『俺たちホームズ&ワトソン』:2018、アメリカ&カナダ

1981年、ロンドン。アフガン戦争から帰還したジョン・ワトソンは精神的に疲弊し、建物の屋上から飛び降り自殺を図った。すると下の畑で巨大な瓜を育てていたシャーロック・ホームズは、やめるよう叫ぶ。「やるなら隣の畑に飛び降りろ。自殺なら他にも方法があるだろ」とホームズが言うと、ワトソンは彼が思い留まるよう説得してくれているのだと誤解した。自殺を中止しようと考えたワトソンだが、足を滑らせてしまう。彼は転落するが、巨大な瓜がクッション代わりになったおかげで助かった。
ホームズは探偵事務所を設立し、ワトソンとコンビを組んで数々の事件を解決した。そんなホームズにとって最大の敵が、ジェームズ・モリアーティー教授だ。そのモリアーティーは第一級殺人罪で起訴され、裁判が開かれた。全ての証人が死亡したため判事は釈放を告げ、モリアーティーは傍聴席のレストレード警部に挑発的な言葉を浴びせた。レストレードは憤慨し、ホームズが証拠を持って向かっていると話す。ところが正午までに到着する必要があるのに、まだホームズは下宿にいた。
ワトソンは急ぐよう促すが、ホームズは帽子選びに時間を掛ける。メイドのハドソン夫人は荷物として届いた箱を見つけ、ホームズたちにに見せた。ワトソンが箱を空けると空っぽだったが、ホームズは「送り主はモリアーティーだ。僕らを殺す気だ」と警戒する。彼は蚊が飛ぶ音に気付き、窓を閉めるようワトソンに指示した。「その蚊は恐らくペストに感染している」とホームズは注意し、蚊を退治しようとする。しかし攻撃は全てかわされ、蚊は室内に飾ってあった大きな蜂の巣のケースに止まった。
ホームズは蚊を始末しようとして、誤ってケースを割ってしまう。蜂の群れが室内を飛び回り、ホームズとワトソンは窓から飛び降りた。2人は正午になる寸前で裁判所に到着し、ホームズは自分自身が証拠だと述べた。彼は犯行現場を調べた時のことを話すが、ワトソンが同行したのに1人だったと嘘をついた。彼は「書斎に残っていた指紋は、そこにいる男と一致した」とモリアーテイーを指差すが、「彼は無罪だ」と告げる。彼は目の前にいる男がモリアーティーではなく、替え玉のマスグレーヴだと指摘した。
判事はホームズの説明に納得し、容疑者の釈放を決定した。レストレードに抗議されたホームズは、「モリアーティーはアメリカに渡っている」と告げた。ホームズは好敵手のモリアーティーがいなくなったことで、すっかり気力を失った。ハドソン夫人は小説家のマーク・トウェインを部屋に連れ込み、肉体関係を持った。ホームズが「男を連れ込むなと、何度も注意しただろ」と説教すると、ハドソン夫人は「性欲にかられると我慢できないんです」と不貞腐れながらも謝罪した。
ホームズはヴィクトリア女王からの手紙で犯罪の解決を依頼され、ワトソンと共にバッキンガム宮殿へ赴いた。するとホームズの誕生日を祝うサプライズパーティーのため、関係者が集まっていた。ホームズはワトソンの行動で予期していたため、全く驚かなかった。ホームズが巨大なケーキにナイフを入れようとすると、全裸の男の死体が出て来た。死体には4日以内に女王を殺すというモリアーティーの予告状が添えてあり、レストレードは男が裁判の証人だと告げた。しかしホームズはモリアーティーを騙った別人の仕業だと確信し、事件の解決を女王に約束した。
遺体安置所を訪れたホームズとワトソンは、ボストンから来た女医のグレース・ハートと助手のミリセントに会った。野良猫に育てられたミリセントは4歳児程度の知能しか無かったが、ホームズは彼女の野生味溢れる行動に惹かれた。レストレードはホームズの元へ来て、アメリカへ向かう船の乗客名簿にモリアーティーの名前は無かったと言う。するとホームズは、偽名を使っているのだと述べた。ワトソンとグレースは遺体を解剖し、音楽を流して大いに盛り上がった。2人はホームズたちの元へ戻り、死因は不明であること、十字架と数字のタトゥーがあったことを報告した。
翌朝、ホームズはワトソンに、タトゥーのインクによる毒殺だと告げる。彼はハドソン夫人に指示し、ワトソンの紅茶に毒物を混入させた。ホームズはワトソンの症状を観察し、「これで毒殺だと証明された」と興奮した。彼はワトソンと馬車に乗って解毒剤を飲ませ、「毒殺を選んだのは、犯人に被害者を押さえ込む強さが無かったからだ。あのタトゥーには出来上がりムラがあった。犯人は左腕しか無い男だ」と話す。彼は犯人が彫り師のグスタフ・クリンガーだと確信し、ワトソンと治安の悪いドーセット街へ向かった。
ホームズとワトソンは変装してグスタフを捜索するつもりだったが、酒場で酔っ払って目的を忘れた。ワトソンはグレースに、卑猥な内容の電報を送った。早朝のドーセット街を歩いていた2人は、タトゥーを入れた男たちを追ってボクシングジムに入った。するとグスタフが現れ、ホームズに不敵な態度を示す。ホームズが殺人について問い詰めているとモリアーティーが登場し、「罠に掛かったな」と口にした。グスタフはホームズとワトソンに対決を要求し、巨漢のブローンを差し向けた。
ワトソンはブローンに軽く投げ飛ばされるが、蓮語から椅子で何度も殴打してKOする。ホームズはグスタフに、女王暗殺計画に関する情報を吐けと要求した。しかしモリアーティーがグスタフを殺し、逃走を図る。ホームズはナイフを投げてモリアーティーの動きを止めるが、替え玉のマスグレーヴだと気付いた。尋問を受けたマスグレーヴは、黒幕の正体は知らないと告げる。彼は石炭をニューカッスルへ持って行けと命じられたことを明かし、息を引き取った。
下宿に戻ったホームズは黒幕について推理しようとするが、ミリセントのことが気になってしまう。そこへワトソンが来て、グレースから会いに来てほしいと言われたことを明かす。それを聞いたホームズは「謎を解いた。グレースが君との交際を望む理由は無い。彼女は犯人のために動いてる」と語る。彼はワトソンに、「グレースを誘惑すれば犯人に辿り着ける」と告げた。またハドソン夫人が男を部屋に連れ込んだので、ワトソンは腹を立てた。今度の相手は、ハリー・フーディーニとアインシュタインの2人だった。女王が部屋に来て捜査の状況を訊くので、ホームズは2人のアメリカ人女性が犯人だと推理していることを教えた。
ホームズとワトソンは、グレースとミリセントを誘って公園へ行く。彼らは運動能力を見せて誘惑しようとするが、すぐに疲れてしまう。ホームズはワトソンを殴り倒し、グレースの本性を見ようとする。本気で心配して診察するグレースを見たホームズは、「彼女は本当に医者で、本気でワトソンが好きなのか。だとしたら無実だ」と漏らした。彼は力を借りるため、兄のマイクロフトを訪ねた。テレパシーで「お前を誰よりも良く知る人間が犯人だ」と言われたホームズは、ワトソンが犯人だと確信した。彼は関係者を集めて推理の結果を説明し、ワトソンは逮捕された…。

