『最凶赤ちゃん計画』:2006、アメリカ&カナダ
小人症であるチンピラのキャルが、刑期を終えて刑務所を出所した。車で迎えに来た相棒のパーシーは、10万ドルの報酬でダイヤを盗む仕事を犯罪組織のボスであるウォーケンから引き受けたことを説明した。一方、ダリルはレストランで妻のヴァネッサを待ち受け、妊娠の報告を期待する。しかしヴァネッサが「妊娠じゃないわ、昇進したの」と話すので、素直には祝福できなかった。ダリルは早く子供を欲しがっており、ヴァネッサが父親のポップスを同居させていることも煩わしく感じていた。
キャルはバッグに隠れて宝石店に侵入し、パーシーが店員の目を引き付けている間にダイヤを盗む。キャルはバッグに戻り、パーシーがそれを持って店を去ろうとする。だが、バッグに犬が紛れ込んでいたため、飼い主が「犬泥棒よ」と叫んだ。ダイヤが盗まれていることに店員が気付き、慌てて警察に連絡した。キャルとパーシーは車で逃走を図るが、駐禁のロックがタイヤに取り付けられていた。パトカーが駆け付けたため、2人は走って逃げ出した。
キャルとパーシーはコンビニに飛び込み、別れて行動することにした。警官が店に入って来たので、キャルはダリルと買い物をしていたヴァネッサのバッグにダイヤを忍ばせた。ダリルとヴァネッサは全く気付かず、店を後にした。警官たちが去った後、キャルとパーシーはタクシーを拾ってダリルたちの車を尾行した。ダリルが帰宅すると、ポップスは彼を馬鹿にする言葉を並べ立てた。ダリルたちの会話を盗み聞きしたパーシーは、「赤ん坊を欲しがってた」と含んだ笑みを浮かべた。
パーシーは嫌がるキャルを説き伏せ、彼を赤ん坊に変装させた。パーシーは駕籠に入れたキャルを玄関前に運んでチャイムを鳴らし、物陰から様子を窺う。外に出て来たダリルはキャルに気付き、ヴァネッサとポップスキャルを呼んだ。パーシーは預かるよう依頼する手紙を添えていたが、字も文章もメチャクチャなのでダリルはヤク中の親だと思い込んだ。ダリルはキャルを抱き上げて家に入れ、児童相談所に連絡するようヴァネッサに指示した。ヴァネッサは児童相談所に電話を掛けるが、週末は休みだった。
警察に連絡しようとダリルたちが言い出したので、慌ててキャルは泣き真似をする。しかし咳き込んでしまったため、ダリルとヴァネッサは病気を疑い、彼を病院へ連れて行くことにした。服を脱がせるとタトゥーが入っていたので、ダリルとヴァネッサは驚いた。医者は「風邪かもしれませんね」と言い、寝る前に熱を測るよう告げた。ダリルはヴァネッサに、「月曜までは面倒を見よう」と持ち掛けた。ヴァネッサは「無理よ」と尻込みするが、ダリルが説得した。
ダリルとヴァネッサが話している間に、キャルはバッグを盗んで逃げ出そうとするが、警備員に見つかった。警備員はキャルを抱き上げ、捜しに来たダリルとヴァネッサに引き渡した。ヴァネッサは「ママ」とキャルに言われ、嬉しそうに微笑んだ。一方、ウォーケンの元へ報告に赴いたパーシーは、「ダイヤは安全な場所にありますが、ちょっとした手違いがあって」と釈明した。ウォーケンは24時間の猶予を与え、「それ以降は手下のブルーノとロスコに任せる」と告げた。
ダリルとヴァネッサは友人のグレッグ&ブリタニー夫婦、ジミー&ジャネット夫婦らを家に招き、キャルを紹介した。しかし全く可愛くないので、友人たちは困惑した表情を浮かべた。キャルはオッパイの大きいブリタニーに欲情し、抱っこをせがんだ。何も気づかないブリタニーが抱っこすると、キャルは何度もオッパイに触れた。一行が帰る時には、ブリタニーに熱烈なキスをした。舌を入れて来たので、ブリタニーは驚いた。
ダリルとヴァネッサは熱を測るため、体温計をキャルの尻に突っ込もうとする。キャルは激しく抵抗するが押さえ付けられ、体温計を尻に入れられた。深夜にベビーベッドを抜け出したキャルは、ダイヤの入ったバッグを見つける。彼はパーシーに電話を掛け、迎えに来るよう指示した。そこへポップスがショットガンを構えて駆け付け、受話器を奪う。ダリルが来ると、ポップスは「こいつはコソドロだ」と言う。しかしダリルは全く相手にせず、「初めての夜で眠れなかったんだよ」と告げた。
