『キス&キル』:2010、アメリカ

失恋したジェンは、フランスのニースへ旅行に出掛ける両親に同行した。フランスへ向かう機内で過保護な両親がお節介を焼くので、彼女 は疲れてしまった。一方、CIA諜報員のスペンサーは、標的であるジャスパーの位置を確認して上司のホルブロックに知らせた。ホテル にチェックインしたジェンは、エレベーターで上半身裸のスペンサーと遭遇した。平静を装ってホテルを出ると、スペンサーが付いてきた 。彼はビーチへ行くのだという。
軽く会話を交わした後、スペンサーが「今夜、一杯どう?」と誘うと、ジェンは「そうね、他にやることもないし」と答えた。部屋に 戻った彼女は、「やった」と声を出して喜び、慌ててドレスを買いに出た。一方、スペンサーは海に潜り、隠してあった爆弾を発見する。 彼はクルーザーに侵入し、着陸しているヘリコプターに爆弾を設置した。彼は警備の男に発見されるが、始末して脱出した。
スペンサーとジェン、オープンカフェでデートする。ジェンは両親が通り掛かったため、慌てて身を隠した。ヘリが飛び立つのを目撃した スペンサーは、「ここを出よう。ニースを見せたい」とジェンに言う。立ち上がった直後、ヘリコプターは爆発した。2人はクラブへと 繰り出した。仕事を問われたスペンサーは、企業コンサルタントだと嘘をつく。ジェンを部屋まで送った彼はキスを交わし、「僕は人殺し なんだ。悪い連中を仕事で殺すんだ」と打ち明ける。だが、ジェンはベッドで眠り込んでいた。
スペンサーはジェンとデートをしている最中、ホルブロックの姿に気付いた。彼がベンチに残したガイドブックには、「墓地にて3時」と 掛かれた絵葉書が挟まれていた。墓地に赴いたスペンサーは、仕事から降りることを告げる。ホルブロックは「断ることは出来ない」と 言うが、スペンサーは無視して立ち去った。ジェンはスペンサーを両親に会わせた。スペンサーは彼女の父に「許してもらえるなら彼女と 結婚したい」と言い、OKを貰った。
3年後、スペンサーとジェンはアメリカの郊外で結婚生活を送っていた。スペンサーの誕生日が近付き、ジェンはニースへの旅行を計画 する。だが、スペンサーが「仕事が忙しいし」などと乗り気ではない態度を見せたので、その計画は取り止めになった。車を運転して仕事 に出掛けたスペンサーは、近所に住む夫婦マックとリリーからブロック・パーティーに誘われた。ジェンは上司のヌートバーから、会議 のためサンフンシスコへ行くよう頼まれた。
スペンサーは勤務する事務所へ行き、同僚ヘンリーや彼の妻オリヴィア、秘書のヴィヴィアンたちと会話を交わす。オフィスに届いた小包 を開けると、ガイドブックが入っていた。挟まっていた絵葉書には、暗号が記されていた。ジェンは親友のクリステンとアマンダに旅行が 取り止めになったことを話し、スペンサーが倦怠期に入っているのではないかと言われる。
スペンサーは暗号を解読し、ホルブロックが宿泊しているピーチ・プラザ・モーテルに電話を掛けた。ホルブロックは「言ったはずだ、 逃げられないと。仕事を持って来た。114号室だ。待ってるぞ」と告げる。ジェンの父が部屋に入って来たため、スペンサーは慌てて電話 を切った。ジェンの父は、絵葉書に気付いて手に取った。スペンサーがジェンの父に送られて自宅に戻ると、サプライズ・パーティーが 待ち受けていた。しかし電話のせいでスペンサーは楽しむことが出来ず、そんな様子に気付いたジェンは心配になった。
翌朝、昨夜のパーティーで飲みすぎたヘンリーは、夫婦の家で眠り込んでいた。ジェンはサンフランシスコへ出張するため、スペンサーに 見送られて家を出た。隣人のジャッキーが話し掛けて来るが、急いでいるので適当に切り上げた。起きて来たヘンリーは、いきなり スペンサーに襲い掛かった。スペンサーが格闘していると、ジェンが戻って来た。困惑する彼女に、スペンサーは拳銃を取って来るよう 指示した。スペンサーはジェンに命じて発砲させ、動揺したヘンリーの頭を叩き付けて気絶させた。
スペンサーはヘンリーを拘束し、ジェンに「こいつは僕を殺すよう雇われた」と告げる。ヘンリーは不敵に笑い、「お前の報奨金は 2000万ドルだ。他にもお前を狙う奴はいる」と言う。ジェンはスペンサーに説明を求めるが、外から誰かが発砲してきた。スペンサーは ジェンを連れて、車で逃げ出した。ヘンリーは拘束を解いて追跡し、マシンガンを乱射した。スペンサーはジェンを車から降ろし、「奴を 殺す」と言う。彼はヘンリーの車を転落させて始末した。
スペンサーはジェンに、自分が大勢の人間を殺した諜報員だったことを明かす。モーテルへ赴いた2人は、ホルブルックの死体を発見する 。スペンサーは腕時計に不審を抱き、それを奪って立ち去った。ジェンが「両親の元へ行きましょう」と持ち掛けると、スペンサーは強い 口調で「ダメだ」と拒否する。そこから言い争いになり、スペンサーは「君は全く親離れできてない。子供が出来てもそうするつもりか」 とジェンを責める。ジェンは反論しようとするが、吐き気に見舞われた。
ジェンはスペンサーと共に大型量販店へ行き、妊娠検査薬を購入することにした。スペンサーは店員のケヴィンが殺し屋ではないかと疑う が、それは単なる思い過ごしだった。スペンサーは本部と連絡を取り、「ホルブルックが死んで、彼のターゲットが自分を狙っている」と 説明する。だが、本部からの答えは、ホルブルックのターゲットは存在せず、彼の活動は中止されているというものだった。
スペンサーはヘンリーの雇い主を調べるため、ジェンを伴って事務所へ行く。ヘンリーのパソコンを調べると、2年前からの夫婦の写真が 何枚もフォルダに収納されていた。それを見たスペンサーは、撮影したのがジェンの父だと気付いた。ジェンは父親を疑われ、スペンサー に嫌味をぶつけた。ジェンがトイレで妊娠検査薬を使っている最中、スペンサーはヴィヴィアンに襲撃された。スペンサーは彼女を始末 した後、ジェンから妊娠したことを告げられる。ジェンが「私は母親になったけど、貴方はどうかしら」と冷たく言うと、「君を守るよ」 とスペンサーは返す。しかし「どうやって?」という問い掛けに答えられず、ジェンは「もう終わりよ」と車で去った…。

