『ワイルド7』:2011、日本

6人組の武装集団が八重樫銀行を襲撃し、警察に逃走用の車両を要求した。東都新聞社社会部記者・藤堂正志が現場で取材をしていると、新人の岩下こずえが駆け付けて「警察は犯人側の要求を飲んだようです。空港までの道路が封鎖され始めたようです」と知らせる。既に行内では、武装集団による犠牲者が出ていた。銀行の前に車が到着すると、犯人グループは数名の行員に覆面を被せ、自分たちを取り囲むように配置さて出て来た。そのため、狙撃犯は犯人を識別することが出来ない。
犯人グループは車に乗り込んだ途端、人質を射殺した。犯人の逃走により、事件は超法規的警察組織「ワイルド7」に全権限が移譲された。ワイルド7の飛葉大陸、セカイ、パイロウ、ソックス、オヤブン、ヘボピー、B・B・Qは、バイクで出動した。犯人はトンネル内で輸送車を爆破し、用意しておいた車に乗り込んだ。彼らが最後まで連行していた人質を射殺しようとした時、そこへワイルド7が現れた。犯人たちは銃を乱射するが、ワイルド7は全員を射殺した。
藤堂とこずえが現場へ駆け付けると、既に7人は去った後だった。藤堂は現場写真を撮影し、「奴らの仕業だ。ワイルド7」と漏らした。事件は犯人の事故死として処理されたが、藤堂は「全員凶悪な犯罪者」「超法規的存在の特別警察」とワイルド7を取り上げた記事を書く。しかし編集長によって没にされた。この1年の間に、犯人が事故死する事件が8件も起きている。藤堂は、全てワイルド7の仕業であり、国家ぐるみで存在を隠蔽していると確信していた。そして、それは事実だった。
中央合同庁舎六号館・最高検察庁。ワイルド7の指揮官である草波勝警視正は、検事総長の成沢守から「派手にやったようだね」と言われ、「忠実に任務を遂行したまでです」と告げる。1年前、成沢は「悪党には悪党をぶつける」という草波の提言を聞き入れ、超法規的警察組織の結成を許可した。成沢が「後悔しているよ。君の集めた7人は手の付けられない犯罪者だ。検察の中にも危険視する声がある。彼らの行動がエスカレートすると、私でも庇い切れない」と語ると、草波は「その時は私が彼らを葬ります」と告げた。
ワイルド7は別の事件の犯人を追い詰め、飛葉が射殺しようと高速道路上で射殺しようとする。だが、遠くにいたヘルメットの人物が、男を狙撃した。ワイルド7はバイクで逃げた狙撃手を追跡するが、取り逃がしてしまった。クラブに立ち寄った飛葉は、本間ユキという女性を目撃した。店を出て行くユキを見た飛葉は、狙撃手ではないかと睨む。飛葉は後を追うが、店の外に出ると彼女の姿は無かった。
標的を奪われたのは2度目で、殺された2人には「広域指定犯罪グループM108号」という共通点がある。M108号とは、脅迫に逆らった相手はもちろん、金を払った相手でも気分次第で殺す連中だ。この半年の間に、M108号の4人が殺されている。草波がアジトでそのことを説明すると、飛葉は「手間が省けたってことじゃねえか。俺たちがやってることはドブさらいだ。幾らやっても大して人様の役には立ってねえし、代わりなんか幾らでもいる」とクールに告げる。草波は「お前たちが何を思っていようがどうでもいい。任務は確実に遂行しろ。マシンはマシンらしく生きていればいい。人並みに存在理由なんて考えるな」と述べた。
後日、飛葉は街をバイクで疾走している最中、バスに乗るユキを発見した。彼はバスを強引に停止させ、ユキを降車させる。飛葉は「俺に見覚えあるな?一度会ってる。高速の上で」とカマを掛けるが、ユキは何食わぬ顔で「新手のナンパ?バカみたい」と言う。「人違いだったようだ」と飛葉が去ろうとすると、ユキは「バイト、遅れそうなんですけど」と告げる。飛葉がバイト先のレストランまで送ると、ユキは「売り上げに協力しなさい」と言う。飛葉は彼女に要求された通り、メニューを次々に注文した。
いつの間にか意識を失った飛葉が気付くと、ユキのアパートだった。彼は服を脱ぎ、彼女のベッドの中にいた。飛葉がアジトに戻ると、セカイが現れた。彼は「俺は命令されて仕方なくやっているわけじゃない。俺たちだって、少しは世の中の役に立ってるんじゃないか。守りたい大切な物って、誰だってあるだろ」と問い掛ける。しかし飛葉は、「アンタ、大切な物を守れたこと、あんのかよ」と批判的な口調で言い、アジトを後にした。
草波は成沢に呼び出され、PSU(法務省公安調査庁の情報機関)へ赴いた。アテナ製薬研究施設から特殊なウイルスが盗み出されたと報告が入ったからだ。それは厚労省が秘密裏に研究を進めていたもので、防衛相と米軍も関与していた。2人は情報分析部門統括者である桐生圭吾と会い、状況の説明を受ける。犯人側の要求は2億ドルで、要求を受け入れなかった場合はウィルスを散布すると通告している。東京を飛行している飛行船に、爆破装置とウイルスの容器が設置されている。
時限装置は既に作動しており、4時間半後の3時までにケイマン諸島の指定口座へ入金が確認された場合に限り、時限装置を解除すると犯人側は通告している。ウイルスの脅威を示すため、犯人側は本日未明に真鶴半島沖を航行中の貨物船に同型のウイルスを散布し、乗組員15名が死亡している。盗まれたのは昨日の午後5時だが、盗難の報告があったのは今朝だった。草波が疑問を抱くと、桐生は「対応を協議している内に報告が遅れたといったところでしょう」と告げた。
