『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』:2018、アメリカ

1983年7月9日、ウエストハリウッド。高校を出てから6年が経ったディーン・カーニーは車を顧客に売った直後、同級生のジョー・ハントと遭遇した。ジョーは証券取引所で働いているが、安月給で未だに実家暮らしだった。それを知ったディーンが「人に使われるな。人を使う立場になれ」と言うと、彼は「事業を始めようにも元手が無い」と告げる。同級生だったチャーリー・ボトムズの誕生日パーティーに来るようディーンが誘うと、「彼には嫌われていた。出資してくれるはずがない」とジョーは渋る。しかしディーンは「お前の頭脳と俺のコネで、この街を手に入れよう」と語り、ジョーを説得した。
夜、ジョーはクラブ「スパーゴ」へ行くが、用心棒のティムに入店を拒否される。そこへディーンが現れ、「親友だ」と告げてジョーを招き入れた。ディーンは大勢の取り巻きを従えている双子のカイル&スコット・ビルトモアに、ジョーを紹介した。チャーリーを含む3人に共通するのは、ビバリーヒルズの金持ちということだ。ジョーは3人に、金への投資を持ち掛ける。しかしジョーがイジメられっ子だと思い出したカイルたちは、まるで話を聞こうとしなかった。
ジョーは落胆して店を去り、ディーンに「今度は上手くやる」と約束した。帰宅したジョーは『タイム』の成功者に関する特集記事を読み、「バラドックスの哲学」を使った意趣書を徹夜で書いた。翌朝、ディーンが来ると、ジョーは「ビルトモア兄弟やチャーリーは金の心配なんてしたことが無い。求めてるのは実感だ」と語る。彼は「事業にも理論が必要だ。昨日の失敗を明日の成功に変える」と言い、BBCというグループを作る考えを明かす。それは「ボンベイ・バイシクル・クラブ」の略称だったが、ジョーは「俺たちにとっては不可能を可能にするという意味だ」と熱く語った。
ディーンはジョーに「昨日の詫びにカイルがくれた。これを2倍にすれば、連中は俺たちに投資するぜ」と言い、1万ドルを差し出した。ジョーは金に投資し、3週間で35%の儲けを出した。ディーンはビルトモア兄弟の家へ向かう途中、ジョーを連れてロン・レヴィンの家に立ち寄った。ロンはディーンから車を購入した男で、今回はホイールを売るのが目的だった。ロンはウォール街で成功し、金になりそうな物なら何でも手を出す男だった。
ロンの家で新聞に目を留めたジョーは、金相場の急落を知って狼狽する。元手が半分になる損失が出たが、ロンに指摘されたジョーは平静を装った。ジョーとディーンがビルトモア兄弟の家へ行くと、金持ちの息子たちが集まっていた。ジョーはディーンに「投資のリスクも説明すべきだ」と言い、真実を明かす考えを口にした。するとディーンは「カイルは金を貸しただけだ」と言い、ジョーを後押しするため嘘をついていたことを打ち明けた。
「このチャンスを逃すな」とディーンに言われたジョーは、BBCについてビルトモア兄弟たちに説明する。「自分の力で財を築け」と彼は訴え、カイルに残金である5千ドルの小切手を利益として渡す。ジョーはディーンに「再投資で利益を出す」と告げ、金を集めるよう依頼した。ビルトモア兄弟とチャーリーはジョーを仲間として歓迎し、スパーゴへ連れて行く。ロンが芸術家のアンディー・ウォーホルと一緒にいるのを見つけたジョーとディーンは、挨拶に赴いた。ディーンは金相場で多くの利益が出たことを自慢し、ジョーはロンに手を組もうと持ち掛ける。ロンは微笑を浮かべ、「君を見てすぐに分かった。私と同じ詐欺師だ」と述べた。
ジョーはビルトモア兄弟から、小切手を預けられた。彼は店で見かけた芸術家助手のシドニーに外へ出てから声を掛け、「芸術家を顧客にしたいので先生になってほしい」と告げた。彼はドルで高く安く買ったドイツ車を、アメリカで高く売る商売を始めた。ジョーはロンに出資を持ち掛けるが、「車程度では出資できない」と断られた。ロンはジョーから見せられた趣意書の内容を「一貫性が無い」と評するが、パラドックスの哲学だけは「これは成功の本質と言える」と述べた。
ビルトモア兄弟とチャーリーは父親にBBCを宣伝し、投資を承諾してもらう。ジョーはBBCの事務所を設立し、見学に来たロンは投資を約束した。彼はモルガン銀行のフランクを通じて400万ドルの出資を決め、彼の提案でBBCの正式名称は「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」になる。ロンはジョーたちに、「大きく考えれば、君たちも大きくなれる」と説いた。ジョーはビルトモア兄弟の父であるバクスターに会い、50%の利益として元金の小切手を渡した。するとバクスターは、1670万ドルという大金の小切手を差し出した。
ロンの400万ドルは書類上の物で現金が無かったこともあり、ジョーはバクスターの小切手を受け取った。しかし50%の利益を出し続けることは不可能であり、彼は迷いを見せる。ディーンは「高いリスクの投資になるか、詐欺になるかは結果次第だ。これで儲けを出せばいいだけだろ」と語り、ジョーも前向きに考えることにした。用事でレストランを訪れたジョーは、友人のキンタナやロザンナと一緒にいるシドニーを目撃した。シドニーたちはディーンについて、腹黒だと悪口を言っていた。
ジョーはシドニーから、彼女のボスが開くショーに誘われた。ジョーがディーンと会場に行くと、シドニーは装置が動かなくなったことでボスに怒られてていた。クビを通告されて落胆するシドニーをジョーは慰め、2人は肉体関係を持った。ジョーとディーンはシカゴの石炭会社を買収する考えをロンに明かし、「3年で2億5千万ドルの利益が出る。そのために貴方の金を使う」と説明した。会社には多額の負債があり、それを返済する計画を株主に説明したジョーたちは買収を成功させた。
ジョーは投資家に支払う金も無い中で、豪邸を購入した。利益の半分の小切手をロンが切るはずだったが、約束が果たされないのでジョーは彼を追及する。ロンは落ち着き払った態度で、「切ったはずだ。確認する」と告げた。ジョーが「金が必要だ」と焦りを示すと、ロンは投資金を支払いに流用していることを指摘した。ジョーは豪邸でクリスマス・パーティーを開き、ペルシャ人の富豪の息子であるイジーと知り合った。イジーからBBCに入れてほしいと頼まれたジョーは、返答を保留して帰らせた。
ジョーはロンの小切手が届かないので、フランクに電話を掛けて確認した。するとフランクは、ロンの決算は偽物で金など最初から無いと告げる。ロンはニュース番組の関係者と称してフランクに接触し、芝居を頼んでいたのだ。彼はBBCの利益を担保として利用し、銀行から多額の融資を受けるために利用していたのだ。ジョーはティムのツテで警察の記録を調べてもらい、ロンが何件もの犯罪を繰り返している大物詐欺師だと知った。ジョーは仲間と共に復讐の方法を話し合い、ディーンは抹殺まで口にした。
ジョーはティムに拳銃で威嚇する仕事を指示し、車でロンの屋敷へ向かった。ティムは覆面を被って屋敷に乗り込み、ロンの愛犬に拳銃を突き付けた。ジョーに「金はどこだ」と詰問されたロンは、「君は天性の詐欺師だ。一緒にニューヨークへ行こう」と手を組むよう誘う。ジョーは融資の半分を自分に渡すよう要求し、小切手にサインさせた。ティムが覆面を脱ぐと、ロンは馬鹿にする態度を取った。ティムがロンを射殺したので、ジョーは焦った。ジョーから話を聞いたディーンは、「君は正しいことをした。小切手を現金にすれば、俺たちは救われる」と告げる。ジョー、ディーン、ティムは山へ行き、ロンの遺体を焼却して事件を隠蔽する…。

