『キャノンボール/新しき挑戦者たち』:1989、カナダ

ランボルギーニを猛スピードで走らせるドナートは、数台のパトカーに追跡される。エドセル警察本部長はパトカーで行く手を塞ぐが、ドナートは道を外れて逃走した。彼はパトカーを撒き、キャノンボールの参加者が集まっている大会前日のパーティー会場に到着した。彼はメカニックである兄のヴァレンティノに車の整備を任せ、会場であるホテルに入った。会場ではリポーターのジャック・オニールとヘザー・スコットがテレビ中継を始めている。前年の優勝者であるシークは取材を受け、今年も参加することを語った。
駐車係のチャーリー・クローナンがテレビを見ていると、友人のレオ・ロスがミスコンBMWのティファニーを連れて現れた。チャーリーは高慢なレオから馬鹿にされても文句を言わなかったが、駐車場内で彼の車を暴走させた。ただしチャーリーは見事な運転技術を持っており、傷一つ付けなかった。レオは腹を立てるが、チャーリーが強気な態度を取るとおとなしくなった。一方、パーティー会場のトイレでは、自動車工学の専門家であるリー・ロバーツとマーガレットが会話を交わしていた。2人は注目を集めて新技術をアピールするため、娼婦のような恰好に変装していた。
ヴィック・デルビスは会場で飲んでいたアレック・スチュワートを見つけると、「お前を殺す」と告げた。「ボスのウォーリーは殺せと言わなかったはずだ。勘違いしたんだ」とヴィックは笑って誤魔化そうとするが、アレックは彼を睨み付けた。リーとマーガレットはガス・ゴールドという男に接触し、警官の服装まで判別するレーダー探知機を売り込んだ。「機械を持って部屋まで来てほしい」と言われたリーは嫌がるが、マーガレットが承諾した。
アレックはヴィックに「ボスが欲しいのは5万ドルか、俺の命か。あのジャガーが優勝すれば、大金が手に入る」と言い、レースに賭けていることを明かす。ヴィックは「懲りないな」と呆れるが、アレックは「オッズは百倍だ。必ず勝つ」と口にした。リーとマーガレットが部屋に行くと、ガスは風呂に入って裸になっていた。役者志望の女を口説いていたシークは、酔い潰れて倒れ込んだ。エドセルは警官隊を率いてホテルへ突入し、レース参加者を一斉検挙した。
ヘザーが荷物をまとめて帰ろうとすると、ジャックは「まだ終わっていない」と告げた。アレックはトイレへ逃げ込むが、アレックに発見されて殺されそうになる。そこへアレックの友人であるクライヴ・バリントンが来て、レースが予定通りに決行されることを告げた。彼が「しかしレーサーがいないんだ」と言うと、アレックは「15年前にアルバニアのグランプリで2着に入った」と述べた。レオはレーサー候補に次々と断られ、チャーリーに話を持ち掛けた。「おまえは親友だ」と言われたチャーリーは嬉しくなり、仕事を快諾した。ガスはリーとマーガレットからレーサーとして売り込まれ、難色を示す。しかし彼女たちが車を暴走させたので、雇うことにした。
