『キャッツ&ドッグス』:2001、アメリカ&オーストラリア
ブロディー教授の一家が飼っている愛犬バディーが、猫を追い掛けて敷地外へ走って行った。ところが、行く先に車が現われ、バディーを 連れ去ってしまう。ブロディー家の隣に住むアナトリアン・シェパードのブッチは犬小屋に隠したコンピュータをセットし、諜報組織の 本部に緊急事態を連絡した。実は、バディーは犬の諜報組織が送り込んだエージェントだったのだ。
諜報組織では早速、ブロディー家を猫の侵略から守るため新たなエージェントを送り込むことにした。ブロディー夫人が農夫の飼う ビーグル犬を貰い受けに来ると知り、組織はエージェントのシェパードを納屋へ送り込んだ。ビーグル犬を追い出し、その代わりとして 訪れたブロディー夫人の前に並んだ。だが、一匹だけ藁に隠れていたビーグル犬が、ゆっくりと現われた。
ビーグル犬を見たブロディー夫人はすっかり気に入り、家に連れて帰ることにした。ブロディー家の息子スコットは、ビーグル犬にルーと 名前を付けた。ルーがエージェントだと思い込んだブッチは、チャイニーズ・クレステッドのピーク、オールド・イングリッシュ・ シープドッグのサムという諜報員仲間と共に、接触してきた。ブッチたちは、ルーに事情の説明を始めた。
かつて古代エジプトでは、人間が猫に支配されていた。しかし犬が決起し、人間を解放したのだ。そのことを人間はすっかり忘れているが 、猫は今でも支配権を取り戻そうとしているという。そんな説明をした後、ようやくブッチはルーがエージェントではないと気付いた。 彼は本部のコリーに抗議するが、時間が無いのでルーを使って作戦を続行すると言われてしまう。
バディーを拉致したのは、クリスマスツリー会社の社長メイソンの豪邸で飼われているペルシャ猫ミスター・ティンクルズだった。彼は 女中ソフィーの前では可愛らしく振舞いながら、実はエキゾチック・ショートヘアーのキャリコら子分を率いて世界征服を企んでいる。 ティンクルズがブロディー家を標的にしているのは、教授が人間の犬アレルギーを解消するための新薬を研究しているからだ。もし完成 すれば人間がますます犬と仲良くなってしまうため、それを阻止しようとしているのだ。
ティンクルズはニンジャ猫の部隊を送り込むが、ブッチたちのサポートを受けたルーが撃退した。そんなルーの前に、妖艶な雰囲気を持つ サルキーハウンドのアイヴィーが現われた。「僕はエージェントだ」というルーに、アイヴィーは「エージェントなんてやめておきなさい 。遊んでくれる子供だっているんだから」と、スコットと仲良くするよう勧めた。
ティンクルズは次の作戦として、ブロディー夫人の車の前にロシアンブルーの子猫を飛び出させた。ロシアンブルーの可愛さにやられた 夫人は、家に連れ帰った。夫人が目を離した間に、ロシアンブルーは用意していたウンコを取り出し、ルーが排便したように見せ掛けた。 夫人はルーを室外に追い出し、その間にロシアンブルーは教授の研究室の扉に爆弾を仕掛けた。ルーはブッチたちの協力で室内に戻り、 ロシアンブルーをやっつけて爆破を阻止した。
スコットとサッカーボールで遊んでいたルーは、扉の開いていた研究室に入り込んだ。そこでルーはサッカーボールを弾ませ、薬の試験管 を壊してしまう。だが、その偶然によって、教授の新薬は完成に至った。それを知ったティンクルズは、寝たきりで植物人間となっている メイソンの体を会社へ運んだ。そして彼が話しているように見せ掛けて全ての社員を解雇し、会社を乗っ取った。