監督はジェームズ・コックス、脚本はジェームズ・コックス&キャプテン・モズナー、製作はホリー・ウィーアズマ&カシアン・エルウェス&クリストファー・ルモール&ティム・ザジャロフ、製作総指揮はジェレ・ハウスファター&クリスタル・ラード&ローガン・レヴィー&ジャレッド・D・アンダーウッド&アンドリュー・C・ロビンソン&ジョシュア・サフラン&チャド・ファウスト&ジン・シュアン&カン・ホンボー&ヤン・シャオイェ&ウェイン・マーク・ゴッドフレイ&ロバート・ジョーンズ&アラステア・バーリンガム、共同製作総指揮はエリア・アッティー&ナジーブ・トーマス&ローレン・ブラットマン&ジェフ・マケヴォイ&スティーヴン・コックス、共同製作はハン・イーミン&ソン・シャオウェン&ヤン・シン&マイク・アップトン&キャプテン・モズナー、製作協力はブランドン・パーク&エヴァン・アーノルド&マシュー・ブラッグ&ジェニファー・マリー・ルッソ&デラニー・バフェット&キャロライン・クレプネス&ババク・エフテクハリ&アルノー・ラニック&イアン・エイブラハムズ&アラステア・バーリンガム、撮影はジェームズ・M・ムロ、美術はフランコ=ジャコモ・カルボーネ、編集はグレン・スキャントベリー、衣装はテリー・アンダーソン、音楽はエドワード・シェアマー、音楽監修はロビン・アーダング。
出演はアンセル・エルゴート、ケヴィン・スペイシー、タロン・エガートン、ジャド・ネルソン、ロザンナ・アークエット、ケアリー・エルウィス、エマ・ロバーツ、ジェレミー・アーヴァイン、ライアン・ロットマン、トーマス・コックレル、スーキー・ウォーターハウス、ビリー・ラード、ボキーム・ウッドバイン、ワリード・ズエイター、トニー・タプリン、フューシャ・ケイト・サムナー、ヴァーナ・コーネリウス、ジャレッド・ブランチャード、アンバー・タウンゼント、アル・ミッチェル、モーリス・ジョンソン、スティーヴン・ガーランド、ビリー・スローター、ジェイソン・ワーナー・スミス、トーマス・ノーウィッキー、ニコラス・ビジャン他。


