『私をスキーに連れてって』:1987、日本

12月23日、安宅物産の軽金属部に勤務する矢野文男は仕事を適当に終わらせ、会社を後にした。帰宅した彼は、出掛ける準備をする。車のタイヤをスタッドレスに交換し、スキー用品を積み込んだ矢野は、志賀高原へ向かう。彼は口下手で不器用な人間だが、スキーだけはプロ級の腕前を持っている。一方、池上優と親友の恭世も、バスで志賀高原へ向かっていた。矢野はロッジに到着し、スキー仲間の泉、ヒロコ、小杉、真理子と合流した。泉とヒロコ、小杉と真理子はカップルで、矢野だけがシングルだ。泉は女に縁の無い矢野のために、ゆり江という女を連れて来ていた。
翌日、スキーを楽しんでいた矢野は、優と出会って心を奪われた。そこへ来た泉たちから、矢野は自分が使っているサロットというスキー用品のブランドについて質問される。矢野は「ウチのスポーツ部からモニター頼まれたんだ。統一カラーコーディネート。世界初ってことだな」と得意げに話した。小杉は「売れそうもねえなあ」と言い、泉は笑って「そうだよなあ、フルセットを揃えなきゃ意味無いなら、初心者か相当のミーハーにしか売れないもんなあ。先は見えてるなあ」と厳しい意見を言う。
ゆり江が「矢野さんって、こっちの業界の方なんですか」と興味を示すと、矢野は「こっちの業界ったって、ホントは軽金属部っていう地味な……」と話そうとすると、泉は首を絞めて黙らせた。ホテルのレストランに移動した泉と小杉は、矢野とゆり江を2人きりにさせた。ヒロコと真理子は、ゆり江に対して良い印象を持っていなかった。泉は口を滑らせ、2人がカップルになるかどうか小杉と賭けていることを喋ってしまった。
ゲレンデに戻った矢野は、リフトで優と一緒になった。優は恭世が男と一緒に楽しんでいたので、1人になってしまったのだ。しかし矢野は気の利いたことも言えず、スキーの技術に関して真面目にアドバイスした。リフトを降りて仲間たちと滑っていた矢野は、頭から雪に埋まっている優を助けた。矢野が優に興味を示していると気付いたヒロコと真理子は、協力してあげることにした。2人は優を追い掛け、一緒に滑ろうと誘った。矢野が「行こうよ」と言うと、優はうなずいた。
矢野と優が楽しく滑っていると、1万円を賭けている泉は、ゆり江を連れて来て邪魔をした。日も暮れて別れることになった時、矢野はヒロコと真理子に背中を押され、優を追い掛けて電話番号を尋ねた。「もう一度会いたい。いいかな?」と彼に言われた優は、黙ってうなずいた。だが、彼女が教えたのは嘘の番号だった。恭世が「素敵なのに、あの人。なんで?」と訊くと、優は「普通、彼女がいる前で他の子、ナンパする?」と口にした。
東京に戻って出勤した矢野は軽金属部を抜け出し、スポーツ部へ赴いた。先輩スポーツ部員の田山雄一郎は、矢野が企画したスキー靴の発表会が決まったことを話す。来年のバレンタインデーの万座で行われるサロット・カップの打ち上げパーティーを、その発表会のために提供してもらえることになったという。矢野は大いに喜ぶが、スポーツ部員の所崎たちから余所者として煙たがられていることを自覚しており、「パーティーには出ません」と告げた。
その夜、矢野は優から貰った番号に電話を掛けるが、「お掛けになった電話番号は現在使われていません」というアナウンスが聞こえて来た。次の日、矢野はスキーに行くために検算をせずに終わらせた仕事でミスが発覚し、課長に叱られた。矢野は課長に命じられ、一緒に常務の元へ謝りに行くことになった。常務から叱責されているところへ、秘書である優がお茶を運んで来た。優と矢野は、互いを見て驚いた。優は気まずそうな表情で部屋を出て行った。