監督はロバート・ルケティック、原案はボブ・デローサ、脚本はボブ・デローサ&T・M・グリフィン、製作はスコット・ アヴァーサノ&アシュトン・カッチャー&ジェイソン・ゴールドバーグ&マイク・カーツ、共同製作はハーナニー・パーラ&カリン・ スペンサー・マーフィー、製作総指揮はクリストファー・プラット&チャド・マーティング&ウィリアム ・S・ビーズリー&ジョシー・ローゼン&ピーター・モーガン&マイケル・パセオネック&ジョン・サッキ、撮影はラッセル・ カーペンター、編集はリチャード・フランシス=ブルース&メアリー・ジョー・マーキー、美術はミッシー・スチュワート、衣装は エレン・ミロジニック&ヨハンナ・アルガン、音楽はロルフ・ケント、音楽監修はトレイシー・マクナイト。
出演はアシュトン・カッチャー、キャサリン・ハイグル、トム・セレック、キャサリン・オハラ、キャサリン・ウィニック、ケヴィン・ サスマン、リサ・アン・ウォルター、ケイシー・ウィルソン、ロブ・リグル、マーティン・マル、アレックス・ボースタイン、 アッシャー・レイモンド四世、ラトーヤ・ラケット、マイケル・ダニエル・キャサデイ、ラリー・ジョー・キャンベル、メアリー・ バードソング、リック・レイツ、ジョン・アトウッド、ブルース・テイラー、シャラン・C・マンズフィールド他。