脚本&監督はイータン・コーエン、製作はウィル・フェレル&アダム・マッケイ&ジミー・ミラー&クレイトン・タウンゼント、製作総指揮はクリス・ヘンチー&ジェシカ・エルバウム&M・ライリー &デヴィッド・ミムラン&ジョーダン・シュア、共同製作はジェイミー・クリストファー、撮影はオリヴァー・ウッド、美術はジェームズ・ハンビッジ、編集はディーン・ジマーマン&J・エリック・ジェッセン、衣装はベアトリクス・アルナ・パーストル、音楽はマーク・マザーズボー、オリジナル・ソングはアラン・メンケン&グレン・スレーター。
出演はウィル・フェレル、ジョン・C・ライリー、レベッカ・ホール、レイフ・ファインズ、ロブ・ブライドン、ケリー・マクドナルド、ローレン・ラプカス、パム・フェリス、ヘクター・ベイトマン=ハーデン、コーディー=レイ・イースティック、レイラ・ローズ・ボイス、サディー・ニューマン、ハリー・バクセンデイル、エラ・ブライト、ケネス・ハドリー、ポール・ビグリー、スー・マウンド、トミー・サリッジ、パディー・ホランド、ブラウン・ストローマン、キーラン・オブライエン、ノア・ジュープ他。


