『スノーホワイト』:2012、アメリカ

マグナス王とエレノア王妃の間に誕生したスノーホワイトは、美しい容姿と強い意志を持つ少女に成長し、人々から愛された。エレノアが 病死し、マグナス王は悲しみに暮れた。そんな中、王国は不気味な軍勢の攻撃を受けた。兵を率いて戦いに赴いたマグナス王は、敵の軍勢 を打ち破った。マグナス王は敵に捕まっていたラヴェンナという女性を発見し、その美しさに心を奪われた。彼は妻を亡くした悲しみを 忘れ去り、翌日にはラヴェンナを新しい王妃として迎え入れた。しかし魔女だったラヴェンナはマグナスを殺害し、弟のフィンが率いる 軍勢を引き入れて城を占領した。
スノーホワイトの幼馴染であるウィリアムは、父であるハモンド公爵に連れられて城から脱出した。スノーホワイトは兵に捕まった。 ラヴェンナは魔法の鏡を城へ運び込み、「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰?」と問い掛ける。すると鏡から出現した精霊は「貴方 です。間もなく他の王国も貴方に従うでしょう。貴方の力と美しさは永遠です」と述べた。ラヴェンナの支配下に置かれた国は、どんどん 衰退していった。スノーホワイトは北の塔に幽閉され、時が過ぎた。
ある日、グレタという少女が塔に連行され、スノーホワイトの向かいの牢に入れられた。スノーホワイトが尋ねると、ハモンドの城へ行く 途中、村の娘たちが全て捕まったという。スノーホワイトはウィリアムのことを尋ねるが、何も分からないという。フィンはハモンドの 部下の親子を捕まえ、ラヴェンナの元へ連行した。息子は剣を奪って突き刺すが、ラヴェンナは死ななかった。彼女は息子の心臓を素手で 掴み、殺害した。そして父親には軍へ戻って自分のことを話すよう指示し、解放した。
ラヴェンナは老いを感じ、力が薄れていくことを恐れていた。フィンは「これを使うといい」と言い、グレタを用意した。ラヴェンナは グレタの精気を吸い取り、若さを取り戻した。彼女が鏡に「この世で一番美しいのは誰?」と問い掛けると、「貴方です。しかし、やがて 貴方を超える者が現れ、貴方の力は消えうせます。その者はスノーホワイトです。しかし彼女の心臓を手に入れれば、二度と年を取らなく なります」という答えが返って来た。
ラヴェンナはフィンに、スノーホワイトを連れて来るよう指示する。しかしスノーホワイトは隠し持っていた釘でフィンの顔を攻撃し、牢 から脱出した。グレタの牢に近付くと、彼女は老女になっていた。スノーホワイトは城から抜け出し、兵に追われ、闇の森へ逃げ込んで 意識を失った。ラヴェンナはフィンに、「闇の森では力が出ない。森に詳しく、あの娘を捕まえられる者を見つけよ」と命じた。
フィンは町へ行き、妻を亡くして酒に溺れている猟師エリックを城へ連行した。ラヴェンナが「森へ行って囚人を連れ戻せ。褒美をやる」 と告げると、エリックは「あの森に入った者は死ぬ。死んでから貰っても意味が無い」と拒否した。しかしラヴェンナが「死んだ妻に、 もう一度会いたくないか。私の力を知っているだろう?娘を連れて来れば、妻を戻してやる」と持ち掛けると、彼は承諾した。
エリックはフィンたちを案内して、森に入った。目を覚ましたスノーホワイトは逃げ出すが、エリックに捕まった。「助けて、王女に心臓 を取られる」と彼女が懇願していると、フィンが部下を連れて駆け付けた。スノーホワイトの引き渡しを要求されたエリックは、「先に 約束を果たせ。妻はどこだ」と告げた。するとフィンは「姉は多くの力を持つが、使者を蘇らせることは出来ない」と言い放つ。エリック は激怒してフィンたちを攻撃し、その間にスノーホワイトは逃げ出した。
エリックはスノーホワイトを追うが、剣を奪われて殴られると、「もういい、アンタから離れる」と言って立ち去ろうとする。「待って。 軍のいる公爵の城まで行きたいの」とスノーホワイトが言うと、彼は鼻で笑って「百姓と女たちしかいない」と告げる。スノーホワイトは 「私には価値があるわ。連れて帰らないと殺されるんでしょ。幾ら欲しいの」と言い、報酬を支払うことを持ち掛けた。エリックは彼女 との取引を承諾した。
息子を殺されたハモンドの部下は城へ戻り、「ラヴェンナは素手で息子を殺した。剣で刺されても死なない。それと、王女は生きている」 と報告した。戦いの地から戻ったウィリアムは、スノーホワイトが生きていて森へ逃げ込んだことを聞かされた。彼はスノーホワイトを 捜しに行こうとするが、ハモンドは息子が命令に背いて戦いに出向き、多くの兵を失ったことを咎めた。「これ以上の部下を失うことは 許されない」と彼が言うと、ウィリアムは「一人で行くよ。二度も彼女を見捨てられない」と城を出発した。彼は素性を隠してフィンと 接触し、弓の使い手として同行することになった。
エリックはスノーホワイトに短剣を渡し、「自分の身は自分で守れ。襲われたら腕を上げてブロックし、敵が近付いたら心臓に突き刺せ。 相手の目を見て、死んだと思うまで引き抜くな」と教えた。スノーホワイトが「出来ないわ」と言うと、彼は「選択の余地は無い」と口に した。2人は森の端でトロールと遭遇し、慌てて逃げ出した。エリックは戦いを挑むが、襲われて気絶した。しかしスノーホワイトが大声 で叫ぶと、トロールはおとなしく退散した。
スノーホワイトとエリックは川で女たちと会い、船に乗せてもらう。彼女たちの村へ行くと、男は一人もいなかった。その集落で初めて、 エリックはスノーホワイトの正体を知った。女たちの顔には傷があった。スノーホワイトはアンナという女から、「女王は醜い者に興味が 無いから、顔に傷を入れているの」と聞かされる。エリックは夜中にこっそり去ろうとするが、アンナに見つかる。エリックは「彼女は ここにいる方が安全だ」と告げ、村を後にした。
エリックが去った後、フィン一味が村に来て火を放った。スノーホワイトと村の女たちは、慌てて逃げ出そうとする。火の手に気付いた エリックは村へ舞い戻り、スノーホワイトを連れて逃亡する。2人はビースやミュアーといった8人のドワーフに捕まり、殺されそうに なる。しかしスノーホワイトがマグナスの娘だと知り、彼らは態度を変えた。
フィン一味が来たため、ドワーフはスノーホワイトとエリックを連れて逃走する。彼らはサンクチュアリと呼ばれる妖精の森へ、2人を 案内した。翌朝、目を覚ましたスノーホワイトは、妖精に手招きされる。スノーホワイトが歩いて行くと、ホワイトハートと呼ばれる白い 鹿が待っていた。エリックとドワーフたちは、スノーホワイトの後を追って様子を観察した。ホワイトハートがスノーホワイトにお辞儀 する姿を見たドワーフたちは、「スノーホワイトは国を癒やせる唯一の存在だ。我々は彼女に付いて行く」と語った。
サンクチュアリに潜入したフィンの部下が矢を放ち、ホワイトハートが撃たれる。スノーホワイトはドワーフのガスと共に逃亡し、他の 面々は別行動を取って一味と戦う。スノーホワイトを追って来たのは、ウィリアムだった。フィンはエリックを刺し、彼の妻を殺したこと を得意げに明かす。しかしエリックは反撃し、フィンを殺害した。ガスはスノーホワイトを庇って敵の矢を受け、命を落とした。
スノーホワイトたちはハモンドの城へ向かうため、雪山に入る。スノーホワイトが一人でいると、ウィリアムがやって来た。ウィリアム から優しく話し掛けられ、スノーホワイトは彼にキスをする。ウィリアムがリンゴを差し出すと、スノーホワイトはそれをかじった。 その途端、スノーホワイトは苦悶する。それは毒リンゴだったのだ。ウィリアムは偽者で、ラヴェンナの化けた姿だった…。

