『キラー・インサイド・ミー』:2010、アメリカ&スウェーデン&イギリス&カナダ
1950年代の西テキサス。29歳のルー・フォードは、田舎町セントラルシティーで保安官助手とした働いている。保安官事務所は、郡と町の 両方を統括している。町では礼儀が重視されており、男は紳士らしく振る舞うことが求められる。ある日、彼は保安官のボブ・メイプルズ から、ジョイス・レイクランドという娼婦に対する苦情が入っていることを告げられる。対処方法についてルーが質問すると、ボブは 「お前に任せると。穏やかで物腰の柔らかいお前にどう映るかで判断してくれ」と言う。
ルーは町外れにあるジョイスの家を訪れ、「日没までに町を出てもらいたい。そうしないと売春で逮捕する」と通告した。腹を立てた ジョイスは、ルーに殴り掛かった。何度も殴られたルーは、彼女をベッドに押さえ付ける。そしてベルトを手に取り、彼女の尻を何度も 叩いた。やがてルーが叩くのをやめて詫びると、ジョイスはキスを求めてきた。ルーは彼女と激しく体を絡ませる。この日以来、ルーは ジョイスの家に通い、情事にふけるのが日課となった。
ルーはジョイスから、「こんな町、2人で抜け出そうよ」と持ち掛けられる。「バカなことを」と相手にしないルーに、彼女は「お金なら 私が何とかするわ。私に夢中でバカな男がいる。エルマー・コンウェイよ」と言う。エルマーはルーの同級生だ。そして彼の父チェスター は建設会社の社長であり、町の顔役でもある。夜、ルーはマックス・パパスの営むレストランで夕食を取った後、外に出たところで流れ者 に「金を恵んでくれ」と声を掛けられた。ルーは葉巻の火を彼の手に押し付けた。
ルーは建築業評議会会長ジョー・ロスマンに呼び出され、事務所に赴いた。ロスマンは「マイク・ディーンをどう思っていた?」と質問 してきた。マイクはルーの兄だ。厳密に言えば、マイクの両親が亡くなった後、ルーの父親が養子に迎えたので、義理の兄になる。「遺産 の相続人が増えて嫌じゃなかったか」と訊かれ、ルーは「6歳と8歳だ、有り得ないよ」と答える。ロスマンが「あんなことがあっても、 嫌じゃなかったか?あの少女が証言した」と尋ねると、ルーは「彼女は5歳だった。誰を見ても、こいつだと言うさ」と言う。
ロスマンは、「俺が話したいのは、6年前のマイクの死についてだ。彼は当時、コンウェイ建設の足場を組んでいてリベットから滑った。 安全デッキが設置されていなかったので、地面に激突した」と語る。ルーが「だから?」と言うと、ロスマンは「チェスターはデッキを 設置していなかった」と言う。ルーは軽く笑い、「今頃、そんな不正に気付いたのか。アンタがチェスターを見逃したんだ。殺人だったら 、その時に見逃していないはずだろ」と告げる。事務所を去ったルーは、13歳の時の出来事を回想する。彼は車に少女を連れ込んで口を 塞いでいたところを、マイクに発見されたことがあった。
ルーが帰宅すると、恋人のエイミーが待っていた。彼女は「家族が寝てから抜け出したわ」と言い、下着姿になってルーを情事に誘った。 情事の後、エイミーは「日曜にディナーしない?」と誘う。ルーが「友達の頼みがある。遅くならないから、10時まで待ってくれ」と言う と、彼女は「ここ数週間の貴方の行動について話があるの。待ってるわ」と告げた。翌日もルーは、ジョイスの家で抱き合った。
ルーはチェスターに呼び出され、1万ドルを渡された。彼は「これをジョイスに渡して、脅して郡から追い出せ。エルマーがまた彼女に 会ったら、何をしでかすか分からん」と告げられる。「穏やかに解決しろと言われて、そうしたつもりだ。まだ足りないのか?」とルーが 言うと、チェスターは「女が金を受け取り、出て行くのを見届けろ」と口にする。「1時間後に出て行かなかったら、俺が追い出すよ」と ルーが言うと、チェスターは「エルマーを捜して君の元へ行かせる。上手く言ってくれ」と指示した。