『キューティ・ブロンド』のロバート・ルケティックが監督を務めた作品。
スペンサーをアシュトン・カッチャー、ジェンをキャサリン・ ハイグル、ジェンの父をトム・セレック、母をキャサリン・オハラ、ヴィヴィアンをキャサリン・ウィニック、マックをケヴィン・ サスマン、オリヴィアをリサ・アン・ウォルター、クリステンをケイシー・ウィルソン、ヘンリーをロブ・リグル、ホルブロックを マーティン・マル、リリーをアレックス・ボースタインが演じている。

冒頭、ジェンは失恋して両親の旅行に同行しているという設定が示される。
だけど、ジェンは失恋の痛手を引きずっているようには全く見えないし、そういう設定にしている意味が無い。失恋で落ち込んでいる どころか、彼女は明らかに怪しげなスペンサーから、出会ってすぐにデートに誘われて、ノリノリでOKして「やった」と喜んでいる。 なんかねえ、尻軽のヤリマン女みたいに見えるぞ。そこはキャラの動かし方として、ちょっと付いていけない。
例えば、ジェンが旅行に来た目的がアバンチュールだったとか、そういうことでも示されていれば納得できたかもしれんけど、そういう のは無い。スペンサーに一目惚れしたというような描写も無い。一目惚れするような要素も、スペンサーには見当たらないし。
っていうか、そこは「ジェンが困っているところをスペンサーが助ける」とか、何かしらジェンにとって印象的な出来事、スペンサーに 惚れるような出来事を用意しておけば、それでクリアできただろうに。

スペンサーがジェンとエレベーターでと会うまでのシーンだけでは、彼が優秀な諜報員には見えない。遊び人の兄ちゃんという感じだ。
しかし、彼が諜報員であることを、観客に対して隠しているわけではない。最初の段階で、それは明示してある。
ただ、それは単に「標的の位置を確認して知らせる」というだけであり、優秀な諜報員という印象を与えるものではない。それは描写と して中途半端だと感じる。
そこまではスパイであることを見せないか、見せるなら優秀であることをアピールするか、どっちかにハッキリさせるべき。

スペンサーが仕事中なのにジェンをデートに誘っているのは、ちょっと不真面目に見える。
ジェームズ・ボンドみたいなプレイボーイで、女遊びを楽しむということならともかく、そこまでチャラい感じではないんだよね。実際、 結婚するわけだし。
「最初は軽い遊びのつもりだったけど、付き合う中で次第に本気へと変化した」ということならともかく、そうじゃない。最初からマジな 気持ちで、ジェンと交際している。
そうなると、諜報員の仕事中に何のためらいもなく女を口説くってのは、誠実さが無いなあと思ってしまう。
そんなわけだから、もう滑り出しの段階で、この2人のキャラの動かし方、ロマコメの作り方に失敗している。

スペンサーとジェンが結婚する展開には、ものすごく違和感を覚える。
それは、一気に燃え上がるような出会いの衝撃は無いとか、喜劇の色が薄いとか、テンポがノロくて無駄に時間を掛けた丁寧な描写をして いるとか、まあ色々と原因はあるなあ。
そこは勢いで持って行くべきでしょ。出会ったところで一気に恋に火が付いて、そのまま畳み掛けるように3年後へタイムスリップしたら 結婚生活をしているという展開にした方が良かったのでは。
ジェンの父に結婚の承諾を貰う場面も、淡々としていて、何のメリハリも無いんだよな。

ジェンの父に結婚の承諾を貰う場面に限らず、全体を通してメリハリの付け方が悪いし、テンポも悪い。
スペンサーが素性を明かした後は、ジェンと言い争いになることが何度かあるが、言い争ったんだから険悪なムードが続くのかと思いきや 、そうでもない。言い争った直後にジェンがスペンサーの手助けをしてパソコンを操作したり、言い争った後に仲の良い夫婦のような会話 を交わしたりする。そこも上手く切り替えれば喜劇になったかもしれないけど、ただの違和感しか残らない。
夫婦の言い争いは、笑えるものになっていない。ホントに、ただのガミガミした口ゲンカでしかない。
スペンサーが隣人や店員を警戒するという展開があるが、ちっとも笑いに繋がっていない。半端なサスペンスでしかない。
知人や友人たちが報奨金目当ての殺し屋として次々に襲い掛かってくるというのも、サスペンスとして盛り上がらないし、だからと言って 笑えるわけではない。ただバカバカしいと感じるだけ。
そこはコメディーとして演出するべきじゃないのか。なんでマジなサスペンス・アクションのように演出しているのか。

