『エルヴィス』:2022、アメリカ

1997年、エルヴィス・プレスリーのマネージャーだったトム・パーカー大佐が倒れ、病院に緊急搬送された。1973年、大佐は「嘘つきでペテン師」と糾弾され、新刊本では詐欺と不正管理が告発された。大佐はエルヴィスの収入の50%を取得し、搾取した金でギャンブル漬けになった。裁判では大佐の報酬が過大だと認定され、多くの人々は「エルヴィスは大佐に殺された」と信じている。エルヴィスが衰弱して動けなくなった時、大佐は注射を打ってステージに立たせた。
孤児だった大佐は成長して音楽ビジネスの世界に入り、1955年にはカントリー歌手のハンク・スノウと組んでいた。ハンクの息子のジミーは、サン・レコードから発売されたエルヴィスのレコードを手に入れて喜んだ。彼は大佐や弟子のトム・ディスキン、父たちがいる前で、レコードを掛けた。黒人のリズムなので父が「止めろ」と言うと、ジミーは「町の若者の間で流行してる」と告げ、今夜のルイジアナ・ヘイライドにも出演すると教える。大佐が「黒人は出られないぞ」と話すと、彼は「白人だ」と笑った。
エルヴィスが気になった大佐は、ヘイライドの楽屋を覗いた。エルヴィスは「エルヴィス・プレスリー&ブルー・ムーン・ボーイズ」として参加しているが、緊張で震えていた。バンドのスコティー・ムーアとビル・ブラックが彼を元気付け、母のグラディスは「ジェシーが見守ってるわ」と告げた。ジェシーはエルヴィスの双子の兄で、誕生時に亡くなた。父のヴァーノンは不渡り小切手で服役し、エルヴィスは母と一緒に黒人地区の白人居住区へ移った。1947年、ミシシッピ州シェイクラブ。エルヴィスは黒人の伝道集会が開かれているテントを覗いて黒人音楽に触れ、リズムに合わせて狂ったように踊った。
1954年、サン・スタジオ。サム・フィリップスは使命感から黒人音楽のレコードを発売していたが、売れ行きは芳しくなかった。金のために新人カントリー歌手を必要としていた彼が目を付けたのが、幼少期にアーサー・”ビッグ・ボーイ”・クルーダップの演奏を聴いていたエルヴィスだった。ヘイライドのステージに立ったエルヴィスが脚を動かすと、観客席の女性たちが興奮した。スコティーとビルの助言でエルヴィスが激しく両脚を動かすと、女性たちは絶叫した。その様子を見た大佐は、エルヴィスが自分の運命だと感じた。
ビール・ストリートで暮らすエルヴィスは家族を食わせたいと考え、心配する母を説得して大佐のマネージメントを受けることに決めた。彼が参加したオールスター・ジャンボリー・ツアーは、ハンクをメインとする全国ツアーだった。しかし各地を巡る内にエルヴィスの人気が上昇し、ついに大佐は「エルヴィス・プレスリー・ショー」を開いた。ハンクは不快感を示すが、大佐は意に介さなかった。エルヴィスが家族と離れて孤独に悩む姿を見た彼は、「私と一緒なら、もっと偉大になれる」と告げた。
大佐はハンクを切り、エルヴィスの専属マネージャーになることを申し出た。エルヴィスはサン・スタジオとの契約を終了し、大手であるRCAレコードと契約した。大佐から人間関係の清算を求められた彼は、恋人のディクシー・ロックに別れを告げた。大佐はグラディスやヴァーノンたちに納得してもらうため、家族経営の会社を設立した。エルヴィスは移籍第1作『ハートブレイク・ホテル』が大ヒットし、豪邸とピンクのキャデラックを購入した。大佐は複数の映画契約を結び、何種類ものグッズを作った。
人種融合に反対するイーストランド上院議員はエルヴィスの存在を危険視し、新聞を使って糾弾のキャンペーンを展開した。エルヴィスをテレビから追放するよう求める署名が開始され、イーストランドは同志と共に監視委員会を組織した。彼らは大佐を呼び、エルヴィスを止めるよう要求した。エルヴィスは『スティーヴ・アレン・ショー』への出演がキャンセルされそうになるが、大佐が「燕尾服を着て腰を動かさない」という条件で説得した。エルヴィスは仕事を続けるため、屈辱を感じながらも指示に従った。
エルヴィスは大佐から、「独立記念日の慈善コンサートで新生スタイルで歌い、保守派をなだめろ」と言われた。エルヴィスはグラディスから「自分を見失ってる。お前の歌と踊りは神の贈り物」と告げられ、「母さんは俺がどりだけ稼いでも不満なんだろ」と反発した。彼は友人であるB.B.キングのライブを見るため、「クラブ・ハンディー」へ出掛けた。彼はキングと一緒に、リトル・リチャードのライブを見物した。エルヴィスはB.B.だけでなく、ビッグ・ママ・ソーントンやシスター・ロゼッタ・サープとも親しかった。