監督はルパート・サンダーズ、原案はエヴァン・ドーハティー、脚本はエヴァン・ドーハティー&ジョン・リー・ハンコック&ホセイン・ アミニ、製作はジョー・ロス&サム・マーサー、共同製作はサラ・ブラッドショー、製作協力はローリー・ボッカチオ、製作総指揮は パラク・パテル&グロリア・ボーダーズ、撮影はグレイグ・フレイザー、編集はコンラッド・バフ&ニール・スミス、美術はドミニク・ ワトキンス、衣装はコリーン・アトウッド、視覚効果監修はセドリック・ニコラ=トロヤン&フィリップ・ブレナン、音楽はジェームズ・ ニュートン・ハワード。
出演はクリステン・スチュワート、シャーリーズ・セロン、クリス・ヘムズワース、サム・クラフリン、イアン・マクシェーン、ボブ・ ホスキンス、レイ・ウィンストン、ニック・フロスト、サム・スプルエル、トビー・ジョーンズ、エディー・マーサン、ジョニー・ハリス 、ブライアン・グリーソン、ヴィンセント・リーガン、リリー・コール、リバティー・ロス、ノア・ハントリー、クリス・オビ、 レイチェル・スターリング、ハッティー・ゴートゥーベッド、ラフィー・キャシディー他。