1980年代の南カリフォルニアで活動していた社交クラブ「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」を題材にした作品。
監督のジェームズ・コックスは、これが長編5作目。
脚本はジェームズ・コックス監督と『ファクトリー・ガール』のキャプテン・モズナーによる共同。
ジョーをアンセル・エルゴート、ロンをケヴィン・スペイシー、ディーンをタロン・エガートン、ジョーの父のライアンをジャド・ネルソン、デビーをロザンナ・アークエット、アンディーをケアリー・エルウィス、シドニーをエマ・ロバーツ、カイルをジェレミー・アーヴァイン、スコットをライアン・ロットマン、チャーリーをトーマス・コックレル、キンタナをスーキー・ウォーターハウス、イジーをビリー・ラード、ティムをボキーム・ウッドバイン、イジーの父をワリード・ズエイターが演じている。

映画はディーンのナレーションで進行し、オープニングでは彼が中産階級の生まれであること、教育熱心な両親がハーバード・スクールに通わせてくれたこと、奨学生のジョーと知り合ったこと、2人とも学校に居場所が無かったことが説明される。
さらに、ディーンが顔と頭の良さやテニスの腕を武器にして、映画スターや会社重役の息子たちと友達になったことも語られる。
ジョーと再会した時にディーンが「お前の頭脳と俺のコネで、この街を手に入れよう」と言うが、その「コネ」ってのは、彼が学生時代に作った物ってわけだ。
でも、説明としては弱い。
ディーンにとっての「コネ」ってのは一番の武器なんだから、もう少し丁寧に触れておいた方がいい。「テニスの腕」という部分も、現在のパートでは全く使われないから、まるで無意味になっちゃってるし。

ディーンは最初から野心家としての顔を見せており、彼が真面目で消極的だったジョーを誘う導入部になっている。
結果的にはジョー自らの意思で犯罪に手を染めているが、ディーンが巻き込んだような形になっている。
前半からディーンか腹黒で嘘つきと評されているが、終盤になるとジョーを裏切る展開が用意されている。
これは事実の通りなのだが、「ディーンは悪い奴で、ジョーは犯罪者だけど同情できる奴」という描き方になっているのだ。

序盤、成功者になるための特集記事を読んだジョーが徹夜で趣意書を完成させ、ディーンに「ビルトモア兄弟とチャーリーは金で何でも手に入れられる」と語るシーンがある。
でも具体的に、どんな事業計画を思い付いたのかはサッパリ分からない。BBCというグループを着想したことは分かるけど、それと「彼らが求めているのは実感」とか「パラドックスの哲学」という説明の関係性が分からない。
その直後に「1万ドルを金に投資して儲けを出す」という手順があるので、「じゃあジョーがディーンに熱く語った内容は何だったのか」と言いたくなる。
ただ金に投資するだけなら、趣意書を書く前と何も変わっていないわけで。