翌朝、キャルはポップスの目を盗み、彼の朝食を盗み食いする。しかしポップスが「奴が盗み食いした」と訴えても、ヴァネッサは相手にしない。腹を立てたポップスは、ダイナーへ出掛けた。仕事があるヴァネッサは、ダリルにキャルの世話を任せて外出する。キャルは隙を見てフライパンを掴み、ダリルを殴って気絶させた。キャルはバッグを持って逃げ出そうとするが、ヴァネッサが戻って来た。キャルはダリルをソファーに運び、座っているように偽装した。
ヴァネッサに声を掛けられたダリルは意識を取り戻すが、キャルにフライパンで殴られたことには気付いていない。ヴァネッサはバッグを手に取り、すぐに出掛けて行った。ダリルはキャルを連れて、公園へ繰り出した。キャルはボールをバットで打ち、ダリルま股間に命中させる。さらに彼は、オモチャのロケットをダリルの股間に向けて発射し、オモチャの飛行機を飛ばして股間に命中させた。それでもダリルはグレッグとジミーに、「父親って楽しい」と充実感を語った。
公園にパーシーが来たので、キャルは「ダイヤはベビーバッグに入れた」と告げる。だが、グレッグとジミーのベビーバッグも並んでおり、どれか分からなくなった。パーシーの動きに気付いたブリタニーとジャネットは不審を抱き、「捕まえて」と叫んだ。パーシーは1つのベビーバッグを掴むと、慌てて逃げ出した。だが、それはグレッグのベビーバッグだった。キャルはダリルを蹴り飛ばし、車のキーを渡すよう要求した。彼は車を運転し、ダリルを置き去りにして逃走した。
ダリルは何者かがキャルと車を奪ったと思い込み、通り掛かった車に停止を求めた。彼は運転していた主婦に事情を説明し、同乗させてもらう。主婦は荒々しい態度で追跡を開始し、パトカーも暴走するキャルの車を追う。主婦が何度も余所見をするので、ダリルは冷や汗をかいた。警官隊の包囲網により、キャルは車を激突させて停止した。しかし駆け付けた警官隊は、犯人が逃げたと思い込んだ。ダリルは安堵し、キャルを優しく抱き締めた。
ウォーケンの元へ戻ったパーシーは、ベビーバッグを見せて「ダイヤを持ってきました」と報告する。だが、もちろんバッグの中にダイヤは無い。「もう少しだけ時間を下さい」とパーシーが頼み込むと、ウォーケンは承諾した。ウォーケンはブルーノとロスコに、「尾行して相棒を捜せ。ダイヤを見つけたら2人を始末しろ」と命じた。ダリルはグレッグたちに誘われ、キャルを連れてアイスホッケーの試合観戦に出掛けた。キャルは売り子にセクハラ発言をしたり客のビールを勝手に飲んだりするが、全てダリルの仕業に間違われた。
キャルは選手に物をぶつけるが、それもダリルの仕業だと誤解され、乱闘騒ぎに発展してしまった。キャルは選手に噛み付くが、すぐに投げ付けられ、何度も踏み付けられた。帰宅したダリルは、「パパになるには、まだまだだ」とヴァネッサの前で落ち込む。「この子の誕生日パーティーをしてあげよう」とダリルが提案するので、ヴァネッサは「いつが誕生日か分からないし」と困惑する。しかしダリルは「いいじゃないか、盛大にやろう」と言い、子供向けテレビ番組に出演しているキグルミのレックスを呼んでパーティーを開く…。監督はキーネン・アイヴォリー・ウェイアンズ、脚本はキーネン・アイヴォリー・ウェイアンズ&ショーン・ウェイアンズ&マーロン・ウェイアンズ、製作はキーネン・アイヴォリー・ウェイアンズ&マーロン・ウェイアンズ&ショーン・ウェイアンズ&リック・アルヴァレス&リー・R・メイズ、撮影はスティーヴン・バーンスタイン、編集はニック・ムーア&マイク・ジャクソン、美術はレスリー・ディリー、衣装はジョリー・ウッドマン、視覚効果監修はアレックス・ビックネル、音楽はテディー・カステルッチ、音楽監修はリサ・ブラウン。
出演はマーロン・ウェイアンズ、ショーン・ウェイアンズ、ケリー・ワシントン、モリー・シャノン、ジョン・ウィザースプーン、トレイシー・モーガン、ロックリン・マンロー、チャズ・パルミンテリ、デヴィッド・アラン・グリア、デイヴ・シェリダン、フレッド・ストーラー、ブリタニー・ダニエル、リンデン・ポーコ、ゲイブ・プリメンタル、アレックス・ボースタイン、ケリー・コフィールド・パーク、ダミアン・ダンテ・ウェイアンズ他。