成沢は草波に、「手口からして、広域指定犯罪グループM108号の犯行と思われる」と告げた。ワイルド7は草波から出動を命じられ、「遠隔装置が及ぶのは飛行船から半径5キロ以内。その圏内に入り、不審車両を見つけ出せ」と指示を受ける。PSUは中央駅前に停めてある盗難車を発見し、セカイたちが急行する。しかし犯人は車を乗り捨てた後で、中にはワクチン接種の形跡があった。桐生は緊急時に限り自分だけに使用が認められている監視システムを作動させた。
駅の外に目をやった飛葉は、バイクに乗っている不審人物に気付いた。セカイが不審者を捜していると、藤堂かこずえを伴って現れた。彼は真鶴半島沖で自衛隊が演習を始めたという情報を疑い、取材に向かうところだった。セカイはこずえが電話を掛けている間に藤堂を連れ出し、「あの子を連れて、今すぐに東京を離れろ」と凄んだ。PSUはデータベースのマイケル・シバタと合致する人物を発見した。空港行き電車のコンコースだ。その情報は、直ちにワイルド7へと伝えられた。
成沢からPSUに、政府が要求を呑んで送金を完了したという連絡が入った。しかし時限装置は解除されない。草波はワイルド7に対し、「殺さずに時限装置を解除させろ」と指令を出した。飛葉が犯人グループを発見した直後、先程のバイクの人物が突っ込んで来た。その人物は犯人グループに発砲し、激しい銃撃戦となった。飛葉はバイクの人物を助け、安全な場所に移動する。ヘルメットを脱がせると、それはユキだった。
飛葉が驚いている間にユキは逃走し、シバタを撃とうとする。そこに飛葉が立ち塞がって阻止すると、ワイルド7の面々が駆け付けて犯人グループを取り囲んだ。飛葉は「誰も撃つな」とオヤブンに銃を向ける。シバタは「時限装置を解除できるのは俺だけだ。あと3分だ。お前ら全員死ぬぞ」と言い放つ。「そいつは私の家族を殺した。邪魔する奴は殺す」とユキは言い、逃げようとしたシバタに弾丸を浴びせた。犯人グループが一斉に発砲したため、ワイルド7も仕方なく反撃して皆殺しにした。
シバタが防弾チョッキで助かっていたため、ワイルド7は彼を脅して時限装置を解除させた。ユキは飛葉に、10年前のユニバーサル・スクエア爆破事件で家族が犠牲になったことを話す。彼女は半年前に犯人グルプの一人を発見し、そこからメンバー7人の内の4人を殺害していた。彼女は飛葉の正体も知っており、眠っている隙に携帯電話に発信機を取り付けた。残りの標的に近付くためだ。これで5人目を殺したことになるが、ユキは「残りはあと2人。復讐はまだ終わっていない」と口にする。飛葉は「もう、やめるんだ」と告げるが、彼女は「私を止めるには殺すしかないよ」と述べた。
草波はワイルド7に、厚労省が手配したアメリカの製薬会社の株の動向を見せる。当然のことながら事件公表後、一時的に株価は急騰している。ウイルス盗難後、ニューヨーク市場が開いたと同時に、事件公表前にも関わらず、何者かが株を大量に購入している。その人物は急騰後に株を売り抜けて、20億円もの利益を得ている。草波は、その犯人がシバタたちではなく、桐生であることを見抜いていた。
桐生は今回だけでなく、今までに何度も、PSUに非常事態発生の通報が入ってから警察機関に報告するまでに大量の株取引を行っていた。桐生が犯罪情報の公表を遅らせて大儲けした事件の中には、10年前のユニバーサル・スクエア爆破事件も含まれていた。ワイルド7の面々からは「草波さん、アンタが頭を使って処分すればいい」という意見が出るが、飛葉はユキのことを考え、「同じだろ。俺たちが退治しなきゃならない野郎だ」と口にした。
草波はワイルド7が張り込む中、パーティー会場へ赴いて桐生と会った。桐生は草波が来た理由を知っており、「私には切り札があります。国民には知られてはならない国家の最重要機密を握っている。それだけではない。国中のあるゆる秘密を握っている。その私に誰が手を出せますか。恐れる存在は無い。悪は滅びない。ならば悪と共存して生きていくしかないんですよ」と余裕の態度で告げた。
草波はワイルド7に「手は出すな」と命じるが、飛葉は無視して桐生を追い掛ける。プールサイドで待ち受けていた桐生は、「君はある女性を愛した。暴力団員に苦しめられていた女性だ。救いたい一心で事務所に乗り込んだが乱闘になり、3名を殺害した。しかし、その女性は事件の直後、自ら命を絶ってしまった。一番守りたかった人を死なせてしまったというわけだ。君はそれ以来、他人と深く関わり合うことを避け、処刑マシンとして生きて来たんだねえ」と語った。
桐生が「しかし妙な話だ。そんな君が、なぜ女に心を揺さぶられているんだ。ウェイトレスだよ」と言うと、飛葉は「彼女は関係ない」と告げる。桐生が「いや犯罪者だよ。彼女を逮捕すれば確実に死刑だ。どうせまた守れやしないんだよ」と挑発するように言うので、飛葉は激昂して掴み掛かろうとする。セカイが止めに入ると、桐生は彼に向かって「さすがは一児の父親だね、セカイ君。物分かりがいい。愚かな真似をして、これ以上、新聞記者として真面目に生きている娘さんを傷付けてはならないからね」と告げた。
セカイがカッとなると、桐生は「確かに君たち凶悪な犯罪者も、考えようによっては使い道がある。私は君たち7人の経歴も何もかも把握している。それを忘れるな」と告げて立ち去った。草波が駐車場に行くと、成沢の部下たちが彼を捕まえた。成沢は草波に「桐生君が手にしているパンドラの箱は決して開けてはならない。国家のためだ」と告げ、身柄を拘束した。SATはアジトへ突入するが、ワイルド7は事前に察知して逃亡していた。ワイルド7は凶悪犯グループとして、緊急指名手配された…。