ルーはレストランへ行き、エルマーと会う。「親父が冷静にならなかったら?」とエルマーに問われ、「機嫌を直すとお前が言ったんだぞ 。こうしたらどうだ。会社を買収し、ジョイスと一緒に経営する。上手くいけば親父さんも喜ぶ。強制はしないが、君の再出発のために俺 の危ない橋を渡っているんだ」とルーは語る。エルマーに「どうして、そこまでやってくれる?」と尋ねられ、「見返りを期待したのさ」 と彼は言う。エルマーは「1万ドルやるよ。親父のじゃなく、俺の金だ」と、ポケットから金を出した。「君の今夜、来るんだな」と エルマーに確認され、ルーは「ああ、10時だ」と答えた。
その夜、ルーはジョイスの家から少し離れた場所に車を停め、タイヤをパンクさせる。それから彼は、ジョイスの家を訪れてセックスを した。セックスの後、「エルマーは騒ぎ立てると思う?」とジョイスに問われたルーは、「さあな。君が心変わりしたって、奴に言うよ」 と告げる。ジョイスから「エルマーには何もしないでね。貴方を失いたくない」と言われ、ルーは「俺は捕まらないし、疑われることも 無い。いつものようにエルマーと君が飲んでいてケンカになり、2人とも死んだってことさ」と述べた。
ルーはジョイスの顔にパンチを浴びせ、腹にも拳を入れる。ジョイスが倒れ込んでも、ルーは何度も殴り付けた。そこへエルマーが来ると 、ルーは彼を射殺した。ルーは拳銃から指紋を拭き取り、ジョイスの手に握らせた。それから車に戻ってタイヤを交換し、その場を去った 。道に戻ったルーは、チェスターの車とぶつかりそうになった。ルーが「パンクで停まっていたんだ」と言うと、チェスターは「11時を 回ってもエルマーが戻らない。付いて来い」と告げてジョイスの家へ向かう。そして彼は、ジョイスとエルマーを発見した。
事件を担当する新任の郡検事ハワードから事情聴取を受けたルーは、「チェスターから頼まれて、恐喝を何とか穏便に済ませようとしたが 、僕が放っておいたばかりに事件が起きてしまった」と申し訳なさそうに言う。レストランに赴いたルーは、マックスに「息子のジョニー のことなんだが、スリム・マーフィーの仕事をしてるが、悪い噂を耳にした。調べてくれないか」と依頼される。ルーはガソリンスタンド で働くジョニーの元へ行き、「マーフィーは評判が良くないぞ」と告げる。「分かったよ。騒ぎは起こしたくない」とジョニーが理解を 示したので、ルーは金を渡した。
ルーが帰宅すると、エイミーが腹を立てて待っていた。ルーが「チェスターからエルマーの窮地を救ってくれと頼まれた」と説明しても、 彼女の怒りは収まらない。しかしルーが陰部に触れて情事に挿そうと、すぐにエイミーは機嫌を直した。しかしルーのペニスを嗅いだ彼女 は、「臭いのよ、あの女にブチ込んだ匂いよ」と激昂する。ルーは慌ててエイミーをなだめ、「どうして俺がそんなことするんだ。君を 失うリスクを背負って浮気すると?結婚する女が、そんなことを疑うんじゃない」と告げる。「結婚しないじゃない」とエイミーが冷淡に 告げると、ルーは「今すぐにでもプロポーズしたいよ」と適当なことを言った。
ルーはボブから電話で呼び出しを受け、出向くとハワードの姿があった。ハワードはルーを連れて、彼が車を停めていた場所に赴いた。 ハワードは、パンクで停車したというルーの証言に疑いを抱き、不審な点を指摘した。現場検証の後、ルー、ハワード、ボブはレストラン に移動した。ルーはハワードに、ジョイスのことを尋ねる。ジョイスは死んでおらず、意識不明の状態で入院している。ハワードは 「コンウェイが彼女の転院を求めてる。ここではまともな治療が受けられないと」と語った。
ジョイスがフォートワースの病院へ移送されることになり、ルーとボブは飛行機に同乗した。空港に到着すると、チェスターは「ボブは 救急車に乗れ。ルーは俺の車だ」と指示した。チェスターはルーに、「手術が終われば彼女と話すことも出来る。麻酔から覚める時には、 お前が横にいろ」と言う。「ボブは?」とルーが訊くと、彼は「年を取り過ぎていて迅速な対応が出来ない」と告げた。チェスターは「俺 のスイートルームを使え」とルーに告げ、彼を車から降ろして病院へ向かった。ルーが部屋で時間を潰しているとボブが現れ、「ジョイス が死んだ。麻酔から覚めることもないままだ」と告げた。
