『わたしのハワイの歩きかた』:2014、日本

出版社で働くみのりは、久しぶりに会った友人の早川愛子から結婚式の2次会の会場選びを依頼される。同席した友人の遠藤加代子は、本来は自分がやる予定だったが、部署替えで仕事が忙しくなったのだと釈明した。愛子はハワイで挙式することが決まっており、みのりの会社がハワイの観光ガイド本を発行していたことから依頼を持ち掛けたのだ。みのりは愛子の質問を受け、観光ガイドを何度か担当し、何度もハワイへ行ったと嘘をついた。
愛子と別れた後、みのりは加代子から関わらない方がいいと忠告される。彼女は「2次会に来るのは愛子のスッチー仲間と旦那の取引相手だよ。私たちが相手にされるわけがないんだよ。愛子は自分の仲間と旦那の取引相手のお見合いパーティーを手伝わせようとしてるだけなんだから」と語る。加代子は愛子から契約書を要求されたこと、いちいち細かい注文を付けられたことを疎ましそうに話した。翌日、みのりは後輩社員の田嶋祐一に、かつては加代子が愛子の機嫌を取りまくっていたこと、スッチーになってから連絡もくれなくなって陰口を叩いていたことを語った。田嶋は結婚して男児が生まれ、先輩や同僚から結婚祝いを貰った。
みのりは大橋社長の元へ行き、「ハワイの観光ガイドを出しましょう」と企画書を見せる。既に観光ガイドは何冊も発行しているが、会社でハワイに行った者は1人もいなかった。大橋は難色を示すが、みのりから「いい車買いましたねえ。社員はみんな家賃払うだけで精一杯なのに。みんなが知ったら昇給してくれって言うでしょうねえ」と脅されて承諾した。ハワイに到着したみのりは高級ホテルにチェックインし、ゆっったりとした時間を過ごした。
カフェでジンライムを飲んでいたみのりは、観光客の中年男性に声を掛けられるが冷淡に無視した。そこへ阿部知哉という男が現れて空き瓶を次々に回収すると、その男が「金に替えんの?持ってるよ」と絡む。みのりは苛立ち、「その人、私の友達」と中年男性に告げた。すると阿部は彼女に歩み寄り、「助けてくれてありがとうとか、言ってもらいたい?可哀想な奴、救ってあげたとか思ってんの?」と不遜な態度で告げた。
みのりは憤慨し、「あのオジサンの態度が頭に来たから友達だって言っただけ。まだここにいるつもりなら、あのオジサンの悪口でも言いながらジンライムでも飲もうよ」と告げた。すると阿部は軽く笑い、「お前結構、いい奴だな」と隣に座った。彼はホームパーティーに誘ってメモを渡すが、みのりは「別のパーティーに誘われてるんだよね」と断った。愛子のホームパーティーに赴いたみのりは、吉村茜という女がポロクラブの会長を馬代わりにして遊んでいる様子を目撃する。愛子はみのりに「ハワイに住んでいる友人」として茜を紹介し、二次会の相談に乗ってくれると説明した。
茜が「ここ出ない?」とみのりに言って準備をしていると、鎌田勉という男が声を掛けて来た。彼はパイナップルワインをみのりに飲ませ、ワイン会社の社長が後ろにいることを教えた上で感想を求める。みのりが「美味しい」と嘘をつくと、鎌田は社長の元へ戻って彼女も気に入ったみたいです」と告げた。茜はオンボロ車にみのりを乗せ、自宅へ招いて酒を飲んだ。彼女はタッパーでパーティーの食事を持ち帰っており、それを夕食にする。そこへ茜の友人のエミ姐とマコちゃんが来て、飲み会に参加した。
茜は金持ち男を見つけるためにパーティーへの参加を繰り返しており、みのりに「もっと凄いトコ連れてってあげるから」と言う。みのりは「金持ち男を探しに来たわけじゃないから」と告げ、男性のタイプを語る。茜は保険の営業マンである本間に付きまとわれており、その場にも押し掛けて来た。本間が熱い気持ちを訴えるが、茜は困惑の表情を浮かべる。みのりは本間に、「ホントにこの子のことを思ってるなら、アンタがこの子にピッタリの男を紹介してくれるぐらいじゃないとホントの愛って言えねえよ」と告げた。
翌日、みのりは茜に誘われてドライブインへ行き、一緒に昼食を取る。みのりは地元の人しか来ない場所を教えてほしいと依頼し、「会社の取材費と愛子のコネを利用して、ハワイで遊び倒してやろうと思ってんの。だから飲み食いした会計は会社持ち。コーディネーターとしてギャラも払います」と話す。茜は快諾し、みのりを連れて様々な場所を巡った。2人は前夜と同じパーティー会場へ赴き、みのりは白人にアピールする方法を茜に尋ねる。茜は「アメリカンは強い女が好きだから」と言い、目を付けた男を挑発して腕相撲に誘う。その男には相手にされなかったが、茜は憤慨してチャレンジを続行する。
みのりが一人でいると、鎌田が話し掛けて来た。彼はパイナップルワインの社長に出資してもらえることになったと話し、飲食店をやっていると告げる。みのりは鎌田に誘われ、彼が経営しているお茶漬け屋へ出向いた。鎌田は全米進出を目指していることを話し、みのりがヨーロッバやロシアを提案しても「ダメダメ」とアメリカにこだわった。一方、茜は金持ちの白人と親しくなり、家に誘われる。しかし、お試し期間の女がいることを知らされ、茜は断った。
