『007/ダイ・アナザー・デイ』:2002、イギリス&アメリカ

イギリス諜報部MI6の諜報部員ジェームズ・ボンドは、武器商人ヴァン・ビークに成り済まし、北朝鮮で高官のザオと接触した。ボンドはザオに案内され、将軍の息子ムーン大佐と会った。非武装地帯にも関わらず、そこには大量の武器や戦車があった。ボンドはダイヤの入ったケースを見せ、ムーン大佐の調達した武器との交換を求める。
だが、ザオは密かにボンドの顔写真を撮影して照会し、イギリスのスパイだと知った。それを知らされたムーン大佐は、ボンドの乗ってきたヘリコプターを破壊した。ボンドはダイヤのケースを爆破させ、ザオの顔面にはダイヤの破片が突き刺さった。ムーン大佐はボンドと格闘の末、ホバークラフトごと崖下に転落した。だが、ボンドも現場に駆け付けた将軍に捕まってしまう。
将軍は拷問によって情報を吐かせようとするが、ボンドは何も語らない。14ヵ月後、ボンドは将軍とアメリカのNSAの人質交換によって解放された。NSA職員のダミアン・ファルコ達が逮捕していたザオを解放し、代わりにボンドの身柄を引き取ったのだ。解放されたボンドは、いきなり注射を打たれて意識を失った。
意識を取り戻したボンドは、上司のMの姿を目にした。だが、ボンドはガラス張りの部屋に監禁されていた。Mは中国のスパイがザオに殺されたことを告げ、ボンドが拷問で機密情報を漏らした疑いが濃くなっていると説明した。ボンドは自分の素性が敵に知られたことも含め、敵に情報を流す内通者がいると確信する。しかしMはボンドに対し、諜報員のライセンス剥奪を言い渡す。
ボンドは裏切り者を探し出そうと決意し、部屋を脱出した。彼は香港のホテルへ行き、中国の情報部員チャンと接触する。ボンドは「協力してくれればザオを殺してやる」とチャンに告げ、パスポートを手配してもらう。ザオはキューバのハバナにいるらしい。鳥類学者に成り済ましてハバナに入ったボンドは、ジンクスという女性と知り合い、すぐに肉体関係を持った。
ボンドはラウルという男に会い、ザオがロス・オルガノス島の病院にいるという情報を得た。その病院の医師アルヴァレスは、遺伝子工学を使った整形手術を行っている。ジンクスはアルヴァレスに接触し、彼を射殺した。一方、ボンドは整形手術を受けようとしているザオを発見するが、逃げられる。同じくザオを追ったジンクスは兵士に包囲されるが、海に飛び込んで逃亡した。
ボンドは、ザオが首から下げていた銃弾を奪っていた。銃弾の中には、ダイヤが隠されていた。ボンドがダイヤをラウルに見せると、そこに急成長したダイヤ王グスタフ・グレーヴスのマークが刻まれていることが分かった。グレーヴスは1年前にアイスランドでダイヤ鉱山を発見したと言われているが、そのダイヤは明らかにアフリカ産だった。
ボンドはイギリスに戻り、フェンシング教官ヴェリティーの仲介でグレーヴスと会った。ボンドはグレーヴスにダイヤを見せ、ハバナで手に入れたことを告げる。2人はフェンシングで戦うが、グレーヴスの秘書ミランダ・フロストに制止された。グレーヴスはボンドの強さを認め、アイスランドで開くパーティーに招待した。
ボンドはMに呼び出され、諜報部員として行動するよう命じられた。ボンドはQに会い、秘密兵器を受け取った。Mはミランダをオフィスに呼び寄せ、ボンドに関する印象を聞く。ミランダはMI6の諜報部員だったのだ。ミランダは3年前からグレーヴスの調査を命じられていたが、何の報告もしていなかった。ミランダはMに、グレーヴスは潔白だと告げた。
アイスランドへ飛んだボンドは、パーティーに出席する。そこには、ジンクスの姿もあった。グレーヴスは集まった人々の前で、イカルス計画について語る。それは、人工衛星イカルスを太陽のように使用し、地球を照らすという計画だ。発表の後、グレーヴスは密かにザオと再会する。グレーヴスの正体は、顔を変えたムーン大佐だったのだ・・・。

監督はリー・タマホリ、原作はイアン・フレミング、脚本はニール・パーヴィス&ロバート・ウェイド、製作はマイケル・G・ウィルソン&バーバラ・ブロッコリ、共同製作はカラム・マクドゥーガル、製作総指揮はアンソニー・ウェイ、撮影はデヴィッド・タッターサル、編集はクリスチャン・ワグナー、美術はピーター・ラモント、衣装はリンディー・ヘミング、音楽はデヴィッド・アーノルド、主題歌はマドンナ。
主演はピアース・ブロスナン、共演はハル・ベリー、トビー・スティーヴンス、ロザムンド・パイク、ジュディー・デンチ、ジョン・クリーズ、リック・ユーン、ケネス・ツァン、ウィル・ユン・リー、エミリオ・エチェバリア、サマンサ・ボンド、コリン・サルモン、マイケル・ゴアヴォイ、ローレンス・マコール、マイケル・マドセン、ベン・ウィー、ホー・イー、レイチェル・グラント、サイモン・アンドリュー、マーク・ダイモンド、デボラ・ムーア、オリヴァー・スキート、ホアキン・マルティネス他。