ルーがセントラルシティーへ戻って数日後、ロスマンが訪ねてきた。「新聞に書いてある通り、エルマーの自業自得なのか」と質問され、 「そのようだな」とルーは答える。ロスマンが「不思議なのは、顔が潰れて首も折れた女がどうやって4発も命中させたかってことだ」と 疑問を呈すると、ルーは「殴られながら撃ったんだよ」と言う。するとロスマンは、「エルマーが死んだ後も、彼女は生きてたらしいぞ。 1発か2発でエルマーもおとなしくなるはずだろ」と述べた。
ロスマンに「他に犯人がいるのさ。そして君には動機がある」と言われ、ルーは「俺にジョイスを殺す理由があるって?現場に他の殺人犯 がいたのさ。原因は知らないが、きっとそうだ」と語る。ロスマンが「そうだな。この状況では、君は殺人犯に該当しない。で、目的は 何だ?」と問い掛けると、ルーは「金は手切れ金だった。コンウェイがエルマーと別れさせようとしていた。だからエルマーはジョイスと 逃げようとした」と語る。ロスマンは「その金には気を付けろよ」と言い、その場を去った。
ルーは本に挟んであった昔の写真を見つける。それは乳母の全裸写真だ。彼は6歳の頃を回想する。乳母は「貴方のパパがやったのよ」と 尻の傷をルーに見せて、「貴方もやる?痛くしてほしいの」とスパンキングを要求した。ルーは写真を燃やした。そこへハワードから電話 が入った。ジョニーをジョイス殺しの犯人として逮捕したという。「すぐ来てくれ、お前を呼んでる」とハワードは告げた。
ルーが裁判所へ赴くと、ハワードは「エルマーは娼婦の家に1万ドルを持って行った。確認したら500ドルが消えていた。あの金はマーク されてた。コンウェイが銀行に通報していた」とハワードは言う。ジョニーがドラッグストアで使った20ドルが、それに該当したのだ。 それはルーが彼にやった金だった。ハワードは「日曜夜の9時から11時のアリバイが無い。彼が口を割らない限り、どうにもならん」と 告げた。ルーは拘置されているジョニーの独房へ行き、「俺が2人を殺した」と明かした。
帰宅したルーは、待っていたエイミーとセックスした。そこへ「ジョニーが首を吊って死んだ」という電話連絡が入ると、ルーはショック を受けた芝居をする。ジョニーの死から1週間が経過し、ルーはマックスを弔問していないことに気付いた。ルーがレストランへ行くと、 営業していなかった。ルーは閉店したと思い込むが、マックスから「改装するんだ。ジョニーが望んだことだ」と告げられた。
ルーはジョイスを殺した夜にタイヤをパンクさせた場所へ行き、車に座って佇んだ。そこへロスマンが現れ、「ここへは何度来た?彼女 とは何度寝た?」と尋ねる。「売春婦とやるほど不自由してない。他に話があるんだろ」とルーが言うと、「コンウェイはエルマー殺しの 容疑を誰かに被せようとしてる」と彼は口にした。「ジョニーがエルマーを殺した。だから首を吊った」とルーが言うと、ロスマンは 「マックスの店の改装費は誰が出したと思う?コンウェイだ。息子をジョニーに殺してもらったお礼だと思うか?」と述べた。
ロスマンは「エルマーが殺された夜、友達が映画を見に行った。9時半に車を停めて、戻ったらタイヤが4本とも無くなってた。火曜日に 仲間と話したら、その内の2本をジョニーから買っていた」とルーに語る。「ジョニーにアリバイがあれば、俺に話すはずだし、首も 吊らない」とルーが言うと、彼は「お前を信じてたのさ。友達だから。自分を利口だと思ってるだろうが、コンウェイはバカじゃないぞ。 俺ならうろつかない」と語る。「町を出ようと思ってる」とルーが告げると、彼は「それがいい」と口にした。
