『ドクター・ドリトル』:2020、アメリカ

医師のジョン・ドリトルは動物と話せる能力を持っており、その噂を聞いたヴィクトリア女王は宮殿に招待した。女王はドリトルの動きを讃え、全ての動物に門を開いた庭園を贈った。探検家のドリトルはリリーと惹かれ合い、冒険の旅に出て哀れな動物たちを救った。しかしリリーは再び旅に出て、海で死んだ。ドリトルは絶望し、門を閉ざした。
動物が好きな少年のトミー・スタビンズは、森へ狩りに出掛ける叔父のアーナルと息子に付き合わされた。トミーは飛び立つ鳥を撃つよう指示され、わざと狙いを外した。しかし銃弾はリスに当たり、怪我を負わせてしまう。アーナルは始末するよう告げてナイフを渡し、息子を連れて立ち去った。トミーが困っていると、オウムのポリーが現れて付いて来るよう促した。ポリーは庭園へ案内し、秘密の入り口を教えてトミーを中に招き入れた。先へ進もうとしたトミーは、罠に捕まってしまった。
ドリトルは庭園に閉じ籠もり、ゴリラのチーチーやホッキョクグマのヨシ、ダチョウのプリンプトンやアヒルのダブダブなど多くの動物に囲まれて隠遁生活を送っていた。トミーが罠に捕まっているのを目にしたドリトルは、無視を決め込んだ。女王の侍女を務めるレディー・ローズは庭園を訪れ、トミーを助けた。ローズがドアをノックすると、ドリトルはチーチーに追い払えと命じた。チーチーはドアを開けて吠えるが、ローズは全く臆さずに中へ入った。
ローズは隠れているドリトルを見つけ、女王が病気で呼んでいると伝える。しかしドリトルは「帰ってくれ」と言い、耳を貸さなかった。トミーはリスを怪我させてしまったと説明し、助けてほしいとドリトルに頼む。この頼みも無視しようとしたドリトルだが、リスの怪我を見て手当てすることにした。彼は動物たちに協力させ、リスを手術した。その見事な手際を見たトミーは感激し、「先生の助手になる」とローズに告げた。
ポリーはドリトルに、女王を助けに行くよう促した。ドリトルが人間と関わることを嫌がると、ポリーは「女王が死んだら動物保護区の契約が終わる」と教える。そうなれば庭園の動物たちが出て行くことになると聞かされたドリトルは、仕方なく宮殿へ行くことを承知した。立ち去るよう告げられたトミーは、こっそり馬車に隠れた。宮殿では貴族院のバッジリー卿が医師のブレア・マッドフライと話し、あと2日で女王は死ぬと聞かされた。
宮殿に到着したドリトルが女王の寝室へ向かうと、衛兵が隠れていたトミーを連行した。トミーは助手だと主張し、ドリトルは鞄を持って静かにしているよう指示した。ドリトルは連れて来た犬のジップに女王の匂いを嗅がせ、情報を入手する。彼は水槽で飼われているタコのレオナに話を聞き、女王がお茶を飲んで倒れたと知る。彼はジップに植物図鑑を見せ、女王がベラドンナという毒を飲まされて倒れたことを突き止めた。
ドリトルはローズたちに、「日食までに解毒剤を飲まないと死ぬ」と告げる。彼は未知の治療法を試すと言い、「エデンの樹の果実を求め、危険な旅に出るしか無い」と口にした。ドリトルは部屋に飾られている絵の裏にナナフシを隠し、ローズに「君が作った物以外は女王の口に入れるな」と指示した。彼はジップを番犬として部屋に残し、宮殿を後にする。トミーは旅への同行を志願するが、ドリトルは家に帰らせた。しかしポリーはトミーの元へ行き、旅の支度をするよう指示した。ポリーはトミーに、「先生は心配してるだけ。貴方は先生のように特別な物を持ってる」と述べた。
トミーはポリーが連れて来たキリンのベッツィーに乗り、ドリトルを追い掛けた。既に船は出港していたが、トミーは橋から飛び乗った。ポリーに説得されたドリトルは、トミーを船員として乗せることにした。バッジリー卿はマッドフライに、「フリゲート艦を出して奴を追う。私は宮殿に残り、王位を継ぐ準備をする。君は船に乗り、ドリトルが国に戻れないようにしろ」と命じた。トミーは船で過ごす内、少しずつ動物の言葉が分かるようになった。ドリトルはリリーのことを思い出し、胸が苦しくなった。
ドリトルは接近するフリゲート艦を発見し、マットフライが乗っていることを知る。大砲が狙っていると気付いた彼はクジラのハンフリーに手伝ってもい、船のスピードを上げて逃亡した。トミーがエデンの樹について尋ねると、ドリトルは「エデンの樹は地図に無い。それに島と呼んでいるが、その存在も謎のままだ」と話す。そして彼は、モンテベルデは経路を書いたリリーの故郷であること、リリーが道順を記した日誌が残っていることを話し、「モンテベルデへ行って日誌を盗む」と告げた。
モンテベルデは盗賊の島で、リリーの父であるラソーリが支配していた。ドリトルはラソーリに恨まれて、お尋ね者になっていた。そこで彼は変装し、トミーと共にラソーリの城へ潜入した。しかしラソーリに見つかり、牢に入れられる。ラソーリはトミーを解放し、ドリトルの牢にトラのバリーを差し向けた。トミーはトンボのジェームズに、船の仲間への伝言を頼んだ。伝言を聞いたポリーはチーチーを連れて城に乗り込み、ドリトルを助けた。
トミーは日誌を盗み出し、埠頭へ向かう。しかしマッドフライと手下たちが待ち受けており、銃を向けて日誌を奪い取った。マッドフライはドリトルの船を大砲で破壊し、島を後にした。ドリトルが「もう終わりだ」と漏らすと、トミーは「奥さんは絶対に諦めなかった」と告げる。ドリトルが妻の死に対する罪悪感を吐露すると、それを聞いていたラソーリは「娘ならお前の背中を押しただろう」と言う。彼は船を提供し、ドリトルとトミーはマッドフライの後を追った…。