グリム童話の『白雪姫』を基にした作品。3部作として企画され、これが1作目に当たる。
スノーホワイトをクリステン・スチュワート、ラヴェンナをシャーリーズ・セロン、エリックをクリス・ヘムズワース、ウィリアムをサム ・クラフリン、ビースをイアン・マクシェーン、フィンをサム・スプルエルが演じている。
監督はコマーシャルのディレクターとして活動していたイギリス人のルパート・サンダースで、これが長編映画デビュー作。エレノアを 演じたリバティー・ロスと結婚し、子供もいるが、この映画の撮影で出会ったクリステン・スチュワートと浮気した。
映画の中身より、そっちのゴシップの方が、話としては面白い。

まず序盤、スノーホワイトが監禁されてクリステン・スチュワートに成長するまでのシーンが退屈。ナレーションベースで短く処理されて いるのに、それでも退屈を感じてしまう。
例えば、国王軍と不気味な軍勢の戦闘シーンは要らない。映像的に見栄えのするシーンで観客を引き付けたいという狙いがあったのかも しれんが、筋書きだけを考えると、まるで必要性が無い。
そもそも、その軍勢の目的って何なのよ。
ラヴェンナが捕虜に成り済ましていたってことは、彼女が国王に近付くための罠って解釈すべきなんだろうけど、えらい手間の掛かる罠 を仕掛けたもんだな。

あと、国王は妻を亡くした直後にラヴェンナと出会い、翌日には結婚って、どんだけ軽薄なのかと思っちゃう。
それは「魔女のパワーで魅了された」と解釈すべきなのかもしれんよ。ただ、そんなパワーがラヴェンナにあるのなら、捕虜に成り 済まして云々という作戦なんて使う必要は無いんじゃないのかと思っちゃう。
ラヴェンナが幼いスノーホワイトに「私も幼い頃に母を亡くした。母親代わりにはなれないかもしれないけど、貴方と私は心で繋がって いるの」と優しく話し掛ける様子も要らない。
「優しいと思っていたら、まるで違っていた」という風に見せたところで、『白雪姫 』が原作なんだから、ラヴェンナが悪い魔女だって のは大多数の観客が分かっているわけで、そんなとこに何のサプライズも無いんだから。

ラヴェンナはマグナスに「私もかつて、貴方のような王によって破滅させられた。年老いた女王の代理を務め、やがてお払い箱になった。 男は女を利用するだけ利用して、ゴミのように捨てる。永遠の若さがあれば世界を手に入れられる」と語っている。
後になって、死んだ母から仇討ちを頼まれたことも回想として挿入される。
だけど、それがメインのストーリーに全く絡んで来ない。
だったら、そんな余計なことを言わせず、単純に「王国の支配を企む魔女」ってことでいいんじゃないの。
「永遠の若さがあれば世界を手に入れられる」というのはどういうことか、良く分からないけど。

