『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』:1999、アメリカ

1994年10月、モンゴメリー大学映画学科のヘザー・ドナヒュー、マイク・ウィリアムズ、ジョシュ・レナードは、「ブレアの魔女伝説」に関するドキュメンタリー・フィルム撮影のため、ブラック・ヒルズの森へ向かうことにした。ヘザーが監督兼インタビュアー、ジョシュが録音係、マイクがカメラマンである。初日、3人はメリーランド州バーキッツヴィルを訪れ、魔女伝説に関わる墓地を撮影する。それから町の人々に取材し、魔女伝説について質問する。メアリー・ブラウンという老女は魔女を目撃した時のことを語るが、ヘザーたちは本気にしなかった。
2日目、3人は森に入り、川で釣りをしていた男性2人にインタビューした。途中で車を停めた3人は、荷物を背負ってコフィン・ロックへと向かう。3人はテントを張り、そこで宿泊した。3日目、道に迷ったことがきっかけでヘザーとマイクが言い争いになり、ジョシュが仲裁に入った。地図に載っていない場所を目指す3人は、石が積み上げられた埋葬地に辿り着いた。その近くでテントを張った3人は、深夜に不気味な物音を聞いた。
4日目、3人は雨の中を進み、車まで戻ろうとする。しかし道に迷ってしまい、また言い争いが起きた。車まで辿り着くことが出来ずにテントを張った3人は、昨晩と同じ物音を耳にした。5日目の朝、ヘザーたちがテントを出ると、積み上げた石が3ヶ所に置かれていた。ヘザーは地図が無くなっていることに気付き、ジョシュから激しく責められた。マイクは急に笑い出し、「俺が捨てたんだ。あんな役に立たない地図、川に蹴落としてやった」と白状した。ヘザーとジョシュは激怒し、3人は激しい言い争いになった。
ヘザーたちは木に吊るされた何かの儀式のような木切れが並んでいる場所を発見し、カメラで撮影した。木切れは何かの儀式のように、人の形に作られていた。その夜、ライトを切って就寝していた3人は、赤ん坊の泣き声で目を覚ます。何者かがテントを激しく揺さぶり、3人は外へ出て逃げ惑った。翌朝、3人がテントに戻るとジョシュの荷物が散乱し、青い粘液が付着していた。何があってもヘザーがカメラを回し続けるので、マイクとジョシュは苛立ちを募らせる。ヘザーたちは南へ進むが、同じ場所へ戻ってしまう。次の朝、ヘザーとマイクが目を覚ますと、ジョシュが姿を消していた…。

脚本&監督&製作はダニエル・マイリック&エドゥアルド・サンチェス、製作はグレッグ・ヘイル&ロビン・カウイー、共同製作はマイケル・モネロ、製作総指揮はボブ・エイク&ケヴィン・J・フォックス、撮影はニール・フレデリックス、美術はベン・ロック、音楽はトニー・コーラ。
出演はヘザー・ドナヒュー、ジョシュア・レナード、マイケル・ウィリアムズ、ボブ・グリフィン、ジム・キング、サンドラ・サンチェス、エド・スワンソン、パトリシア・デコウ、マーク・メイソン、ジャッキー・ハレックス他。


6万ドルという低予算で製作され、全米興行収入1億4000万ドルの大ヒットを記録したホラー映画。
ダニエル・マイリックとエドゥアルド・サンチェスは、これが初めて手掛けた映画。
ヘザー・ドナヒュー、ジョシュア・レナード、マイケル・ウィリアムズの3人が「本人役」という形で出演しているが、劇中で紹介されている「モンゴメリー大学映画学科の学生」というのはフィクション。
つまり「自分と同じ名前の架空人物を演じている」と解釈すればいいだろう。

POVホラーが数多く作られるようになった流れを作る火付け役であることは確かだろうが、ブレまくる主観映像は集中して見ていると悪酔いする。
ずっと視覚的に変化の無い映像が続くから、途中で飽きて来るし。
あと、「それを言っちゃあ、おしめえよ」ということになってしまうんだろうけど、「恐怖の極限状態だったり、必死で逃げている状況だったりする中で、それでもカメラを回し続けるって変じゃねえか」と思っちゃうんだよね。
そこまでの余裕があるものかねえ。カメラを回すことにまで気持ちが行くかねえ。

「ジャーナリスト精神に溢れている連中だった」という強引な解釈をしようと思っても、それを即座に打ち消したくなるぐらい、こいつらバカだしね。
他の部分での行動が酷いので、「そんな奴らが、カメラを回し続けることだけは冷静に対応できるはずがない」と思っちゃう。
ある意味、物語の中身より、こいつらのバカな行動が最も不条理。
「恐怖で正常な思考が失われていた」という言い訳を受け入れるにしても、バカが過ぎる。
そして、それは「ドキュメンタリーらしさ」を失わせている。

具体的に例を挙げると、まずは「なぜ地図を捨てるのか」ってことだ。幾ら苛立ちが募っていたからって、それは不可解だわ。
マイクは早く戻りたいんでしょ。だったらヘザーに対する苛立ちで彼女に嫌がらせをするとしても、普通は他の方法を取るだろ。地図が無くなれば自分だって困るんだから。
次に、「魔女を怖がって、見つからないようにライトまで消したのに、なぜ翌日は歌いながら移動するのか」ってことだ。
魔女に居場所を知らせたくないのか、知らせたいのか、どっちなんだよ。
そんで、昨晩は「魔女に見つからないように」とライトを消したのに、次の夜は普通にライトを照らして縫い物を始めちゃうし。

