『ハットしてキャット』:2003、アメリカ

丘に挟まれた谷間に、アンヴィルという街があった。メインストリートと交差する通りには、ハンブーフルーブ不動産がある。社長の ハンブーフルーブは極度の潔癖症で、チリ一つ落ちているのも許せない。社員たちは頻繁に手を洗うことを義務付けられ、フィネガンと いう社員がハンブーフルーブは握手して来ただけで解雇を宣告した。その夜は2ヶ月に一度の親睦パーティーが予定されており、今回の 幹事はジョーン・ウォルデンが担当だ。
シングルマザーのジョーンにはコンラッドとサリーという子供たちがいるのだが、ベビーシッターが用事で帰ってしまった。そこで ジョーンはハンブーフルーブに、「急用が出来たので帰らせて下さい」と頼む。ハンブーフルーブから「前回のように部屋が散らかって いたらクビだ」と言われた彼女は、「大丈夫です、子供たちにも良く言い聞かせます」と告げた。しかし、ジョーンが急いで帰宅する前に 、コンラッドは部屋を荒っぽく散らかしていた。
スケジュール管理が趣味で優等生のサリーとは正反対で、コンラッドは問題児だ。大事なパーティーがあって客が来ることはジョーンから 聞いているのに、コンラッドはママを困らせてばかりいる。コンラッドは騒ぎを起こして飼い犬のネヴィンズを逃がしてしまったが、 ジョーンに好意を寄せる隣人のクインが見つけてくれた。サリーは行儀良く振る舞うが、コンラッドは反抗的な態度を取った。
ジョーンはクインから、コンラッドを更生させるために遠方のミリタリー・アカデミーへ入学させるよう勧められる。ジョーンが電話で席 を外している間に、コンラッドは「そんな場所へは行かない」とクインを睨む。クインは「お前は俺を嫌ってるが、俺もお前が嫌いだ。 だが、俺はお前のママと結婚するし、アカデミーに入れる」と告げた。ハンブーフルーブからの電話で会社へ戻るよう指示されたジョーン は、臨時のベビーシッターとしてクワン夫人を呼んだ。
ルールを守るよう諭すジョーンに、コンラッドは「他のママなら良かった」と反発した。ジョーンは「私もそう思うことがあるわ」と 言って外出してから、自分の言葉に後悔した。クワン夫人はテレビを見ている内に転寝してしまい、外では大雨が降り出した。兄妹は外出 も出来ず、退屈凌ぎのゲームも無かった。2階のクローゼットから物音が聞こえたので、兄妹は行ってみる。すると2人の前には帽子を 被って服を着た二足歩行の猫、「ハット・イ・ザ・キャット」が現れた。
コンラッドとサリーは慌てて逃げ出すが、どの部屋に隠れてもキャットは目の前に出現した。どこから来たのか尋ねる兄妹に、キャットは 「車を運転してここへ来てから2分も経つのに、飲み物も出してくれないなんて失敬だよ」と言う。クワン夫人を見つけたキャットは彼女 がベビーシッターだと知らされ、「必要ないよね」と口にする。彼はクワン夫人をハンガーに掛けて、クローゼットに収納した。
キャットが調子良く歌っていると、ウォルトン家で飼われている金魚が「その辺りで止めろ」と叫んだ。キャットは金魚の文句を軽く受け 流し、歌い踊った。兄妹はキャットのことが気に入り、彼が立ち去ろうとすると「ここにいて」と頼む。するとキャットは厚い契約書を 差し出し、サインを要求した。「好きなだけ楽しんで、悪いことは起きないことを約束する契約書なんだ」と言われ、コンラッドは即座に サインした。サリーは悪い予感を抱きながらも、好奇心には勝てずにサインした。
兄妹はママから「リビングには入らないように」と言われていたが、キャットはソファーを改造して飛び乗った。コンラッドは彼に誘われ 、一緒にソファーの上で飛び跳ねた。金魚がサリーに忠告していると、キャットは彼をトイレに投げ込んだ。サリーもソファーに飛び乗る 。そこへクインが来ると、サリーは慌ててソファーから下り、「今、お兄ちゃんに注意していたところなんです」と微笑んだ。しかし クインは「一人だけ良い子ぶるんじゃねえよ」とサリーに怒鳴った。
クインはキャットに気付かず、猫アレルギーなのでクシャミを連発しながら出て行った。キャットはオーブンでケーキを焼くが、爆発 させて部屋中に紫のクリームが飛び散った。サリーから掃除するよう言われると、キャットはママのドレスで壁を拭いた。キャットは兄妹 に「片付けをやってくれる連中がいる」と言い、大きな木箱を屋内に持って来た。キャットは箱を開けて、「シング1」と「シング2」と 呼ぶ謎の少年2名を登場させ。
コンラッドが木箱を開けると、キャットはすぐに閉めて「これは、この世界と僕の世界を繋ぐドアなんだ」と説明し、絶対に開けないよう 注意して施錠した。シング1とシング2はキャットから掃除を命じられるが、ドレスを綺麗にしようとしてソファーに染みを飛ばし、今度 はソファーを掃除してカーテンに染みを飛ばし、カーテンを掃除したら壁に染みが飛び散った。それだけでなく、シング1とシング2は 物を壊して暴れる。兄妹が捕まえようとしても、彼らはすばしっこく逃げ回った。
キャットは落ち着き払った態度で、「シングは言われたことと逆の行動を取るんだ」と述べた。コンラッドは密かに木箱の鍵を外すが、 それはネヴィンズの首輪に付いてしまった。シングたちがネヴィンズを家の外に投げ捨てててしまった。キャットは「鍵を取り戻して木箱 を閉めないと、大変なことになる」と口にした。木箱から煙が昇って蓋が開こうとするので、兄妹に慌てて閉めようとする。キャットは 「犬を捜しに行こう」と言い、木箱の上に重しとして眠っているクワン夫人を乗せた。
キャットと兄妹はネヴィンズを見つけるが、すぐに逃げられた。後を追い掛けたサリーは、親友のデニースが誕生日パーティーを開いて いるのを目にした。他の友達がみんな来ているので、サリーは「どうして私だけ呼んでくれないのかしら」と寂しく思う。デニースたちが 家から出て来たので、兄妹は慌てて隠れた。キャットはピニャータのフリをしたので、子供たちに棒で殴られた。キャットたちは再び ネヴィンズの捜索に戻るが、サリーは落ち込んだままだった。
キャットと兄妹が木陰からネヴィンズの様子を見ていると、クインが現れた。彼はネヴィンズを捕まえ、車で走り去る。キャットは自分の 車を用意し、兄妹を乗せてクインの後を追う。キャットは兄妹に運転を任せるが、ブレーキが外れてしまう。車は障害物に激突し、壊れて 停止した。クインがハンブーフルーブ不動産に入ろうとするので、キャットは彼を騙してネヴィンズを奪還した。クインがジョーンを 連れて家へ行こうとするので、キャットと兄妹はシング1と2を車で迎えに来させて先回りしようとする…。