みのりは鎌田に誘われて彼の部屋へ行き、これまでも様々な商品を試したが失敗続きだったことを聞かされる。みのりが「いろいろやり過ぎじゃない?」と言うと、彼は「それがいいんだよ。チャレンジする気持ちが無くなったらおしまいだよ」と熱く語った。みのりが地元に合わせた方がいいのではないかと提案すると、鎌田は日本を打ち出した方が受けるのだと饒舌に主張する。みのりは呆れてしまい、鎌田の家を去った。
翌日、みのりは茜と付き合う相手について執拗に質問され、「付き合っている人は結婚できない人だから」と明かした。「最悪だね、不倫とか」と言われ、みのりは「私は結婚相手を探してるわけじゃないし、金さえあれば誰でもいい人じゃないんで」と反発する。茜は「私は裕福な順に探しているだけ」と言い、関係を持ったのが本間だけだと打ち明ける。みのりが驚いていると、彼女は「だから責任を感じて私に付きまとってんの」と告げる。
部屋に戻ったみのりはパソコンで大橋にメールを打ち、活動資金の追加を要請する。彼女は田嶋からのメールを確認し、「日本に帰ってきたら、一回ちゃんと話したいです」という文面を読む。茜がレストランで仕事をしていると、本間が来て「お前の友達に言われたことを、ずっと考えてたんだ」と言う。彼は「俺の客の中から、結婚相手にふさわしい男を選んで来た。他の誰にも見せないでほしい。バレたらクビだ」と告げ、持参したファイルを取り出した。
「なんでここまですんの?」と茜が尋ねると、本間は「もし、このファイルにある男と上手く行かなかった時は、俺と一緒になってくれ」と述べた。彼は茜に、翌日にロアリッジで開かれる美食家たちの集まりへ行こうと持ち掛けた。次の日、みのりは愛子の結婚相手である塚原聡と会い、二次会について話す。そこへ鎌田が現れ、これからロアリッジへ行く塚原に「俺も連れて行ってくれないかな」と頼んだ。パイナップルワインの出資がダメになったので他の候補に会いたいのだと彼が話すと、塚原は承諾した。
みのりもパーティーに誘われ、塚原たちに同行する。塚原はロアリッジへ到着すると、みのりに「美食家たちの集まりが終わるのを待って、カクテルパーティーの時間にならないと参加できないよ」と説明する。みのりが「結局、平民か」と漏らすと、塚原は「中に入れるだけで凄いことなんだよ」と告げた。そこへ茜が本間と共に現れると、みのりは待ち時間に苛立って「いつになったら残飯恵んでもらえんのかなあ」と吐き捨てた。鎌田が「みんな真剣なんだ、黙ってろ」と注意すると、「偉そうに。金持ちのポケットから小銭がこぼれるのを待ってるだけでしょ」と彼女は言う。茜が「真剣になったことが無いから、他人の気持ちが分かんないんだよ」と告げると、みのりは「金持ちの男と結婚したいだけの女が、偉そうなこと言わないでよ」と反発した。
ようやくカクテルパーティーの時間になり、みのりたちは中に入れてもらえる。塚原はパーティー客にヨットを売り込み、鎌田は出資してもらえる相手を探す。茜は本間から「何かしてあげたいっていう気持ちにさせろ」と助言され、男を紹介してもらう。しかし寒い演技をした茜は、相手にされず失敗に終わった。鎌田は出資相手が見つからず、みのりは「あんな地味な店、流行るわけがないんだよ」と言う。彼女は鎌田の弱気な部分を批判し、「自分で流行りを作る気になんなきゃ、何やったって上手く行かないよ。やりたいことをやりゃあいいんだよ」と声を荒らげる。鎌田は「人のことより、もっと自分のこと考えた方がいいぞ」と告げ、その場を去った。
その直後、パーティー主催者は新しいメンバーとして、阿部を紹介する。そこは阿部の祖父が所有していた家であり、彼も金持ちだった。みのりは悪酔いして卒倒し、酒の勢いで田嶋にキスした時のことを夢に見た。彼女が目を覚ますと阿部の家でベッドに寝かされており、翌朝になっていた。阿部から男絡みでハワイへ来たのかと問われ、みのりは結婚している後輩社員と寝たこと、その後も2ヶ月ぐらい関係が続いたこと、相手の妻が妊娠中だと知ったことを語った。
みのりは阿部にキスをして、彼の友人の葬儀に同行した。本間は茜をジョギングコースへ連れて行き、二番目の候補に紹介しようとする。しかし茜が「もういいよ。これを見せられた時に、もう決めてたから。本間ちゃんと結婚しようって」と告げたので、本間は激しく動揺した。みのりが阿部と歩いていると、茜と本間に遭遇した。みのりは茜から「どうせ不倫に疲れた話でもして、慰められて付き合ったんでしょ」と言われ、図星だったので狼狽した。茜が本間と結婚することを明かすと、みのりは「大事な物をちゃんと見つけてるんだね」と口にした…。