翌朝、スタート地点であるホテルに到着したチャーリーは、同乗者がいることをレオから聞かされて「1人で運転するのが条件だ」と渋る。しかし現れたのがティファニーだったので、チャーリーは態度を変えた。レオは妻帯者だが、ティファニーに「離婚の手続き中だ」と告げて同居を持ち掛けていた。ミスコン優勝やテレビ出演で尽力してもらった弱みを彼に突かれ、ティファニーは困り果てた。ヴィックはアレックをレースに参加させて大金を手に入れるため、ボスに電話を掛けて「逃げられた」と嘘をついた。
ジャックはヘザーに、「局長が許可した。レースを中継する」と告げる。ヘザーが怪しむと、ジャックは局長に電話して確認を取ったかのように見せ掛けた。ジャックとヘザーは、五輪のスキー競技で金メダルを獲得した大富豪のネルソンとランドルフのヴァン・スローン兄弟がレースに参加するのを知った。ドナートが来ないことでヴァレンティノが困っていると、警官のフラッシュが現れた。彼は運転席に乗り込み、「みんなに追い付くぞ」と告げて車を発進させた。
ゴールである西海岸のサンタモニカを目指して、参加者たちは車を走らせる。リーとマーガレットは装置を使って信号機を勝手に切り替え、アレックは警察に電話を掛け、犯罪に関わっているという偽情報を流して参加者の車を検挙させる。ヴァン・スローン兄弟は飛行機を利用し、悠々とゴールするプランを立てる。エドセルは側近のホイットマンから提案され、イメージ戦略用に子犬を抱いた写真を撮影する。そこへキャノンボールが開催されているという知らせが入り、彼は「粉砕してやる」と息巻いた。
ティファニーが車の故障や事故ばかり心配するので、チャーリーは「幾ら心配しても防げない。異常だぞ。息が詰まる」と声を荒らげる。「君はクヨクヨと考えすぎる。もっとリラックスしろ。深呼吸するんだ」と言われたティファニーは指示に従うと、そのまま眠り込んだ。ローリンという少女は知人男性のベンソンに同乗してもらい、車の運転を教わっていた。レース中の外国車に次々と遭遇したベンソンは敵対心を見せ、追い抜くようローリンに命じた。
船着き場に到着したアレックは、他の参加者を足止めするために担当者を買収しようとする。しかし担当者が拒否したので、ヴィックが殴って気絶させた。フラッシュはヴィックに追い付かれるが、スピードを上げて引き離す。チャーリーは大型トラックに追い掛けられ、車がオーバーヒートを起こす。チャーリーはヒーターを回してエンジンの熱を放出し、トラックを振り切った。エドセルは対策本部を設置し、他の道路を全て封鎖して州道70号線にキャノンボーラーを誘い込む計画を説明した。
ジャックは道路封鎖の警官に「この先の橋が落ちました」と言われるが、何かあると睨んで強行突破した。しかし本当に橋が落ちており、危うく川へ突っ込みそうになった。ヴィックとアレックはレストランの前に停めてあるランボルギーニを発見し、怒りに任せて破壊する。しかし、それはマイケル・スピンクスの車だったので、2人は慌てて逃げ出した。ベガスを満喫したヴァン・スローン兄弟がロス行きの飛行機に乗り込むと、ブルック・シールズが偉そうな態度で客室乗務員として働いていた。ハイジャック犯が暴れ出したので、機長たちが取り押さえる。しかし飛行機は滑走路を外れて主翼が折れたため、機長は道路を走らせてロスへ向かった…。