監督はスティーヴン・ギャガン、原案はトーマス・シェパード、脚本はスティーヴン・ギャガン&ダン・グレゴール&ダグ・マンド、製作はジョー・ロス&ジェフ・キルシェンバウム&スーザン・ダウニー、製作総指揮はロバート・ダウニーJr.&サラ・ブラッドショー&ザッカリー・ロス&ジョナサン・リーベスマン、共同製作はウィリアム・M・コナー、撮影はギレルモ・ナヴァロ、美術はドミニク・ワトキンス、編集はクレイグ・アルパート&クリス・レベンゾン、衣装はジェニー・ビーヴァン、視覚効果監修はニコラス・アイサディー&ジョン・ダイクストラ、視覚効果プロデューサーはティム・キーン、アニメーション監修はデヴィッド・シーク、音楽はダニー・エルフマン。
出演はロバート・ダウニーJr.、アントニオ・バンデラス、マイケル・シーン、ジム・ブロードベント、ジェシー・バックリー、ハリー・コレット、カシア・スムトゥニアク、ラルフ・アイネソン、カーメル・ラニアード、ジョアンナ・ペイジ、エリオット・バーンズ=ウォーレル、ソニー・アシュボーン・サーキス、オリヴァー・クリス、クライヴ・フランシス、ポール・ホロワティー他。
声の出演はエマ・トンプソン、ラミ・マレック、ジョン・シナ、クメイル・ナンジアニ、オクタヴィア・スペンサー、トム・ホランド、クレイグ・ロビンソン、レイフ・ファインズ、セレーナ・ゴメス、マリオン・コティヤール、フランシス・デ・ラ・トゥーア、ジェイソン・マンツォーカス。


ヒュー・ロフティングによる児童小説『ドリトル先生』シリーズをベースにした作品。
監督は『シリアナ』『ゴールド/金塊の行方』のスティーヴン・ギャガン。
ドリトルをロバート・ダウニーJr.、ラソーリをアントニオ・バンデラス、マッドフライをマイケル・シーン、バッジリーをジム・ブロードベント、女王をジェシー・バックリー、トミーをハリー・コレットが演じている。
ポリーの声をエマ・トンプソン、チーチーをラミ・マレック、ヨシをジョン・シナ、プリンプトンをクメイル・ナンジアニ、ダブダブをオクタヴィア・スペンサー、ジップをトム・ホランド、ケヴィンをクレイグ・ロビンソン、バリーをレイフ・ファインズ、ベッツィーをセレーナ・ゴメス、チュチュをマリオン・コティヤールが担当している。