エルヴィスはB.B.から「お前も自立しろ。レーベルを持て」と言われ、「大佐に任せてる」と返した。「明日のコンサートも新生スタイルなのか」と問われた彼は、「燕尾服は着ない。ちょっと動きを抑えるだけだ。そうしなければ逮捕されると」と答える。B.B.は「俺なら捕まるが、お前は白人だし有名だ。大勢を稼がせているし、逮捕されない」と言い、「大佐は賢い男だ。新生エルヴィスには何か他の理由があるはずだ」と推測を述べた。
大佐は監視委員会に呼び出され、エルヴィスが黒人歌手たちと仲良くしている証拠写真を突き付けられた。大佐は「君の経歴を調べると、急性精神疾患で軍務に不適格という経歴がある」と言われ、「除隊したくて、精神異常を装ったんだ」と釈明した。「入隊前に居住の記録が無い」と指摘された大佐は、答えられずに黙り込んだ。ラスウッドパークの慈善コンサートは黒人の立ち入りが禁止されたが、1万人のファンが殺到した。エルヴィスは大佐の指示に逆らい、「ニューヨークの連中に俺は変えられない」と宣言して激しく腰を振った。ファンと警官隊が衝突し、エルヴィスには告発状が出された。
エルヴィスの元に召集令状が届き、大佐は「軍隊か刑務所か、どちらかだ」と決断を迫る。「連中はヴァーノンの過去も調べてる。新聞が嗅ぎ付けて騒ぐ」と言われたエルヴィスは、入隊を決めた。基礎訓練の最中、グラディスは不安から酒に溺れて死亡した。ヴァーノンは大佐に、「エルヴィスと話してくれ。貴方の助けが必要だ」と話す。大佐は泣いているエルヴィスの元へ行き、「私がお母さんの代わりを務める。君が海外に行っている間、この家にいる」と声を掛けた。エルヴィスは彼に抱き付き、「貴方は父親同然だ」と感謝した。
1959年、ドイツに赴任したエルヴィスは、アメリカ空軍将校の娘であるプリシラと恋に落ちた。彼が除隊すると、大佐は役者として映画『燃える平原児』に出演させた。しかし歌わないエルヴィスは、まるで受けなかった。エルヴィスは1964年にプリシラと結婚し、娘のリサ=マリーが産まれた。彼はハリウッド史上で一番のギャラを貰うようになるが、主演作は全てコケた。1968年、エルヴィスは取り巻きと共に稼いだ金を散財し、大佐は「ハリウッドの金は吸い尽くした。緑豊かな土地へ移ろう」と提案した。
大佐はエルヴィスに「今度はファミリー向けエンターテイナーだ」と言い、クリスマス特番でセーターを着てサンタの歌を歌うよう促した。エルヴィスはジェームズ・ブラウンやザ・ローリング・ストーンズの映画を手掛けたスティーヴ・ビンダーとボーンズ・ハウに面会し、本当の自分に戻るための手助けを要請した。彼は大佐の指示に従わず、クリスマス特番に昔のような格好で出演した。彼は腰を動かして歌い、ビンダーは大佐の要求を突っぱねた。
ジョン・F・ケネディーが狙撃されたというニュースが入り、ビンダーはエルヴィスに「この国は傷を負い、道に迷ってる。貴方が声明を出すべきだ」と告げた。大佐は「悲劇だが、我々には関係ない。政治や宗教のことは発言しない方がいい」と忠告するが、エルヴィスは「アンタはセーターを売ることばかり考えてる」と反発した。大佐は「ビンダーに色々と吹き込まれたな」と言い、「君はスポンサーにも私にも自分にも恥をかかせた。クリスマスの歌を歌わないと提訴されるぞ。私はマネージャーを辞める」と脅した。しかしエルヴィスは彼の命令に逆らい、世の中にメッセージを届ける新曲を番組で披露した。
クリスマス特番は高視聴率を記録し、エルヴィスとトップスターの座に返り咲いた。エルヴィスには海外コンサートのオファーもあったが、全て大佐が断っていた。大佐は内緒にしていたが、実はオランダからの密入国者だった。彼はラスベガスでギャンブルのツケが払えなくなり、オーナーのマイヤー・コーンから返済を迫られた。エルヴィスは心臓発作で入院した大佐の病室へ行き、「別の道を行こう」と持ち掛けた。エルヴィスは大佐と別れ、海外ツアーに出ようと考えていた。
大佐はエルヴィスの考えを分かっており、「海外ツアーには多額の経費が掛かり、アーティストの利益を食う。お父さんのストレスが心配だよ」と話す。その上で彼は「次のショーは1セントも掛からないとしたら?」と言い、コーンが所有するインターナショナル・ホテルでの公演を持ち掛けた。彼はホテルが経費を全て支払うこと、世界最大のショーになることを詳しく説明した。大佐は「その公演の後で、海外に行けばいい」と語るが、海外に行かせるつもりなど全く無かった。彼はコーンと公演の5年契約を結び、自分の負債を帳消しにしてもらおうと目論んでいた…。