監督は羽住英一郎、原作は望月三起也「ワイルド7」(少年画報社 週刊少年キング)、脚本は深沢正樹、製作総指揮はウィリアム・アイアトン、製作は久松猛朗&北川直樹&雨宮俊武&菅野信三&喜多埜裕明&加太孝明、エグゼクティブプロデューサーは阿部秀司&小岩井宏悦、プロデューサーは八木欣也&野村敏哉&森井輝、アソシエイトプロデューサーは小出真佐樹、ラインプロデューサーは古屋厚、撮影は江崎朋生、照明は三善章誉、録音は柳屋文彦、美術は上條安里&平林哲雄、編集は小江英幸、VFXスーパーバイザーはオダイッセイ、アクションコーディネーターは諸鍛冶裕太、カー&バイクスタントは雨宮正信&野呂真治&川上敏夫、ガンエフェクトは納富貴久男、コスチュームデザイナーは角田今日子、音楽は川井憲次。
主題歌は L’Arc〜en〜Ciel『CHASE』作詞:hyde、作曲:ken/hyde、編曲:L’Arc〜en〜Ciel。
出演は瑛太、中井貴一、椎名桔平、深田恭子、丸山隆平、阿部力、宇梶剛士、中原丈雄、吉田鋼太郎、平山祐介、松本実、要潤、本仮屋ユイカ、蓉崇、河村舞子、仲間リサ、松本さゆき、ゆきの、津村和幸、増田雄一、川井つと、三船清海、蒲生純一、橋本禎之、宇都隼平、吉田剛、堀川英樹、奥田奨、戒焔、有田薫、長尾のぶ、新谷恒成、立山翼、渋田美由貴、井上微沙子、辻尚志、湯池広大、佐々木ともみ、佐藤琉空、松藤百香、鎌田直城、山北政豊、前渕悦子、望月ミキ、山口河童、神崎孝一郎ら。