『最終絶叫計画』『最‘新’絶叫計画』のウェイアンズ兄弟が手掛けた作品。
カルヴィンをマーロン・ウェイアンズ、ダリルをショーン・ウェイアンズ、ヴァネッサをケリー・ワシントン、荒々しい主婦をモリー・シャノン、ポップスをジョン・ウィザースプーン、パーシーをトレイシー・モーガン、グレッグをロックリン・マンロー、ウォーケンをチャズ・パルミンテリが演じている。
今回はウェイアンズ兄弟の甥であるダミアン・ダンテ・ウェイアンズが、ウィルソン巡査役で参加している。
アンクレジットだが、レックスのキグルミに入っている男の役でロブ・シュナイダーが出演している。カルヴィンはダイヤモンドを盗んでいるが、この映画は昔の映画からプロットを盗んでいる。
1954年に作られた7分の短編アニメーション『Baby Buggy Bunny』(バッグス・バニーが登場する作品の1つ。監督はチャック・ジョーンズ)と、大まかな内容が全く同じなのだ。許可を取ってリメイクしたわけではなく、完全に無断盗用だ。
M・ナイト・シャマランみたいにマイナー映画から拝借すればいいものを、よりによってチャック・ジョーンズ御大の作ったバッグス・バニーのアニメーション作品から盗んだので、すぐにバレた。
クエンティン・タランティーノみたいに愛がある盗用ならオマージュとして許されたのかもしれないが(そもそもタランティーノは拝借した元ネタの映画を自分から嬉々として喋るような人だしね)、全く愛が無いので糾弾された。『Baby Buggy Bunny』を実写で模倣しようという段階で、明らかに無理筋だ。
アニメであれば、「赤ん坊に見える強盗」ってのを表現することは出来る。それはキャラクター・デザインだけの問題ではなく、アニメというフィルターを掛けると許容範囲が広くなるという利点も関係している。
アニメでは大雑把な造形で人物を描写することもあり、「赤ん坊」と「大人」の顔のデザインの差がそれほど大きくないケースもあるのだ。
『Baby Buggy Bunny』は、それに該当する。しかし実際に「赤ん坊に見える大人」なんてのは、まず有り得ない。
どれだけ童顔でも、せいぜい小学生が限界だろう。小人症であっても、手足のサイズが赤ん坊とは異なるし、顔付きだって赤ん坊ってのは全く別物だ。
そこを「マーロン・ウェイアンズの顔を小人の体に映像で加工する」という形で表現しているのだが、誰が見たって赤ん坊ではない。
もちろん、わざとやっていることは分かるが、そこの「嘘」を多くの観客がすんなりと受け入れてくれるだろうという考えは、甘いんじゃないか。『Baby Buggy Bunny』でバッグス・バニーが強盗を赤ん坊と思い込むのは余裕で受け入れられるが、ダリルとヴァネッサがキャルを赤ん坊と思い込むのは甘受できない。
そこは「コメディー映画だから」という言い訳を用意しても、絶対に無理だ。
これがコント番組なら受け入れられたかもしれないが(日本だとザ・ドリフターズなんかが良くやっていた記憶がある)、映画では無理。
「普通なら絶対に赤ん坊だと信じないけど、ダリルとヴァネッサだけは信じてしまった特別な理由」でも用意しておけば別だけど。
っていうか、そういうのが必要だったんじゃないかと。
それを用意しないのは、手抜きに思えるぞ。最初に刑務所で懸垂しているカルヴィンの首から上だけを見せて、刑務所を出たところで初めて全身を写し出すというのは、「その顔から想像すると大柄だけど、実際は小人」というギャップで笑いを取るための演出だ。
で、そこでネタにしていることからも分かるように、カルヴィンの顔は明らかに「デカいオッサンの顔」なのだ。
決して童顔というわけではないし、ましてや赤ん坊になんて絶対に見えない。
だから、そこでネタに使っておきながら、なおかつ「赤ん坊に化けてもバレない」という使い方をするのは、分不相応に欲張りすぎているとしか感じない。そもそも、ダリルたちが赤ん坊を欲しがってたからって、「じゃあキャルが赤ん坊に成り済まして近付こう」というアイデアには無理がある。
