフィスへ向かうことにした。店内に顔見知りのバンブリーがいたので、フィルは「ラリーの弟のフィルだ」と名乗る。するとバンブリーは、「僕は名も無いパペットだ。ポルノは好きじゃない」と否定して逃げた。
フィルがオフィスに入って資料を調べている間に、銃を持った人間が店に現れた。犯人はヴィニーやバンブリーたちを射殺するが、大音量のポルノ上映のせいでフィルは全く気付かなかった。彼が店に戻ると、犯人は去った後だった。通報を受けて現場に来たコニーは、元相棒のフィルがいるのを見て「アンタが絡んでると思ったよ」とウンザリする。フィルとコニーは嫌味の浴びせ合いになり、バニング警部補が制止に入った。コニーが強盗犯という見立てを語ると、フィルは殺しが目的だと断言した。現場から金を持ち去っていないことを彼が指摘すると、バニングは外のマスコミに気付かれないよう裏口から立ち去るよう指示。フィルは「俺は未だに殺人課の汚点ってわけだ」と吐き捨て、店を後にした。
1990年代に人気だったパペット・テレビ・ネットワークの番組『ザ・ハッピータイム・ギャング』は、最近になって再放送されていた。唯一のジェニーが家主で、コーチのライル、便利屋のグーファー、バンブリー、隣人のエズラとキャラ、捜査官のラリーは全てパペットだ。フィルはレストランへ赴き、整形と漂白を繰り返している兄のラリーと会う。ラリーは番組が売れて二次使用料が入ったと言い、これでサイエントロジーに献金できると喜んでいた。彼はバンブリーの死を知っても、全く気にしなかった。
ラリーはファンに声を掛けられ、決め台詞を口にしてサービスした。フィルは不快感を示し、「俺たちは余所者だ」と言う。「辛いんだろ。俺だけ歴史に残る。だが、お前も警官になろうと頑張った」とラリーが告げると、彼は「俺は腕利きの警官だった」と反発する。ラリーは「最初で最後のパペット警官だ」と告げ、店を出る。すると外にいたコニーが、嫌味を浴びせた。フィルが「お前のせいだ」と怒鳴ると、彼女は「自業自得でしょ。いつかヘマしたらパペット差別全開で逮捕してやる」と言い放って嫌がらせをした。
夜、フィルは事務所に戻り、自身の誤射をコニーが「計算ずく」と糾弾した過去の新聞記事を読んだ。彼が酒を飲んでいると、バブルスが顔を見せて「苦しみ続けないで。人間は分かってないの」と慰めた。一方、ラリーは人間の女性を邸宅に招き、番組のビデオを一緒に見ていた。まだ仲が良かったころのフィルとコニーが、非番でスタジオへ遊びに来た時の映像も残されていた。女性が席を外している間に、何者かがドアを開けて犬の群れを放ち、ラリーを殺害させた。
翌朝、フィルがラリーの邸宅に駆け付けてて激しく荒れ、バニングが落ち着くよう諭す。コニーの軽口に激怒し、フィルは飛び掛かった。バニングは2人を説教し、「ウチの最強コンビだっただろ。君たちが本件を担当しろ」と命じる。コニーが「こいつのせいで、パペットは警官になれない。フィリップス・コードで禁止したんです。それほどの嫌われ者ですよ」と反発すると、バニングは「警官ではなく助言役として雇う」と述べた。彼は嫌がる2人に脅しを掛け、強制的に組ませた。
ポルノ店の事件はバンブリーが標的だったと確信しているフィルは、連続殺人だと断言する。フィルは『ザ・ハッピータイム・ギャング』の出演者が狙われていると推理し、コニーと共にプロデューサーであるロノヴァン・スカーグルの元へ向かった。ロノヴァンはフィルからギャラの6割をピンハネしていたと指摘されると、平均的な取り分だと主張した。二次使用料の契約書を見せるようコニーが言うと、彼は拒否して「パペットとの契約は形だけだ」と告げた。
