『刑事エデン/追跡者』:1992、アメリカ
ニューヨーク市警察のエミリー・エデン刑事は相棒で恋人でもあるニックと共に、クラブを張り込んだ。彼女はタレ込みのあった男たちを見つけ、逮捕に向かおうとする。ニックは応援を呼ぶべきだと言うが、エミリーは「たまたま容疑者を発見しただけ」と耳を貸さなかった。男の1人がニックをナイフで刺し、逃亡を図った。エミリーは男を撃ち、ニックは救急搬送された。エミリーは上司のオリヴァーに拳銃を没収され、内務監査の事情聴取を受けることになった。これまでエミリーは応援を呼ばない勝手な行動を繰り返しており、オリヴァーは「誰も信用できないのか」と説教した。エミリーは手術を終えて意識を取り戻したニックと面会し、犯人の逮捕を伝えた。
ユダヤ教ハシド派の信徒であるヤコブは、友人のアリエルがカバラを読んでいるので「またかい。レビ様に知られたら大変だ。神秘主義にふけると寿命を縮める。40歳になるまで読むなと言われている」と忠告する。アリエルが構わずに読み続けていると、ヤコブは「相談がある」と告げる。アリエルは相談内容も聞かずに、「答えはイエスだ。結婚しろ、いい子だ」と述べた。ヤコブは微笑し、「どうした?」と言われると「何でもない。そうだな、結婚すべきだ」と語った。ヤコブとマーラとの結婚について、アリエルは「神は女の涙を数える」という言葉を教える。ダイヤモンドの研磨職人であるヤコブは、深夜に作業場へ赴いた。
拳銃の使用が正当と認められ、エミリーに返却された。彼女はオリヴァーに、仕事をやらせてくれと訴える。行方不明になったヤコブの捜査を命じられた彼女は不服を漏らすが、仕方なく了承した。エミリーはハシド派のコミュニティーがあるブルックリンのボロパークへ出向き、指導者のレビがいる本部を訪れた。レビの娘であるレアが対応し、奥の部屋へと案内した。エミリーが握手を求めてもレビは無視し、話し掛けても全く喋ろうとしなかった。
ヤコブの両親であるクラウスマン夫妻が呼ばれ、エミリーは別の部屋で話を聞こうとする。しかしレビがいる場所でと要求するので、彼女は了解した。ヤコブが姿を消したのは2日前で、今まで家出したことも無かったと両親は語る。72万ドル相当のダイヤが無くなっていると聞いたエミリーは、「盗んだのなら重犯罪。良くあることよ」と告げる。ようやくレビが口を開き、「貴方の世界では良くあることでも、ここでは違う」と述べた。レビの息子であるアリエルは、最後にヤコブを見たのは自分だろうとエミリーに告げた。
作業場に移動したエミリーは、ヤコブの父から「取引は契約書も無く、握手だけで済ませる」と説明を受けた。さらに彼は、ヤコブが結婚を控えて準備に追われていたことも語る。エミリーが「ヤコブは信仰を捨てて新しい人生に飛び込んだのだろう」と指摘すると、アリエルは有り得ないと否定した。エミリーは自説を曲げず、「どんな正直者の心にも泥棒は潜んでる。あらゆる人生を見て来た」と言う。彼女は天井の血痕に気付き、ヤコブが殺されたと推理した。エミリーが天井裏を調べると、ヤコブの遺体が隠されていた。
エミリーはヤコブの知り合いが犯人だと確信するが、アリエルは「有り得ない。ハシド派は決して人を殺さない」と反論した。守るべき戒律が大量にあることを聞き、エミリーは驚いた。彼女はレビに、「ここで一緒に暮らしたい。犯人は貴方たちの顔見知りで、信頼も得ている人物です。捕まえるには近付かないと無理です」と訴えた。レビは難色を示すが、「1人を殺せるなら何人でも殺せる」とエミリーは次の殺人が起きる可能性を示唆した。
レビはアリエルとレアの意見を聞いた上で、掟に従うことをエミリーに約束させた。エミリーはアリエルとレアに同行し、ヤコブの家を訪れた。マーラはアリエルから「ヤコブは君を深く愛していた。残念だ」と慰められ、涙をこぼした。自分たちのはレアに質問し、彼女とアリエルが両親を交通事故で亡くしていること、妻子を収容所で亡くしたレビの養子になったことを知った。レアから刑事になった理由を訊かれた彼女は、父親が警官だったと話した。
エミリーは「私は自分のやりたいことをやってる。自立した女性よ」と言い、「貴方は将来、何になりたいの」とレアに尋ねた。「良い妻と母親に」とレアは答え、エミリーが「それだけ?」と困惑すると「他に大切なことが?」と口にした。エミリーはオリヴァーに、連絡員が欲しいと頼む。ユダヤ人のレヴィンは「あいつらはユダヤの恥だよ」とハシド派への嫌悪感を示すが、オリヴァーが連絡員に指名すると渋々ながら承諾した。彼がハシドを馬鹿にすると、エミリーは不快感を覚えた。