1969年から1979年に掛けて連載された望月三起也の同名漫画を基にした作品。
脚本は『レイクサイド マーダーケース』の深沢正樹、監督は『海猿 ウミザル』『おっぱいバレー』の羽住英一郎。
飛葉を瑛太、草波を中井貴一、セカイを椎名桔平、ユキを深田恭子、パイロウを丸山隆平、ソックスを阿部力、オヤブンを宇梶剛士、成沢を中原丈雄、桐生を吉田鋼太郎、ヘボピーを平山祐介、B・B・Qを松本実、藤堂を要潤、こずえを本仮屋ユイカが演じている。

原作は古い漫画だから、その読者だけを観客として狙っているわけではないだろう。むしろ、若い人をメインに想定し、その上で「漫画をリアルタイムで読んでいた中高年も取り込もう」というのが製作サイドの狙いだったのではないかと推測する。
で、原作を知らない観客の方がメインだと考えれば、原作から逸脱した内容になっていても、それほど問題は無いと思う。
ただ、なぜワイルド7のメンバーの内、「八百」と「両国」と「チャーシュー」を登場させず、似たようなキャラ設定で名前が違う「パイロウ」「ソックス」「B・B・Q」という連中を出しているのかが分からない。

わざわざ違うキャラにしている意味も、まるで感じられないんだよな。
っていうか、飛葉とセカイ(原作では「世界」)を除く面々は、誰が誰でもいいような扱いだしね。ほぼ十把一絡げというか、数合わせというか、そんな感じだ。
パイロウの「爆弾魔」とか、ソックスの「天才詐欺師」とか、オヤブンの「元・暴力団の組長」とか、そういう設定や才能が劇中で活用されることは一度も無いし。
チームの絆も、まるで感じられない。

飛葉ちゃんを演じる瑛太は、明らかにミスキャスト。ちっともワイルドじゃないよ。無理してワイルドをやろうとしているけど、その無理が露骨に見えちゃってるという感じ。
キャラクター造形にも問題があるんだけど、単なる陰気な奴にしか見えないし。
そもそも瑛太って、俳優としてのイメージからして、ワイルドからは程遠いし。
ユキを演じるフカキョンもミスキャストだよなあ。凄腕のスナイパーで、バイクを軽く乗りこなしてワイルド7から逃げ切ってしまうスーパーライダーって、そりゃ無茶だよ。
「全く似合わない」というギャップをネタにするような作品、ネタにされるようなキャラであれば、それも別にいいかもしれん。
だけど、この作品の場合、そこはマジで「凄腕のスナイパーであり、見事なテクニックを持つバイク乗り」に見えなきゃマズいわけで。

冒頭から「凶悪な強盗団をワイルド7が始末する」という展開が用意されているんだけど、アクションシーンの作り方、盛り上げ方が下手。
強盗団がトンネル内で輸送車を爆破した後、走るトレーラーからワイルド7がバイク出て来るんだけど、その見せ方の時点で上手くない。
犯人サイドから描いておいて、逃げようとするトコへワイルド7が初めて画面に登場する方がカッコイイんじゃないかと。
バイクで走るシーンを先に見せちゃったら、もう犯人たちのトコヘ来るのがそいつらだって分かってしまうでしょ。