ラジー賞で「ロバート・ダウニーJr.&彼のまるで説得力の無い“ウェールズ訛り”のアクセント」が最低スクリーン・コンボ賞にノミネートされたが、なぜか本作品でロバート・ダウニーJr.はウェールズ訛りの英語を喋っているのだ。
原作のドリトルに、そういう設定があったわけではない。ロバート・ダウニーJr.が独自で用意した設定だ。
そもそも英語が分からなければ関係ないのだが、その訛りのせいで何を言っているか聞き取りにくい発音になっている。しかも、ウェールズ訛りという設定が物語に絡んで来ることは何も無い。
なので、何のために持ち込んだオリジナル設定なのか、サッパリ分からないのだ。

色々と引っ掛かる点は多いのだが、その内の幾つかは製作に至る経緯を知れば理解できる。
ロバート・ダウニーJr.はマーベル作品の出演が続いて多忙だったため、子供たちと過ごす時間が少なかった。
しかも『アベンジャーズ』シリーズは子度向けの作品ではないので、ロバート・ダウニーJr.は「今度は子供たちと一緒に出掛けられる映画を作りたい」と考えたのだ。
「子供たちに楽しんでもらう」ということを最優先で製作した映画という裏事情を知れば、色々と腑に落ちる部分は出て来る。

例えば、アニメで表現される映画の冒頭シーンは、ポリーのナレーションで進行される。
ここではドリトルが門を閉ざすまでの経緯が簡単に説明され、実写パートに切り替わって「ある朝、先生の前に意外な少年が現れます。彼は特別でした。人々にとって動物は家畜や食料でしたが、少年には違いました」という語りになる。
まるで、子供に絵本を読み聞かせているかのような語りだ。
そしてトミーのパートから入ることで、「見ている子供たちに、トミーに自分を投影してもらおう」という趣向になっているのだ。

「ドリトルは動物と話す特殊能力の持ち主」という設定を重視して物語を構築するなら、冒険に出る必要なんて無い。
っていうか、むしろ邪魔だと言ってもいいぐらいだ。
でも子供たちに楽しんでもらうために、ファンタジー・アドベンチャー映画にしているわけだ。
「動物と話す特殊能力」というファンタジー要素を際立たせるためには、それ以外のファンタジー要素は排除した方がいい。周囲は現実的な要素で固めた方がいいはずだ。

トミーが志願して旅に付いて行く展開になるのも、やはり「子供たちのための映画」ってことが強く意識されている。
普通に女王の病気を治療するのではなく、「エデンの樹の果実が必要」と序盤から謎のアイテムが提示されるのは、「そういうの、子供たちは好きだから」という狙いだろう。
早々と「冒険に出る」という展開に入るのは、「ずっと庭園が舞台だと子供たちは退屈だし、冒険の方が楽しいだろう」という考えだろう。

トミーがキリンに乗って船を追い掛けるアクションシーンが用意されているのも、「子供たちに、自分がキリンに乗って走っているような感覚になってもらい、ハラハラドキドキしてもらおう、興奮してもらおう」という趣向だろう。
船の旅が始まると「トミーがドリトルの助手として成長し、動物たちの仲間になっていく」という展開が用意されているが、トミーがドリトルと並ぶ主人公に近い扱いになっている。
とにかく本作品はロバート・ダウニーJr.の「自分の子供たちに楽しんでもらいたい」という気持ちが最優先になっており、そのためなら全体のバランスや構成を犠牲にしても平気ってことなんだろう。

マッドフライは医者だから、普通に考えれば「ドリトルを軍艦で追跡し、攻撃して排除する」という任務には全く適していない。
そこはバッジリー卿の手下として、他のキャラクターを配置した方がいいはずだ。
ただ、あまりキャラを増やすと、ややこしくなる恐れがある。子供たちのことを考えて、ヴィランはバッジリー卿とマッドフライに絞り込んでスッキリさせているんだろう。
っていうか、バッジリー卿の出番は少なくて、ヴィランとしてドリトルと対峙するのは、ほぼマッドフライだけになっている。

