『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』:2017、アメリカ&中国&日本

1127年、英国。1人の十字軍騎士が埋葬される際、棺桶には深紅の宝石が納められた。現在。地下鉄工事の現場で十字軍騎士団の墓所が発見され、ヘンリー・ジキル博士の率いる一団は作業員を追い出して管理下に置いた。ジキルは歴史から抹消された古代の秘密を明らかにするため、墓所を訪れていた。古代エジプトのアマネット王女は王位を継承するはずだったが、ファラオのメネフトラに男児が誕生したため予定が狂った。冷酷なアマネットは邪悪なセト神と契約を交わし、短剣を手に入れた。彼女は一族を抹殺し、恋人の肉体にセトを憑依させようと目論んだ。しかし神官たちに計略を見抜かれて捕まり、生きたままミイラにされて遠い場所へと埋葬された。
イラク。アメリカ軍のニック・モートンとクリス・ヴェイルは、司令官のグリーンウェイ大佐から、偵察を命じられた。しかしニックはジキルの名が記された地図に宝の場所が隠されていると確信し、反乱軍の駐留する村を攻撃した。クリスの応援要請で空爆が実施されたため、反乱軍は逃亡した。建物が崩壊して地面に穴が開き、そこから巨大な石像が姿を現した。村にやって来たグリーンウェイは、ニックたちが任務を放棄し、古代の財宝を盗んで闇市場で売り捌くつもりだったと見抜いていた。
部隊に同行した考古学者のジェニー・ハルジーはニックに平手打ちを浴びせ、3日前に関係を持った時に盗んだ地図と手紙を返すよう要求した。ジェニーはメソポタミアに古代エジプトの石像があることに驚き、調査を開始するため立ち入り禁止にするようグリーンウェイに要請した。グリーンウェイは2時間の猶予を与え、ニックとクリスに手伝いを命じた。人工洞窟を調べたジェニーは、井戸を中心にして6体の石像が監視するように立っている現場を発見した。
ジェニーは洞窟が墓所ではなく牢獄だと確信し、専門家を呼んで詳しく調べようと考える。ニックが勝手に仕掛けを作動させると、水銀の井戸に沈められていたアマネットの棺が上昇した。すると洞窟には無数の蜘蛛が出現し、噛まれたクリスは喚いて銃を乱射した。棺に視線を向けたニックは、アマネットに誘惑される幻覚を見た。軍隊はヘリコプターで棺を運び、輸送機に積み込んで英国へ向かった。ジェニーは機内で棺を調べ、アマネットという文字を読み取った。アマネットの名前を聞いたニックは、また彼女の幻覚を見た。
クリスは蜘蛛に噛まれた影響で邪悪な力に憑依され、棺を開けようとする。彼は止めに入ったグリーンウェイを殺害し、ニックたちにも襲い掛かる。ニックは2発の発砲でようやく倒れるが、輸送機が無数の鴉に襲われて墜落する。ニックはジェニーにパラシュートを装着させて脱出させ、自身は遺体として霊安室に保管される。しかし彼は無傷で蘇生し、精気の無いクリスから「お前に話がある」と言われる。そこへジェニーが来ると、いつの間にかクリスは姿を消していた。
輸送機の墜落地点を調べていた救急隊員たちは、アマネットのミイラに精気を吸い取られて死亡した。少しだけ肉体が復活したアマネットは、ミイラ化した救急隊員たちを配下に置いた。ジェニーはニックをパブへ連れて行き、セトの短剣を探していること、その柄に宝石が入った時にセトは肉体を与えられるという言い伝えがあることを話した。さらに彼女は墓所のどこかに石があることを語るが、ニックは手招きするクリスに気を取られて全く聞いていなかった。
ジェニーはジキルに電話を掛けて「想像していた以上の出来事が起きてる」と告げ、ニックを連れて来るよう指示された。トイレへ赴いたニックは、「俺もお前も呪われてる。この呪いを解くには、あの女の命令に服従することだ。あがいても無駄だ。もう逃げられない」とクリスから告げられる。パブを出たニックは、アマネットの差し向けたネズミの群れに襲われる。そこへジェニーが現れ、ニックは幻覚を見ていたことを知った。
ニックは「俺たちはアマネットを怒らせた。あの女を見た」と言うが、ジェニーは信じようとしない。幻覚でミイラ化したアマネットを見た彼は、墜落現場の近くにある教会へ向かった。同行したジェニーは「輸送機はあっちよ」と言うが、彼は「こっちでいい」と告げる。ジェニーが「現場へ行きましょう」と離れた後、ニックはアマネットに誘われて教会の中へ瞬間移動する。アマネットは手下たちに彼を押さえ付けさせ、ダガーで突き刺そうとする。しかし柄に宝石が無いことに気付き、寸前で動きを止めた。
教会へジェニーが入ってくると、アマネットは彼女に襲い掛かった。ニックは手下たちを蹴散らしてアマネットの背中をダガーで突き刺し、ジェニーと共に教会から逃走する。ニックは車を見つけて乗り込み、ジェニーを放置して走らせる。慌てて助手席に乗り込んだジェニーは、ニックが取り憑かれていると気付いた。ニックは否定するが、いつの間にか車は教会へ戻っていた。手下たちに襲われたニックは、運転を誤って車を横転させた。
アマネットが現れたのでニックは襲い掛かるが、まるで歯が立たない。そこへ武装した一団が駆け付け、アマネットに何本もの銛を打ち込んで捕獲した。一団のマリクたちはジェニーを救助し、ニックを組織の本部へ連行した。そこで待っていたのはジキルで、自分が抑え切れない渇きに変わる病気を患っていることを明かして左手に注射を打った。彼は捕獲したアマネットを見せ、自分がプロディジウムという組織を率いる博士だと明かす。ジェニーも一員で、邪悪な存在を検証して封印するのが組織の仕事だとジキルは説明した。
ジキルは解剖を可能にするため、アマネットの体内に水銀を注入していた。観察だけだと聞いていたジェニーが驚くと、彼は「解剖して観察する。彼女は危険だ」と告げる。「俺は何の関係がある?」とニックが訊くと、ジキルは「君は悪の器として選ばれた。我々だけが君を救える」と告げた。アマネットから古代語で話し掛けられたニックは、同じ言葉を使って会話を交わす。アマネットは「私は神に永遠の命を与えようとした。彼を生ける神にしようとした」と語り、もうすぐニックは死を超越してセトに生まれ変わるのだと告げた…。

