『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』:2016、アメリカ

少年時代のブルース・ウェインは、両親と映画館から帰宅する途中で銃を持った強盗に襲われた。父のトーマスは家族を守ろうとして銃弾に倒れ、母のマーサも殺された。現在、ブルースはスーパーマンとゾッド将軍の戦いによって、メトロポリスが破壊される様子を目にした。彼は会社の幹部であるジャックに電話を掛け、全員の非難を指示した。ジャックは他の社員たちを非難させ、崩壊するビルの下敷きとなった。ビルに到着したブルースは社員のウォレスを救助するが、近くにいた少女の母親は既に死んでいた。
18ヶ月後、インド洋の海中でクリプトナイトが発見された。ロイス・レインはアフリカのナイロビを訪れ、大勢の傭兵を雇っている将軍を取材する。同行していたカメラマンのジミー・オルセンは隠していた発信器を傭兵に発見され、CIAだと見抜かれる。将軍はジミーを射殺し、「知らなかった」と釈明するロイスを建物に連れ込んで始末しようとする。その間に傭兵の1人は、村にいた面々を次々に射殺して仲間と共に去った。スーパーマンは建物に突っ込み、将軍を吹き飛ばしてロイスを助け出した。
メトロポリスでは公聴会が開かれ、ナイロビの女性が「スーパーマンによって村を破壊され、両親は死んだ」と涙ながらに訴えた。公聴会を開いたフィンチ議員はスーパーマンを批判し、「彼の責任を問いたい」と口にした。帰国したロイスの元を、クラーク・ケントが訪れた。ロイスから公聴会が開かれたことを知らされた彼は、「愛する人が殺され掛けたから助けただけだ。僕は殺してない」と語る。ロイスが「助けてくれるのは嬉しいけど、犠牲も出てる。もう無理なのかもしれない」と言うが、クラークは笑顔でキスをした。
ブルースはアナトリ・クナイゼフというロシア人の犯罪者を追っていたが、バットマンとして乗り込んだ地下倉庫にいたのは小児愛好家の男だった。倉庫には大勢の女性が監禁されており、バットマンは男を縛り付けてコウモリの焼き印を残す。翌日の朝刊やテレビのニュースでは、まるで男に焼き印を押した人物が悪者のように取り上げられていた。執事のアルフレッドは「全てが変わりました」とブルースに言い、スーパーマンの登場が大きな出来事だったことを話す。
レックスコープという会社の若き社長であるレックス・ルーサーは、フィンチとバロウズ議員をオフィスへ呼び寄せた。彼は緑色の鉱石にクリプトン星人の細胞を減少させる能力があり、地球を守るための最終兵器になることを説明する。彼はインド洋で発見された鉱石の輸入許可をフィンチたちに要請し、「スーパーマン以外にもメタヒューマンが存在する。今は必要なくても、兵器があれば怪物たちの情けに甘えなくても済む」と告げた。
ウォレスは車椅子でスーパーマンの巨大な銅像に這い上がり、赤いスプレーで落書きして警官に捕まった。デイリー・プラネットのペリー・ホワイト編集長は社員のジェニーに、見出しを差し替えるよう指示した。レックスとバロウズと取引し、ゾッド将軍の死体を利用する許可と宇宙船に入る許可を得た。ブルースはクナイゼフと接触し、警戒して立ち去る彼のスマホをクローン化した。ロイスはナイロビの銃撃戦で使用された銃弾をペリーに見せ、それが闇市場でも出回っていないことを話す。彼女は地元部族に供給した人間を突き止めるための取材を要請し、ワシントンへ行く許可を貰った。
フィンチはレックスの邸宅を訪れ、鉱石の輸入は認められないと告げた。「殺人兵器を抑止力と呼ぶのは勝手だけど、私は騙されないわ」とフィンチが言うとレックスは「悪魔は地の底じゃなくて、空から来る」と告げた。ロイスはスワンウィック将軍に銃弾のことを尋ねるが、相手にされなかった。ブルースはレックスがクナイゼフと繋がっていることを突き止め、アルフレッドは彼からパーティーの招待状が届いていることを教えた。
レックスコープの本社ビルで開かれるパーティーの取材に来ていたクラークは、初めてブルースの存在を知った。ビルに入ったブルースは、ダイアナ・プリンスという女性に目を留めた。レックスは壇上に立ち、スピーチを始めた。ブルースはイヤホンでアルフレッドの指示を受け、建物を移動する。メインフレームコンピュータに辿り着いた彼は、機密データを盗み取るための装置を取り付けた。レックスの秘書であるマーシーに見つかったブルースは、トイレを探していたと嘘をついた。