序盤から、ギャグシーンの作り方が半端でヌルい。
クラブでジェンがドレスを直したら、誘っていると勘違いした男が強引にダンスに誘うというシーンがある。
ジェンが困惑していたら、戻ってきたスペンサーが男を肘打ちで失神させ、彼女を連れて去る。それだけだ。
どこに喜劇の要素があるのか。
それでも、リアクション次第では喜劇になるが、スペンサーはクールに男を失神させるだけだしね。

どういう方向性で味付けしているのか、サッパリ分からない。スペンサーをイケてる色男として見せたいだけなのか。
とにかく、メイン2人の芝居が噛み合っていないんだよな。アシュトン・カッチャーは徹底してクールなイケメンとしての演技、 キャサリン・ハイグルは徹底してコメディエンヌの演技なのだ。
どっちに合わせるべきかというと、どう考えても後者だろう。スパイ・サスペンスのテイストはあるものの、大枠ではロマコメとして話が 進んでいくんだし。
しかし、アシュトン・カッチャーはダンディーな男であり続ける。
そりゃあ、カッコ良さはあってもいいんだよ。完全な三枚目をやれとは言わない。
だけど、もっと喜劇にも参加しないとダメでしょ。そうじゃないから、完全に浮いちゃってるんだよな。
それこそ二代目ボンドを演じていた頃のロジャー・ムーアぐらいの軽妙さが欲しいのよ。この映画のアシュトン・カッチャーは、あまりにもクール すぎる。

スペンサーの深刻なムードに引きずられて、3年後に移ると、ジェンまで落ち着いたトーンになってしまう。
でも、そこは本来、逆のベクトルに向くべきなのだ。もっと弾けないとダメなのよ。ドタバタのスクリューボール・コメディーになるべき なのよ。
それにさ、シリアスな雰囲気が強いからって、じゃあサスペンスとして面白くなっているのかというと、そういうことは無いんだし。
ところが、3年後になってからは、もう完全にサスペンス・アクションに舵を切っており、後半に入るとロマコメの要素、っていうか コメディーの要素はゼロになる。
これが大失敗。
むしろロマコメをメインにして、それを盛り上げるための要素として、スペンサーが命を狙われる要素を絡めるような形にすべきだった。
サスペンス・アクションの色が濃くなればなるほど、どんどん退屈になっていく。ホントはサスペンスにハラハラして、アクションに ドキドキして、テンションが高まらなきゃいけないはずなんだけど、どんどん気持ちが離れていく。
相手が殺し屋とは言え、スペンサーたちが次々に人を殺していくってのも、なんか受け付けないし。

アシュトン・カッチャーが製作にも携わっているってことは、スペンサーをダンディーな二枚目キャラにして、サスペンス・アクションと して話を作っていくというのは、彼の希望だったんだろうなあ。
ひょっとするとアシュトン・カッチャーは、『Mr.&Mrs. スミス』みたいなテイストの映画を作りたかったのかなあ。ただ、あれも失敗作 だぞ。むしろキャサリン・ハイグルが主役のロマコメで、その相手役を彼がやるというぐらいの位置付けにすりゃ良かったのに。
どうやら、アシュトンの「俺ってイケてるだろ」アピールが強くなり過ぎたことが、この映画が駄作になった大きな要因だな。
大体さ、彼はカッコ付けてるけど、スペンサーって全く魅力的じゃないよ。追及されるまで諜報員だったことを明かしていないのも、 不誠実に見えるし。出会ったばかりで告白していたのに、なぜ結婚した後は口をつぐもうとするのかと。
追及された時も、仕方なく打ち明けるといった感じで、申し訳なさそうな様子は皆無。妙に偉そうだし。それも不誠実な奴だなあという 印象を強めている。

(観賞日:2012年3月2日)


第31回ゴールデン・ラズベリー賞

受賞:最低主演男優賞[アシュトン・カッチャー]
<*『キス&キル』『バレンタインデー』の2作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会