監督はジム・ドレイク、脚本はマイケル・ショート、製作はマーレイ・ショスタック、共同製作はヴィヴィアン・リーボッシュ、製作総指揮はアルバート・S・ラディー&アンドレ・モーガン、撮影はフランソワ・プロタ&ロバート・サード、編集はマイケル・エコノム、美術はリチャード・ハドリン、衣装はポール=アンドレ・ゲラン、音楽はデヴィッド・ウィートリー。
出演はメロディー・アンダーソン、ピーター・ボイル、ドナ・ディクソン、ジョン・キャンディー、ユージン・レヴィー、ティム・マシスン、ザ・スマザース・ブラザーズ、シャーリー・ベラフォンテ、ジョー・フラハティー、マット・フルーワー、ミミ・カジク、ジェイミー・ファー、ドン・レイク、アリッサ・ミラノ、ジョン・シュナイダー、ブルック・シールズ、マイケル・スピンクス、リー・ヴァン・クリーフ、ハーヴェイ・アトキン、ブライアン・ジョージ、アート・ヒンドル、ルイス・デル・グランデ、カール・ルイス他。


『キャノンボール』シリーズの第3作。 原題は「Speed Zone」だが、前2作で製作総指揮を務めていたレイモンド・チョウが「Presents」として携わり、プロデューサーだったアルバート・S・ラディーが製作総指揮を務めた正式な続編だ。
監督は『ポリスアカデミー4/市民パトロール』のジム・ドレイク。
脚本は、即興コメディー劇団“セカンド・シティー”(ジョン・キャンディー、ユージン・レヴィー、ジョー・フラハティー、マーティン・ショートなどが所属していた)のテレビ番組でライターを務めていたマイケル・ショートが担当。これが映画脚本は初めて。
ちなみにマーティン・ショートの兄。

シリーズの前2作からは、シーク役のジェイミー・ファーだけが続投。
リーをメロディー・アンダーソン、エドセルをピーター・ボイル、ティファニーをドナ・ディクソン、チャーリーをジョン・キャンディー、レオをユージン・レヴィー、ジャックをティム・マシスン、ヴァン・スローン兄弟をザ・スマザース・ブラザーズ、マーガレットをシャーリー・ベラフォンテ、ヴィックをジョー・フラハティー、アレックをマット・フルーワー、ヘザーをミミ・カジク、ホイットマンをドン・レイク、ドナートをジョン・シュナイダー、ローリンをアリッサ・ミラノ、水切りの老人をリー・ヴァン・クリーフが演じている。
他に、ブルック・シールズ、ボクシング元世界王者のマイケル・スピンクス、陸上界の大物であるカール・ルイスが、本人役で出演している。
アンクレジットだが、「キング」の愛称を持つNASCARドライバーのリチャード・ペティーが本人役で出演している。

香港のゴールデン・ハーベスト社が手掛けた1作目と2作目は、オールスター映画として作られていた。
ただし、あくまでも「レイモンド・チョウが考えるオールスター」だったので、シリーズ1作目は実のところ「オールスター映画」と呼ぶには厳しい陣容だった。
最初に表記されるのはバート・レイノルズ、ロジャー・ムーア、ファラ・フォーセット、ドム・デルイーズ、ディーン・マーティン、サミー・デイヴィスJr.、ジャック・イーラムの8名だが、その当時の人気スターと呼べるのは、バート・レイノルズ、ロジャー・ムーア、ファラ・フォーセットの3人ぐらいだった。
ディーン・マーティンやサミー・デイヴィスJr.は大物ではあるが、「当時の人気スター」というイメージではない。
ジャッキー・チェンやマイケル・ホイも出演していたが、香港や日本ではともかく、アメリカでは知名度なんて全く無かったし。

それでも1作目がヒットしたことを受けて、2作目の顔触れは豪華になった。
1作目のバート・レイノルズ、ディーン・マーティン、サミー・デイヴィスJr.が続投し、ロジャー・ムーアとファラ・フォーセットは消えたがシャーリー・マクレーン、マリル・ヘナー、テリー・サヴァラス、フランク・シナトラ、リカルド・モンタルバンといった面々が加わった。
ハリウッドの有名スターとして活躍していたオランウータンも、メンバーに加わった。

さて、そんな2作と今回の3作目を比較すると、大幅にキャストの格が落ちている。
「オールスターとは呼べない」と表現した1作目と比べても、雲泥の差がある。そうは言っても1作目の場合、前述した3名は間違いなく「当時の人気スター」だったのだ。
しかし今回の映画で、果たして「その当時の一線で活躍しているトップスター」が何人いるのかと言うと、ひいき目に見ても『スペースボール』や『大混乱』のジョン・キャンディーぐらいだろう。
他の出演者は、『フラッシュ・ゴードン』『ゾンゲリア』のメロディー・アンダーソンにしても、『ヤング・フランケンシュタイン』『アウトランド』のピーター・ボイルにしても、『スパイ・ライク・アス』のドナ・ディクソンにしても、『スプラッシュ』『私立ガードマン/全員無責任』のユージン・レヴィーにしても、それなりに知名度や人気はあっただろうが、トップスターとは言い難い。
列挙した出演作も、全て主演ではないしね。