順番に、丁寧に筋書きを追い掛けていることによって、かなりシリアスな雰囲気が漂う。
でも、そのせいで、兵士たちが大きな鏡を城へ運び込み、「ラヴェンナが魔法の鏡に向かい、自分の美しさについて問い掛ける」という シーンが来た時に、ものすごくマヌケに見えてしまうんだよね。そこだけがバカバカしいモノとして浮いてしまうのだ。
あと、時間を掛けて丁寧に描いてしまうと、「なんでラヴェンナはスノーホワイトを殺さず、ずっと監禁しているのか」というところで 疑問を感じちゃうし。
そこで疑問を抱かせないように、序盤は勢いでダダッと駆け抜けちゃった方がいいと思うんだが。

大体さ、国王を殺して城を乗っ取った奴が最初にする行動が、なんで「この世で一番美しいのは誰?」と鏡に問い掛けることなのかと。
自分の美しさよりも、もっと他に気にすべきことがあるんじゃないかと言いたくなってしまうのよ。
既に王国を乗っ取り、完全に掌握して数年が経過している、という状況下であれば、何よりも美しさを気にしている、というのも 分からないではないんだけどね。
いっそのこと、スノーホワイトが既に監禁されているところから話を始めて、後から「これまでに、こういう経緯がありました」ってのを セリフで軽く説明する程度に済ませても良かったんじゃないかな。

「クソ丁寧に経緯を描こうとする」ってのは、その後にも見られる。 スノーホワイトが牢を抜け出して城の外に出たら、すぐに闇の森へワープしてもいいぐらいなんだけど、「兵に見つかり、地下水路へ滑り 込み、そこから荒れる海へダイブし、フィンが兵隊を差し向け、スノーホワイトは陸に上がり、白馬にまたがり、近くの町を通り抜け、 闇の森に辿り着く」というのを、丁寧に描くのよね。
それ、無駄だわ。
あと、なんで海辺で都合よく白馬が一頭だけ休んでいるんだよ。だったら、「牢を抜け出したスノーホワイトが城で白馬を見つけ、 それに乗って逃走する」という流れにでもしておけよ。

スノーホワイトの城からの逃走劇を丁寧に描いているのは、サスペンス・アクションとして盛り上げたいという意識があったのかもしれん けど、盛り上がらんよ。
だって、白雪姫が原作なんだから、姫が森へ逃げて7人の小人と遭遇するのは分かってる。つまり、そこで彼女が敵に捕まることは絶対に 無いと分かっている。
その予想を裏切るような意外な展開が待っているのなら、そこを丁寧に描写するのもいいだろう。だけど、やっぱり捕まらないん だからさ。
だったら、城から白馬で脱出し、場面を切り替え、フィンがラヴェンナに報告して叱責され、「スノーホワイトが闇の森へ逃げ込んだので 、うかつに追い掛けることも出来ず」とでも釈明し、場面を森に切り替え、そこでスノーホワイトのターンに移るという流れにでもして おけばいいんじゃないか。
あと、その逃走の過程で、スノーホワイトは老女になったグレタを置き去りにするし、白馬が沼にハマったら置き去りにして逃げ出すけど 、なんか薄情な奴に見えちゃうぞ。

スノーホワイトより先にラヴェンナを登場させちゃうってのも、得策とは思えないんだよな。
ラヴェンナが美女じゃなければ何の支障も無いけど、なんせシャーリーズ・セロンだからなあ。
っていうか、彼女が魔女、クリステン・スチュワートが姫という配役の段階で、もう厳しいモノがあるよなあ。ミスキャストっていうこと じゃなくて、その関係で2人を共演させることが、厳しいんじゃないかと。
シャーリーズ・セロンを魔女役に起用するなら、彼女と対等に勝負できるような若手をスノーホワイト役に使わないと厳しい。クリステン ・スチュワートをヒロインにするなら、魔女に美人女優として人気のある人は避けた方がいい。。