監督はボー・ウェルチ、原作はDr.スース、脚本はアレック・バーグ&デヴィッド・マンデル&ジェフ・シェイファー、製作は ブライアン・グレイザー、製作協力はアルドリック・ラオリ・ポーター、製作総指揮はエリック・マクラウド&グレッグ・テイラー& カレン・ケーラ・シャーウッド&モーリーン・ペイロット、撮影はエマニュエル・ルベツキ、編集はドン・ジマーマン、美術はアレックス ・マクドウェル、衣装はリタ・ライアック、視覚効果監修はダグラス・ハンス・スミス、視覚効果製作はカート・ウィリアムズ、 特殊メイクアップ効果創作はスティーヴ・ジョンソン、音楽はデヴィッド・ニューマン。
主演はマイク・マイヤーズ、共演はアレック・ボールドウィン、ケリー・プレストン、ショーン・ヘイズ、ダコタ・ファニング、 スペンサー・ブレスリン、エイミー・ヒル、ダニエル・ライアン・チャクラン、テイラー・ライス、ブリタニー・オークス、タリア・ プレーリー、ダラン・ノリス、バグジー、クリント・ハワード、ペイジ・ハード、スティーヴン・アンソニー・ローレンス、パリス・ ヒルトン、キャンディス・ディーン・ブラウン、スティーヴン・ヒバート、ロジャー・モリッシー他。


児童文学作家のDr.スースによる同名のベストセラー絵本を基にした作品。
美術監督のボー・ウェルチが初めて映画のメガホンを執っている。
キャットをマイク・マイヤーズ、パパをアレック・ボールドウィン、ママをケリー・プレストン、ハンバーフルーブをショーン・ ヘイズ(金魚の声も担当)、サリーをダコタ・ファニング、コンラッドをスペンサー・ブレスリン、クワン夫人をエイミー・ヒルが演じて いる。シング1はダニエル・ライアン・チャクランとテイラー・ライス、シング2はブリタニー・オークスとタリア・プレーリーが、 それぞれ2人で1役を演じている。キャットと兄妹がクラブに迷い込むシーンでは、パリス・ヒルトンが踊っている。

まず最初に思うのは、「ハットの見た目が原作絵本の挿絵と全く違う」ってことである。
ネットで検索すれば絵本の挿絵はすぐに出て来るが、「似て非なる」とかいうコトではなくて、まるで別物なのだ。
そりゃあ原作のキャットはヒョロッと細長くて、人間が特殊メイクやキグルミで再現するのは不可能なんだけど、もうちょっと「挿絵に 近付けよう」「似せよう」という意識は持つべきじゃないのかと。
この映画に出て来るキャラは、「お前、誰だよ」というレベルなのである。