ジョーはビルトモア兄弟の家を訪ねた時、BBCについて説明する。だったら、前述した「BBCを思い付く」というシーンから直結させた方が展開としてはスムーズだし分かりやすい。
だから「ディーンが1万ドルをジョーに渡し、金に投資する」→「BBCを思い付くが相場の急落で損失が出る」という順番の方が、いいんじゃないかと。
ロンの家に立ち寄るシーンも邪魔。
ここで相場の急落を知るのだが、ここが重要なはずなんだから、「ロンが登場する」という要素とは別で処理した方がいい。

ロンはジョーに6千年前の財宝を見せ、わざと壊させてから偽物だと明かす。そして安堵するジョーに、「現実はどうあれ、君が現実だと認識したから本物だと思った」と語る。
それなりに含蓄のありそうな言葉なので、その後でジョーがビルトモア兄弟たちにプレゼンする際、そこからヒントを得るのかと思いきや、何も関係ないのよね。
ジョーはカイルに元金の小切手を利益として渡しているので、「本物だと思わせるトリック」というロンと同じ方法を使っているのよ。
だけど、それを「ロンの言動から思い付いた」という形で描いていないから、ロンが財宝を壊させるシーンと上手く繋がっていないのよ。

「時に事実は最高の嘘になる」とロンが言うシーンがあり、「ジョーたちの事業は嘘を真実に見せ掛けていた」ってことを何度もアピールしている。
でもジョーたちはロンの影響で、そういう事業を始めたわけではない。
そしてロンも、ジョーたちの事業のカラクリを指摘する意味で、そういう台詞を口にしているわけでもない。ただ観客に「後から考えてみれば、ロンの台詞は今回の出来事を表現していたな」と思わせるためだけの仕掛けに過ぎない。
なので、そこは上手く繋がっていない。

ジョーは金持ちの息子たちに「自分で財を築け」などと語るけど、そんなに引き付ける力の強いプレゼンだとは思えないのよね。誰でも簡単に思い付きそうな内容なので、「徹夜で趣意書を作るほどのモノでもなかっただろ」と言いたくなる。
その後もジョーたちの事業は、あまりにも簡単に運びすぎる。こんなバカバカしい詐欺に、なぜ大勢が簡単に引っ掛かってしまうのかと。
そこを掘り下げていないので、「バカだったから」というだけになってしまう。
一方、ジョーはディーンから天才と評されているが、こいつもバカなのだ。だからこそ、ロンからの投資にこだわっちゃうわけで。
ロンなんて、最初から明らかにウサン臭い奴で、自らも詐欺師だと言っているのに、ジョーは彼を簡単に信じて固執するんだから、すんげえ浅はかな奴にしか思えない。

シドニーの存在が全くストーリーに馴染んでおらず、邪魔なだけになっている。
まずクラブでジョーがシドニーを目撃し、外に出て声を掛けるという出会いのシーンの時点でギクシャクしている。恋人になる相手と出会うシーンの見せ方として、およそ適切とは思えない内容になっている。
正直に言って、シドニーは「その場限りの出番で終わるキャラ」でもおかしくないぐらいだからね。
それ以降も、ジョーとシドニーの恋愛劇は、BBCを描く本筋と上手く繋がらない。ここを完全に排除しても、何の支障も無い。

たぶん、この映画って本来なら「犯罪で大金を稼いで得意の絶頂にいたジョーたちだが、調子に乗っていたら計画が狂い始めて」という天国から地獄への転落劇になるべきじゃないかと思うんだよね。
だけど実際のところ、この映画って天国の時期が無いのよ。
何しろ、活動を始めた段階から自転車操業で、実際の儲けは全く出ていないわけで。
そこから状況が改善した時期なんて無くて、ずっと利益が出ているように誤魔化しているだけであって。

ジョーは豪邸を購入したり盛大なパーティーを開いたりしているけど、「うたかたの夢」であることはハッキリと見えている。
そのため、「すぐにボロが出る愚かしい犯罪なのに調子に乗っていたボンクラが、最初から定められていた地獄へ向かいました」というだけなのだ。
殺人は予定外だろうけど、BBCの活動を始めた時に乗っかったベルトコンベアーのゴールは破綻だったわけでね。
なので転落劇じゃなくて、失敗すべくして失敗しただけのバカでしかないのよ。

(観賞日:2020年11月1日)


第39回ゴールデン・ラズベリー賞(2018年)

受賞:バリー・M・バムステッド賞

 

*ポンコツ映画愛護協会