これは私の勝手な思い込みなのだが、ずっとドリトルは獣医だと勘違いしていた。
何しろドリトルには動物と話せる特殊能力があるわけで、そりゃあ獣医だと誤解しても仕方が無いんじゃないだろうか。
でも今回の映画を見て、人間の医師だったことを知った。
だけど、人間を治療するために動物と話す能力を使うって、どういうことかと言いたくなる。
人間が患者なら、動物と話せる能力なんか使わず普通に治療できるんじゃないかと。動物と話せる能力が役に立つのって、かなり稀なんじゃないかと。

女王の件は、その稀なケースになっている。ただ、見事なぐらい都合が良すぎるわな。
あと、女王の状を確認するシーンを見る限り、ドリトルって何も診察していないよね。
女王の匂いを嗅ぐのも、ベラドンナが使われたことを教えるのもジップ。お茶を飲んで倒れたことを教えるのはレオナ。その情報を聞き出したのはドリトルだけど、それって医者としての能力じゃないよね。
リスの手術で医療の腕前は披露しているけど、「人間の医者」としての能力が全く見えないのよ。

ドリトルが女王を助けるために行動するのは、「女王が死んだら庭園の契約が打ち切られるから」ってのが理由だ。ローズから助けを要請された時点では、「人と関わり合いのが嫌だから」と即座に断っている。
女王のおかげで動物たちと暮らす庭園に暮らすことが出来ているドリトルだが、その恩義など何も感じていない。「女王が大切な人だから、何としても助けたい」という気持ちは全く無い。
ドリトルと女王の友情や絆は、微塵も感じられない。ドリトルが宮殿へ赴いた時には女王が眠っているから会話は無いし、ドリトルが一方的に話し掛けて心配するような様子も無い。
ドリトルが旅に出る動機が「契約のため」でしかないのは、とても弱い。

ドリトルがラソーリの城に入る時には、トンボやアリに手伝ってもらう。ドリトルがピンチになると、トンボの伝言を受けた動物たちが救出に駆け付ける。
でも、そういうのって、ドリトルの医者としての仕事には何の関係も無いんだよね。「動物と話せる医者」という設定を、真っ当に活用する気が全く無いのだ。
これがシリーズとして何作品も続いて来た後なら、「動物と話せる医者」という作品の中心軸から少し外れてもいいかもしれないよ。
でも、いきなり1作目で真ん中から外れた内容ってのは、いかがなものかと。

ドリトルとトミーの間には師弟関係があり、ドリトルとマッドフライは敵対関係にあり、ドリトルとラソーリは義理の親子関係にある。
そういう人間関係ばかりが描かれ、「ドリトルと動物の関係」がメインとして描かれていない。
動物たちは旅に同行しているが、ドリトルと動物の交流を描く部分は決して多くない。
動物同士で喋る時間はそれなりに設けられているが、「ドリトルが動物と話して仲良くなる」とか「ドリトルが動物の病気を治す」という話がメインではない。

終盤に入ってドラゴンが登場すると、リアリティー・ラインは完全に崩壊する。で、ドリトルはドラゴンとも話せているんだけど、ってことは彼は「勉強を重ねて動物の言葉が分かるようになった」ってことじゃなくて、Xメンみたいな超能力なのね。
それはともかく、幻獣まで登場させちゃうので、「やれやれだぜ」と呆れてしまう。
原作でも幻獣は登場するし、ドリトルは月まで旅行したりするぐらいだから、原作の世界観を破壊しているとは言えないだろう。ただ、これもシリーズが何作も続く中で幻獣が出現するならともかく、1作目だから。それでドラゴンってのは、やっぱりコレジャナイ感が強いわ。
しかも、ようやく訪れた「ドリトルが動物と話して病気を治す」という展開の患者がドラゴンなので、「なんだ、そりゃ」と言いたくなるわ。

(観賞日:2023年1月15日)


第41回ゴールデン・ラズベリー賞(2020年)

受賞:最低序章&リメイク&盗作&続編賞

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低監督賞[スティーヴン・ギャガン]
ノミネート:最低主演男優賞[ロバート・ダウニーJr.]
ノミネート:最低スクリーン・コンボ賞[ロバート・ダウニーJr.&彼のまるで説得力の無い“ウェールズ訛り”のアクセント]
ノミネート:最低監督賞[デヴィッド・スレイド]
ノミネート:最低脚本賞

 

*ポンコツ映画愛護協会