『スパイス・ザ・ムービー』:1997、イギリス
スパイス・ガールズは、英国の人気女性グループ5人組。今日も忙しいスケジュールをこなしている。スタジオの外に出れば、大勢のファンが待ち構えている。スパイス・ガールズのドキュメンタリー・フィルムを撮影しているピアズは、5人を追っ掛けている。
スパイス・ガールズは、マネージャーのクリフォード、サブマネージャーのデボラと共に、デニスが運転するスパイス・バスに乗り込んだ。再びファンの前に姿を現した5人は、土曜日にロイヤル・アルバート・ホールで世界中継されるライブを行うと発表する。
スパイス・ガールズはスタジオに入り、ライブのリハーサルを始める。妊娠中の友人ニコラの訪問で休憩を取るが、すぐにクリフォードがリハの再会を促す。もちろん彼女達はリハーサルだけに集中るのではなく、写真撮影など他の仕事もこなさねばならない。
スパイス・ガールズの人気を当てこんで、金儲けを考えている面々がいる。主演映画の企画を考え、クリフォードに売り込む者もいる。5人の記事で売り上げを伸ばすタブロイド誌は、数々のスクープをモノにしてきたパパラッチのダミアンを雇い入れた。
スパイス・ガールズは業界人の集まるパーティーに出席したり、ミラノでテレビの特番に出演したり、ファンの宇宙人と出会ったりしながら、スケジュールをこなしていく。久しぶりに取れるはずだった休みは、チーフのゴリ押しで仕事に変更されてしまった。
世界中継ライブの前日、勝手な行動をマスコミにキャッチされたスパイス・ガールズに対し、クリフォードは非難を浴びせる。売り言葉に買い言葉で、5人は「明日のライブに出るか出ないかは自分達で決める」と告げて、その場を立ち去ってしまった…。監督はボブ・スピアーズ、原案はスパイス・ガールズ&キム・フラー、脚本&製作協力はキム・フラー、製作はウリ・フラクトマン&バーナビー・トンプソン、共同製作はピーター・マッカリース、製作総指揮はサイモン・フラー、撮影はクライヴ・ティックナー、編集はアンドレア・マッカーサー、美術はグレンヴィル・ホーナー、衣装はケイト・カリン、音楽はポール・ハードキャッスル。
出演はエマ、メラニー・C、ジェリ、メラニー・B、ヴィクトリア、リチャード・E・グラント、アラン・カミング、ロジャー・ムーア、ジョージ・ウェント、クレア・ラッシュブルック、マーク・マッキニー、リチャード・オブライエン、
エルヴィス・コステロ、ボブ・ゲルドフ、ボブ・ホスキンス、エルトン・ジョン、ジョナサン・ロス、
ミート・ローフ、ジェイソン・フレミング、スティーヴン・フライ、リチャード・ブライアーズ、ヒュー・ローリー、ケヴィン・アレン、バリー・ハンフリーズ、クレイグ・ケリー他。
当時の人気女性ポップ・グループ、スパイス・ガールズが主演した映画。スパイス・ガールズのエマ、メラニー・C、ジェリ、メラニー・B、ヴィクトリアが本人役を演じ、クリフォードをリチャード・E・グラント、ピアズをアラン・カミング、チーフをロジャー・ムーアが演じている。
分かりやすく言えば、アイドル映画である。
分かりにくく言おうとしても、やっぱりアイドル映画である。
「スパイス・ガールズが出ている」というのが最大のセールス・ポイントで、その次に「エルヴィス・コステロやボブ・ゲルドフ、ボブ・ホスキンス、エルトン・ジョン、ジョナサン・ロスなどが本人役でゲスト出演している」というトコロが来る。もちろん、オープニング・ロールからスパイス・ガールズの5人が登場して歌っている。リハーサル会場や店の中、番組のセットなどでも歌うシーンがある。最後は当然、ロイヤル・アルバート・ホールでのライブシーンが用意されている。BGMも彼女達の歌だ。
キャラクターの描き分けとか、キャラクターを立たせるとか、そんなことは全く考える必要が無い。スパイス・ガールズの5人のキャラクターなんて、ファンなら既に承知している。本人役を演じているのだから、今さらキャラクターを説明する必要など無い。そう、これはスパイス・ガールズのファンに向けて作られた映画だ。
ファン以外で観賞するのは、映画評論家を除けば余程の物好きぐらいだろう。
だから、スパイス・ガールズのファンが喜ぶ作りになっていれば、それで何の問題も無いのである。
映画の中身がどうとか、芝居がどうとか、そんなのは熱狂的ファンにとって何の意味も持たない。中身がヘロヘロでも、「5人が様々な衣装に着替えるのが良かった」と言えてしまうのがファンだ。芝居が下手でも、「可愛かった」と思えるのがファンだ。この映画は酷評されたが、それは人気のあるグループに対しての、やっかみも入っているのだろう。「こんなロクに芝居も出来ない奴らが、なんで映画に主演できるんだ」ということなんだろう。思いっきりコテンパンに叩かれるというのは、それだけビッグスター扱いされたという証拠だ。小物であれば、最初から相手にされないのだから。
だが、やっかみなど必要無かったのだ。どうせ彼女達の人気は、あっという間に萎むブームだったのだから。解散した後、彼女達はパッとしない。
この映画を叩いた人は、悔しがっているかもしれない。
「こんな小物を相手にマジになってしまったのか」と。考えてみれば、あのザ・ビートルズだってアイドル映画に主演していたのだ。
しかし、そのザ・ビートルズの映画『ビートルズがやってくる/ヤア!ヤア!ヤア!』や『HELP! 四人はアイドル』を酷評する声は、あまり聞かれない。だから、この映画にしても、何年か経てばポップなカルト映画として評価が高まる可能性はゼロではない。
大きな問題は、「ザ・ビートルズは音楽史に残るほどの世界的なスーパースターだったが、スパイス・ガールズは全く比べ物にならない。ほんの一瞬だけ売れたグループで、その証拠に解散した後は全員がパッとしないじゃん」ってことだろう。
スーパースターなら許されても、スパイス・ガールズ程度では無理ってことなんだな、きっと。
第19回ゴールデン・ラズベリー賞
受賞:最低主演女優賞[スパイス・ガールズ(5人合わせてもダメ女優1人分の才能しか持っていないグループ)]
ノミネート:作品賞
ノミネート:ジョー・エスターハス最低脚本賞
ノミネート:最低助演男優賞[ロジャー・ムーア]
ノミネート:最低スクリーンカップル賞[誰か2人の登場人物、どれか2つの体のパーツ、またはアクセサリーの組み合わせ]
ノミネート:最低新人賞[スパイス・ガールズ]
ノミネート:最低オリジナル歌曲賞「Too Much」第25回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:25周年最低ミュージカル賞
第21回スティンカーズ最悪映画賞
受賞:【最悪の作品】部門
受賞:【最悪の主演女優、あるいは演技の真似事をする英国の歌手グループ】部門[スパイス・ガールズ]ノミネート:【最悪の演出センス】部門[ボブ・スピアーズ]
ノミネート:【最悪のヘアスタイル】部門[スケアリー・スパイス]
ノミネート:【最悪の歌曲】部門「Spice Up Your Life」