『アフター・アース』:2013、アメリカ

2025年、地球の自然環境を破壊してしまった人類は、太陽圏外にある惑星ノヴァに移住した。しかし異星人がアーサという巨大な怪物を放ち、人類を攻撃させた。アーサは視覚を持たないが、人間が恐怖を感じた時に分泌するフェロモンを嗅ぎ取って攻撃してくる。人類が再び危機に陥る中、レンジャー部隊のサイファ・レイジ司令官が立ち上がった。完全に恐怖心をコントロールして「ゴースト」と化したサイファは、アーサを倒して多くの人々を救った。
3025年、レンジャー部隊の候補生である13歳のキタイ・レイジは、テストで優秀な成績を修めていた。しかし精神的な未熟さを教官のヴェランに指摘され、正式採用は見送られた。サイファは任務から帰還し、妻のファイアと抱き合った。キタイは不機嫌そうな表情で、不合格だったことを父に告げた。サイファはファイアに、明日から訓練を監督する任務に行くこと、それを最後に引退しようと考えていることを打ち明けた。
ファイアは彼に、司令官ではなく父親としてキタイと接してほしいと求めた。キタイは幼い頃、姉のセンシを目の前でアーサに殺された。センシはキタイをアーサに探知されないようカプセルに隠し、自らは犠牲となった。そのため、キタイは自分のせいで姉が死んだと感じていた。サイファはキタイを、惑星イピトスの訓練へ連れて行くことにした。宇宙船に乗り込んだキタイは、立ち入り禁止区域の倉庫へ侵入した。そこで彼は、レンジャーの訓練用に捕獲されているアーサを目撃した。
宇宙船は小惑星の嵐に見舞われ、最も近くにある惑星への緊急着陸を試みる。しかしコンピューターは、人間の居住には危険があると判断して着陸を認めなかった。構わずにサイファは不時着を指示するが、宇宙船は真っ二つに引き裂かれてしまった。気絶していたキタイが目を覚ますと、宇宙船は墜落していた。キタイの他に生き残ったのは、重傷を負ったサイファだけだった。動けないサイファはキタイに指示を出し、緊急用のビーコンを持って来させた。
サイファはビーコンが破損したことをキタイに告げ、船の後部にある2つ目のビーコンを見つけに行くよう指示した。後部は引き裂かれて100キロも離れた場所に落ちたため、そこまで行って回収する必要がある。サイファは「ビーコンが無ければ2人とも死ぬ」と告げ、酸素を効率的に吸入できる錠剤を1つ飲ませた。錠剤は6錠だが、ビーコンを回収して戻って来るには充分な量だ。サイファは通信システムの装備されたパックバックや、22通りに変化する自分の武器「カトラス」をキタイに渡した。
サイファはキタイに、そこが人間を殺すために進化した地球であることを告げた。見当たらないアーサについてキタイが尋ねると、彼は「逃げ延びている可能性が高い」と言う。「最悪の事態を想定して危険を回避しろ。指示通りに動けば生き残れる」とサイファは話す。宇宙船を出たキタイは、サイファからナビバンドで指示を受けながら移動を開始した。サイファはモニターに映像を出し、外の様子を確認する。彼はアーサを捜索するため、自動操縦の偵察機を発射した。
盛りには行ったキタイは、1匹の猿と遭遇した。サイファは攻撃しないよう指示するが、怖がったキタイは武器を振り回した。すると猿の群れが現れ、キタイを取り囲んだ。慌てて逃げ出したキタイに、サイファは川へ向かうよう指示した。川に入ると群れは追跡を中止したが、そのままキタイは逃げ続けた。サイファが何度も呼び掛けると、ようやくキタイは立ち止まった。しかし、キタイはヒルに手を噛まれ、弱気になって父に助けを求める。サイファは医療キットを使って毒を抜くよう指示し、キタイは何とか注射を打った。
キタイは地熱の出ているホット・スポットに辿り着いて体を温め、サイファの指示で2つ目の錠剤を飲んだ。キタイは錠剤が2つ破損しているのに気付いたが、サイファには言わなかった。その夜、キタイはサイファに、初めてゴーストになった時のことを尋ねた。サイファは彼に、アーサに襲われて川底に沈んだこと、アーサが自分を溺死させようとして踏み付けたことを語った。このままだと死ぬと感じたサイファだが、自らの血が泡と混じって水中で光るのを見て綺麗だと感じた。そこに居たくないと思った途端、アーサはサイファの姿を見つけられなくなった。
サイファは自分の体験を語った後、キタイに「恐怖は我々の心の中にあるんだ。我々が想像し、存在しない物に怯えるんだ。危険は存在するが、恐怖心は自分次第だ」と説いた。翌朝、キタイはサイファの指示を受けながら、中間ポイントへ走った。その途中、キタイは猿の群れが惨殺されているのを目撃した。先へ進む道は崖で途絶えており、サイファは装備の確認をキタイに指示した。サイファは自分にも中身を見せるよう命じ、錠剤の破損を知った。
コンピューターに計算させたサイファは、キタイに作戦の中止を告げて帰還を命じる。ビーコンを回収して戻って来るには、錠剤が3つ必要だからだ。しかし姉が死んだ時のことを思い出したキタイは「僕には出来る。僕は臆病者じゃない」と声を荒らげ、崖から飛び降りた。空を飛ぶキタイに、サイファは追跡されていることを知らせた。巨大な鳥に襲われたキタイは、気が付くと巣の中にいた。周囲には孵化したばかりの雛鳥たちがいたが、それを狙って獣の群れが迫っていた。キタイは雛鳥を守るために戦い、そこへ親鳥も駆け付けた。巣を脱出したキタイは父と連絡を取ろうとするが、ナビバンドは壊れていた。誰も頼れない中で、キタイは任務を果たすために走り出す…。