ロノヴァンはパペットについて、「歌って踊るだけのマヌケどもだ」と扱き下ろす。コニーが彼と話して引き付けている間に、フィルに契約書を盗ませようと考える。しかしフィルがノロマだったため、コニーは苛立ちながらも時間を稼ぐ。するとフィルはボールを投げて、ロノヴァンを昏倒させた。コニーは呆れるが、契約書を盗んで去った。契約書には、「主要キャスト7名は千万ドルを山分け。本人死亡の場合は配偶者に。配偶者がいなければ残りのメンバーで分ける」と書かれていた。
ロノバンは得をしない契約だったため、フィルとコニーは容疑者から外し、1人ずつメンバーに当たることにした。2人は前科者のライルが営む自動車修理工場へ行き、銃を持った大勢のパペットに取り囲まれた。フィルは全米ライフル協会を詐称し、中に入れてもらった。ライルが「人間はお断りだ」と言うと、フィルはコニーについて「こいつは完全な人間じゃない」と告げる。コニーがパペットの肝臓だと打ち明けると、ライルは証拠として特殊な砂糖のドラッグを吸引するよう要求した。
人間なら昏睡状態に、パペットならハイになると説明され、コニーは渋る。しかし仕方なく吸い込み、ハイになった。フィルはライルと外へ出て2人になり、コニーはライルの手下であるジャンクヤードたちとのポーカー勝負に参加した。ジャンクヤードたちが女性のロキシーを馬鹿にすると、コニーは腹を立てて叩きのめした。彼女はジャンクヤードに銃を向け、女性の失礼な態度を謝罪させた。ライルはフィルに、妻子と別れて番組のギャラは使い果たしたと話した。
一台の車が工場の前に停まり、運転手はライルと部下たちを射殺して逃亡した。現場に来たバニングは、「ジェニーは任せろ。だがエズラとキャラは管轄外。グーファーは行方不明で、サンタモニア・ピアで目撃情報があった」と話す。翌朝、コニーはグーファーの捜索に行き、フィルは事務所に戻った。サンドラが来ていることをバブルスから知らされ、フィルは調査依頼を忘れていたことに気付く。サンドラは「氷山の一角」と書かれた新たな脅迫状を見せ、今度はジェニーと自分の淫らな写真が送付されていたことを明かした。
フィルにとってジェニーは、昔の恋人だった。その写真は、サンドラが『スター・ショーガールズ』という店でジェニーと遊んだ時の写真だった。フィルが犯人の心当たりを尋ねると、彼女は「大勢いる」と答えた。サンドラが誘惑すると、フィルは欲情してセックスを始めた。事務所に来たバニングとFBI捜査官のキャンベルは、それを知って唖然とした。サンドラが去るのを待って、キャンベルはフィルに事件当日のアリバイを尋ねた。彼が事情聴取のための同行を求めると、フィルは隙を見て窓から逃亡した。
コニーはサンタモニカ・ピアでグーファーの写真を見せて聞き込みを行い、サンジュリアンの砂糖窟にするという情報を入手した。フィルはストリップクラブの『スター・ショーガールズ』へ行き、ショーに出ているジェニーと再会した。フィルがサンドラの写真を見せるとと、彼女は覚えていないと告げた。夜、コニーは砂糖窟へ潜入し、意識が朦朧としているグーファーを発見した。コニーが事件について質問すると、グーファーは「夫婦の嫁だよ」と言って意識を失った。
フィルはジェニーを心配するが、復縁を持ち掛けられると断った。サンドラが車に乗り込むと、大爆発が起きた。すぐにパトカーが到着し、フィルは逃げ出した。彼は身を潜めるため、コニーの家へ赴いた。コニーはソファーで眠り込んでおり、フィルは就寝して過去の夢を見た。まだフィルが刑事だった時、コニーが犯人のパペットに銃を突き付けられた。「撃って」と言われたフィルは発砲するが、犯人には命中しなかった。幼い娘を連れて近くを歩いていた民間人のジャスパー・ジャッカビーが、弾丸を受けて死亡した。犯人を射殺したコニーは撃たれて重傷し、フィルは彼女を救うためにパペットの病院へ運び込んだ。