監督はアレックス・カーツマン、原案はジョン・スペイツ&アレックス・カーツマン&ジェニー・ルメット、脚本はデヴィッド・コープ&クリストファー・マッカリー&ディラン・カスマン、製作はアレックス・カーツマン&クリス・モーガン&ショーン・ダニエル&サラ・ブラッドショー、製作総指揮はジェブ・ブロディー&ロベルト・オーチー、製作協力はケヴィン・イーラム、撮影はベン・セレシン、美術はジョン・ハットマン&ドミニク・ワトキンス、編集はポール・ハーシュ&ジーナ・ハーシュ&アンドリュー・モンドシェイン、衣装はペニー・ローズ、クリーチャー・デザインはクラッシュ・マクリーリー、視覚効果監修はエリック・ナッシュ、音楽はブライアン・タイラー。
主演はトム・クルーズ、共演はラッセル・クロウ、アナベル・ウォーリス、ソフィア・ブテラ、ジェイク・ジョンソン、コートニー・B・ヴァンス、マーワン・ケンザリ、サイモン・アザートン、スティーヴン・トンプソン、ジェームズ・アラマ、マシュー・ウィルカス、ソーム・カピラ、ショーン・キャメロン・マイケル、レズ・ケンプトン、エロール・イスマイル、セルヴァ・ラサリンガム、シャニーナ・シャイク、ハヴィエル・ボテット、ハドリアン・ハワード、ディラン・スミス、パーカー・ソーヤーズ、ニール・マスケル、ローナ・クロッカー他。