パーティーに戻ったブルースは、クラークからバットマンの行動について質問される。「市民の自由が踏みにじられている。恐怖に怯えている」とクラークが告げると、ブルースは「デイリー・プラネット紙が法に縛られない者を批判するのは偽善じゃないのか」と反論し、スーパーマンの活躍はトップ記事で報じていることを指摘する。「あのエイリアンは地球を破壊しようとした。止めないと大変なことになる」とブルースが話すと、クラークは「世間はそう思ってませんよ」と告げた。2人が話す様子を見つけたレックスは興奮した様子で近付き、ラボへ遊びに来るようブルースに告げた。
アルフレッドからデータ転送完了の通信を受けたブルースは、ダイアナが気になって後を追う。クラークはテレビのニュースでメキシコの大火災を知り、スーパーマンに変身して現地へ飛んだ。彼は逃げ遅れた少女を救出し、現地の人々は神のように崇めた。あるテレビ番組ではスーパーマンの是非について、著名人による討論が行われた。フィンチは別の番組に出演し、キャスターの「もうスーパーマンは不要なのか」と質問に対して「彼は必要よ」と答えた。
レックスはウォレスの保釈金を出し、新しい伝道の車椅子をプレゼントした。ウォレスはフィンチの元へ行き、「あいつのせいで、こうなった。会わせてくれ」と要求した。クラークはバットマンを批判する記事を掲載しようとするが、ペリーから「こんな記事は要らない。誰も読まない」と却下される。ブルースはダイアナに接触し、素性を訪ねる。ダイアナは「私たちは同じ男に興味を持っている。恐らくルーサーは私の写真を持っている。あのデータは何重にもロックされているから、まだ取り返せていない」と言い、ブルースに「車のグローブボックスの中を見て」と告げて立ち去った。
ブルースは入手したデータを解析し、貨物船の写真を発見する。そこにはインド洋で発見されたクリプトナイトが積み込まれ、レックスコープへ運ばれることになっていた。ブルースがクリプトナイトを盗む考えを明かすと、アルフレッドは「破壊するんですね」と確認する。ブルースが否定すると、アルフレッドは「戦争になります」と反対する。ブルースが「2年前、赤いマントの男が先に仕掛けたんだ。あの時、何人が死んだ?奴は全人類を滅ぼす力を持ってる」と強い口調で話すと、彼は「彼は人類の敵ではありません」と説く。しかしブルースは「ゴッサムで20年。約束は守られたか?善人はどこへ行った?」と言い、考えを変えなかった。
ロイスはスワンウィックに銃弾を渡し、それがスーパーマンの冤罪を証明することを告げた。バットマンはクリプトナイトを積んだ輸送トラックをバットモービルで追跡し、銃撃戦を展開する。そこへスーパーマンが立ちはだかったため、バットマンは車を降りて近付く。スーパーマンが「バットシグナルが上がっても出しゃばるな、バットマンは死んだ」と冷たく言い、すぐに飛び去った。バットマンはトラックに撃ち込んだ発信器を確認し、レックスコープのリサーチ・パークに運び込まれたことを知った。
フィンチは記者会見を開き、スーパーマンに対する証人喚問を実施することを発表した。クラークは養母のマーサを訪ね、「ヒーローになりなさい。みんなの象徴、彼らが望む全てに」と告げられる。スワンウィックはロイスと密会し、ナイロビでスーパーマンを陥れたのはレックスであること、彼が傭兵部隊を持っていたことを教えた。スーパーマンは証人喚問に出席し、フィンチが議長として挨拶する。彼女は机に置いてある液体の瓶に目をやり、そこに書かれた文字を見てレックスが何か企んでいると気付く。彼女がウォレスの車椅子に視線を移すと、レックスの名前が記されていた。その車椅子が大爆発を起こし、多くの死傷者が出た。
スーパーマンはロイスに「あの場にいたのに。僕が見落としたせいだ」と漏らし、元気付けようとする彼女の元から去った。ブルースはクリプトナイトを盗み出し、スーパーマンとの戦いに備えて専用の弾丸や槍を作り出した。彼はメタヒューマンの映像データを確認し、ダイアナが1918年のベルギーでも同じ姿で写っていることを知る。レックスは宇宙船のオペレーションシステムにアクセスし、求めていた情報を入手する。彼はゾッドの死体を見つけ、遺伝子の合成を試みる。
北極を訪れたクラークは、父のジョナサンと遭遇する。死んだはずの父と会ったクラークは驚きながらも会話を交わすが、すぐに幻影は姿を消してしまった。ブルースはアルフレッドに「勝ち目はありません。自殺行為です」と反対されるが、スーパーマンと戦う決意を固めて「未来を守る行為だ」と告げた。レックスは手下を使い、マーサとロイスを拉致させた。ロイスはレックスのいるヘリポートへ連行され、そこから突き落とされる。スーパーマンが駆け付けてロイスを救出すると、レックスはバットマンと戦うよう要求した。スーパーマンが拒否すると、レックスはマーサを人質に取ったことを明かす。レックスは「僕を殺せばマーサは死ぬ。もう時間が無いぞ。1時間を切っている」と告げ、ヘリコプターで飛び去った…。

