『G.I.ジェーン』:1997、アメリカ

女性上院議員リリアン・デヘイヴンは、海軍の女性差別を証人委員会で糾弾する。彼女は男女差別雇用の撤廃法案を成立させるため、海軍から出された「女性にエリート偵察部隊SEALの訓練テストを受けさせる」という条件に同意する。そしてテスト生として海軍情報部の女性将校、ジョーダン・オニール大尉が選ばれた。
訓練場所であるフロリダのカタラノ海軍基地に向かったオニールだが、セーラム司令官や訓練兵は彼女に強い嫌悪感を示す。やがてウルゲイル曹長による訓練が開始されるが、オニールだけは女性としての特別扱いを受ける。オニールは男と同格に扱って欲しいと司令官に抗議し、長い髪を切って丸刈りになる。
幾つもの訓練をクリアしたオニールは、最終訓練まで辿り着いた。しかし新聞で彼女のレズ疑惑が取り上げられ、デスク任務に回される。それが政治の駆け引きに自分を利用するデヘイヴン議員の罠だと知ったオニールは、彼女を脅迫して訓練に復帰させる。そしてオニールは、ついにリビアでの実戦訓練に挑む…。

監督はリドリー・スコット、原案はダニエル・アレキサンドラ、脚本はデヴィッド・トゥーイ&ダニエル・アレキサンドラ、製作はリドリー・スコット&ロジャー・バーンバウム&デミ・ムーア&スザンヌ・トッド、共同製作はナイジェル・ウール、製作総指揮はダニエル・アレキサンドラ&ジュリー・バーグマン・センダー&クリス・ザーパス、撮影はヒュー・ジョンソン、編集はピエトロ・スカリア、美術はアーサー・マックス、衣装はマリリン・ヴァンス、音楽はトレヴァー・ジョーンズ。
主演はデミ・ムーア、ヴィゴ・モーテンセン、アン・バンクロフト、スコット・ウィルソン、ジェイソン・ベガー、ダニエル・フォン・バーゲン、ジョン・マイケル・ヒギンズ、ケヴィン・ゲイジ、デヴィッド・ウォーショーフスキー、デヴィッド・ヴァディム、モリス・チェスナット、ジョシュ・ホプキンス、ジェームズ・カヴィーゼル、ボイド・ケスナー、エンジェル・デヴィッド、スティーヴン・ラムゼイ、グレッグ・ベロ他。


オニールを演じたデミ・ムーアのスキンヘッド姿が話題となった作品。
デミ・ムーアと監督のリドリー・スコットは、製作にも携わっている。
ウルゲイルをヴィゴ・モーテンセン、デヘイヴンをアン・バンクロフト、司令官をスコット・ウィルソンが演じている。

本来ならば、この作品は女性差別に負けない女性像を描くべき作品だ。
だからオニールは女性として、女性のままで訓練を耐え抜くべきだろう。
しかし頭髪を剃って丸刈りになる彼女の行為は、そうではない。
その行為は女性としての自分を捨てて、男になるということだ。
それは女性の強さではなく、男性への同化を示す行為である。
つまり、意味が全く違っている。

オニールは司令官にヌードを見られても、全く恥じらいを見せない。
それどころか、堂々と立っている。
レイプされそうになっても、ビビったりしない。
相手を殴り倒して、「オレのチンポを舐めやがれ!」と叫ぶ。
それはセクハラに負けない女性ではなく、もはや男になった元・女性の姿だ。

女性差別の問題をキッチリと描けているわけでもない。
訓練の中でヒロインが成長していく様子を見せるわけでもない。
何しろオニールは最初からパワフルでタフネスだし、内面的な変化も見えない。
最初から最後まで、彼女は髪型以外は何も変わらない。

例えば、「オニールが自ら希望して訓練に参加するのではなく、嫌だったのに仕方なく参加させられた」という形であったならば、もっと分かりやすく、彼女の変化や成長を見せることも可能だっただろう。
しかし、オニールは自ら望んで(その時点で彼女の心情に付いていけないのだが)訓練に参加するので、「勝手にどうぞ」という気持ちになる。

だが、そんな問題など、デミ・ムーアにとっては、どうだっていいことだ。
彼女にとって重要なことは、他にある。
たくましい自分の姿を、スクリーンを通して多くの人々に見せ付けることである。
それによって強い自己顕示欲を満たすことが、彼女の目的なのだ。

デミ・ムーアは男と同格になるのではなく、男より上に立つことを望んだ。
そのために、彼女は女性としての強さでは満足しなかった。
男よりも強靭な肉体を作り上げようとした。
彼女にとって重要なのは、女性の差別撤廃を主張することではない。
自分の強さを見せることだ。

デミ・ムーアは、腕立て伏せをする様子や懸垂をする様子を見せる。
そうやって、自らの鍛え抜かれた肉体をアピールする。
スタントマンを使わずに、自ら訓練シーンをこなす。
そうすることで、デミ・ムーアは男を見下ろし、「どうだ、参ったか」と言いたいのだ。


第18回ゴールデン・ラズベリー賞

受賞:最低主演女優賞[デミ・ムーア]


第20回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最も苛立たしいインチキな言葉づかい】部門[ヴィゴ・モーテンセン]

 

*ポンコツ映画愛護協会