エミリーはマーラに刑事だと打ち明け、周囲には内緒にするよう頼んだ。ハシド派の宝石店にギャングのバルデザリ兄弟が現れ、レアが応対した。兄弟はヤコブの事件を口にして、「あんな事件は俺たちが二度と起こさせない」とショバ代を要求した。彼らは1週間の猶予を与え、店を後にした。向かいの建物から店を張り込んでいたレヴィンは、バルデザリ兄弟の写真を撮影した。彼は兄弟を調査し、その資料をエミリーに渡した。レヴィンに口説かれたエミリーは、冷たくあしらった。
エミリーは久々に父を訪ね、外食に誘う。約束があるので無理だと断られた彼女は、ニックが犯人に刺されて怪我をしたと話す。父は彼女に、自分たちの頃とは違う刑事の待遇を皮肉めいた口調で羨ましがった。「もし私が死んだら、どうする?」とエミリーが尋ねると、父は「分からんよ。ただ、立派な警察葬を出してもらう」と答えた。父は娘の様子がおかしいと感じて「どうしたんだ?」と訊くが、エミリーは何も言わずに去った。
翌朝、ハシド派の人々が朝食の支度をしていると、外でマーラの悲鳴が上がった。慌てて皆が駆け付けると、マーラは「2人の男が車から降りて来て、私を殴った」と漏らした。エミリーはオリヴァーに連絡し、24時間のパトロールを要請した。マーラは彼女の事情聴取を受け、犯人の顔は見ていないこと、ヤコブと歩いていた時に尾行されたと感じたこと、その時と同じ黒い車だったことを証言した。エミリーは話を聞き、バルデザリ兄弟の仕業だと確信した。
レヴィンの調査によって、バルデザリ兄弟がヤコブと大きな取引をしていたこと、黒い車を所有していること、ボスに睨まれていることが判明した。彼は盗聴のための裁判所命令も取り付けており、エミリーに署名させた。レビが開いた会食の席でアリエルの婚約が発表され、皆が祝福した。その夜、エミリーはアリエルと2人になり、婚約者について尋ねた。アリエルはシーナという女性でフランスにいること、父親はフランスの偉大なレビであることを語る。まだ手紙や電話だけで会ったことは無いと聞いたエミリーは、「親に勧められたらどんな相手でも結婚するの?」と責めるように尋ねる。アリエルは「彼女は運命の相手だ」と答え、ラビの教えについて説明する。エミリーは激しく突っ掛かり、自分に惚れているのだろうと指摘した…。監督はシドニー・ルメット、脚本はロバート・J・アヴレッチ、製作はスティーヴ・ゴリン&シガージョン・サイヴァッツォン&ハワード・ローゼンマン、製作総指揮はサンディー・ガリン&キャロル・バウム、共同製作はスーザン・ター&ロバート・J・アヴレッチ、製作協力はリリス・ジェイコブズ、撮影はアンジェイ・バートコウィアク、美術はフィリップ・ローゼンバーグ、編集はアンドリュー・モンドシェイン、衣装はゲイリー・ジョーンズ&アン・ロス、音楽はジェリー・ボック。
主演はメラニー・グリフィス、共演はエリック・タル、ジョン・パンコウ、トレイシー・ポラン、リー・リチャードソン、ミア・サラ、ジェイミー・シェリダン、デヴィッド・マーギュリーズ、バート・ハリス、ジェームズ・ガンドルフィーニ、クリス・ラッタ、ジェイク・ウェバー、ローイー・レヴィ、デヴィッド・ローゼンバウム、エド・ロジャース三世、モーリス・シェル、アイラ・ルービン、フランソワ・グランヴィル、レナ・ソファー、シフラ・レラー、エレノア・レイサ、ジェームズ・ラヴレット、ジャック・ギル他。
『ファミリービジネス』『Q&A』のシドニー・ルメットが監督を務めた作品。
脚本は『ボディ・ダブル』『スパイメーカー』のロバート・アヴレッチ。
エミリーをメラニー・グリフィス、アリエルをエリック・タル、レヴィンをジョン・パンコウ、マーラをトレイシー・ポラン、レビをリー・リチャードソン、レアをミア・サラ、ニックをジェイミー・シェリダン、オリヴァーをデヴィッド・マーギュリーズ、エミリーの父をバート・ハリス、バルデザリ兄弟をジェームズ・ガンドルフィーニ&クリス・ラッタが演じている。最初はハシド派を全く理解していないどころか、相手の神経を逆撫でするような言動を繰り返していたヒロインが、次第に興味を抱いて深く知ろうとする、素晴らしい人々だと感じるようになるという展開を描いているつもりなんだろう。
しかし実際には、上手く描けているとは到底言い難い。
っていうか潜入捜査を決めた時点から、急に「素晴らしい面々」と切り替わっている感じなのよね。