監督はザック・スナイダー、『バットマン』キャラクター創作はボブ・ケイン&ビル・フィンガー、『スーパーマン』キャラクター創作はジェリー・シーゲル&ジョー・シャスター、脚本はクリス・テリオ&デヴィッド・S・ゴイヤー、製作はチャールズ・ローヴェン&デボラ・スナイダー、共同製作はジム・ロウ&グレガー・ウィルソン&カーティス・カネモト、製作協力はブルース・G・モリアーティー&アンドレア・ウェルトハイム&トレヴァー・J・W・クリスティー、製作総指揮はスティーヴン・ムニューチン&クリストファー・ノーラン&エマ・トーマス&ウェスリー・カラー&ジェフ・ジョンズ&デヴィッド・S・ゴイヤー&マイケル・E・ウスラン、撮影はラリー・フォン、美術はパトリック・タトポロス、編集はデヴィッド・ブレナー、衣装はマイケル・ウィルキンソン、視覚効果監修はジョン・“DJ”・デジャルダン、音楽はハンス・ジマー&ジャンキー・XL。
出演はベン・アフレック、ヘンリー・カヴィル、エイミー・アダムス、ジェシー・アイゼンバーグ、ダイアン・レイン、ローレンス・フィッシュバーン、ジェレミー・アイアンズ、ホリー・ハンター、ガル・ガドット、スクート・マクネイリー、カラン・マルヴェイ、タオ・オカモト、ハリー・レニックス、ケヴィン・コスナー、マイケル・シャノン、レベッカ・ブラー、ジェイソン・モモア、ジョー・モートン、エズラ・ミラー、デニス・ノース、マイケル・キャシディー、ラルフ・リスター、ブランドン・スピンク、ヒュー・マグワイア、ニコール・フォレスター、キッフ・ヴァンデンヒューヴェル、メイソン・ハイデッガー他。


DCコミックスのヒーローであるバットマンとスーパーマンが登場する実写映画。「DCエクステンディッド・ユニバース」シリーズの2作目に当たり、『マン・オブ・スティール』と内容がリンクしている。
監督は『エンジェル ウォーズ』『マン・オブ・スティール』のザック・スナイダー、脚本は『アルゴ』のクリス・テリオと『バットマン ビギンズ』『マン・オブ・スティール』のデヴィッド・S・ゴイヤーによる共同。
『マン・オブ・スティール』からは、クラーク役のヘンリー・カヴィル、ロイス役のエイミー・アダムス、マーサ役のダイアン・レイン、ペリー役のローレンス・フィッシュバーン、ジョナサン役のケヴィン・コスナー、スワンウィック役のハリー・レニックス、ゾッド役のマイケル・シャノンが続投(ゾッドは大半のシーンで死体になっているけど)。
ブルースをベン・アフレック、レックスをジェシー・アイゼンバーグ、アルフレッドをジェレミー・アイアンズ、フィンチをホリー・ハンター、ダイアナをガル・ガドット、ウォレスをスクート・マクネイリー、クナイゼフをカラン・マルヴェイ、マーシーをタオ・オカモト(TAO)が演じている。アンクレジットだが、トーマス役はジェフリー・ディーン・モーガン。