翌朝、コニーに起こされたフィルは、「ジェニーが殺された。自分が疑われている」と話す。コニーは電話を受け、グーファーが死んだと聞かされる。コニーは現場であるビーチへ行き、グーファーは溺死と判断される。コニーとフィルは、人里離れた農場で子供たちと暮らすエズラとキャラの元へ向かう。コニーは子供たちを発見し、保護が必要だと考えた。フィルはエズラとキャラの寝室に入り、2人が惨殺されているのを発見した。直後に何者かがフィルを背後から突き飛ばし、その場から逃亡した。
フィルは犯人を追い掛けて外へ出るが、待ち受けていたキャンベルたちに包囲された。コニーとフィルは、拳銃を捨てるよう命じられた。フィルは連行され、犯人と断定される。サンドラがキャンベルに、「愛人の私と逃げるためにハッピーの面々を殺した」と証言したのだ。フィルの無実を信じるコニーは、サンドラのデータが2年前まで何も存在していないことをバブルスから知らされる。コニーとバブルスは、サンドラの家に忍び込む…。監督はブライアン・ヘンソン、原案はトッド・バーガー&ディー・オースティン・ロバートソン、脚本はトッド・バーガー、製作はブライアン・ヘンソン&ジェフリー・ヘイズ&メリッサ・マッカーシー&ベン・ファルコーン、製作総指揮はロバート・シモンズ&アダム・フォーゲルソン&ワン・チョンジュン&ワン・チョンレイ&フェリス・ビー&テディー・シュワルツマン&ベン・スティルマン&マイケル・ヘイムラー&リサ・ヘンソン&ジョン・ハイド&ディー・オースティン・ロバートソン&ドナルド・タン、共同製作はヴィンセント・J・ライサ&ベイジル・グリロ&ディヴィヤ・デソウザ、製作協力はアレックス・ロックウェル、撮影はミッチェル・アムンドセン、美術はクリス・スペルマン、編集はブライアン・オールズ、衣装はアルジュン・バシーン、音楽はクリストファー・レナーツ、音楽監修はジェイソン・マーキー。
出演はメリッサ・マッカーシー、ジョエル・マクヘイル、マーヤ・ルドルフ、レスリー・デヴィッド・ベイカー、エリザベス・バンクス、シンシー・ウー、マイケル・マクドナルド、ミッチ・シルパ、ヘムキー・マデーラ、ベンジャミン・コール・ロイヤー、ブレッカン・スペンス、ライアン・トラン、フォーチュン・フェイムスター、ブライアン・ジョセフ・パレルモ、ライアン・ガウル、ジミー・O・ヤン、デニス・キーファー、ジム・パーマー他。
声の出演はビル・バレッタ、ドリエン・デイヴィース、ケヴィン・クラッシュ、ヴィクター・イェリド、ドリュー・マッシー、テッド・マイケルズ、ブライアン・ヘンソン、ドナ・キンボール、パティー・グッゲンハイム他。
ジム・ヘンソンが生み出したマペットの登場する映画。
監督は『マペットのクリスマス・キャロル』『マペットの宝島』のブライアン・ヘンソン。つまりジム・ヘンソンの息子。
コニーをメリッサ・マッカーシー、キャンベルをジョエル・マクヘイル、バブルズをマーヤ・ルドルフ、バニングをレスリー・デヴィッド・ベイカー、ジェニーをエリザベス・バンクスが演じている。
フィルの声をビル・バレッタ、サンドラをドリエン・デイヴィース、バンブリー&ライルをケビン・クラッシュが担当している。念のために「マペットとは何ぞや」ってのを簡単に説明しておくと、操演者が声優も兼ねるパペット(操り人形)のことだ。子供向けの教育番組『セサミストリート』に登場する人形たちがマペットだと説明すれば、それが一番分かりやすいかな。
