『オーバー・ザ・トップ』:1987、アメリカ

トラック運転手のリンカーン・ホークは別れた妻クリスティーナに頼まれ、卒業式を終えた12歳の息子マイケル・カトラーを迎えに行った。家を出てから10年ぶりに息子に会ったリンカーン。彼は病気で手術をするクリスティーナの元へ、マイケルを送っていこうとする。
だが、金持ちである祖父ジェイソンに育てられたマイケルは、使い古したトラックで迎えに来たリンカーンに嫌悪感を示す。逃げ出そうとさえするマイケルだが、電話でクリスティーナに説得され、渋々ながらリンカーンのトラックに同乗することに。
リンカーンがマイケルを連れ去ったと知ったジェイソンは、部下にマイケルを連れ戻させようとする。ジェイソンは昔からリンカーンを嫌っており、リンカーンがクリスティーナとマイケルを捨てて家を出て行った原因もそこにあった。
旅の道中で立ち寄った食堂で、リンカーンはスマッシャーという男から腕相撲の勝負を挑まれる。リンカーンはアーム・レスリングの世界ではそれなりに名の知れた男だった。追い込まれながらも、リンカーンは腕相撲に勝利する。
リンカーンはマイケルにも、ゲームセンターにいた少年と腕相撲の勝負をさせる。1本目に負けてしまったマイケルは逃げ出そうとするが、リンカーンの言葉で諦めない気持ちを得る。そして2本目と3本目では見事に勝利する。
次第に親子の親交を深め合っていく2人。しかし、病院に到着すると、クリスティーナが既に死亡したという知らせが待っていた。マイケルはグズグズしているから間に合わなかったのだとリンカーンを非難し、ジェイソンの元へ帰って行く。
息子に会いたい一心でトラックごとジェイソンの屋敷に突入したリンカーンは逮捕される。面会に来たジェイソンの秘書は、マイケルの養育権を放棄するよう勧める。家さえ持たないリンカーンとの生活に不安を感じるというジェイソンの言葉を聞き、リンカーンは養育権を放棄することにした。
リンカーンは世界アームレスリング大会に出場する。厳しい予選を勝ち上がって行くリンカーン。その頃、マイケルはジェイソンが隠していた手紙の束を見つける。それはリンカーンがこれまでマイケルに送っていた手紙だった。マイケルは屋敷を抜け出し、リンカーンの元へと向かった…。

監督はメナハム・ゴーラン、原案はゲイリー・コンウェイ&デヴィッド・C・エンゲルバック、脚本はスターリング・シリファント&シルヴェスター・スタローン、製作はメナハム・ゴーラン&ヨーラム・グローバス、製作総指揮はジェームズ・D・ブルベイカー、製作協力はトニー・ムナフォ、撮影はデヴィッド・ガーフィンケル、編集はジェームズ・R・サイモンズ&ドン・ジマーマン、美術はジェームズ・L・ショップ、衣装はトム・ブロンソン、音楽はエディ・マニー&ジョルジオ・モロダー。
主演はシルヴェスター・スタローン、共演はロバート・ロッジア、スーザン・ブレイクリー、リック・ザムウォルト、デヴィッド・メンデンホール、クリス・マッカーティ、テリー・ファンク、ボブ・ビーティー、アラン・グラフ、ブルース・ウェイ、ジミー・キーガン、ジョン・ブレイデン、トニー・ムナフォ、ランディ・レイニー、ポール・サリヴァン、ジャック・ライト、サム・スカーバー他。


「腕相撲を中心とした映画を作る」という、およそトラッシュ映画の監督でも思い付かないようなことを(思い付いてもやらないようなことを)、メジャーの大作映画でやってしまった。
さすがはメナハム・ゴーラン&ヨーラム・グローバス。
さすがはシルヴェスター・スタローン。

それでも、例えばコミカルなタッチで描くのならば、その中に「可笑しいながらも感動させる」という展開を生み出すことは可能だったかもしれない。
しかし、この作品は暑苦しいほどにマジなのだ。
そこには、ドン・キ・ホーテでさえ持ち得なかったほどの、ムチャな勇気が存在する。

長きに渡って離れていた父子が絆を深め合っていくという筋書きは決して悪くないし、貧乏父さんがチャレンジするという筋書きも悪くない。その日暮らしの父親と、金持ちで優等生の息子という親子の対比だって、ベタベタではあるが、悪くはない。
しかし、肝心の父子関係の描写が甘すぎる。

序盤で息子の心が父親から離れていることをもっと描いておかないと、2人の心が近付いていく過程が生きてこない。最初の内は、もっと父親に対して息子が冷徹な態度を取ったり、反抗的な態度を取ったりすべきだろう。
勉強の面で優等生だからといって、態度まで優等生に描く必要は無かった。

甘ったれのお坊ちゃまに、父親が人生の厳しさや戦うスピリットを教えるという図式は、決して悪くはないのだ。しかし、2人が仲良くなるのが早すぎるし、後半はアーム・レスリングばかりが目立って父子関係の描写が隅に追いやられてしまう。

リンカーンがマイケルにトラックを運転させる場面がある。マイケルが父親の前で初めて笑顔を見せるという重要なシーンだ。しかし、その流れがギクシャクしているために、せっかくの見せ場がほとんど印象に残らない。
結局、シナリオが雑なんだね。

力が有り余っているのか、アーム・レスリングだけでは物足りなかったようで、無意味にスタローンが暴れたりするシーンもある。サミー・ヘイガーやロビン・サンダーを起用した音楽だけは印象に残るが、映画はそのレベルに達していない。


第8回ゴールデン・ラズベリー賞

受賞:最低助演男優賞[デヴィッド・メンデンホール]
受賞:最低新人賞[デヴィッド・メンデンホール]

ノミネート:最低主演男優賞[シルヴェスター・スタローン]

 

*ポンコツ映画愛護協会