その夜、矢野は仲間が集まるバーへ行き、優と会ったことを話す。すると仲間4人は、2人が付き合うかどうかの賭けを始めた。矢野はヒロコに「今度のスキーに誘っちゃったら」と促されると、「断られるに決まってるよ」と消極的な態度を示した。次の日、ヒロコは保険の外交員に化けて矢野の会社にやって来た。困惑した矢野は慌てて追い払おうとするが、ヒロコは強引に秘書室へ案内させる。ヒロコは優に、万座へスキーに行かないかと誘った。しかし恭代が「正月、志賀の会社の寮にみんなで行くんです」と言い、優も「ごめんなさい、忙しいんです」と断った。
ヒロコと真理子は矢野と優がくっ付く方に賭けており、泉と小杉はダメな方に賭けていた。ヒロコと真理子は金を上乗せし、2人を絶対にくっ付けようと画策する。仕事を終えた優が会社を出ると、真理子が車でやって来た。「乗って」と言われた優は、戸惑いながらも助手席に座る。車を発進させた真理子は、「今夜、みんなと会うんだ。矢野君、喜ぶよ」と口にする。「矢野さんって、どういう人なんですか」と問われた真理子は、思わず調子に乗って矢野の悪口を言ってしまった。
優は会社で矢野と会っても、彼を避ける態度を取った。彼女は恭世から、「ゆり江さんが恋人と一緒にいるのを見た」と聞かされた。矢野は万座スキー場に行くが、優のことが気になっていた。ロッジにある立体地図を見た彼は、志賀と万座が直線距離で2キロだと気付く。しかしロッジのオーナーは、「あのコース、春までは滑走禁止なんですよ。相当な難所ですからねえ。冬に滑るのは自殺行為です」と語る。車を使うと、遠回りなので5時間近く掛かることになるという。
矢野は車を走らせ、志賀へ向かうことにした。一方、志賀にいた優も恭世に車を借り、万座へ向かおうとする。彼女が車で出発しようとしたところへ、矢野の車が到着した。車を降りた矢野が「聞き間違えちゃったみたい、番号、電話」と言うと、優は黙って彼を見つめる。矢野が「やっぱり、聞き間違えじゃなかったのかな」と寂しく笑って去ろうとすると、優が「あの」と呼び止める。新年の花火が上がる中、優は「あけまして、おめでとうございます。今年も、よろしくお願いします」と笑顔で挨拶した。
東京へ戻ってから、矢野と優は正式に付き合い始めた。しかし矢野は発表会の準備で忙しくなり、優と会う約束を3日連続でドタキャンしてしまう。その後も矢野は田山の仕事の手伝いを優先し、優に寂しい思いをさせる。そんな優はヒロコたちから、バレンテインデーに志賀へスキーに行かないかと誘われた。彼女は小杉から、矢野を誘い出してほしいと頼まれた。次の日、優は会社で矢野にそのことを話し、「いいでしょ、会社は休みだし」と言う。サロット・カップのポスターに気付いた優に、矢野は「元々、僕はスポーツ部じゃないから、会場には行けるわけないし、それに田山さんだって迷惑なはずだし、大丈夫、行こう」と告げた。
矢野は田山から「発表会当日の発送係、手が足りないんだ、手伝ってくれ」と依頼される。「所崎たちも納得させた。今夜の販促から手伝ってくれ」と言われた矢野は、優との約束があることを話した。矢野はサロットの商品一式を全員分借りて、仲間たちと万座へ向かう。次の日、矢野たちは朝から横手山スキー場でスキーを楽しむ。一方、万座ではサロットの商品が到着せず、田山が慌てていた。前の夜、所崎たちが発送用の箱から商品を抜き取っていたのだ。
優たちの元へロッジの従業員が来て、会社の人から電話が掛かって来たので矢野の代わりに取ってほしいと頼まれる。ロッジに戻って受話器を取った優は、田山の部下から、発送ミスで箱の中身が全てサロットではないブランドの商品になっていることを聞かされる。田山の部下は彼女に、「今、君たちが来ているやつ、届けてもらえないか。7時までに」と切羽詰まった口調で言われる。優から事情を聞いたヒロコと真理子は矢野と連絡を取ろうとするが、無線の応答は無い。そこで2人は、車を走らせて万座へ向かう。2人を見送った優は地図を見て、万座への直線コースがあることを知る。彼女は矢野への置き手紙を残し、スキーで万座へ向かう…。