ティンクルズはサッカーのチケットをブロディー家に送り付け、一家を誘い出して拉致した。ティンクルズは監禁した一家の様子を撮影 したビデオテープをルー達に送り付け、解放してほしければ新薬と研究資料を持って来るよう要求した。ブッチとルーは、召集された 国際代表犬会議に出席する。だがルーの嘆願も虚しく、新薬のためにブロディー家を見捨てるという案が採択された。ルーは勝手に新薬と 研究資料を持って行くが、ティンクルズがブロディー家の人々を解放するはずも無かった…。監督はローレンス・ガターマン、脚本&共同製作はジョン・レクア&グレン・フィカーラ、製作はアンドリュー・ラザー&クリス・ デファリア&ウォーレン・ザイド&クレイグ・ペリー、製作総指揮はブルース・バーマン&クリス・ベンダー&J・C・スピンク、撮影は ジュリオ・マカット、編集はマイケル・A・スティーヴンソン&リック・フィニー、美術はジェームズ・ビッセル、衣装はティシュ・ モナハン、アニマトロニック効果監修はデヴィッド・バークレイ、視覚効果監修はエド・ショーンズ、音楽はジョン・デブニー。
出演はジェフ・ゴールドブラム、エリザベス・パーキンス、ミリアム・マーゴリーズ、アレクサンダー・ポロック、 マイロン・ナトウィック、ドリス・チルコット、キルスティン・ロベク、フランク・C・ターナー、マー・アンダーソンズ、ジリアン・ バーバー他。
声の出演はトビー・マグワイア、アレック・ボールドウィン、ショーン・ヘイズ、スーザン・サランドン、ジョー・パントリアーノ、 マイケル・クラーク・ダンカン、ジョン・ロヴィッツ、ヴィクター・ウィルソン、サロメ・ジェンズ、チャールトン・ヘストン、グレン・ フィカーラ他。
ワーナー・ブラザーズ製のファミリー映画。
『アンツ』の追加シークエンスを演出したローレンス・ガターマンが、初監督を務めている。
教授をジェフ・ゴールドブラム、夫人をエリザベス・パーキンス、スコットをアレクサンダー・ポロック、ソフィーをミリアム・ マーゴリーズが演じている。声の出演は、ルー役がトビー・マグワイア、ブッチがアレック・ボールドウィン、ティンクルズがショーン・ ヘイズ、アイヴィーがスーザン・サランドン、ピークがジョー・パントリアーノ、サムがマイケル・クラーク・ダンカン、キャリコが ジョン・ロヴィッツといった面々。コミカルな味付けにしてあるとはいえ、一部ではなく猫族全てを悪者にしているという企画の段階で、かなり観客層を絞り込んでいる気が しないでもない。猫が大好きな人は、あまり積極的に「見たい」とは思わないんじゃないだろうか。
ただ、皮肉なことに、コミカルないじられ方をする分、犬より猫の方が愛らしく見えるんだけどね。
それと、サイズ的に犬より猫の方が小さく、つまり「デカい方が善玉」という形になっているのは、ちょっと難しいかなと思ったり。動物を主人公にした映画を作る場合、人間キャラクターの関与を出来る限り排除し、ほぼ動物だけの閉じられた世界観を構築する方法が ある。一方で、人間を積極的に関与させ、動物と人間の絆を描く方法もある。
この映画は、その辺りが中途半端。
サッカーが好きだが下手なスコットという少年がいて、そこにルーを関わらせているのに、その間に絆を芽生えさせることは無い。スコットが ルーと練習をしてサッカーが上手になるようなサブストーリーは無いし、スコットがルーと協力して猫と戦うようなことも無い。後半に入るまで気付かなかったのだが、この映画では「犬や猫は自分たちの言語を喋っているが、それを劇中では人間の言葉に変換している」 という設定ではなく、「犬や猫は人間の言葉を喋っている」という設定になっている。
つまり、犬も猫も人間の前では無口だが、その気になれば人間と会話を交わすことが可能なのだ。
だから後半に入ると、ティンクルズがメイソンの声色で社員を騙したり、ブロディー家を脅したりする。
ただ、その設定は上手く行っていないと思う。
ティンクルズがメイソンに成り済まして会社を乗っ取る場面では、その設定が必要になる。しかし、そんなのは、どうにでもなる。で、 そこが別に要らないのなら、人間語を喋っている設定の意味も薄い。