そんなマペットが登場する映画は、これまで何本も製作されてきた。最近だと2011年に公開された『ザ・マペッツ』の大ヒットが記憶に新しい。
だが、そういった今までのマペット映画と本作品は、決定的な違いがある。それはレイティング(年齢制限の区分)を見るだけでも分かりやすい。
マペット映画はアメリカ映画協会のレーティングで、全ての年齢層が鑑賞可能な「G」になるのが普通だ。ところが本作品は、17歳未満の観賞に保護者の同伴が必要となる「R」指定なのだ。なぜR指定になったのかは、きっと上述した粗筋を読むだけでも何となく理解できるのではないか。
暴力シーンは多いし、大勢が殺される。汚い台詞は多いし、下品な描写が幾つも出て来る。
具体的には、例えばポルノショップでマペットが配信用のアダルトビデオを撮影している。フィルが喧嘩してコニーの乳首を噛んだり、コニーにチンコを噛まれたりする。フィルはサンドラと激しいセックスに及び、大量の精子を撒き散らす。
さすがにカーミットやゴンゾのような『マペット・ショー』の人気キャラクターを下品な世界へ引き込むことはやっていないが、人間が暴力を振るったり下ネタを担当したりするだけでなく、マペットを積極的に関与させているのだ。『セサミ・ストリート』や『マペット・ショー』を始めとして、マペットは基本的にファミリー向けや児童向けのコンテンツに登場するキャラクターだ。
そういったキャラクターが暴力や下ネタを繰り広げるのが面白いのか面白くないのかと問われれば、そりゃあ面白くなる可能性はあるだろう。
ただ、外部の人間がパロディーのネタとして使うのならともかく、本家がそこに手を出すのは、越えちゃいけない一線を越えているような気がしないでもないのだ。しかも、それを監督したのがマペットの生みの親であるジム・ヘンソンの息子ってのは、どういうつもりなのかと。
安易な考えや軽いノリじゃなくて、ひょっとすると「ホントにいいのだろうか」という葛藤があったのかもしれないよ。
ただ、どういう経緯で製作したにせよ、「アンタがルビコン川を渡っちゃダメなんじゃないのか」と言いたくなるのよ。
しかも、せめて映画がヒットしていればともかく、酷評を浴びてコケているんだから、どうしようもないぞ。かつて人気だった『ザ・ハッピータイム・ギャング』が再放送で再燃しているとか、その出演者が今はテレビ業界から離れているとか、そういう要素が大きな意味を持つのかと思いきや、全く掘り下げていない。
パペットが迫害を受けている設定も、ストーリー展開には全くと言っていいほど影響しない。
フィルの「人間のために踊る時代は終わった」という台詞も、ドラマの中で有効活用されることは全く無い。
この映画、ろくに使わずに食い散らかしている要素のオンパレードだ。一応はミステリーになっているが、そっち方面での面白さを期待したら裏切られることは確実だ。
フィルはサンドラから依頼を受けたのに、そっちは放置したまま連続殺人事件を追う展開に入る。フィルはヴィニーの店で雑誌の購入者に関する記録を調べていたはずなのに、それはすっかり忘れてしまう。
なので、サンドラが怪しいのは何となく分かるようになっている。
ホントなら、サンドラの案件と連続殺人の捜査を並行して進めるか、もしくは早い内にサンドラの案件を連続事件と絡ませた上で、彼女を容疑者から外すように上手く進めなきゃダメなのよ。
完全に調査そのものを放り出すのは、脚本に欠陥があると言わざるを得ない。映画開始から1時間ほど経過した辺りで、サンドラが「フィルが連続殺人犯」と偽証するシーンが訪れる。これによって、ようやく彼女と連続殺人事件が関連付けられる。