監督はバズ・ラーマン、原案はバズ・ラーマン&ジェレミー・ドネル、脚本はバズ・ラーマン&サム・ブロメル&クレイグ・ピアース&ジェレミー・ドネル、製作はバズ・ラーマン&キャサリン・マーティン&ゲイル・バーマン&パトリック・マコーミック&スカイラー・ワイス、製作総指揮はトビー・エメリッヒ&コートニー・ヴァレンティー&ケヴィン・マコーミック&アンドリュー・ミットマン、製作協力はエリオット・ウィーラー、撮影はマンディ・ウォーカー、美術はキャサリン・マーティン&カレン・マーフィー、編集はマット・ヴィラ&ジョナサン・レドモンド、衣装はキャサリン・マーティン、視覚効果監修はトム・ウッド、視覚効果プロデューサーはフィオナ・クロフォード、音楽はエリオット・ウィーラー、音楽監修はアント・モンステッド、音楽プロデューサーはデイヴ・コッブ&ジェイミソン・ショー。
出演はオースティン・バトラー、トム・ハンクス、オリヴィア・デヨング、ヘレン・トムソン、リチャード・ロクスバーグ、ケルヴィン・ハリソンJr.、デヴィッド・ウェナム、コディー・スミット=マクフィー、ルーク・ブレイシー、デイカー・モンゴメリー、レオン・フォード、ゲイリー・クラークJr.、ヨラ、ナターシャ・バセット、ゼイヴィア・サミュエル、アダム・ダン、アルトン・メイソン、ションカ・デュクレ、デヴィッド・ガノン、シャノン・サンダース、チャールズ・グラウンズ、ジョシュ・マコンヴィル、ケイト・マルヴァニー、ギャレス・デイヴィース、チェイトン・ジェイ他。


世界的ロックスターだったエルヴィス・プレスリーと、彼のマネージャーを務めたトム・パーカーの関係を描いた映画。
監督は『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャツビー』のバズ・ラーマン。
脚本はバズ・ラーマン監督、これが初長編となるサム・ブロメル、『華麗なるギャツビー』のクレイグ・ピアース、『ハートブレイカー』ジェレミー・ドネルによる共同。
エルヴィスをオースティン・バトラー、大佐をトム・ハンクス、プリシラをオリヴィア・デヨング、グラディスをヘレン・トムソン、ヴァーノンをリチャード・ロクスバーグ、B.B.をケルヴィン・ハリソンJr.、ハンクをデヴィッド・ウェナム、ジミーをコディー・スミット=マクフィーが演じている。