アーサー・コナン・ドイルの探偵小説「シャーロック・ホームズ」シリーズをモチーフにしたパロディー映画。ウィル・フェレル主演作の仕様として、邦題には「俺たち」と付いている。
脚本&監督は『ゲットハード Get Hard』のイータン・コーエン。
ホームズをウィル・フェレル、ワトソンをジョン・C・ライリー、グレースをレベッカ・ホール、モリアーティーをレイフ・ファインズ、レストレードをロブ・ブライドン、ハドソン夫人をケリー・マクドナルド、ミリセントをレン・ラプカス、ヴィクトリア女王をパム・フェリスが演じており、俳優のビリー・ゼインがタイタニック号に乗船する本人役で出演している。
アンクレジットだが、マイクロフト役でヒュー・ローリー、グスタフ役でスティーヴ・クーガンが出演している。

映画の導入部からして、まるでパンチ力が足りていない。
「自殺しようとしたワトソンは、瓜を守ろうとするホームズの言葉を自分への思いやりだと誤解し、心を打たれる」というシーンなのだが、「誤解による笑い」の作り方が弱い。ホームズの物言いが甘いし、ワトソンの反応も弱い。
「瓜に落下したワトソンが助かってホームズに感謝するが、ホームズは瓜が台無しになって落胆する」というオチのような部分も、これまた弱い。
掴みとして、完全に失敗していると言わざるを得ない。

蚊を退治しようとするシーンでは、ホームズとワトソンの顔に止まるので、互いに殴り合う。そこへハドソン夫人が来ると、ホームズは棒で彼女も殴る。
ドタバタをやりたいのは分かるが、ここも弾けっぷりか足りない。ドタバタをやるなら、テンポがヌルいし、エスカレートも弱い。
また、蜂の巣のケースに蚊が止まったトコで裁判所の様子を挿入するのは、どう考えても間違った構成だ。そこで休憩を入れて、何の得があるのよ。そこは一気に畳み掛けるべきトコでしょうに。
しかも、ケースを割って蜂が暴れ回った後も、また裁判所の様子を挿入してダメ押しを食らわせるんだよね。喜劇のセンスが無いにも程があるだろ。

ホームズがケースに止まった蚊を退治しようとする時、「棒を振り下ろす角度を計算し、結果を予測する」という描写がある。ここはガイ・リッチー版の『シャーロック・ホームズ』のパロディーになっている。
ホームズは見事にケースを壊さず蚊を退治して得意げな態度を取るが、直後にケースが割れる。
「成功と思わせて失敗でした」ってのは、ギャグの見せ方として大きく間違っているわけではない。
ただ、まるで笑えないんだよね。
そこは「冷静に計算し、自信満々で棒を振り下ろしたら、思い切りケースが割れる」という風に見せた方が良かったんじゃないかな。

蜂の群れに襲われたホームズとワトソンは、窓から飛び降りる。ここでシーンが切り替わり、裁判所の様子が写る。正午の寸前になって、ワトソンとホームズが到着する。
だが、2人とも蜂に襲われた影響は皆無で、ごく普通に裁判所へ入って来る。
そうなると、「蜂の群れに襲われ、窓から飛び降りた」というトコでシーンを切った意味が無いでしょ。
「無事に脱出して何のダメージも無かった」ってトコまで見せないのなら、裁判所に着いた時には「蜂に刺されて顔が腫れている」とか、「飛び降りて血だらけになっている」とか、何かしらのダメージを受けている形にした方がいいんじゃないのか。