監督はM・ナイト・シャマラン、原案はウィル・スミス、脚本はゲイリー・ウィッタ&M・ナイト・シャマラン、製作はケイレブ・ピンケット&ジェイダ・ピンケット・スミス&ウィル・スミス&ジェームズ・ラシター&M・ナイト・シャマラン、共同製作はアシュウィン・ラジャン&ジョン・ラスク、製作協力はクワメ・L・パーカー、製作総指揮はE・ベネット・ウォルシュ、撮影はピーター・サシツキー、編集はスティーヴン・ローゼンブラム、美術はトム・サンダース、衣装はエイミー・ウェストコット、視覚効果監修はジョナサン・ロスバート、音楽はジェームズ・ニュートン・ハワード。
出演はジェイデン・スミス、ウィル・スミス、ゾーイ・イザベラ・クラヴィッツ、ソフィー・オコネドー、グレン・モーシャワー、クリストファー・ヒヴュ、サッシャ・ダーワン、クリス・ギア、ディエゴ・クラッテンホフ、デヴィッド・デンマン、リンカーン・ルイス、ジェイデン・マーティン、シンシア・L・ボブ、モニカ・ジョリー他。


ウィル・スミスが原案&製作を務め、『ハプニング』『エアベンダー』のM・ナイト・シャマランに監督を任せた作品。
脚本はシャマランと『ザ・ウォーカー』のゲイリー・ウィッタの共同。
キタイをジェイデン・スミス、サイファをウィル・スミス、センシをゾーイ・イザベラ・クラヴィッツ、ファイアをソフィー・オコネドー、ヴェランをグレン・モーシャワー、警備主任をクリストファー・ヒヴュが演じている。

ウィル・スミスの妻であるジェイダ・ピンケット・スミスも製作に携わっており、ある意味ではファミリー映画だ。
リメイク版『ベスト・キッド』でジェイデン・スミスがジャッキー・チェンと仲良く共演しているのを見たウィル・スミスが、「パパもジェイデンと共演したいよ。ジェイデンの芝居を間近で見たいよ」という思いで製作した、完全無欠の親バカ映画である。
その親バカぶりは、オレ様主義のウィル・スミスが主演ではなく助演に回っていることからも見て取れる。
トップ・ビリングをジェイデンに譲っているだけでなく、実質的な主人公も完全にジェイデンなのだ。

「とにかく息子を目立たせたい、息子を活躍させたい」という一心でウィル・スミスが作った映画なので、登場人物は最小限に留めている。
名前も出ないような訓練生やレンジャー隊員たちが何人か登場するが、あっという間に出番を終える。
宇宙船のレンジャー隊員は、墜落事故で全滅する。センシとファイアも、ほとんど出番は無い。
映画開始から20分強で、画面に登場する人物はキタイとサイファだけになる。
その上、サイファは大怪我で倒れているだけだから、ほぼキタイが一人で行動することになる。
それは言い換えれば、ジェイデン・スミスのワンマンショーってことだ。

この映画は、「ジェイデン・スミスが頑張る姿を応援する」という気持ちで見ることを要求される。
それだけが本作品を引っ張って行く力であり、それ以外に見所は何も無いからだ。
だから、もしも貴方がジェイデンを我が息子のように感じることが出来れば、この映画を楽しむことは簡単である。
そうでなければ、まるで他人が撮影した、その人の息子が出ている運動会の映像でも見せられているかのような気分になる可能性がある。