DCコミックスとワーナー・ブラザーズが「DCエクステンディッド・ユニバース」の企画を始めたのは、もちろんマーベル・スタジオの「マーベル・シネマティック・ユニバース」が大当たりしているのを見たからだ。
そもそも「ヒーローの共演企画」というのは、実はマーベルよりもDCコミックスの方が先に企画が上がっていたぐらいなのだ。
後塵を拝した上、向こうがバカみたいに大当たりしている状況を見たら、そりゃあDCコミックスが「ウチも負けてられんぞ」という気持ちになるのは当然のことだろう。

ただし難しいのは、「マーベル・シネマティック・ユニバース」とは違って、1作目の『マン・オブ・スティール』が酷評を浴びた失敗作ってことだ。
そのせいで本作品は、ただ単に「前作から次回作以降へ話を繋げる」というだけでなく、1作目をリカバリーする仕事まで強いられた。
おまけに、「マーベル・シネマティック・ユニバース」はヒーローの単独主演作を幾つも公開した上で共演作へ繋げたが、この作品は単独主演作の無いバットマンとワンダーウーマンをいきなりスーパーマンと共演させている。これはあまりに拙速で、大きな失敗と言わざるを得ない。
まずはバットマンとワンダーウーマンの、それぞれの単独主演作を作るべきだった。その前に共演させるなら、カメオ出演的な小さな扱いに留めるべきだった。

いきなり大きな扱いで登場させたせいで、この映画は仕事量が異様に多くなっている。
まず前述したように、「シリーズ作品として次回作以降へ繋げる」という仕事と、「前作のリカバリー」が求められる。
また、「バットマンとワンダーウーマンを紹介する」という仕事もある。その2人とスーパーマンの関係を描く仕事もある。
もちろんヴィランとの戦いも描かなきゃいけない。バットマンとスーパーマンが対立するドラマも描かなきゃいけない。
152分という長い尺を用意しても、まるで手に負えていないのだ。

序盤、ロイスに同行していた取材カメラマンが、傭兵に銃殺される。それだけなら、特に気にする必要も無いシーンだ。
ところが、この男はクロージング・クレジットの表記によると、「ジミー・オルセン」なのである。
ジミー・オルセンと言えば、『スーパーマン』シリーズでは主要キャラクターの1人のはずだ。そういうキャラクターを、登場した直後に殺してしまうってのは、どういうつもりなのかと。
そりゃあ『マン・オブ・スティール』では登場していなかったから、そもそも主要キャラクターとして使う気が無かったのかもしれない。
でも、だからって簡単に殺されるカメラマンを、わざわざ「ジミー・オルセン」にしておく必要がどこにあるのかと。

『マン・オブ・スティール』のスーパーマンは、意図的ではないものの、信号を出してゾッド一味を地球へ導いていた。しかも、それはクリプトン人の内輪揉めであり、スーパーマンが地球を離れて戦えば人類は巻き込まれずに済んでいた。
しかしスーパーマンは地球で戦い、そのせいで大勢の犠牲者が出たし、色んな物が破壊されまくった。
スーパーマンはロイスとチュッチュすることには意識が向くくせに、「人類を救うため」「地球を守るため」という目的意識は全く無い。彼は目の前にいる敵を倒すためなら、どれだけ多くの犠牲が出ても全く気にしない。
何の罪悪感も責任も感じず、街を復興させるための手伝いもする様子を見せなかった。

そんな不愉快なクズ野郎だったスーパーマンを非難する形で、今回の映画は話を始めようとする。
デヴィッド・S・ゴイヤーにしてみれば、手掛けた脚本の酷評された部分を改めて自ら「そこがダメだったんだよ」と指摘するようなモノなので、辛い作業だったかもしれない。
ただ、前作のスーパーマンが非難されるのは当然だ。
その上で「スーパーマンが罪の意識に苛まれ、変化や成長が生じる」という話にするのであれば、もはや前作の取り返しは付かないけど、遅れ馳せながらの贖罪は出来る可能性がある。

しかし実際のところは、そんな内容に仕上がっていない。
まず序盤から、ものすごく往生際が悪いトコを露呈する。ナイロビでの出来事に関して、「スーパーマンのせいじゃないのに、スーパーマンの所業にされてしまう」という手順を用意する。
確かにナイロビの破壊行為に関しては、彼に責任があるわけではない。ただし、「でも前作の行為は明らかにテメエが悪いからな」と言いたくなる。
ナイロビの冤罪を用意することで、まるでスーパーマンの行為を全て正当化しようとしているかのように思えるのだ。
それは違うだろうと。