ただ、フィルはサンドラから依頼された仕事を進める中で、事件に巻き込まれたわけではない。
それとは全く無関係な形で連続殺人事件を調べ始め、犯人として疑われるようになるのだ。
だったら、サンドラを「脅迫を受けた依頼人」としてフィルに接触させた意味が全く無いだろ。バディー・ムービーとしての一面もあるはずなのだが、そこでの面白さも乏しい。コンビネーションの妙は乏しいし、コンビを組んだ翌日には二手に分かれる展開になっちゃうぐらい淡白だし。
そんなコニーとフィルは、序盤から会う度に口論になったり喧嘩を始めたりしている。
そんな風に、かなり険悪だったはずなのに、そういう関係性は途中で消え去っている。
映画開始から50分ぐらい経過すると、ごく普通にコンビとして動いている。いがみ合っている設定なんだから、それを使ってコンビネーションを描く方法もある。例えば、「揉めてばかりだけど目的遂行では絶妙なコンビプレーを見せる」といったパターンを構築したっていいだろう。
だが、そういう意識は薄い。
そもそも、なぜコニーとフィルが険悪だったのかも良く分からない。回想シーンを見る限り、険悪になる理由が見当たらないのよ。
だから、最初から「フィルが過去の問題を引きずっている」ってだけで良くないかと思っちゃうのよ。ネタバレを書くと、もちろんサンドラが連続殺人の犯人だ。サンドラの家を調べたコニーとバブルスは、彼女がジャスパーの娘だと知る。
そうなると復讐が目的だと思うかもしれないが、だったら番組出演者を次々に殺す必要は無い。
なぜ無関係な面々も殺したかというと、「サンドラは快楽殺人鬼だから」ってのが答えだ。
つまり、サンドラはフィルに父親を殺された可哀想な被害者だったはずなのに、快楽のために殺人を繰り返す残忍な犯人になっているのだ。
その設定には、強い不快感や嫌悪感を覚えるぞ。そりゃあ、サンドラを「父親を殺されたので復讐心に燃えている」という設定だけにすると、スッキリしない結末になる恐れはあるだろう。
サンドラは同情すべき犯人になるし、フィルが彼女を逮捕するにしても射殺するにしても、ハッピーエンドとは言えなくなる。
だけど、じゃあサンドラを快楽殺人鬼にしておけばスッキリとしたハッピーエンドか訪れるのかって、それも無理だからね。
サンドラが犯人だと聞いたフィルが「自分が父親を殺したせいだ」と良心の呵責を感じないのも、フィルが容赦なくサンドラを射殺するのも、もっとスッキリしないことになってるからね。そもそも、フィルはコニーへの罪悪感は見せても、ジャスパーへの罪悪感が乏しいんだよね。遺族に対し、何か贖罪のための行動を取っている様子が皆無だし。そういう行動を取っていればジャスパーの娘のことを気に掛けているはずだけど、それに言及するシーンも無いし。
犯人だと判明したサンドラと対面してから後悔の気持ちを少しだけ吐露するけど、あまりにも遅すぎるし薄すぎるのよ。
フィルの遺族への思いを描かず、サンドラを快楽殺人鬼に設定するのなら、「フィルがサンドラの父親を殺している」という設定なんて邪魔なだけだろ。
中途半端にハードボイルドを気取ろうとして、上手く扱えないまま乱暴に放り出しているだけじゃねえか。(観賞日:2022年4月10日)
第39回ゴールデン・ラズベリー賞(2018年)
受賞:最低主演女優賞[メリッサ・マッカーシー]
ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低スクリーン・コンボ賞[任意の2組の俳優orパペット]
ノミネート:最低監督賞[ブライアン・ヘンソン]
ノミネート:最低脚本賞