ルーはエイミーに駆け落ちを持ち掛け、その日を決めた。彼女が去った後、あの流れ者がやって来た。彼は火傷を負わされた後、ルーを 尾行してロスマンとの会話を聞いていた。さらにジョイスが殺された夜も、ルーを目撃していた。ルーは流れ者から口止め料を要求され、 5千ドルを2週間後の5時に支払う約束をする。それはエイミーと駆け落ちをする予定の日だ。その当日、ルーは自宅に来たエイミーを 殴り殺した。金の受け取りにやって来た流れ者は、エイミーの死体を見て仰天した。流れ者が逃げ出すと、ルーは後を追って「あいつが エイミーを殺した」と叫ぶ。保安官助手のジェフ・プラマーが狙撃した後、ルーは倒れた流れ者を何度も殴打した…。監督はマイケル・ウィンターボトム、原作はジム・トンプソン、脚本はジョン・カラン、製作はクリス・ハンレイ&ブラッドフォード・L ・シュレイ&アンドリュー・イートン、製作協力はタラ・サブコフ、製作総指揮はジョーダン・ガートナー&リリー・ブライト&チャド・バーリス&アラン・ リーバート&ランディー・メンデルソーン&トム・リッチー&フェルナンド・サリシン、共同製作総指揮はトリシア・ヴァン・ クラヴェレン、撮影はマルセル・ザイスキンド、編集はマッグス・アーノルド、美術はロブ・サイモンズ&マーク・ティルデスリー、衣装 はリネット・マイヤー、音楽はメリッサ・パーメンター&ジョエル・キャドバリー、音楽監修はチャドウィック・ブラウン。
出演はケイシー・アフレック、ケイト・ハドソン、ジェシカ・アルバ、ビル・プルマン、サイモン・ベイカー、ネッド・ビーティー、 イライアス・コティーズ、トム・バウアー、ブレント・ブリスコー、ジェイ・R・ファーガソン、リーアム・エイケン、マシュー・ メイハー、アリ・ナザリー、ブレイク・リンズレイ、ザッカリー・ジョシー、ノア・クロフォード、ブレイク・ブリンガム、ケイトリン・ターナー、 マイケル・ギボンズ、ローザ・パスクアレラ、アーレッタ・ナイト・フィンク、ジェド・フォックス、ドナ・E・ジョーンズ、ラッセル・ スチュワート他。
ジム・トンプソンのノワール小説を基にした作品。
日本では扶桑社から『おれの中の殺し屋』、河出書房新社から『内なる殺人者』という題名で原作本が出版されている。
ルーをケイシー・アフレック、エイミーをケイト・ハドソン、ジョイスをジェシカ・アルバ、ハワードを サイモン・ベイカー、チェスターをネッド・ビーティー、ロスマンをイライアス・コティーズ、ボブをトム・バウアー、流れ者をブレント ・ブリスコー、エルマーをジェイ・R・ファーガソンが演じている。ルーが町では「穏やかで物腰の柔らかい紳士的な男」で通っている男だというのを紹介しないまま、ジョイスをベルトで叩くシーンに突入 してしまう。
ルーが「穏やかで物腰の柔らかい男である」というのを示すのは、ボブの台詞だけなんだよね。
それでは不充分でしょ。
そこの紹介が足りないから、ルーがいきなりジョイスに暴力を振るっても、「以前からルーは、ボブの前ではおとなしいが、実は暴力的な 男」とか、「すぐカッとなる男」とか、そんな風に見えてしまう。
でも、そうじゃなくて、観客からしても「そんな風には見えない印象の奴が、ジョイスに対して急に暴力的衝動にかられる」という風に 見えるべきなんじゃないの。導入部からして、あまりにも展開が拙速に感じられる。
まずは「普段の彼」をもう少し見せてくれないと、「普段とのギャップ」というところの効果も伝わって来ないでしょ。
それに、彼が亡くなった父親の家を相続しているとか、エイミーと付き合って関係も良好だとか、そういうのも先に見せておくべきなん じゃないの。
「そういう平穏で恵まれた生活を送っている奴がジョイスの前で暴発し、それがきっかけでアブノーマルな性交渉を持つ関係になった」と いう風に見せた方がいいはずでしょ、そこは。ルーはロスマンから呼び出され、そのシーンでマイクの事件が語られる。
だが、それをロスマンのセリフで説明するのは不恰好だ。事件があったことに触れた後、回想シーンでも挟んで描いた方がいい。
言葉だけで説明するにしても、ルーのナレーションを使った方がいい。