監督は馬場康夫、原作はホイチョイ・プロダクション(現在は「ホイチョイ・プロダクションズ」)脚本は一色伸幸、製作は三ツ井康、企画は宮内正喜、プロデューサーは宮島秀司&河井真也、プロデューサー補は小林寿夫、企画協力は佐々木志郎&山田耕大、撮影は長谷川元吉、スキー撮影は東京福原フィルムス、照明は中村一郎、録音は佐藤泰博、美術は和田洋、編集は冨田功、監督補は佐藤敏宏、製作担当は江島進、音楽は杉山卓夫。
出演は原田知世、三上博史、布施博、高橋ひとみ、沖田浩之、原田貴和子、鳥越マリ、飛田ゆき乃、田中邦衛、竹中直人、小坂一也、上田耕一、中真千子、小林憲二、丹波晶、野坂きいち、弥生みつき、相沢治夫ら。


『週刊ビッグコミックスピリッツ』の漫画『気まぐれコンセプト』で知名度を高めたバブルの申し子、ホイチョイ・プロダクション(現在は「ホイチョイ・プロダクションズ」)が初めて製作した映画。
『彼女が水着にきがえたら』『波の数だけ抱きしめて』と続くホイチョイ3部作の第1作。
優を演じた原田知世は、デビュー以来の所属事務所である角川春樹事務所を離れ、姉の原田貴和子と共に芸能事務所「ショーンハラダ」を設立して最初に出演したのが本作品だ。

矢野を演じた三上博史は、その役で出演予定だったスキーヤーが降板したために抜擢された。
他に、泉を布施博、ヒロコを高橋ひとみ、小杉を沖田浩之、真理子を原田貴和子、所崎を竹中直人、恭世を鳥越マリ、ゆり江を飛田ゆき乃、ロッジのオーナーを上田耕一、課長を小坂一也が演じている。
ホイチョイ・プロダクションのメンバーが『若大将』シリーズのファンだったということで、青大将を演じていた田中邦衛が田山役で、若大将の妹を演じていた中真千子がロッジの従業員で出演している。田中邦衛の「田山雄一郎」という役名も、『若大将』シリーズで加山雄三が演じていた「田沼雄一」をもじったものだ。
ちなみに、他の男性キャラの名前は、ホイチョイのメンバーから取られている(ホイチョイには吉岡文男、泉博之、小杉正明というメンバーがいた)。女性メンバーの名前は、社長である馬場康夫の友人たちから取っているようだ。

トレンディードラマの先駆けと言われることもある映画だが、「流行」に対する意識は、トレンディードラマよりも強いんじゃないだろうか。
当時の流行を色々と取り入れて観客を呼び込もうということではなく、自分たちで流行を作り出そうという意識がとても強い。
っていうか、その意識だけで作ったような作品だ。
それぐらい、この映画は「流行発信」に特化した作りになっている。

この映画でホイチョイが流行させようとしたのは、もちろんタイトルにもなっている「スキー」である。
そしてスキーに関連するアイテムも、流行させようとしている。
例えばスキー場に行くための4WD自動車であったり、スキーを楽しむ時に使うロシニョールのスキー板だったり、PHENIXのスキーウェアだったり、スキー場で使うアマチュア無線であったり、ニット帽にゴーグルというスキーファッションだったり、そういうものだ。
そしてホイチョイが目論んだ通り、スキー及びスキー関連のアイテムやファッションは流行した。
ロケ地として使われたプリンスホテルも、スキーに行く時の宿泊先として定番になった。