たぶんアリエルの言葉がきっかけという設定だろうけど、「彼の発言が心に響いた」ってのも全く説得力が無いし。エミリーがハシド派に感化されて自分を反省するという流れも、まるで描けていない。理由は簡単で、いかにハシド派の教義や生き方が素晴らしいかってのを充分にアピールできていないからだ。
エミリーが深い悩みを抱えていて、そんな心の隙間に上手い具合にハシド派の教えが入り込んだ、ハシド派の教えで救われたってわけでもないし。
エミリーにとってハシド派の暮らしは新鮮で、何もかもが興味深い、みたいな感じで描いているわけでもないし。
大量の掟があって守るのも大変だろうに、そこでの苦労は全く感じさせないし、嫌になったりもしないけど、それも理解不能だし。エミリーはハシド派り性的なことに対する厳しい戒律を、初めて本部を訪れた時点で理解しているはずだ。
にも関わらず、彼女がアリエルを口説いたり誘惑したりするような言動を取るのは、相手を困らせて楽しんでいるようにしか見えない。
後半に入って「アリエルに惚れていた」ってことが明らかにされるが、それはそれで「どのタイミングで、どこに惚れたんだよ」と言いたくなるし。
たぶん前述した「潜入捜査を決めるきっかけとなった発言」で惚れた設定なんだろうけど、「どこに?」と首をかしげたくなるだけだ。エミリーが父を訪ねるシーンは、どういう意図で盛り込まれているのかサッパリ分からない。
エミリーはニックのことを、なかなか切り出せないが、その理由は不明だ。そのために外食に誘ったりして、ようやくニックの怪我について話す。
犯人は逮捕したと言うと、父は「さすがワシの娘だ。ワシらの頃には、怪我をすると病院のボロ部屋に押し込められた。治って出て行くか、そこで死ぬかは根性次第だ。それが今では警官が負傷すると、どのチャンネルでも取り上げられる。映画化の話が持ち上がり、大金が転がり込む」などと皮肉めいたことを言う。
この時点で、「何を見せられているのか」と思ってしまう。その後、エミリーは「もし私が殺されたら、どうする?」と質問する。もちろん唐突な質問なので父親は戸惑い、何か様子が変だと感じて「どうしたんだ?」と問い掛ける。
エミリーは何も言わずに立ち去るが、ホントに「どうしたんだ?」と言いたくなるわ。
どういう気持ちで、そんなことを質問したのか。きっかけも見当たらないし、さっぱりわからんのよ。
後になって「父は私に名誉の殉職を望んでいる」とアリエルに話すけど、そんな風には見えなかったし。婚約発表の夜、アリエルはエミリーと2人になると「銃を使ったことはある?人を殺したことは?どんな気持ち?」などと質問する。
だが、急にそんなことを知りたがる理由は全く分からない。「自分の身は自分で守れと、僕らはラビに教わった。だが1人を殺せば宇宙を滅ぼすのと同じだとも教わった」と語る理由も謎。
その後、エミリーはカバラを読ませた後、シーナとの結婚に反対するようなことを言い出す。やたらとアリエルに突っ掛かって、「愛はどうなるの?」とか「夫や子供はいなくても情熱はある」とか「結婚しなくてもセックスは出来る」とか言う。
もうね、何のつもりなのかと。掟だから結婚せずにセックスは出来ない掟があるいうアリエルに、エミリーは「お気の毒ね。人生の大いなる悦びも知らないなんて」とイライラする。アリエルに欲情して、セックスしたいと思ってるのかよ。
自分に惚れているんだろうと指摘するのも、思い上がりにしか思えないし。そこまでの流れの中で、アリエルがエミリーに好意を寄せていると感じさせるシーンなんて皆無なんだから。
逆にエミリーがアリエルに惚れていると感じさせるシーンも、同様なんだけどさ。
ところが本当に2人は惚れ合っていて、終盤にはキスも交わすんだよね。
だけど、そのロマンスは内容が浅すぎて、ただ陳腐なだけだよ。あと、そういうのって、事件の捜査と何の関係も無いんだよね。そして無関係であるだけでなく、「関係があるのではないか」と思わせるミスリードの効果も持っていないし。
ちなみに事件の完全ネタバレを書くと、犯人はマーラ。彼女はハシド派の信徒を装っていただけで、犯行の目的は金という陳腐さ。
そんなフーダニットのミステリーはお粗末だし、それと関係ない人間ドラマの部分も粗い。そりゃあコケるのも当然だろう。
ネタが『刑事ジョン・ブック/目撃者』に類似しているからってのは、何の言い訳にも出来ない失敗作だ。(観賞日:2025年7月10日)
第13回ゴールデン・ラズベリー賞(1992年)
受賞:最低主演女優賞[メラニー・グリフィス]
ノミネート:最低助演女優賞[トレイシー・ポラン]
<*『嵐の中で輝いて』『刑事エデン/追跡者』の2作での受賞>