『刑事ジョー/ママにお手あげ』:1992、アメリカ

ロサンゼルス市警の刑事ジョー・ボモウスキーは麻薬の密売人に成り済まして取引現場に赴き、相棒トニーと共に悪党を逮捕した。仲間とバーに出掛けたジョーは、母トゥッティーに電話をする。だが、トゥッティーは家にいるにも関わらず、電話に出なかった。翌日、ジョーは恋人である上司の警部補グウェンから、「なぜ電話してくれなかったのか」と責められる。ずっと母に電話をしていたと釈明するジョーだが、グウェンは信用せず、怒って「別れましょう」と言い出す。
ジョーはトゥッティーを出迎えるため、空港へ赴いた。すると飛行機を降りてきた人々は、ジョーを見てクスクスと笑った。トゥッティーが機内で、ジョーの子供時代の恥ずかしい思い出をベラベラと喋り、写真を見せまくっていたのだ。トゥッティーは今でもジョーを子供として扱い、大勢の人が見ている前でもベタベタと抱き付いてキスをした。
ジョーはトゥッティーを車に乗せて帰宅する途中、ビルから男が飛び降りようとしている現場に遭遇する。ジョーはビルに上がり、自殺を思い留まるよう男を説得しようとする。その時、トゥッティーが警察のメガホンを借り、男に向かってジョーのことを話し始めた。彼女は周囲の野次馬に対しても、ジョーのことをベラベラと喋る。自殺する気を無くした男は、さっさとビルを下りて行った。残されたジョーは、誤って自殺志願者としてテレビのニュースで紹介された。
トゥッティーは夜中に大きな音で掃除機を掛け、ジョーの眠りを妨げた。翌日、まだジョーが眠っている間に、トゥッティーは銃を水洗いして壊してしまった。トゥッティーはジョーに銃をプレゼントしようと考え、ダウンタウンの銃砲店に出掛けた。しかし、入手には手続きのために2週間も掛かると言われ、トゥッティーは店を出る。すると、銃の密売人が彼女に声を掛けてきた。トゥッテイーは密売人2人組のバンに赴き、幾つか商品を見た後で一丁の銃を購入する。
その様子を、銃の密輸商人パーネルの手下ポーリーとモンローが見ていた。密売人の売っている銃は、パーネルの元から盗まれた物だったのだ。トゥッテイーがバンから去るのと入れ違いで、ポーリー達の車がやって来た。ポーリー達は銃を発砲し、密売人の1人が死亡した。残る1人は逃亡し、ポーリー達も去った。その一部始終を、トゥッティーは目撃していた。
事件の目撃者として警察署に赴いたトゥッティーは、ジョーの抵抗も虚しく滞在期間が延びることとなった。トゥッティーはお節介にも、ジョーとグウェンの関係に口出しをする。トゥッティーから「昇進のために一緒に捜査しましょう。事件の全てをグウェンには話していない」と言われるが、「今の生活に満足している」と答える。夜、ジョーは嫌な夢を見て飛び起きた。事件現場にトゥッティーが姿を見せて「オムツを替えに来た」と言い、自分を見るとオムツ姿になっているという内容だった。
ジョーはトゥッティーからプレゼントとして銃を渡され、非合法の商品を購入したことを知って驚いた。トゥッティーは警察の事情聴取に応じるが、担当刑事のロスに対してマトモに証言しようとしない。ジョーはトニーに、トゥッティーが購入した銃の出所を探るよう頼んだ。トゥッティーはジョーに、発砲した男や車について正確な情報を教えた。
ジョーはトゥッティーを車に乗せ、逃げた密売人ミッチェルの家へ向かう。すると室内では、ポーリーとモンローがミッチェルの恋人を脅していたところだった。ポーリー達が逃げ出したため、ジョーはトゥッティーの運転する車で追跡する。しかしトゥッティーは赤信号で停止したり道を外れたりした挙句にゴミ収集車に突っ込み、ポーリー達に逃げられてしまった。
ジョーは入手した情報によって、事件の黒幕がパーネルだと確信した。パーネルは倉庫の火事で銃器類を損失したとして保険金を受け取っていたが、実は銃器類は無事だった。そして、その一部をミッチェル達が盗み出したのだ。ジョーはパーネルの表稼業のオフィスを訪れる、探りを入れる。パーネルはポーリー達に、ジョーとトゥッティーを始末するよう命じた…。