裁判所に着いたホームズは、レストレード警部は男前だが、妻の顔は見るに堪えない」などとレストレード夫人の容姿を酷評する。
でも、夫人を演じている女優って、決して見た目が悪いわけじゃないのよね。むしろ美人の部類に入ると言ってもいい。なので、そこでホームズが彼女を侮辱する意味がサッパリ分からない。何の笑いにも繋がっていないし。
で、その流れで「その唇を閉じろ。偽証は出来ない」とホームズは声を荒らげるが、これも何の笑いにもなっていない。
その後、犯行現場を調べた時のことを話し始めたホームズは、ワトソンの同行を隠す。つまり彼自信が偽証しているのだが、これも上手く笑いに繋げるような形で処理できていない。

ここまでに言及したのは、まだ始まってから15分辺りのシーンまで。それぐらい問題は多い(これでも全てに触れているわけではない)。
このままだと批評の分量が膨大になるので、ここからは一気にペースを上げよう。
どうせ、ここまでの記述だけでも、いかに出来の悪い映画なのかってことは伝わっただろうしね。
さて、ホームズは裁判で替え玉を指摘して得意げな様子を見せるが、シーンが切り替わると「モリアーティーがいなくなって気力が湧かない」と言う。でも、それなら裁判で替え玉を指摘する時、自信満々で勝ち誇ったような様子を見せるのは変だ。その時点で、「モリアーティーがアメリカに渡ったのは残念」ってな様子を見せるべきだろう。

ホームズがケーキにナイフを入れると、何かに引っ掛かる。ワトソンが交代すると液体が出て来て、ホームズは「ラズベリーのジャムだ」と言うが、もちろん死体の血だ。
でも、この時点では分からないので、ギャグになっていない。
ナイフが通らないのでワトソンが斧を振り下ろすと、死体が転がり出る。そうなると「ワトソンが殺した」という可能性もあるが、ここを笑いに繋げることは無い。
また、ここではホームズは平然と死体を見ているのに、遺体安置所で死体を見て嘔吐するのは整合性が取れていない。整合性を無視しても笑いが生まれていればともかく、そういうわけでもないし。

ドーセット街に赴いたホームズとワトソンは泥酔して目的を忘れ、グレースに電報を送る。これはストーリー展開に何の関係も無いシーンで、ただギャグをやりたいだけだ。
下宿に来た女王を誤って殴り倒し、死んだと思い込んでホームズとワトソンが焦るシーンも同じことだ。後者に関しては、「死んだ女王を生きているように見せ掛けたり、衛兵にバレないように死体を始末しようとしたり」というドタバタを見せたいのだ。
パロディー映画では、物語の進行を外れて大きく脇に逸れることも少なくない。ただ、上手く処理しないと、ただの余計な道草になってしまう。
それを甘受できるほど笑いを取れていればいいけど、ここまでの批評を読めば言わずもがなだろう。

パロディー映画だから、本家と何から何まで同じ設定である必要はない。笑いを取りに行くために、ある程度は設定を変更しても構わない。
ただ、この映画は全く笑いに関係ない部分で、要らない変更を行っている。それはハドソン夫人に関する変更だ。
彼女はホームズの下宿の大家なのだが、この作品ではメイドに変更されている。そこで笑いを生むことなんて全く無いので、メイドにしている意味が全く無い。
とは言え、まだ大家からメイドへの変更は、そんなに大きなマイナスではない。
問題は、もう1つの重大な変更にある。

完全ネタバレを書くが、本作品のハドソン夫人は「モリアーティーの娘で模倣犯」という設定なのだ。
それは絶対にダメだよ。パロディーだからって、何をやってる許されるわけじゃないわ。
いや、それでも「ハドソン夫人が犯人」ってのが喜劇として効果を発揮するのなら、見せ方にもよるだろうけど、受け入れることも出来たんじゃないかと思うのよ。だけど、何の笑いにも繋がっていないからね。
そうなると、本家におけるハドソン夫人を少しでも知っている人間からすると、ただ不愉快なだけの変更になっちゃうのよ。

(観賞日:2021年2月3日)


第39回ゴールデン・ラズベリー賞(2018年)

受賞:最低作品賞
受賞:最低助演男優賞[ジョン・C・ライリー]
受賞:最低序章&リメイク&盗作&続編賞
受賞:最低監督賞[イータン・コーエン]

ノミネート:最低主演男優賞[ウィル・フェレル]
ノミネート:最低スクリーン・コンボ賞[ウィル・フェレル&ジョン・C・ライリー]

 

*ポンコツ映画愛護協会