1932年の『ミイラ再生』をリブートした作品。
『FRINGE/フリンジ』や『HAWAII FIVE-0』など数々の人気TVドラマを手掛けた大物プロデューサーのアレックス・カーツマンが、2度目の映画監督を務めている。
脚本は『インフェルノ』のデヴィッド・コープ、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のクリストファー・マッカリー、俳優のディラン・カスマンによる共同。
ニックをトム・クルーズ、ジキルをラッセル・クロウ、ジェニーをアナベル・ウォーリス、アマネットをソフィア・ブテラ、クリスをジェイク・ジョンソン、グリーンウェイをコートニー・B・ヴァンス、マリクをマーワン・ケンザリが演じている。

この映画を語る上で重要なポイントは、「ダーク・ユニバース」の第1弾として製作されているということだ。
ダーク・ユニバースとは、かつてユニバーサル・ピクチャーズが製作した『ミイラ再生』『フランケンシュタインの花嫁』『大アマゾンの半魚人』『透明人間』『魔人ドラキュラ』『狼男』『オペラの怪人』『ノートルダムのせむし男』といった怪奇映画をリブートし、複数モンスターの共演作に発展させていこうという企画だ。
ジョニー・デップが透明人間、ハヴィエル・バルデムがフランケンシュタインの怪物を演じることが、企画の開始が決まった時点で発表された。
しかし本作品が大コケしたため、シリーズ化の構想はあえなく消滅した。

わざわざ言うまでもないだろうが、この映画はマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を意識して製作されている。マーベル・スタジオがMCUで大当たりしているので、2匹目ならぬ3匹目のドジョウを狙っているのだ(ちなみに2匹目は、DCコミックス&ワーナー・ブラザーのDCエクステンディッド・ユニバース)。
しかし残念ながら本作品は、DCエクステンディッド・ユニバースの『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』と似たような過ちを犯している。
DCの『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』は、本来ならバットマンが単独で主役を張る映画を作るべきなのに、のっけからスーパーマンと共演させてしまった。
しかも、「バットマンとスーパーマンの共演」だけに留まらず、「第3のメタヒューマン」としてワンダーウーマンまで登場させてしまった。それも「最後にチラッと出す」という程度ではなく、ガッツリと物語に絡ませた。それによって、完全に処理能力を超過してしまった。

この作品も同様で、まずは『ミイラ再生』のリブートに全精力を傾けるべきだったのだ。
ところがシリーズ化に向けた伏線を早く張っておきたいという気持ちから、ジキル博士を登場させてしまった。
これもワンダーウーマンと同じく、ちょっとした顔見世に終わらせず、ハイドとしての二面性まで描いてガッツリと出番を与えている。
そうなると当然のことながら、「これは『ミイラ再生』のはずなのに、なぜか『ジキル博士とハイド氏』の要素が侵食している」という状態に陥ってしまう。

ダーク・ユニバースにしろDCエクステンディッド・ユニバースにしろ、MCUの創った流れに便乗したくなるのは分かる。そして、便乗するのが悪いとは言わない。
ただ、焦る気持ちが強いせいで、失敗をやらかしているのだ。
考えなきゃいけないのは、MCUが最初から他複数ヒーローを共演させていたわけじゃないってことだ。
1作目の『アイアンマン』はアイアンマンの物語に集中しており、他のヒーローは全く登場しなかった。2作目の『インクレディブル・ハルク』では『アイアンマン』のトニー・スタークが登場するものの、ラストでチラッと出て来るだけだった。それを見習って、ダーク・ユニバースやDCエクステンディッド・ユニバースでも、「まずは個々のキャラが活躍するピンの映画を製作し、紹介を終えてから他の作品に関与させる」という形を採用すべきだったのだ。
どうしても他のキャラを1作目から登場させておきたいのなら、これまたMCUを見習って「エンドロールでチラッと顔を出す」という程度に扱いに留めておけば良かったのだ。肝心の『ミイラ再生』リブート版としての完成度よりもダーク・ユニバースとしての伏線や流れを優先するってのは、明らかに本末転倒だ。

映画を見ていると、とにかくジキルの登場するシーンは邪魔で仕方がない。こいつを排除すれば、かなりスッキリと整理された内容になることが確実だ。
ニックが初めて対面するシーンなんて、この映画におけるジキルの役割を考えれば、「自分はプロディジウムのリーダーで、こういう目的でアマネットを捕まえた」ってことを説明すればいいはずだ。
ところが彼は、そんなことよりも「最近は免疫学が専門だ。私の患者は、病気になるまでは前途有望だった。最初は捉え所が無い病気だったが、やがて圧倒的な欲望に変わり、抑え切れない渇きになる」などと語って左手に注射を打つ。
ハイドとしての側面があることに触れたいので、そういうシーンを入れているのは分かる。だけど今回の話だけを考えれば、そんなのは全く要らないのだ。