監督はロジャー・スポティスウッド、脚本はブレイク・スナイダー&ウィリアム・オズボーン&ウィリアム・デイヴィース、製作はアイヴァン・ライトマン&ジョー・メジャック&マイケル・C・グロス、製作総指揮はジョー・ワイザン&トッド・ブラック、撮影はフランク・タイディー、編集はマーク・コンテ&ロイス・フリーマン=フォックス、美術はチャールズ・ローゼン、衣装はマリー・フランス、音楽はアラン・シルヴェストリ。
出演はシルヴェスター・スタローン、エステル・ゲティー、ジョベス・ウィリアムズ、ロジャー・リース、マーティン・フェレロ、ゲイラード・サーテイン、デニス・バークレイ、J・ケネス・キャンベル、アル・ファン、エラ・ジョイス他。


『ターナー&フーチ/すてきな相棒』『エア・アメリカ』のロジャー・スポティスウッドが監督を務めたコメディー映画。
ジョーをシルヴェスター・スタローン、トゥッティーをエステル・ゲティー、グウェンをジョベス・ウィリアムズ、パーネルをロジャー・リース、モンローをマーティン・フェレロ、ポーリーをゲイラード・サーテイン、ミッチェルをデニス・バークレイ、ロスをJ・ケネス・キャンベルが演じている。他に、ヴィング・レイムスが刑事役で、リチャード・シフが銃砲店の店主役で出演している。

シルヴェスター・スタローンは、アーノルド・シュワルツェネッガーが『ターミネーター』でブレイクした辺りから、アクション俳優として何かと比較されることが多かった。スライの『コブラ』とシュワルツェネッガーの『プレデター』という刑事映画が、近い時期に公開されるということもあった。
そんなライバルのシュワルツェネッガーが、1988年の『ツインズ』でコメディーに挑戦した。結果、映画はヒットし、シュワルツェネッガーはコメディーも出来る俳優としても幅を広げることとなった。

それにライバル心を刺激されたのか、スライも1991年に『オスカー』でコメディーにチャレンジした。スライは、それがコメディーへの初挑戦だったわけではない。『ロッキー』でアクション俳優として脚光を浴びるまでに、1971年の『ウディ・アレンのバナナ』にアンクレジットだが出ている。『ロッキー』以降も、1984年の『クラブ・ラインストーン/今夜は最高!』でコメディーをやっていた。ただし『クラブ・ラインストーン』は低評価で、それ以降はコメディーから遠ざかっていた。
久しぶりのコメディー挑戦となった『オスカー』は、見事にコケた。だが、スライは諦めなかった。今度は『ツインズ』の監督だったアイヴァン・ライトマンの製作する映画で、再びコメディーに挑んだ。それが、この作品だ。
しかし前作以上に酷評を浴び、スライは再びアクション映画路線へ戻っていった。後にスライ自身、これが俳優人生で最悪の映画だと証言している。

俳優には、向き不向きというものがある。ただし、私は「スライはコメディー映画に絶対に合わない」とは思っていない。そうではなく、彼はコメディー俳優としての芝居が不向きだったのだ。極度のマザコンでアタフタしたり情けない様子を見せまくるという、「コメディー俳優としての、リアクションの多い芝居」が不向きだったのだ。
コメディー映画に出演するにしても、タフでハードボイルドなキャラに徹して、それに周囲が突っ込んだり、翻弄されたりするという形を取れば、スライにも居場所はあると思う。スライの固定されたイメージを逆手に取って利用すればよかったのだ。スライが目指すべきはシュワルツェネッガーの真似事ではなく、『ハード・ウェイ』のジェームズ・ウッズのような形ではなかったか。

ようするに、この映画にはスライが合わなかったということだ。ただし、仮にスライではなく別の俳優が主演していたとしても、やはり映画としてはダメだったと思う。
まずトゥッティーが単なるウザいだけのオバサンになっている場面が多いし、事件捜査と恋愛に対するトゥッティーの関与のバランス、事件と恋愛のシーンの並べ方も上手く行っていない。
ロマンスへの意識が傾きすぎており、そのせいで「マザコン刑事とお節介ママ」という変なコンビが凶悪事件を捜査するという面白味(いや大して面白くなっていないけど)を生かし切れていない。また、ロマンスに関するシーンを挟みすぎるせいで、事件を捜査する流れもブツブツと切れまくっているし、悪党の印象も薄くなっている。
仮にシュワルツェネッガーが主演したとしても、あるいはコメディー系の俳優が主演したとしても、やはりシナリオの問題で厳しいモノがあったような気がする。


第13回ゴールデン・ラズベリー賞

受賞:最低主演男優賞[シルヴェスター・スタローン]
受賞:最低助演女優賞[エステル・ゲティー]

ノミネート:最低脚本賞


第15回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:作品賞

 

*ポンコツ映画愛護協会