いかにもバズ・ラーマン作品らしく、時系列をシャッフルしたり、映像で色々と凝ったことをやったりしている。
オープニングから短いシーンを繋げ、分割画面を多用しながら速いテンポで次々に切り替える。
ヘイライドの楽屋が移ると、そこからエルヴィスの過去を説明するパートと楽屋の様子がカットバックで描かれる。幼少期のエルヴィスを描くパートでは、アメコミのような絵が使われる。
大佐が最初に監視委員会に呼び出されるシーンでは、エルヴィスを糾弾する記事やインタビュー映像をコラージュするパートと組み合わせて構成している。慈善コンサートのシーンでは、離れた場所で演説しているイーストランドの様子とカットバックで描いている。

除隊したエルヴィスが俳優としての活動を開始すると、大佐のナレーションで「私のおかげで彼の人生はハリウッド映画だ」と言わせる。
そして、まるでプリシラやジェリー・シリングら「メンフィス・マフィア」の面々が出演する映画の、オープニングやティーザーのような映像を挿入する。
そのままの流れで、分割画面を使ってエルヴィスの主演作の数々をザッと紹介する。
「凝った映像を作る」という作業に関しては、途中で忘られることは無い。バズ・ラーマン監督は、凝った映像演出が最優先の人だからね。

映画は大佐のモノローグで始まり、「自分を悪者扱いしているのは間違いだ」と主張して回想に入る。
つまり、「大佐は悪者じゃないし、エルヴィスを殺したわけじゃない」という大佐の主張を証明するための映像として、回想が描かれるわけだ。
ザックリ言うと、「自分は何も悪くない」という大佐の言い訳のために回想が最後まで続く形だ。
自分はエルヴィスをスターにして稼がせるために頑張ったのであり、、批判される筋合いなど何も無いってのが大佐の主張だ。

しかし当然っちゃあ当然かもしれないが、そんな大佐の主張に沿った内容になっているわけではない。
実際のところ、大佐は自分が儲けるために、エルヴィスの希望は度外視する。
市民権が無くて出国できないという秘密があるので、エルヴィスを騙して海外でのコンサートを阻止する。借金を返済するために、エルヴィスを利用する。
そういう「都合の悪い真実」はキッチリと描いた上で、大佐に「自分は悪くない」と繰り返しアピールさせている。

大佐のせいで海外ツアーが出来なくなったエルヴィスは薬物に溺れ、プリシラは娘を連れて去る。
密入国者という事実を知ったエルヴィスから解雇されそうになった大佐は、まだ執拗に食らい付く。卑劣な方法で脅しを掛け、まだ エルヴィスのマネージャーを続けて搾取を続行する。
ただのクズ野郎であり、どこをどう解釈しても「何も悪くない」という主張は受け入れ難い。
「間違いなく大佐がエルヴィスを死に追いやった」という印象であり、最終的に大佐が「彼を殺したのは私ではなく愛だ」と堂々と語るので「どの口が、いけしゃあしゃあと」と苛立ちを覚える。

結局、この映画は「やっぱり大佐はクズでした」「やっぱりエルヴィスを死に追いやったのは大佐でした」ってのを確認するための作品になっている。
エルヴィス・プレスリーの伝記映画のはずなのに、彼と同じか、下手すりゃ上回るぐらいの存在感を大佐が発揮している。
もちろん、エルヴィスの半生を描く上で大佐が重要人物なのは分かる。
だけど、これじゃあタイトルを『エルヴィス』じゃなくて『トム・パーカー』に変更した方がいいんじゃないかと思うぐらいなのだ。

(観賞日:2024年6月15日)


第43回ゴールデン・ラズベリー賞(2022年)

受賞:最低助演男優賞[トム・ハンクス]
受賞:最低スクリーン・コンボ賞[トム・ハンクス&ラテックスたっぷりの顔(&滑稽なアクセント)]

 

*ポンコツ映画愛護協会