『ダークナイト』の影響を受け過ぎたのか、そもそも前作にしろ今作にしろ、あまりにも陰気で暗いテイストであることに対して個人的には賛同しかねる。
ただ、それは置いておくとして、「スーパーマンの活動の是非」という問題提起を持ち込んだのであれば、そのことでスーパーマンが苦悩する様子は必要不可欠なはずだ。
ところがスーパーマンは自身の破壊行為や大勢の人間を巻き添えにしていることに対して、これっぽっちも罪悪感を抱かないのである。「悪を倒すことは必要だが、そのために多くの犠牲を出していいものか」と葛藤することが全く無いのである。
こいつは『スラムダンク』の谷沢龍二のように、前作から何も成長していないのだ。

公聴会で大爆発が起きても、スーパーマンが責任を感じている様子は全く見えない。彼は炎の中で、ただボーッと突っ立っているだけだ。
後でロイスの元を訪れた時に後悔の念を口にするけど、ちっとも本気に聞こえない。
本当に「自分が気付かなかったせいで多くの犠牲者が出た」と思っているのであれば、大爆発が起きた直後のシーンで、もっと苦悩する様子を見せるべきでしょ。そこで何も感じていないかのようなリアクションを取っておいて、後から「自分のせいで」と言っても口先だけにしか聞こえんよ。
しかも、責任を感じているようなことをロイスに行って飛び去った後、北極で父の幻影と遭遇すると、あっさりと復活しちゃうし。

レックスはナイロビでスーパーマンを陥れ、「多くの犠牲者を出した悪人」に仕立て上げている。
しかし、それによってフィンチを含む政府の公聴会は動き出しているものの、「一般市民がスーパーマンを悪人だと誤解し、バッシングを始める」という展開には繋がらない。
テレビ番組で著名人がスーパーマンの是非について話すシーンはチラッと挿入されているけど、一般市民の中でスーパーマンの行動について賛否が渦巻いている様子は全く描かれていない。
なので、ナイロビでレックスが仕掛けた策略の機能性は弱い。

「スーパーマンのせいで大勢の犠牲者が出ているので、彼の存在は地球にとって害悪である」という意見が上がり、スーパーマンが世間から糾弾を浴びるという展開がある。
スーパーマンの存在の是非について問題を提起したのなら、その答えを用意するのは義務だろう。
ところが、スーパーマンが敵と戦って命を落としたことによって、何の答えも無いまま「市民が彼の死を悼みました」という手順に入ってしまうのだ。なし崩し的に、「スーパーマンの是非論」を無かったことにしているのだ。
あと、どうせスーパーマンが生き返ることは分かり切っているから、彼を殺して映画を着地させるのも、ある意味では「安易な逃げ」にしか思えないし。

今回のヴィランとして登場するのがレックス・ルーサーだが、彼の目的が良く分からない。
どうやら「メタヒューマン憎し」ってことで動いているみたいだけど、それだけだと「チンケなサイコ野郎」に過ぎないわけだし。
彼は「いずれ宇宙から敵が来る」と主張しているけど、この映画では影も形も出て来ないからピンと来ないし。
チンケな奴にしか見えないであるレックスの策略に踊らされてバットマンとスーパーマンが対決するので、どうしても「ボンクラな戦い」にしか見えないわけで。

ともかくバットマンとスーパーマンは対決することになるんだけど、これが全く盛り上がらないのよね。
そもそも、個人的な気持ちとして「バットマンとスーパーマンの対決なんて全く求めていない」ってのがあるのは認める。ヒーロー同士の戦いって、そんなに嬉しいとは思えないのよね。
ただ、それは置いておくとしても、「戦う必要性が全く無いでしょ」と言いたくなるのよ。
スーパーマンはレックスに脅されているけど、バットマンに事情を説明すればいいだけだ。

一応、「スーパーマンは協力してもらおうとしたのに、バットマンが耳を貸さずに攻撃してきた」という展開はあるよ。
ただ、バットマンに攻撃されると、スーパーマンもすぐに事情説明を放棄して応戦しちゃうのよね。なんちゅう堪え性の無い男なのかと。
攻撃されても、その段階ではクリプトナイトで衰弱させられているわけでもないのよ。だったら、とりあえず「こういう事情がありまして」と必死で呼び掛けるべきじゃないのかと。
ただし、バットマンに対しても、「とりあえず話ぐらい聞いてやれよ」と言いたくなるけどね。
ともかく、バットマンもスーパーマンも、オツムが空っぽにしか思えないのよ。