ジェイデン・スミスには、ちびっ子スターとしてのオーラや魅力が全く感じられない。
しかし彼を観賞する映画だから、そうなるとキタイというキャラクターが魅力的かどうかってのが生命線だ。そこが魅力的じゃないと救いようがない。
そして本作品は、救いようがない結果になっている。キタイはヘタレのくせに反抗的で、でも少しのピンチで泣き言を漏らす。
たぶん本当の親なら、キタイ(ジェイデン)が弱音を吐くシーンや怖がるシーンを見ても同情心が沸いたり、応援したくなったりするんだろう。
しかし観客の中で本物の親は2人しかいないので、他の面々にとっては単なる疎ましいガキでしかない。

一応、後半のキタイには精神的成長が見られるのだが、その成長ドラマが薄っぺらいどころじゃなくて「どこに成長物語があったっけ?見落としたっけ?」という状態なので、彼が勇ましく頑張るようになっても、やはり魅力的だとは感じない。
そもそも冒頭で「個人の能力は高いけど協調性に欠ける」という未熟さが指摘されているのに、そこが改善されるドラマは無いんだよな。
そりゃあ仲間がいなくて単独で行動しているから当然なんだけど、だったら「協調性の欠如」という欠点を提示している意味は何なのかと。
この話だと、「協調性が欠如していても、個人能力を高めればOK」という答えになっちゃってるぞ。

普通に考えれば、大怪我を負っていたサイファもクライマックスでは加勢し、キタイの窮地を救うぐらいの役割を果たすように動かすべきだろう。
それがオーソドックスな話の作り方だし、そこから外れるとなると「最後までキタイだけが全てを任される話」ってことになる。それはどう考えたって、物語としては面白味に欠ける。
しかし、ウィル・スミスの親バカ映画なので、面白いかどうかは二の次なのだ。とにかく「ウチのジェイデンを見てやってください」という気持ちが強すぎて、バランス感覚は欠け落ちているのだ。
っていうか、たぶんウィル・スミスは、この仕上がりでも本気で面白くなっていると思っていたはずだ。
恋だけでなく、親バカも盲目になるのだ。

ジェイデンを目立たさせることばかりを考えていたウィル・スミスの原案で、それをM・ナイト・シャマランが脚本化しているんだから、そりゃあボンクラな内容になっているのも当然だ。
まず冒頭で「地球の自然環境を破壊してしまった人類は太陽圏外の惑星に移住した」という説明が入るが、こんな設定は全く必要性が無い。
宇宙船が千年後の地球に墜落するという展開も、全く意味が無い。
未来の地球人が別の惑星に墜落したという話で成立するし、そっちの方がいい。

そもそも、これがSFである必要性さえ無い。
中身は完全に「ティーンズ向けのサバイバル・アドベンチャー映画」なのだから、むしろ現代の地球を舞台にして、未開のジャングルで遭難した少年が生き延びようとする内容にでもした方がスッキリする。
どうせ「いかにも未来的」な風景なんて広がっていないし、出て来る動物だって猿や虎や鷲に良く似ているんだから、中途半端な未来観で安っぽさを助長するよりも現代の密林にしてしまった方がマシだ。

実際、当初は現代が舞台だったらしいし、そのままで良かったのに。そうすりゃ製作費も抑制できて、バカみたいな赤字を出すことも無かっただろうに。
っていうか、むしろ「巨額を投じた大作映画」にするために、あえてSFという意匠を凝らしているような気もする。
そこは「ウチの息子が主演するんだから、やっぱりビッグ・バジェットにすべきでしょ」という親バカ精神だったのかな。
なんせ、これを3部作の第1作として考えていたらしいし、どんだけイカれているのかと。
親心って、時に人間を狂わせるね。

SFである必要性を全く感じない話であるにも関わらず、SF映画に仕立て上げているのは、ウィル・スミスの信仰も関係しているのかもしれない。
本人は否定しているが、ウィル・スミスはカルト教団として知られるサイエントロジーの信者である可能性が濃厚だ。
彼が夫妻で設立した小学校のニュー・ヴィレッジ・リーダーシップ・アカデミーでも、サイエントロジーの教育が行われていたという噂があった(既に閉鎖)。
で、そのサイエントロジーの創始者であるL・ロン・ハバードが、SFチックな考え方の持ち主なのよね。SF作家でもあったしね(『バトルフィールド・アース』は信者のジョン・トラヴォルタによって映画化されている)。