この映画が作られたのは、バブル景気の真っ只中だった。
そのバブルに浮かれる日本の姿が、この映画には如実に表れている。
例えば、優はOLで矢野はサラリーマンだが、ほとんど仕事らしい仕事はやっていない。
矢野は田山の仕事を手伝っているが、それは趣味であるスキー関連の仕事だからだ。
自分が所属する軽金属部の仕事は、スキーへ出掛けるために適当に済ませている(だからミスをやらかして課長に叱責されている)。

高度成長期のサラリーマンを主人公にした映画であれば、たぶん「仕事と恋」が描かれることだろう。
しかしバブルの頃のサラリーマンは、そこが「遊びと恋」になるってわけだ。
しかも、どうやら彼が企画したサロットというブランドは時代遅れであり、田山さえいなければ切った方が業績が上がるらしい。
ってことは、矢野にしろ田山にしろ、趣味を優先して会社に大きな損害を与えているんだよな。
別に趣味を大切にするのは構わないが、そのために会社に迷惑を掛けちゃマズいだろ。

流行を生み出すことが最大の、っていうか唯一の目的なので、ドラマはオマケみたいなモノだ。
一応、いかにもトレンディーな恋愛劇は用意されているが、どうでもいいっちゃあ、どうでもいい。
「山で出会った女の子が同じ会社の秘書だった」とか、「万座と志賀にいる男女が相手に会いに行こうとしてバッタリ遭遇」とか、「女が去ろうとする男に声を掛けたタイミングで新年の仕掛け花火が作動」とか、ものすごく安易で陳腐な展開のオンパレードだが、別にいいじゃないか。
どうせ物語なんて二の次なんだから。

とにかく「スキーをしているシーンや、スキー場所での振る舞いをカッコ良く見せる」ということが重視されており、スキーのシーンに長く時間を割いている。
ってことは、その分、ドラマを描く時間は減る計算になる。
さらに、ユーミンの曲が流れるシーンでは、映像はそれを盛り上げるための背景と化しているので、その間もドラマを膨らませることは出来ない。
ってことは、ただでさえ薄い物語を、さらに薄くする結果になっている。
だけど、それもどうだっていい。
前述のように、ドラマはオマケみたいなモノだから。

ホイチョイの面々に「スキーが大好きだから、みんなにもスキーを好きになってもらいたい」という「スキー愛」があったとは思わない。
単純に「スキーを流行させよう」という考えだったんじゃないかと思う。いわゆる広告代理店のような感覚ってことね。
だってさ、本当にスキーが好きだったら、矢野と仲間たちが平気でマナー違反をするシーンは描かないと思うのよ。
泉やヒロコたちが夜のスキー場で車を猛スピードで走らせてレースをやるのって、ものすごく危険で迷惑極まりない行為でしょ。
その後の「車を猛スピードで走らせて万座へ向かう」とか「素人が滑走禁止のコースを使って万座へ向かう」という行為は、「7時までに商品を届けなきゃいけない」という事情があるから仕方が無いにしても、カーレースは完全に遊びでやってるだけだからね。

ここまでのコメントだと、まるで酷評しているみたいに思われるかもしれないけど、ワシ、この映画、嫌いじゃないのよ。
バブル時代の代表的な作品として、その典型的な例として、そう悪くないんじゃないかと思っている。
それに何より、原田知世が可愛いからね。
演技力に関しては、まあアレだけど、原田知世の可愛さを堪能するという目的で鑑賞するのであれば、何のストレスも無く楽しめるのではないだろうか。
もしも「それは映画というより原田知世のプロモーション・フィルムになっているんじゃないか」とか、「演出や脚本などは無関係で、原田知世がアイドル女優として持っているポテンシャルだけの力なんじゃないか」とか、そういう指摘をする人がいたら、何の迷いも無く「はい、その通りです」と答えておく。

(観賞日:2013年8月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会