タイトルにもなっているように、今回はバットマンとスーパーマンが対決する。この2人を対決させるためには、もちろん理由を用意する必要がある。
その理由として本作品が最初に提示するのは、「正義に対する考え方の違い」である。
しかし、そういう対立の構図を作るドラマが弱いので、バットマンは思慮深さに欠けるバカにしか見えない。
自殺行為だと止められてもスーパーマンを倒そうとするのが、「イカれた執着」にしか見えないのよ。

しかも、レックスがマーサ・ケントを人質に取り、スーパーマンに「バットマンと戦え」と脅しを掛けることによって、そこまでに提示していたはずの「正義に関する考えの相違」という対立軸は完全に無意味なモノと化してしまうのだ。
一応、「レックスが策を講じてバットマンにスーパーマンへの憎しみを抱かせる」という部分では利用しているけど、それ自体が上手く機能してないし。
最も重要なはずの要素からして充分に使いこなせていないんだから、そりゃあ失敗作になるのも当然だろう。

バットマンとスーパーマンを戦わせる上で問題になるのが、「パワーバランスが悪すぎる」ってことだ。バットマンは何の特殊能力も無い人間に過ぎないので、そのままだとスーパーマンには全く歯が立たない。
そこで「クリプトナイトを使って対抗する」という方法を用意しているんだけど、それはレックスの倉庫から盗み出している。
そもそもレックスがクリプトナイトを入手しようと動いている展開だったけど、盗まれてからは奪還しようとする気配が無い。
なので、「バットマンがクリプトナイトを手に入れてスーパーマンに対抗する」という展開を作るためにレックスを利用したという、御都合主義が不恰好な形で見えてしまう。

愚かしい戦いが繰り広げられた末に追い込まれたスーパーマンは、「お前のせいでマーサが死ぬ」と口にする。
母の名を聞いたバットマンが動揺して質問していると、ロイスが駆け付けて「マーサはスーパーマンの母親の名前である」ってことを教える。
双方の母が同じ名前だったことによって、バットマンはスーパーマンへの怒りや憎しみを捨て去り、その戦いは終了するわけだ。
それで上手く処理したつもりかもしれないけど、「そんなことで解決するのかよ」と脱力感を覚えるわ。

ラスボスとして登場するのがドゥームズデイなんだけど、これも取って付けたようなキャラにしか思えない。
何しろ、終盤になって初めて登場する悪役だからね。
バットマンやスーパーマンとは何の因縁も無い相手なので、そこに「燃えるドラマ」が附随していないのよ。
彼はレックスが生み出したモンスターなので、「レックスがドゥームズデイを生み出して世界の支配を企んでいる」みたいな狙いが最初から見える形で話を進めていれば、まだ何とかなったかもしれない。だけど、そうじゃないからね。

今回は「バットマンとスーパーマンの共演」だけに留めておけばいいものを、そこに「第3のメタヒューマン」としてワンダーウーマンを絡ませることによって、ものすごくバランスが悪くなっている。
ワンダーウーマンは「今後の単独主演作に向けて顔を見せておく」という程度の扱いにしておけばいいのに、ガッツリと物語に絡んで来るのだ。クライマックスでは、戦闘にも参加している。
ただし皮肉なことに、そうやって映画のバランスを崩しているワンダーウーマンが、バットマンとスーパーマンより遥かに魅力的な存在になっている。
この映画で褒められる唯一のポイントが、ワンダーウーマンの存在なのよね。

(観賞日:2017年6月9日)


第37回ゴールデン・ラズベリー賞(2016年)

受賞:最低作品賞
受賞:最低リメイク&盗作&続編賞
受賞:最低助演男優賞[ジェシー・アイゼンバーグ]
受賞:最低スクリーン・コンボ賞[ベン・アフレック&彼の永遠に最悪な敵(Baddest Foe Forever)のヘンリー・カヴィル]

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低監督賞[ザック・スナイダー]
ノミネート:最低主演男優賞[ベン・アフレック]


2016年度 HIHOはくさいアワード:第1位

 

*ポンコツ映画愛護協会