007シリーズ第20作。
5代目ジェームズ・ボンド役のピアース・ブロスナン、M役のジュディー・デンチ、Q役のジョン・クリース、マネーペニー役のサマンサ・ボンド、Mの腹心ロビンソン役のコリン・サルモンは、前作から引き続いての出演。
今回のボンドガールを務めるのは、ジンクス役のハル・ベリーとミランダ役のロザムンド・パイク(これが映画初出演)。
他に、グレーヴスをトビー・スティーヴンス、ザオをリック・ユーン、ムーン大佐をウィル・ユン・リー、ラウルをエミリオ・エチェバリア、ファルコをマイケル・マドセンが演じている。
また、ボンドと旅客機の中で少しだけ絡むフライト・アテンダントを演じているのは、三代目ボンド役ロジャー・ムーアの娘デボラ・ムーアだ。

ムーン将軍を演じるのは朝鮮系の俳優ではなく、香港のケネス・ツァン。
どうやら韓国の複数の俳優にオファーして断られたらしい。
韓国人俳優としては、本国から非難を浴びるのが怖いってのもあるんだろう。
実際、韓国では「リック・ユーンやウィル・ユン・リーは裏切り者だ」と糾弾する人も少なくなかったようなので(ちなみに2人とも韓国系だけどアメリカ生まれのアメリカ人だ)。

ジンクスはボンドガールにしては珍しく、積極的に戦うタフな女性になっている(『トゥモロー・ネバー・ダイ』のミシェル・ヨーも戦っていたけどね。)。
ボンドに守ってもらうだけでなく、同等に戦っている。
終盤でもボンドの助けを得ずに、1対1で敵と戦うシーンがある。
スピン・オフ映画の企画もあったようだが、ボツにしたのは正解だろう。

今回はボンドの個人的な復讐という目的が強くて、後半に出てくるイカルス計画ってのは、極端に言えばどうでもいい感じだ。
それはいいとしても、ムーン大佐が整形で別人になってるというのは、因縁の対決という印象が薄れてしまう。
マスクみたいなモノになっていて、クライマックスでは元の顔に戻ったりする方がパンチ力はあるような気がするけどね。

シリーズ第20作にして誕生から40周年記念ということで、今までのシリーズ作品へのオマージュが幾つも盛り込まれている。
例えば、ジンクスの登場シーンは第1作『ドクター・ノオ』。香港のチャン達が鏡の後ろで盗撮しているのは第2作『ロシアより愛をこめて』。
ジンクスがレーザーで切られそうになるのは第3作『ゴールドフィンガー』。ボンドが水中を移動する際に使う道具は第4作『サンダーボール』と同じ。
ジンクスがダイヤ鉱山にロープで降りるシーンは第5作『007は二度死ぬ』。ダイヤによるレーザー光線は第7作『ダイヤモンドは永遠に』。

病院でボンドが潜入する場所にある鏡などの内装は第9作『黄金銃を持つ男』。グレーヴスがユニオンジャックのパラシュートで降下するのは第10作『私を愛したスパイ』。
ムーン大佐のホバークラフトが転落するのは第11作『ムーンレイカー』。飛行機からの脱出は第15作『リビング・デイライツ』。
ボンドがライセンスを剥奪されるのは第16作『消されたライセンス』。他にも色々とあるようだ。
また、Qの研究室には、これまでに使用された秘密兵器の幾つかが置かれている。

一方、これまでのシリーズを振り返るだけでなく、新しいこともやろうとしている。
「同じことの繰り返しでは飽きられてしまうので、新しいモノを持ち込もう」という意気込みを、全否定する気は毛頭無い。
だから前述した「強いボンドガール」などは、別に構わない。
ただし、守るべき「古き良き伝統」も、このシリーズにはある。偉大なるマンネリズムは、排除すべきではない。

まず、アヴァン・タイトルからして違和感が強い。
そこはボンドの華麗なる活躍を見せて、タイトルロールへ雪崩れ込んでいくのがお馴染みのパターンだ。
ところが今回は、ボンドが敵に捕まり、「拷問を受けています」というのを見せるのがタイトルロールなのだ。
アホかと。いや、まだ捕まるのは百歩譲るとして、14ヶ月も捕まっているなんて、アホかと。

ジェームズ・ボンドはピアース・ブロスナンが演じるようになってから、いつの間にか「必死のパッチで頑張る」という姿が目立つようになってきた。
かつてショーン・コネリーやロジャー・ムーアの頃にあった「スマートで余裕のある立ち振る舞い」は、どんどん失われつつある。
必死な姿が目立つというのは、もはやジェームズ・ボンドとしてのアイデンティティーが崩れているようにさえ感じる。
冒頭の、「長く続いた拷問で髪はボサボサ、ヒゲは伸び放題」というカッコ悪いボンドなんて、もうボンドじゃないよ。

解放されたボンドはMから完全に見捨てられているが、それも違うだろう。
「個人的な行動を取ろうとするからライセンスを剥奪する」というのならともかく、明らかに「敵に情報を漏らした可能性が高くて信用できないからライセンスを剥奪する」という形になってるわけで、そりゃ違うだろ。
冷酷な態度を取ったとしても、根っ子の部分ではボンドを信頼してこそのMじゃないのか。
そこで完全に見捨ててしまったら、そこからの信頼関係はどうなんのさ。

このシリーズの売りの1つに、生身の派手なアクションというものがある。
別に俳優が自分でアクションをするという意味では無い。スタントマンが命懸けとも言える危険なスタントにチャレンジしたアクションが、大きな売りになっているということだ。
ところが、今回はバレバレのCGを見せ場で使うという、その良き伝統をブチ壊すことをやらかしている。
仮にCGを使うとして、もっとバレないように出来なかったのか。
パラシュートを使ったサーフィンのシーンは、ちょっとヒドいぞ。

(観賞日:2006年2月8日)


第23回ゴールデン・ラズベリー賞(2002年)

受賞:最低助演女優賞[マドンナ]

 

*ポンコツ映画愛護協会