大体さ、ラヴェンナが鏡に「世界で一番美しいのは誰」と尋ねたら、「貴方だけど、やがてスノーホワイトが貴方を超える」と言うん だけど、つまりクリステン・スチュワートの方が美しいという扱いになっているんだけど、「そうでもないだろ」と思っちゃうん だよね。
ここでいう「美しさ」ってのは、何よりも「若さ」ということが大きな要素を占めているんだろうとは思うよ。
ただ、この映画だと、クリステン・スチュワートの若さが、武器になっていないんだよな。
話が進む中でどんどんラヴェンナが年老いていくので、そうなると確かに、彼女よりスノーホワイトの方が美しいってことになるけどさ。 ただ、ラヴェンナって若い娘の精気を吸い取れば元の姿に戻れるはずなのに、なんでグレタ以降は若い娘を捕まえて精気を吸い取ろうと しないのかねえ。

クリステン・スチュワートって演技力がそんなにあるわけじゃないので、そういう意味でも、スノーホワイトにはヒロインとしての魅力が イマイチなんだよね。
一方、ラヴェンナはなぜか、卑劣だったり残酷だったりという行動をあまり取らず、自分でも言うように、中途半端に慈悲深さが あるんだよね。
もっと彼女の醜悪な部分を際立たせないと、余計に「美しい魔女」としての魅力が目立ってしまう。
もっと徹底して、あくどい奴にしておかなきゃマズいでしょ。
国民が彼女に虐げられたり、辛い目に遭っている様子が無いのね。

人々がラヴェンナの力を恐れて暮らしているのかと思ったら、少なくともエリックは全くビビっていないし、だから恐怖ゆえの忠誠心も 全く持ち合わせていない。
ってことは、「魔女に忠実に従っていたけど、スノーホワイトの美しさや純真さに打たれて寝返る」という筋書きは使えなくなる。
そもそも魔女への忠誠心が無いんだからね。
しかも金目当てってわけでもないから、「目的遂行への強い意志を持っていたが、スノーホワイトがその気持ちを変えさせた」という 筋書きが作れない。

でも、それじゃあ困るので、「死んだ妻に再会させてやる」という約束をラヴェンナが用意する。
これにより、任務を遂行するための強いモチベーションをエリックに与える。
ところが、フィンがあっさりと「死んだ人間の復活なんて無理」と明かしてしまうので、「そのままラヴェンナに従っていれば妻を 蘇らせてもらえるが、その願望を断ち切ってでもエリックがスノーホワイトに味方する」という筋書きが作れず、そこでの葛藤や強い決意 が生じない。
そうなると、もはやエリックが死んだ妻のことを引きずっているという設定は、ほぼ無価値なモノと化してしまう。それ以降も、彼が 死んだ妻のことを思うとか、死んだ妻とスノーホワイトへの思いで揺れるとか、そういうことは全く無いんだし。
それと、この映画ではエリックって単なる捜索係ではなく、スノーホワイトを愛のキスで蘇らせる役割を与えられているんだけど、そう なると、亡くしたことで酒に溺れるぐらい妻への強い愛を持っていた奴が、あっさりと他の女に心を奪われるのは、それでいいのかと 思ってしまう。

それと、エリックを恋の相手として設定するのなら、ウィリアムって要らないんじゃないかと。
登場させるにしても、頼りがいが無いとか、情けない奴だとか、そういうことならともかく、勇敢に戦っているし。
原作の「王子様」というだけで結婚相手になっちゃうようなペラペラのキャラじゃなくて、「一人で行くよ。二度も彼女を見捨てられない 」と強い意志で捜索に向かうし、序盤にスノーホワイトと幼馴染で優しい奴というキャラも描かれているし、スノーホワイトは牢にいる時 もウィリアムのことを気にしている。
そこまで描くなら、ウィリアムを恋の相手にしておいた方がいいんじゃないかと思うぐらいだ。

ところが、そう思った直後、ウィリアムはフィンの一味に同行する。
それでも、「彼らを利用してスノーホワイトを見つけ出す」ということが狙いだろうから、まだその時点ではOKだ。ところが、 ウィリアムはフィン一味が川辺の村を襲撃する時、それに参加している。
そこで完全にアウトだ。
スノーホワイトは助け出したいけど、他の女たちはどうなっても構わないってことになってるからね。

