『アラン・スミシー・フィルム』:1997、アメリカ

チャレンジャー映画社では、シルヴェスター・スタローン、ウーピー・ゴールドバーグ、ジャッキー・チェンの3人が初共演する刑事アクション映画『TRIO』の製作が進められていた。しかし、その途中で監督がフィルムを盗んで逃亡してしまった。この作品は、関係者のインタヴューによって、その騒動を映画化したものである。
その監督アラン・スミシーは現在、イギリスのキース・ムーン精神病院に収容されている。チャレンジャー映画社の社長ジェリー・グローヴァーは、製作費は2億ドルで前評判も高かったと語る。プロデューサーのジェームズ・エドマンズは、シナリオを読んだ時点でヒットを確信したが、しかし変更すべき点もあったと語った。
エドマンズが気にしたのは、ウーピーとジャッキーの役が死ぬことになっているのと、スタローンの役にヒーロー性が足りないことだった。ウーピーとジャッキーは、自分は死なないと語った。スタローンは、映画には救いが必要だと語った。
エドマンズは、多くのライターを雇って脚本を手直しさせた。脚本家ジョー・エスターハスは、そこにエロスを持ち込んだ。映画評論家シーラ・キャスリンが、エスターハスの持ち込んだ要素を全て排除した。ビリー・ボブ・ソーントンも脚本の手直しに携わった。最初の脚本家シェーン・ブラックに再びシナリオが戻ってきた時には、まるで違う内容になっていた。
エージェントのゲリー・サミュエルズは、アランが監督になった時に驚いたという。編集マンとしてのアランの腕は一流だが、監督経験は無かったからだ。ゲリーは、アランなら言いなりになると考えてエドマンズ達が彼を雇ったのだろうと語った。
アランは、グローヴァーやエドマンズが協力すると言っていたのに、最後には追放すると言い放ったことを証言した。助監督のウェイン・ジャクソンは、自分が映画製作を進行したと語った。エドマンズは、アランの編集したフィルムに少し手を加えたことを認めた。編集補佐のセルス・ジンスキーは、アランの編集の腕は素晴らしいと語った。
女優でモデルのミッシェル・ラファティーは、エドマンズからの電話を受け、仲間のシンディーと共にアランに会ったことを語った。ミッシェルは、沈んでいる彼を慰めたという。そのミッシェルには、古参の映画製作者ボブ・エヴァンズというパトロンがいた。
やがて『TRIO』は大々的なプレミア上映が決まるが、思い通りの映画が作れなかったアランは「私の映画だ」と書いたメモを残し、フィルムを持って逃亡した。私立探偵のサム・リッツォは映画会社に雇われ、アランの捜索を開始した。映画公開日まで、あと5日だった。女優のアロエ・ヴェラは、エドマンズがエヴァンズに泣きついたことを語った。
ガソリンスタンドの店員スタッガー・リーは、アランがフィルムを燃やすと話していたことを証言した。スタッガーは映画を作っている黒人仲間にアランを紹介した。その仲間とは、監督のシスター・トゥー・ルマンバ、ディオン・ブラザーズ、レオン・ブラザーズ達だ。ディオンとレオンは、アランの代理人としてエドマンズ達との交渉に乗り出した…。

監督はアラン・スミシー(アーサー・ヒラー)、脚本はジョー・エスターハス、製作はベン・マイロン、共同製作はフレッド・カルーソ、製作協力はマイケル・スローン、製作総指揮はアンドリュー・G・ヴァイナ、撮影はレイナルド・ヴィラロボス、編集はL・ジェームズ・ラングロワ、美術はデヴィッド・L・スナイダー、衣装はローラ・カニンガム、音楽はゲイリー・G-ウィズ&チャック・D。
出演はライアン・オニール、クーリオ、チャック・D、エリック・アイドル、リチャード・ジェニ、シルヴェスター・スタローン、ウーピー・ゴールドバーグ、ジャッキー・チェン、レスリー・ステファンソン、サンドラ・バーンハード、シェリー・ルンギ、ハーヴェイ・ワインスタイン、ギャヴィン・ポローン、MCライト、マルチェロ・セッドフォード、ニコール・ネイゲル、ティーヴン・トボロウスキー他。


ハリウッドの内幕を描いた作品。
エドマンズをライアン・オニール、ディオンをクーリオ、レオンをチャック・D、アランをエリック・アイドル、グローヴァーをリチャード・ジェニ、ミッシェルをレスリー・ステファンソン、グローヴァーの妻アンをサンドラ・バーンハード、アランの妻ミュルナをシェリー・ルンギ、スタッガーをマルチェロ・セッドフォードが演じている。

タイトルになっている“アラン・スミシー”とは、アメリカの映画監督組合の規約で定められている架空の人物名。実際の監督が製作者とトラブって「自分の名前を使うな」となったり、あるいは製作者が監督を降板させたりした場合に、実際にメガホンを執った人物ではなく、アラン・スミシーという名前がクレジットされることになるのである。
これまでにもアラン・スミシー名義の作品は幾つもあって、例えば『ハートに火をつけて』のデニス・ホッパーや『砂の惑星・特別篇』のデヴィッド・リンチが製作会社の勝手な編集に対して監督としてのクレジットを拒否し、アラン・スミシー名義となっている。