この1本だけを考えれば、ジキルは単に「研究者として問題に関与する」というだけでいい。
しかし、注射で「何か秘密を持っている」と匂わせるだけでも邪魔なのに、それで終わらせずにハイドへと変貌させて暴れさせるのだ。
なので、「この映画はミイラをモンスターとして描きたいのか、ハイドをモンスターとして描きたいのか、どっちなのか」と言いたくなる。ミイラとハイドが結託するわけでもないから、2種類のモンスターが登場しても話がバラバラになるだけだし。
もう物語は佳境に入り、アマネットが儀式でセト神を復活させようと目論んでいるのに、その流れをニックとハイドの格闘が妨害しているのよ。

しかも上述したダーク・ユニバースのラインナップを見ると、『ジキル博士とハイド氏』をリブートする予定は入っていないのよね。どういうことなのかと。
ひょっとすると、ジキル博士はMCUにおけるニック・フューリーみたいに「全てのシリーズを繋ぐキャラクター」として配置しているんだろうか。
そうだとしても、ジキルは無駄にクセが強すぎるでしょ。こいつもユニバーサル・モンスターなので、そのポジションをこなすには不適格だ。
その推測が外れていたとしても、どっちにしろ邪魔なモノは邪魔。

ただし、じゃあジキルを排除すれば全ての問題が解決するのかというと、そうではない。それ以外でも問題は山積みで、この映画を救うことは無理だろうと思わされる。
まず、ホラー映画としては全く怖さが無い。ミイラが登場しても、そこに怖さは無い。
じゃあヒーローが活躍するアクション映画として完全に舵を切っているのかというと、そっちも甘い。ニックのキャラクター描写が雑だし、終盤までは「ひたすら逃げ腰で他人に助けを求める」というだけの奴だ。
その能力に関しても、ラスト寸前でセト神に憑依されるまではモンスターに全く歯が立たないし。対抗できるほどの知恵も無いから、物語を引っ張ることが出来ていない。

アマネットは今さらセト神を復活させて何がしたいのか、良く分からない。っていうか、その能力もボンヤリしている。
彼女は様々な動物を操ったり、離れた場所からでもニックを操ったりする能力を持っているようだが、それにしては行動がマヌケだ。
ニックを操れるはずなのに、中途半端に自由を与えたせいで逃げられる。かなりの強い魔力を持っているはずだが、弱点を突かれたわけでもないのに、簡単にプロディジウムには捕まる。
それだけプロディジウムが邪悪なモンスター対策に長けた組織なのかと思ったら、アマネットは簡単に脱出している。
ここのパワーバランスは、その場に合わせてコロコロと変化している印象を受ける。

終盤、ニックがダガーで自分を突き刺すと、憑依したセト神をコントロールできる。彼はセト神の力を使ってアマネットの精気を吸い取り、死んだジェニーに呼び掛けると彼女が復活する。
どういうことだか良く分からないが、ハッキリ言えるのは御都合主義ってことだ。
そこに観客が納得できる理屈やスムーズな流れを用意していないから、安っぽくなってしまう。
ただ、ジキル以外の問題についても、その多くは「ダーク・ユニバース構想を優先したせいでダメになった」と言える。
この映画の抱えている大半の問題は、そこに集約される。

(観賞日:2018年9月4日)


第38回ゴールデン・ラズベリー賞(2017年)

受賞:最低主演男優賞[トム・クルーズ]

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低助演男優賞[ラッセル・クロウ]
ノミネート:最低最低助演女優賞[ソフィア・ブテラ]
ノミネート:最低序章&リメイク&盗作&続編賞
ノミネート:最低監督賞[アレックス・カーツマン]
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:ロッテントマト賞(酷すぎて大好きな作品賞)


2017年度 HIHOはくさいアワード:第2位

 

*ポンコツ映画愛護協会