しかし、じゃあエリックの方に、スノーホワイトの恋の相手としてウィリアムより勝っている部分があるのかというと、特に見当たらない 。せいぜい、脱出してからずっと一緒にいる、ということぐらいか。
しかも、エリックは村の襲撃に気付いて戻るけど、スノーホワイトが村人たちを助けようとしているのに、彼はスノーホワイトだけを 連れて逃げ出すのだ。
こいつもウィリアムと同じぐらい冷たいぞ。
しかも、スノーホワイトとエリックの「互いに相手への好意が芽生える」「ある出来事をきっかけに惹かれていく」といった恋愛模様の 描写が全く無いので、スノーホワイトがエリックのキスで目覚めても、まるで納得できない。
ウィリアムでダメなら、エリックでもダメなんじゃねえのかと思ってしまうのよ。
何しろ、スノーホワイトはラヴェンナの化けたウィリアムに自分からキスしているぐらい、彼に惚れている様子だったんだからさ。

トロールが暴れるが、スノーホワイトが叫ぶとおとなしく退散するというシーンがあるが、何だ、そりゃ。
後で、スノーホワイトが癒やしの力を持っていることが説明されているが、それと「叫んだらトロールがおとなしくなる」ってのは、能力 として合致してくれないぞ。
それと、スノーホワイトって癒やしの能力を持っているはずなのに、ガスが死んでも蘇らせることは出来ないし、その能力が物語の展開 に何も影響を及ぼしてくれない。
まあ、あれだけ森の中を歩き回っても全く汚れないんだから、それだけでもスゴい能力だけどね。

なぜかドワーフは登場した時には8人いて、ガスが殺されることで7人になるという、変な数合わせが行われる。
じゃあガスがそれだけの存在感を発揮しているのかというと、そんなことはない。
一応、ドワーフの中では彼だけ「スノーホワイトに頼んで一緒に踊ってもらう」というシーンが用意されているのだが、殺されるシーンが 到来した時に、「ああ、そのために、あのシーンがあったのね」と冷めた気持ちになっちゃう。
彼が死んでも、心に響くものが全く無い。

そもそも、そこでガスが殺されなきゃいけない必要性が全く無い。
たぶん「仲間が殺されたから、ドワーフたちは誇りを取り戻すために立ち上がることを決意する」というところで、きっかけとして 使いたいんだろう。
だけど、ドワーフはホワイトハートがスノーホワイトにお辞儀するのを見た時、スノーホワイトに付いて行くことを決めているわけだから 、戦うためのきっかけなんて、その後に用意しなくてもいいのよ。
あと、ちなみにホワイトハートって、出演シーンの描写も含めて『もののけ姫』のシシ神様にそっくりだ。

ラヴェンナがウィリアムに化けてスノーホワイトの前に現れ、毒リンゴを食べさせるというのは、もちろん原作のシーンを採用している わけだが、映画としての筋書きからすると、そこで彼女がわざわざスノーホワイトの元へ出向く必要性は無いんだよな。
あと、ウィリアムに化けてスノーホワイトが気を許しているんだから、毒リンゴを渡さなくても心臓は奪えたよな。
それと、毒リンゴで体の自由を奪ったら、さっさと心臓を奪い取れよ。
ダラダラとくっちゃべってるせいで、エリックたちに気付かれてるじゃねえか。

スノーホワイトを「男に守られ、王子様のキスで目を覚まして幸せになる女」という古いプリンセス像から「強い意志を持って戦う女性」 に変えているみたいだけど、そこが中途半端。
彼女が戦うのは、ほんのわずかで、自分から戦うことを決意するのは残り20分ぐらいになってからだ。
で、何の訓練も受けておらず、戦いを決意してから特訓を積んだわけでもないのに、なぜかスノーホワイトは普通に剣を使いこなし、戦士 のように戦っている。
そして、剣で刺されても死ななかったはずのラヴェンナは、彼女に刺されるとあっさりと死ぬ。
「それはスノーホワイトの特殊な力によるものだ」ということなのかもしれんが、なんかスッキリしないぞ。
スノーホワイトの持つ特殊な力についての描写が、まるで足りていないのでね。

(観賞日:2012年11月18日)


第33回ゴールデン・ラズベリー賞

受賞:最低主演女優賞[クリステン・スチュワート]
<*『スノーホワイト』『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part 2』の2作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会