ダリルたちが欲しがっているのは「自分たちの赤ん坊」であって、赤の他人の捨て子ではないのだから。
っていうか、「玄関前に捨てられている赤ん坊に変装する」ということであれば、別に夫婦が赤ん坊を欲しがっている設定である必要性など無いのだ。
性格や行動によっぽど問題のある奴でなければ、玄関前に赤ん坊が捨てられていたら、とりあえずは保護するだろう。立っている時のサイズを見た限り、キャルはパーシーの腰の高さほどの身長がある。
その時点で、もはや赤ん坊のサイズは明らかに超えているでしょ。
実際、ダリルがキャルを見つけて抱き上げた時も、どう見ても赤ん坊のサイズではない。
医者が診察しても、オッサンであることに全く気付かないというのも無理がある。
例えば「キャルが大人だと気付かれないように細工する」とか「医者がボケたジジイでマトモじゃない」とか、バレないための仕掛けが用意されていればともかく、何の対策も無いんだし。キャルが走って逃げ出そうとしたのに、それを見つけた警備員も、追い掛けて来たダリル&ヴァネッサも、全く違和感を抱かないってのも無理がある。
なんで赤ん坊がそんなスピードで走れるんだよ。おかしいだろ。
それ以降も、キャルはダリル&ヴァネッサの前で、ちっとも赤ん坊らしくない態度を色々と取る。「徹底して赤ん坊に成り切ろう」としているわけではない。平気で歩き回るし、勝手にポップスのクッキーを奪って食べる。
それ以外にも、赤ん坊らしからぬ行動を平気で取り、それを誤魔化そうという素振りも無い。
しかし、なぜかダリルとヴァネッサは全く不審を抱かず、キャルを可愛がるのだ。
それは腑に落ちない。あと、キャルは見た目が可愛くないだけじゃなくて、キャラクターとして可愛げが無いんだよな。
「キャルが赤ん坊らしからぬ言動を繰り返す」というところで笑いを取りに行っているんだろうけど、これっぽっちも笑えないのよ。むしろ不愉快な箇所も多い。
誕生パーティーでみんなが歌を歌っているところで感動している様子を見せるけど、その直前にはレックスに入っている男を罵倒していたクソ野郎だぜ。
レックスに何か非があるならともかく、そうじゃないのに。だから、そこで「キャルがみんなの優しさに触れて感動する」という展開を用意しても、あまりにも唐突すぎて受け入れられないのよ。
最終的に「キャルが改心し、ダリルたちを守るためにギャングと戦う」という展開に持って行きたいのなら、もっと早い段階でダリルたちの優しさに迷いや揺らぎが生じるとか、騙していることへの罪悪感を抱くとか、そういう手順を踏んでおくべきだ。
何の揺らぎも無く、その直前までは悪党まっしぐらだったのに、急に善人ぶっても、下手な段取り芝居にしか感じられないわ。(観賞日:2014年7月11日)
第27回ゴールデン・ラズベリー賞(2006年)
受賞:最低主演男優賞[マーロン・ウェイアンズ&ショーン・ウェイアンズ]
受賞:最低スクリーン・カップル賞[ショーン・ウェイアンズ&ケリー・ワシントンかマーロン・ウェイアンズのどちらか]
受賞:最低リメイク・盗作賞(1954年のバッグス・バニーのアニメ『Baby Buggy Bunny』の盗作)ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演男優賞[ロブ・シュナイダー]
<*『がんばれ!ベンチウォーマーズ』『最凶赤ちゃん計画』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低監督賞[キーネン・アイヴォリー・ウェイアンズ]
ノミネート:最低脚本賞
第29回スティンカーズ最悪映画賞(2006年)
受賞:【最悪のカップル】部門[ショーン・ウェイアンズ&マーロン・ウェイアンズ]
ノミネート:【最悪の作品】部門[ショーン・ウェイアンズ&マーロン・ウェイアンズ]
ノミネート:【最悪の演出センス】部門[キーネン・アイヴォリー・ウェイアンズ]
ノミネート:【最悪の主演男優】部門[マーロン・ウェイアンズ]
ノミネート:【最悪の脚本】部門
ノミネート:【最も痛々しくて笑えないコメディー】部門
ノミネート:【チンケな“特別の”特殊効果】部門