『アニマル・ハウス』『メル・ブルックスの大脱走』のティム・マシスンも、『宇宙からのツタンカーメン』のシャーリー・ベラフォンテも、やはりスターとは言えない。
マット・フルーワーは『電脳ネットワーク23/マックス・ヘッドルーム』、ジョン・シュナイダーはTVシリーズ『爆発!デューク』で主演を務めていたが、やはり人気スターとは呼べないだろう。
リー・ヴァン・クリーフは『夕陽のガンマン』や『復讐のガンマン』などに出演する西部劇スターだったが、「往年のスター」であって当時のトップスターではない。
本人役で登場するブルック・シールズやカール・ルイスの方が、メインの面々よりもスター性があるという困った状態になっている。

この映画は「オールスターキャスト」というトコロで思考が半ば停止しているので、キャスティングが著しく弱いという段階で、もはや負け戦は決まったようなものだ。
もちろん、1作目&2作目とは違って、「中身の面白さで勝負しよう」という意識があったのなら、それは決して悪いことではない。
しかし出演者の顔触れが前2作より大幅に落ちているだけでなく、中身の方も前2作よりもデタラメっぷりが増しているので、救いようが無いのである。

オールスター映画の場合、「それぞれのスターの見せ場が用意されている」ということが必要不可欠な要素になる。
ぶっちゃけ、「スターが存在感を発揮する」というだけで成立しているようなモノなので、そのスターにマッチするシーンを用意するか否かってのが何よりも重要となる。
しかし本作品の場合、そもそもスターが揃っているわけじゃないので、主要メンバーに見せ場を与えたところで、「だから何なのか」ってことになってしまうのだ。
単なる「スターの見せ場」としてのシーンではなく、それ自体に面白味がある中身であれば問題は無いのだが、つまらないんだからシオシオのパーである。

1作目にしろ2作目にしろ、レース映画としての醍醐味は皆無だったので、そこは本作品にも全く期待していない。だから、そこの魅力が欠けているのは一向に構わない。
ただ、「じゃあ他に何があるのか」と問われた時に、何も見当たらない。
あえて言うなら、ブルック・シールズが自虐的なネタを言うシーンぐらいだろうか。
1作目ではロジャー・ムーア、2作目ではリチャード・キールが007シリーズのセルフ・パロディーを担当していたが、今回は似たような仕事をブルック・シールズが受け持ったわけだ。

一番に登場するんだからドナートは主要キャラの1人だろうと思っていたら、会場へ入ったところで役目を終えてしまい、レースには全く関与しない。
チャーリーを登場させるタイミングは、一斉検挙の後にした方が構成としてはスッキリする。
パーティー会場に警官隊を突入させたエドセルだが、レーサーだけを検挙して終わりにする。だから関係者の多くは逮捕されずに残っており、翌日には平然とレースを決行する。
そんなことは予期できそうなものなのに、エドセルはレースが開始されるまで全く知らない。
レースのスタートはダラダラしており、いつの間にか車が出発している。

チャーリーのターンでは、運転手の見えない大型トラックが追って来るという『激突!』っぽいネタを盛り込んでいる。
しかし、ただ単に追い掛けられるだけで、パロディーでも何でもない。
並行して「チャーリーが火の付いた煙草をティファニーの脚の間に落としてしまい、拾おうとしたら彼女が目を覚ます」という様子も描くが、ティファニーの誤解はチャーリーの説明で簡単に解消されるし、それとトラックの追突は何の関係も無い。

1作目と2作目では、ジャッキー・チェンの格闘シーンを用意していた。流れには全く乗っていなかったが、とりあえず「見せ場」としての意味合いは感じられた。
しかし今回はアクション系の俳優が出演していないので、そっち方面の見せ場を用意することが出来ない。
格闘シーンってのは映像的に分かりやすく盛り上げることの出来る要素なので、そこを失ったのは地味に痛い。
そのせいで、最後まで締まりのある展開を用意できず(まあ前2作の格闘シーンも、そんなに締まったわけじゃないけど)、グダグダのままゴールに到達する。

(観賞日:2016年1月2日)


第10回ゴールデン・ラズベリー賞(1989年)

受賞:最低助演女優賞[彼女自身を演じたブルック・シールズ]

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低監督賞[ジム・ドレイク]

 

*ポンコツ映画愛護協会