話を戻して、ポンコツな内容を見て行こう。
異星人は人類を滅ぼすためにアーサを放ったはずだが、その後はどうなったのか分からない。滅ぼせなかったから惑星を去ったのか。
でも恐怖心をコントロールできたのはサイファだから大勢の人間は殺されているはずで、異星人がその気になれば惑星をモノに出来たんじゃないのか。
惑星を人類に渡したくないからこそアーサを放ったはずなのに、あっさりと立ち去っているとしたら、そりゃ変だぞ。「人間の恐怖心を嗅ぎ取る」という都合の良すぎる怪物を生み出す能力があるなら、他にも幾らだって攻撃方法は思い付きそうだぞ。

一方、人類はアーサに対抗する手段として、なぜか「恐怖心をコントロールする」という訓練を積むことしかやっていない様子だ。
でも、恐怖心で位置をキャッチされたとしても、アーサを殺すことの出来る武器を作れば済むだけじゃないのか。なんでカトラスという武器しか無いんだよ。
銃火器が存在しないのも変だろ。アーサの特徴を考えれば、発射武器があれば明らかに優位な戦いが出来るはずだし。
それと、センシがキタイを守る際に使ったカプセルがあるけど、防御のための道具として、それを大量に用意しておけばいいんじゃないのか。なんで1つしか無いんだよ。

それと、22通りに変化するはずのカトラスは、「棒の両方から刃が出る」という1つのパターンしか無いぞ。
一応、1本の棒を2つに分割して二刀流で戦うというパターンはあるけど、それを含めても2種類でしょ。
大体さ、上映時間を考えたら、どう頑張っても22通りを全て見せられるわけがないんだから、最初から欲張った設定なんか説明しなきゃいいのに。
ただ単に「棒の両方から刃が出る」というだけの武器でもいいでしょうに。

千年後の地球は「人類を殺すために進化した」という設定だが、そんな風には全く見えない。
だってキタイが移動していても、たまに動物が襲って来るだけで、天候や環境が人類の生存に合わないわけじゃない。
人間にとって有害な気体が充満しているとか、キタイが休憩を取る暇も無いぐらい矢継ぎ早に生物が襲って来るとか、植物まで襲って来るとか、そういうことが無い。
一応、錠剤を飲まないと呼吸が難しいとか、寒さが厳しい場所が多いという設定はあるけど、「人類を殺すために進化した」にしてはヌルすぎる。

鷲に似た鳥はキタイを襲うのだが、後でキタイが寒さに凍えて危機に陥った時には自らの命を犠牲にして助けてくれる。
でも、なぜキタイを助けたのか、それが良く分からん。
もしも「雛鳥を助けようとしてくれたから」っという恩返しの気持ちだとしたら、まずヌルすぎる。人類を殺すため進化した地球の生物が、そんなヌルいことじゃダメだろ。
しかもキタイが雛鳥を救ったのならともかく、全滅しているし。
「雛鳥は全滅したけど、助けようとしてくれたから借りは返すよ」ってことなら、どんだけヌルいんだって話だよ。

終盤に入ると、全く盛り上がらないキタイとアーサの戦いが用意されている。
急に悟りを開いたキタイはカトラスで攻撃するが、アーサがビーコンに近付いたのでスライディングで取ろうとする。
そんでアーサに蹴られちゃうんだけど、ゆっくり落ち着いて攻撃している暇があったら、先にビーコンを拾った方が良かったんじゃなかったのか。
そんでキタイはカトラスを背中に突き刺して倒すんだけど、すげえ簡単に殺せちゃうのね。

キタイがビーコンを拾って掲げると、あっという間に助けが駆け付ける。
到着するのが早すぎるだろ。
そんで重傷を負って死に掛けていたはずのサイファは、普通に生きてて喋ることも出来る。そんなサイファにキタイは抱き付くが、まるで感動しない。
そして恐ろしいことに、キタイは「ママと仕事がしたい」と口にするのだ。
いやいや、お前は今回の体験で、レンジャー隊員としての心構えを会得したんじゃないのかよ。それなのに、レンジャー隊員になる決意を捨てて、ママと働きたいと思っちゃうのかよ。
だったら、今回の体験は何なのかと。
サイファは「俺もだ」と言うけど、なんで受け入れちゃってるんだよ。

(観賞日:2014年11月16日)


第34回ゴールデン・ラズベリー賞(2013年)

受賞:最低主演男優賞[ジェイデン・スミス]
受賞:最低助演男優賞[ウィル・スミス]
受賞:最低スクリーン・コンボ賞[ジェイデン・スミス&ウィル・スミス]

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低監督賞[M・ナイト・シャマラン]
ノミネート:最低脚本賞

 

*ポンコツ映画愛護協会