しかも、ただ単に別物というだけでなく、ちょっと怖い。化け猫みたいな奴になっちゃってんだよな。
原作のキャットは、もっと愛嬌が感じられる絵柄だぞ。
とは言え、見た目に可愛さが欠けていても、その立ち振る舞いによってリカバリーできる可能性はある。
例えば「ふなっしー」なんて、出てきた当時は「気持ち悪い」とか「怖い」とか言われていたけど、いつの間にか大人気で「可愛い」と 呼ばれる存在になったしね。
ところが、この映画の化け猫、じゃなくてキャットは、中身も含めて可愛くないのだ。

美術監督のボー・ウェルチが撮っているので、映像には凝っている。
アンヴィルの風景は、建物の屋根も、登場人物の服も、走っている車も、とてもカラフルだ。また、建物は「いかにも作り物です」という メルヘンチックな造形になっている。
ただ、そういう「カラフルでメルヘンな風景」だけで興味を引き付けられるのは、そんなに長い時間ではない。10分もすれば慣れるし、 そして飽きてしまう。
終盤に入るとキャットの住む世界が登場するので景色の変化が生じるが、そこまで興味を持たせる力は、この映画には無い。

それと、むしろ「カラフルな色彩、作り物のような装置」で映像を構築するなら、もっと誇張した方が良かったんじゃないかとも思う。
中途半端に淡い色使いや、おとなしめの舞台設計に感じる。
たぶんケバケバしい極彩色&シュールでエキセントリックな街の風景にしたら、それはそれで拒否反応を引き起こす人もいるだろう。
しかし、どうせ本作品は「映像以外は何も無い」という映画なので、だったら映像部分をより強調した方がいいんじゃないかと。
っていうか、ホントは「映像以外は何も無い」ってのがマズいんだけど。

序盤に幾つかナレーションが入るが、これが少々疎ましい。
たぶん「子供たちに絵本を読み聞かせている」というのを意識して、それと似たようなナレーションにしているんだろう。 だけど、例えば「文句も言えず2人はしょんぼり。椅子に腰掛け、外を眺める。でも景色は崩れ、雨が降り出した。寒い雨の日に、する ことも無く座るまま、退屈しのぎに遊ぶゲームも無い」などと、「それは見ていれば分かるよ」という内容ばかりを喋るんだよな。
それが小気味よいテンポに繋がっていればいいけど、そういうことは無い。

兄妹が家にいると、ハット・イン・ザ・キャットが登場する。この登場シーンが、どうにも面白味に欠ける。
その状況は「雨が降る中で兄妹が部屋にいると、2階から物音がする。行ってみると、キャットがいる」というモノだが、前触れは「唐突 に物音がする」というだけだし、2階へ行ってみたら、「コンラッドがサリーにヌイグルミを投げて脅かす」という手順は挟むものの、 2人が振り返るとキャットがいるという、ものすごく淡白な処理だ。
「兄妹が何かしらの行動を起こす」→「それによって、どこかで物が動くなどの変化が生じる」→「キャットが登場」という程度の手順を 踏んで、もう少しキャットの登場を飾り付けてもいいんじゃないのか。
この映画だと、キャットがどこからどうやって登場したのかも、その帽子はどこにあったのかも良く分からない。
っていうかさ、「ハット・イン・ザ・キャット」なんだから、まず最初に帽子が兄妹&観客に提示されて、それから「その帽子を被った キャットが出現」という順番の方がいいと思うし。

序盤に感じるのは、「コンラッドがすげえ不愉快」ってことだ。
もちろん、まだ幼い年齢だから、悪戯が好きだとか、聞き訳が無いとか、そういうのは仕方が無い部分もある。
でも、コンラッドの態度や行動は、ちょっと限度を超えている。それを優しく受け入れるほどの寛容さを、私は持ち合わせていない。
コンラッドの反抗には「ママをクインに奪われたくない」という理由も含まれているんだろうけど、それとは無関係なトコロでも部屋を 散らかしまくっているし。
それに「クインへの反発やママへの独占欲」という部分も考慮しても、彼の態度は腹立たしい。

キャットが登場して以降は、コンラッドは彼に振り回されたり戸惑ったりする役回りになるので、不快感は消える。
しかし、その代わりに「キャットが疎ましい」という新たな問題が生じる。
とにかく饒舌に喋り続けながら、キャットは階段でスケボーしたかと思ったらジョーンの写真を見て興奮し、クワンの上に座り、彼女を クローゼットに収納し、「Phunometer」なる装置で兄妹の性質を測定し、サリーをソファーへ弾き飛ばし、ミュージカルのように歌い 出す。
次から次へ立て続けに行動するのだが、それが軽快なテンポとかスピード感といったプラスの印象ではなく、「なんかチャカチャカして いて、せわしないなあ」と感じる。