しかも、最後の人質を射殺しようとした奴が狙撃されるので、ワイルド7がバイクで現れるのかと思いきや、トレーラーが突っ込んで車を次々に潰していくんだよ。
おいおい、バイクで出動した意味は何なのよ。
そこはワイルド7が犯人を片付けていくべきだろうに。なんでトレーラーが大活躍しているんだよ。
爆発炎上する車から命からがら逃げだして負傷している連中を攻撃しても、ちっともイケてねえよ。
ワイルド7がバイクで出動して、向こうは車で逃げようとしているのに、カーチェイスもやってねえし。

冒頭でケレン味溢れるアクシヨンシーンを見せて、観客を引き付けるべきなんじゃないの。
だからこそ、冒頭に「ワイルド7が強盗団の始末を命じられる」という展開があるんじゃないの。
最初にワイルド7のアクションシーンをマトモに描かないのなら、そんな導入部にしている意味が無いでしょうに。
飛葉ちゃんが最初に見せるマトモなバイクアクションが「ユキをスピード違反のバイクでレストランまで送っていく」というシーンって、どういう計算なんだよ。

殺人ウイルスを盗んだ連中が飛行船を飛ばしたことでバイオテロの脅威が生じているはずなんだけど、全く緊張感が高まらない。
その原因は、「広域指定犯罪グループM108号」の存在がボンヤリしていることが挙げられる。
また、ウイルスの脅威もアピールがイマイチだ。ワイルド7が駅でキョロキョロしているのも、その時点では何の当てもなく不審者を捜そうとしているだけなので、愚かな行為にしか見えない。
犯人グループと戦うアクションシーンも、ちっとも盛り上がらないしね。
全てはユキを絡めたせいだ。そのせいでゴチャついてしまうし、「犯人を確保し、脅して解除させて」というところの盛り上がりを邪魔している。

草波が桐生の犯罪を説明した時、飛葉だけは他のメンバーと違って「同じだろ。俺たちが退治しなきゃならない野郎だ」と、強い意気込みを示す。
彼が今までと違って任務遂行への積極的な態度を示すのは、もちろんユキのことがあるからなんだけど、それを主人公の動機にしている ところに、あまり気持ちが乗らないんだよなあ。
ユキとの恋愛関係が薄いし、「女と会って考えが変わる」「女のために頑張る」ってのも、なんかワイルドじゃねえなあと感じるし。
いや、最終的に「女を助けるために行動する」というのがあっても、それはいいと思うのよ。ただ、それが「ミッション遂行への意欲を見せる唯一の動機」としてあるのは、ちょっとねえ。

やたらと説明的なセリフが多いのがカッコ悪い。
例えばPSUに草波が来た時に、桐生が「末は警視総監と言われるエリートでしたが、法律で裁けない犯罪者は、いっそ処刑してしまおうという過激な持論を唱え、超法規的警察組織、通称ワイルド7を誕生させた」と、いちいち説明する。
後半、桐生がプルーサイドで飛葉に「君はある女性を愛した。暴力団員に苦しめられていた女性だ。救いたい一心で事務所に乗り込んだが乱闘になり、3名を殺害した。しかしその女性は事件の直後、自ら命を絶ってしまった」ってのも、もう少し上手いやり方は無かったのかと。
あと、「そのタイミングかよ」とも思うし。

このプールサイドのシーンはかなりヒドいモノになっていて、桐生は飛葉の過去だけでなく、続けてセカイに対しても「さすがは一児の父親だね、セカイ君。物分かりがいい。愚かな真似をして、これ以上、新聞記者として真面目に生きている娘さんを傷付けてはならないからね」と、彼とこずえの関係をセリフで説明する。
さらに、「確かに君たち凶悪な犯罪者も考えようによっては使い道がある。軍隊並みの兵器を作り上げることの出来る爆弾魔のパイロウ。人の心を巧みに操る天才詐欺師のソックス。かつては300人の組員を束ねていたヤクザの大親分」と、そこに来てメンバーの経歴を説明する。
もうね、どんだけ不恰好なのかと。