そして今回、そのアラン・スミシーをネタにした映画を作っておきながら、編集されたフィルムに監督のアーサー・ヒラーが腹を立て、アラン・スミシー名義を希望するという皮肉な結果が待っていた。

シルヴェスター・スタローン、ウーピー・ゴールドバーグ、ジャッキー・チェンの3人が共演するのだから、普通の製作者ならアクション映画にすることを考えるだろう。だが、この作品はアクション皆無の内幕ものという、誰も喜ばない意外性を用意する。
その辺りは、さすがジョー・エスターハス脚本作品と言うべきなんだろう。『氷の微笑』のシナリオが酷評されながらも大ヒットし、その路線上にある『ショーガール』で大コケし、その後に書いた脚本が、この『アラン・スミシー・フィルム』である。

ようするに、これは自分をネタにした自虐的なコメディーなのである。
しかし、前述したようにボロクソにケナされるようなシナリオしか書いていないエスターハスに、果たして面白いコメディー台本が書けるのかと考えた時の答えと、ここにある現実は、悲しくも一致してしまう。
まあハッキリ言ってしまえば、つまらないんである。

実際に映画『TRIO』の内容が変更されていく経緯を映像で見せれるのかと思ったら、全てインタヴューによって処理してしまう。しかも、具体的に何がどう変わったのかは語られない。そんで、フィルム持ち逃げ後の騒動を、インタヴュー中心に描いて行く。
基本的に、多くの映画関係者のインタヴューを集めたドキュメンタリー風の構成になっている。ハリウッドへの皮肉を語らせようとしているんだろうが、しかし、もっと辛辣なジョークが多いのかと思ったのだが、全体的にジョークがユルいのである。

一応、ハリウッド映画界に関するネタは色々とある。ジェリー・グローヴァーが「この『TRIO』は『イシュタール』や『ウォーターワールド』みたいな作品じゃない」と語ったり、「大作ならメル・ギブソンやスチュワート・ベアードに任せれば」というセリフがあったり。
しかし、例えばライアン・オニールに「子役出身の俳優はロクな奴がいない」と言わせたり、スタローンに「根っからのアクション俳優がコメディーやるなんてバカだよ」と言わせたり、そこまでの自虐的なネタをやらせることは出来ていない(まあ無理だろうけど)。

最もジョークとしてキツいのは、アランが「ウーピーはテッド・ダンソンに潰された、ジャッキーは言葉も通じねえ、スタローンはオカマだとようやく認めやがった」と語るところだろうか。後は、「『TRIO』は最低だ。『ショーガール』よりも酷い」というセリフとか。しかし、その程度が限界で、なんか映画関係者の内輪受けフィルムって感じである。

まあ一般的に考えた場合の今作品のセールスポイントは、多くの映画関係者が出演していることだろう。まず役名がある人々としては、サム・リッツォ役が映画会社ミラマックスの創立者の1人ハーヴェイ・ワインスタイン。ゲリー・サミュエルズ役のギャヴィン・ポローンは、この作品以後に映画やTVのプロデューサーとして活躍を始める。

さて、ここからは本人役での出演者を紹介していこう。
まずは、もちろんシルヴェスター・スタローン、ウーピー・ゴールドバーグ、ジャッキー・チェンの3名。他に役者では、ビリー・ボブ・ソーントン(ただし脚本家として)、ビリー・バーティーが顔を見せる。
映画プロデューサーでは、『ゴッドファーザー』や『コットンクラブ』のロバート・エヴァンス、『ミスター・アーサー2』や『ジキル博士はミス・ハイド』のロバート・シャピロ、『ウーマン・イン・レッド』や『バーニーズ/あぶない!?ウィークエンド』のヴィクター・ドライ。

『リーサル・ウェポン』や『ラスト・アクション・ヒーロー』の脚本家シェーン・ブラック、『夜の大捜査線』や『月の輝く夜に』の監督ノーマン・ジュイソン、作家で映画製作者のドミニク・ダンといった面々、それにジョー・エスターハスとアーサー・ヒラー監督も顔を見せる。
それ以外にも、TVキャスターのマリオ・マチャド、TV司会者のラリー・キングやリサ・カニング、『ヴァラエティー』誌の編集者ピーター・バートなど、有名人が本人役で出演している。
そういう部分でも楽しまない限り、この映画で他に面白いトコロは何も無いよ。


第19回ゴールデン・ラズベリー賞

受賞:最低作品賞
受賞:ジョー・エスターハス最低脚本賞
受賞:最低助演男優賞[彼自身を演じたジョー・エスターハス]
受賞:最低新人賞[彼自身を演じたジョー・エスターハス]

ノミネート:最低監督賞[アラン・スミシー(アーサー・ヒラー)]
ノミネート:最低主演男優賞[ライアン・オニール]
ノミネート:最低助演男優賞[彼自身を演じたシルヴェスター・スタローン]
ノミネート:最低スクリーンカップル賞[自分自身を演じた俳優を含む、誰か2人の組み合わせ]
ノミネート:最低オリジナル歌曲賞
「I Wanna Be Mike Ovitz!」


第21回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪のヘアスタイル】部門[ジョー・エスターハス]

ノミネート:【最悪の作品】部門
ノミネート:【最悪の演出センス】部門[アーサー・ヒラー]
ノミネート:【最も痛々しくて笑えないコメディー】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会