キャットは金魚に文句を言われて「奴は喋っているが、内容は無い」と告げるが、この映画そのものに内容が無い。
金魚の文句を聞き流したキャットは「自分のオシッコ飲んでる奴の話なんか聞かない」と笑った後、今度は仮装してラテンの歌を歌い 出す。
金魚が「この猫はママのルールを17個も破ってる」と兄妹に告げると、キャットは鳴った電話を取って「葬儀社でーす」と言う。すると 金魚が「18個」と怒る。
キャットは笑い飛ばし、今度は扉の向こうから闘牛士の格好で現れ、向こうに闘牛場が現れて、牛に突き刺されてドアが壊され、キャット は元の格好に戻って玉乗りをする。
一応は「楽しいミュージカル・シーン」ということで用意されており、兄妹は喜んでいるが、こっちからすると脈絡の無い言動が延々と 繰り返されるだけで、「楽しい」という感情は全く湧き起こらない。

歌が終わり、契約書にサインするところで少し落ち着く。
だが、もうガチャガチャした騒がしい時間は終了で、ようやくストーリーが先に進むのかと思いきや、そうではなかった。
契約書へのサインが終わると、また「キャットが騒がしく暴れ回る」というだけのガチャガチャした時間が続く。
野球帽を被ってソファーをめくって巨大ラケットを取り出したり、象の鼻が伸びて来たので殴って追い払ったり、「修理はすぐに 終わります」とソファーの下に潜って車のように修理したりする。

サリーが「カップケーキを作りたい」と言うと、キャットは通販番組の司会者に扮して登場し、キッチンで料理を始める。だが、それを 兄妹と一緒に見ているキャットもいて、商品を持って来るキャットも登場する。
シング1と2が登場しても、それでチェンジ・オブ・ペースがあるのかと言うと、騒がしい存在がキャットから彼らに交代するだけだ。
ずっと騒がしいだけで、メリハリや緩急は皆無に等しい。
ネヴィンズを追う展開になると、キャットの脈絡の無い七変化&一人芸は少しの間だけ減るが、それで話が面白くなるわけではないし、 あくまでも「それまでに比べると七変化のペースがほんの少しだけ落ちる」というだけ。

映画の大半は、「キャット役のマイク・マイヤーズが喋りまくり、はしゃぎまくるワンマン・ショー」になっている。
それがコメディー・ショーとして質の高い内容なら、「映画としてはダメだけど、ショーとしては楽しい」という評価も出来るけど、見事 に面白くないんだ、これが。
最初から最後までスベりまくり。空気を読まずにギャーギャー騒いでいるだけにしか感じない。
しかも、キャットだけじゃなくて喋る金魚も騒がしいんだから、楽しいどころか、それとは真逆で「イライラする」か「辟易する」の二択 だ。
その誰も望まない二択も、中盤以降じゃなくて、かなり早い段階で来ちゃうぜ。

(観賞日:2014年1月20日)


第24回ゴールデン・ラズベリー賞(2003年)

受賞:映画とは名ばかりの最悪のモノ賞(構想ばっかり/中身はサッパリ!)

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低監督賞[ボー・ウェルチ]
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最低主演男優賞[マイク・マイヤーズ]
ノミネート:最低助演男優賞[アレック・ボールドウィン]
ノミネート:最低助演女優賞[ケリー・プレストン]
ノミネート:最低スクリーンカップル賞[マイク・マイヤーズ&シング1かシング2のいずれか]


第26回スティンカーズ最悪映画賞(2003年)

受賞:【最悪の作品】部門
受賞:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門
受賞:【ザ・スペンサー・ブレスリン・アワード(子役の最悪な芝居)】部門[スペンサー・ブレスリン]
受賞:【最も苛立たしい非人間キャラクター】部門[帽子を被った猫(マイク・マイヤーズ)]

ノミネート:【最悪の演出センス】部門[ボー・ウェルチ]
ノミネート:【最悪の主演男優】部門[マイク・マイヤーズ]
ノミネート:【最悪の助演男優】部門[アレック・ボールドウィン]
ノミネート:【最も痛々しくて笑えないコメディー】部門
ノミネート:【最もインチキな言葉づかい(男性)】部門[マイク・マイヤーズ]
ノミネート:【最も苛立たしい非人間キャラクター】部門[喋る魚(声はショーン・ヘイズ)]
ノミネート:【最も苛立たしい非人間キャラクター】部門[シング1&シング2(声はダン・カテラネッタ)]

 

*ポンコツ映画愛護協会