あと、せっかく人間の言葉を話せるという設定にするなら、前半からルーがスコットと喋るようにすりゃいいのに、と思ってしまう。アニメ(もっと細かく言うとアメリカのカートゥーン)の実写化といった感じの映画を狙っているのだろうと思われる(『スパイキッズ』 の動物版で行こうぜ、みたいな企画だったのではないかと推測するが)。
そこで引っ掛かるのは、最初のアニメ的描写が、犬や猫の動きの誇張ではなく、揺れる枝が極端にしなるという部分になっていることだ。
それは違うだろう。
最初のカートゥーン的な誇張は、どう考えたって犬や猫の動きや表情にすべきだろうに。序盤でもう1つ引っ掛かるのは、ブッチが本部に緊急連絡をするところまで、バディーと誘い出す猫が全くセリフを喋らずに追いかけっこ をすること。
そこは最初から、「動物は言葉を話します」という設定を明かした方がいい。
何しろ、何のセリフも無いまま描写される追いかけっこには、導入部として観客を惹き付けるような面白さが何も感じられないのだ。
そこを無言にしてあるのは、たぶんブッチがハイテク機器を持ち出して言葉を話すシーンでのサプライズ的効果を狙っているんだろうとは 思うよ。ただ、その効果は出ていない。
それに、先に言葉を話す設定は明かしておいて、「普通の飼い犬だと思っていたら、実はスパイだった」という部分にサプライズを限定 してもいいんじゃないか。そっちの方がプラスのような気がするが。前述したようにカートゥーン的な路線を意識しているはずなのに(CGIで表情までいじるんだから、それは明らかだろう)、表現が おとなしい。いっそのこと、『マスク』ぐらい弾けちゃって、大げさに表情を動かしたり肉体を変形させたりしてもいいのに。
ファミリー映画だから安全にやろう、ソフトに行こうってことなのかもしれんが、それが食い足りなさ、薄すぎる味付けになっている。
例えばプロペラ機でニンジャ猫が襲来するシーンには、カートゥーン的誇張としての魅力を感じるけれど、そこだけが浮いてしまう。なぜ なら、そこまでに「動物の動き」における誇張が弱いからだ。
例えばブッチがルーを鍛える展開を設定し、そこで常識離れしたアクションの1つも見せればいいのに、と思ってしまう。
ファミリー映画だから毒を抑えようとしたのなら構わないが、その辺りの大げさな描写は、ファミリー映画でもOKでしょ。それを嫌う ような極端な保護者は、そもそも、この手の娯楽映画に子供を連れて来ないって。全体的に、動きの部分でカートゥーン的な誇張をされるのは猫ばかり。
犬サイドは、ほとんど「普通の犬」にも出来そうな動きに限定されている。
猫が場面によっては擬人化されて前足を手のように使うのに対し、犬は4本足での行動が大半だ。
そこを善玉と悪玉の色分けに使っているのかもしれないが、これは大きな失敗。
犬サイドも、もっと動きを誇張してあげないと。ブッチのルーに対する説明で、「犬は昔から人間の親友だった」という定義付けがされている。それなのに、ブッチはルーに「スコットと 親しくするな」と命令する。
ブッチは過去に人間から冷たくされたという設定があるのだが、そこは上手いとは思えない。
むしろ、ブッチは人間嫌いだけど「犬は人間の親友」という定義があるから仕方なく懐いているフリをするとか、そういう形の方が面白く なったような気がしないでもないが。どうせブッチの過去の設定は大して活用されていないんだし。
しかもブッチが人間と親しくするなと命じるだけでなく、終盤に入ると国際代表犬会議がブロディー家を見捨てる決定を出すんだよな。
「犬は昔から人間の親友だった」という定義付けをしておいて、それは無いでしょ。そんな決定を出すぐらいなら、国際代表犬会議の 場面なんて要らないよ。ティンクルズのビデオが送られた後、すぐ救出シークエンスに入れよ。(観賞日:2007年12月14日)
第22回ゴールデン・ラズベリー賞
受賞:最低助演男優賞[チャールトン・ヘストン]
<*『キャッツ&ドッグス』『PLANET OF THE APES 猿の惑星』『フォルテ』の3作での受賞>