そのシーンで桐生は「私は君たち7人の経歴も何もかも把握している」と言うけど、経歴を全て把握しているからって、そんなのは何の脅しにもならないでしょ。
だってさ、ワイルド7って基本的には悪党を抹殺するのが仕事なわけで。
だから、そこで桐生を殺せば済むことだ。その場で殺さずに見逃す意味が無い。
そこでグズグズしているから、アジトを襲撃されたり、指名手配されたりするのよ。

その桐生の犯罪は「裏での株取引」なんだけど、ラスボスとしては、なんかショボイなあ。それならバイオテロの一味を最後に戦う敵として配置してくれた方がマシだよ。
しかも、桐生が金儲けのために利用した事件にはユニバーサル・スクエア爆破事件も含まれていたことが明らかになるので、ユキの復讐相手が7人以外にもいるということになってしまう。
しかも犯人グルーブとグルってわけじゃなくて、それとは別の形での復讐相手なんだよな。
そこは、無駄にボンヤリさせちゃってるなあと。

ワイルド7がPSU本部へ向かうと、実は桐生に保護されていた草波が電話で「標的は桐生一人。他の人間は絶対に殺すな」と命じるけど、そりゃ無いわ。
なんで枷を嵌めるのよ。自由に人を殺させてやれよ。
桐生以外の相手は悪党じゃないから殺すなってことなんだろうけど、そこで縛りを与えなきゃいけなくなるぐらいなら、最初から政府組織を相手にしなきゃならんような話にしなきゃいいのよ。
ワイルド7が自由に敵を撃ちまくれるような、そういう相手との戦いをクライマックスに設定すべきでしょ。

クライマックスなのに、「桐生以外は殺せない」って、そんなヌルいヒューマニズムを守らなきゃいけないのはキツいわ。
パイロウが「派手にやろうぜ」とか言ってるけど、建物を破壊するための発砲か、威嚇発砲しか出来ないじゃねえか。
あと、トレーラーで出動してから、PSUに突撃するまでに、時間が掛かりすぎる。もうちょっとサクサクとテンポ良く進めてくれよ。
そこでダラダラしちゃったら、テンションが上がらないでしょ。

それと、ワイルド7はトレーラーの中から乱射して、もちろんトレーラーの壁に穴が開きまくっているんだけど、バカみたいだぞ、それ。
ロケットランチャーを撃ち込んで玄関前のSATがビビっている間に、バイクで突っ込めばいいじゃねえか。
あと、配置されたSATが好き放題に撃ちまくっているんだけど、「警察組織が悪党に対してバンバンと撃ちまくる」ということが無理だからこそ、ワイルド7が結成されたんじゃないのか。
そこでSATが撃ちまくれるのであれば、ワイルド7なんて要らないってことにならないか。

たまたま取材に来ていた藤堂とこずえを桐生が人質にしているってのは、バカバカしいとしか思えない。
桐生がワイルド7の襲撃を予期して、こずえを人質にしていたということなら、まだ受け入れられるよ。
でも、たまたま襲撃の日に取材に来ていたから、捕まえたというだけだからね。桐生は偶然に助けられて、人質という武器を手に入れただけだからね。
そこにバカバカしさがあるから、娘を助けたセカイが犠牲になっても、別の意味で不憫だと思っちゃうよ。
それと、そこを盛り上げるには、父娘のドラマが薄すぎるしね。

ワイルド7の面々は、飛葉を桐生の元へ行かせるために盾となる。
でも、SATの銃弾を浴びせて戦死するとか、そういうことじゃなくて、あっさりと捕まるだけ。
なんかカッコ悪いぞ。
あと、他の連中が捕まる中、飛葉が辿り着いて桐生の元まで殺そうとすると、SATに化けた草波が現れて制止するが、そんなに簡単に来ることが出来てしまうのなら、ワイルド7の苦労は何だったんだよ。

しかも、草波は美味しいトコを全てさらっていき、「マフィアの情報を漏洩させ、桐生が世界中のマフィアから狙われるようにする」という方法を取るのよね。
そんなことより、ワイルド7に桐生を始末させればいいだろうに。
そんな形で桐生への制裁を終わらせていたら、そこまでのワイルド7の行動は、完全に無意味と化してしまうじゃねえか。
セカイなんて完全に無駄死にじゃねえか。

(観賞日:2012年6月11日)


2011年度 HIHOはくさいアワード:4位

 

*ポンコツ映画愛護協会