そうじゃないと、ルーが「マイクはチェスターに殺されたようなものだ」と思っていることが伝わりにくい。
後からルーのセリフでそこに言及するけど、事件のことが語られた時点で、それが観客に伝わった方がいい。ルーがチェスターから「ジョイスに金を渡して追い出せ」と言われるシーンの会話からすると、ルーは以前からチェスターにジョイスを 追い払う依頼を受けていたようだ。
だが、そこを省略しているので、無駄に分かりにくくなっている。そこまでにエルマーが一度も登場していないのも納得し難いし。
で、ルーがエルマーと会うシーンからすると、彼はエルマーからも相談を受けて、彼に協力しているように装っているようだ。
そこも、それまでの経緯が無いから、すげえ分かりにくいのよね。ルーがチェスターやエルマーから相談を受けていた時の場面を省略するのなら、例えばエルマーと会う前の段階でルーのナレーションを 入れて、「実は以前からこういうことがありまして」と説明してくれればいいのに。
たぶんジョイスから「金はエルマーから引き出せる」と持ち掛けられた後、ルーは金を騙し取る作戦として、そういうことをやっていると いうことなんだろうけど、「作戦を開始しました」という手順が描かれていないのよね。
だから、どういう作戦なのか良く分からないし。ジョイスが死んでいないことも、ルーが病院にいる彼女のことをハワードと話すシーンまでは、ちょっと分かりにくい。
一応、チェスターがジョイスを発見した時に「ここで女に死なれては困る」と言っているんだけど、倒れているジョイスは全く動いて いないので、死んだように見えるんだよな。
だから、そのチェスターの言葉も「死体を移動させて別の場所で死んだように偽装しよう」という意味なのかと誤解しそうになる。
もっとハッキリと、ジョイスが病院に運ばれるシーンとか、そういうのを見せてしまった方がいい。劇中、ルーのモノローグが何度も挿入される。主人公のモノローグが多用される場合、大抵は心情を表現する言葉が含まれることが含有 されるものだ。
しかし本作品の場合、ルーは全く心情を表現しない。彼のモノローグは、物語を分かりやすくすることに全く貢献しない。
モノローグも、やはり無駄に分かりにくいのである。
後から中身を分析すると、実は筋書きとしては、そんなに難解なわけではないのよ。
単純に、説明が下手だから分かりにくくなっているとしか感じられない。ルーがジョイスを殺す意味が、全く分からない。
彼の行動は、独自の理念や信念に基づいたものではない。そこには悪の美学も哲学も無い。そして悪の華としての魅力も無い。
もちろん理由なき殺人なんて世の中には幾らだってあるだろうし、サイコパス殺人者が登場する映画だって色々とある。
ただ、これが「刑事や捜査官がキチガイ殺人鬼を追い掛ける」という形であれば、得体の知れない殺人者であっても別にいいんだけど、 一人称で物語が進められていくのに、そいつがワケの分からない殺人者ってのは困る。
まるで行動理由が読めないのに、そいつに付いて行けと言われても、まあ無理だわ。
「感情移入を拒絶している」というレベルを、遥かに超越している。それと、ルーってジョイスと出会って暴力衝動に目覚め、そこから欲望を満たすために殺人を繰り返すというわけでもないんだよな。
ジョイスとエルマーを殺した後の殺人については(ジョイスは死んでないけど)、その犯行を隠蔽するための行動に過ぎない。
理由なき殺人は1つ目だけで、それ以降は分かりやすい動機が存在している。
エイミーの殺害も、まあ「その必要があるのか」と言われたら微妙だが、「流れ者に罪を被せて射殺する作戦のための犠牲」という動機が ある。
そうなると、ジョイス殺しだけがワケの分からないモノってことになり、それが余計に陳腐なものに思えてしまうんだよな。(観賞日:2012年5月27日)
第31回ゴールデン・ラズベリー賞
受賞:最低助演女優賞部門
<*『キラー・インサイド・ミー』『ミート・ザ・ペアレンツ3』『マチェーテ』『バレンタインデー』の4作での受賞>