この映画が爆発的にヒットしたのは、まさにタイトルが示す通り「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」が成功したからだ。
その計画とは、巧妙な(ということになるんだろうなあ)宣伝方法にあった。
ダニエル・マイリックとエドゥアルド・サンチェスは、メリーランド州バーキッツヴィルという町に伝わる呪いの伝説を創作し、「伝説の取材に訪れて失踪した学生たちの残した映像を編集した」という体裁で、この映画を公開した。
あたかも本作品がドキュメンタリーであるかのように見せ掛けたわけだ。
そしてWebサイトやテレビ番組、雑誌などのメディアミックス展開によって魔女伝説や学生たちに触れ、実話らしさを補強した。

ただねえ、もちろん、そういう宣伝の手口が見事に当たったんだろうとは思うけど、「そんなことで大勢が実話だと信じたんだなあ」と、ちょっと違和感は禁じ得ないんだよなあ。
幾らネットやテレビ番組で実話として宣伝したところで、フィクションだったことは簡単に分かりそうなものなんだけどなあ。
「学生たちが失踪した」ってことは、「魔女の呪いが実際にあった」ってことになるわけで、そんなのは有り得ないし。
そもそも、この作品が商業映画として公開されている時点で、ドキュメンタリーのはずがないでしょ。
この映画をドキュメンタリーだと信じて映画館に足を運んだ人間の大半が、ティーンズだと信じたい。分別のある大人で、ドキュメンタリーと信じて映画を観賞した者が大勢いたとしたら、そんな国はヤバいと思うんだよな。

日本で公開された時点では、既にフェイク・ドキュメンタリーだという情報が入って来ていた。
だから、これをドキュメンタリーだと信じて観賞した人の割合は、北米地域に比べれば遥かに少ないものと思われる。
ただ、仮にフェイクだという情報が入っていなかったとしても、たぶんフェイクだってことは分かったと思う。
と言うのも、かつて「ドキュメンタリー」として公開された『世界残酷物語』や『食人族』の存在を知っているのでね。
あと、テレビ番組だけど『水曜スペシャル』の川口浩探検隊ってのもあるし。

この作品がホラー映画として何とか成立しているのは、「ドキュメンタリー」という偽りの仮面を被っているからだ。
その仮面を剥いでしまえば、何の見所も無いクソみたいな作品である。
「アマチュアが撮った映画」として捉えても、かなりレベルが低い。ちょっとセンスのある素人なら、遥かに面白い作品を撮れるだろう。
「ダニエル・マイリックとエドゥアルド・サンチェスに映画監督としてのセンスが備わっていたか」という問題については、本作品以降に彼らがヒット作を撮っていないことを見れば言わずもがなである。

フェイクだと分かった上でも観客を怖がらせることの出来る演出というのは、何も施されていない(モキュメンタリーのホラー映画って、そんなのばっかりだけど)。
むしろ、「ドキュメンタリー」という仮面を利用して、ちゃんと片付けずに投げっ放しのままで終わらせているという印象だ。
最初からモキュメンタリーという意識で鑑賞すると、恐怖など皆無で、退屈しか無い。
ただ退屈するだけなら、まだマシかもしれない。
下手をすると、退屈よりも不快感や苛立ちの方が強くなるかもしれない。

そもそも私は「フェイク・ドキュメンタリー」として作られたホラー映画の何をどう怖がればいいのかサッパリ分からないのだが、それにしても本作品は酷い。
ヘザー・ドナヒューはスクリーミング・クイーンではなく、ギャーギャーと喚いてうるさいだけだし。性格的にもクソだし。
だから彼女が何かに怯えても、まるで気持ちがシンクロしない。
「さっさと殺されればいいのに」とさえ思ってしまう。
こんな映画を見て怖がるほど、私は恐怖には飢えていない。

あと、「ドキュメンタリー」として見せ掛けるのであれば、怖さが無いにしても、そこはせめて徹底してやろうよ。
映画の終盤、明らかに学生3人ではない他の誰かが撮影した映像が紛れ込んでるじゃねえか。
ヘザーが廃屋へ入った後、彼女の声が遠くから聞こえて来る中で白黒の映像が写し出されているけど、それは誰のカメラに録音された音声なんだよ。魔女が撮影したのかよ。
せっかくドキュメンタリーを装っても、そこでボロを出したらオシマイでしょうが。
どうやら巷では、そこを好意的に解釈して「実はジョシュが真犯人」など複数の推測が出ているようだが、ありゃ単なるミスだよ。

(観賞日:2014年2月9日)


第20回ゴールデン・ラズベリー賞(1999年)

受賞:最低主演女優賞[ヘザー・ドナヒュー]

ノミネート:最低作品賞


第22回スティンカーズ最悪映画賞(1999年)

受賞:【最大の期待外れ(誇大な宣伝に応えない作品)】部門

ノミネート:【最悪の作品】部門
ノミネート:【最悪の主演女優】部門[ヘザー・ドナヒュー]
ノミネート:【最悪のデビュー】部門[スティック・ピープルのヘザー、マイケル、ジョシュと、世界で最も長持ちするバッテリー]
(管理人注:スティック・ピープルとは、キューブ・ワールドというインテリア・トイに登場するキャラクターのこと)

 

*ポンコツ映画愛護協会