監督は前田弘二、脚本は高田亮、製作は遠藤茂行&木下直哉&島村達雄&水口昌彦&間宮登良松&稲本健一&和田修治&Yuka "Lisa" Nawano&森越隆文&長谷川安弘&板東浩二&定井勇二、プロデューサーは小池賢太郎&根岸洋之、アソシエイトプロデューサーは柳迫成彦&仁科直之、撮影は戸田義久、照明は金子康博、美術は尾関龍生、録音は小宮元、編集は佐藤崇、音楽は きだしゅんすけ。
主題歌『アロハ式恋愛指南』竹内まりや 作詞・作曲:竹内まりや、編曲:山下達郎。
出演は榮倉奈々、高梨臨、瀬戸康史、加瀬亮、鶴見辰吾、安田顕、中村ゆり、宇野祥平、池松壮亮、上原美佐、吉永淳、佐藤みゆき、林和義、三浦景虎、土屋裕樹、柳英里紗、藤原希、伊藤沙莉、後藤亜実、三宅十空、Eric Bossick、Matt Perkins、Cody Easterbrook、Howard Bishop、Michael Adamshick、Greg Shepherd、Todd Sells、David Sikkink、Mark Lloyd、Elevila Giles、Butch Halemano、Ken Matepi、Gerald Bolson、Steve Flore-Cortes、Nicholas Gianforti、Valen Ahlo、Joshua Aplaca他。


『くりいむレモン 旅のおわり』『婚前特急』の前田弘二が監督を務めた作品。
『古奈子は男選びが悪い』と前述した2作で脚本を担当した高田亮が、前田弘二と4度目のタッグを組んでいる。
みのりを榮倉奈々、茜を高梨臨、鎌田を瀬戸康史、阿部を加瀬亮、大橋を鶴見辰吾、塚原を安田顕、愛子を中村ゆり、本間を宇野祥平、田嶋を池松壮亮、エミを上原美佐、マコを吉永淳、加代子を佐藤みゆき、観光客の中年男性を林和義が演じている。

みのりの会社はハワイに誰も行ったことが無いのに何冊も観光ガイドを発行しているんだから、かなり問題のある出版社だと言っていい。
ただ、それにしては、決して少数でやっている零細出版社というわけではなく、そこそこの規模があるようだ。だからこそ、みのりが要求すれば、簡単にハワイまで行かせてもらえるんだろう。
しかも、みのりはホテルをチェックアウトし、携帯も通じない状態で2週間の予定を過ぎてもハワイに留まる。で、20日間が経過してから、ようやく大塚は「このまま帰って来ない気じゃないだろうな」と言い出すが、彼が取る対策は「田嶋をハワイへ派遣する」というモノ。
凄い会社だね。

みのりはハワイに着いた後、やたらと周囲にいる面々を批判する。茜に対しては「金持ちの男と結婚したいだけの女」、鎌田に対しては「何となく当たればいいかという程度で色んな商売に手を出している男」という批判を浴びせる。
そりゃあ茜にしても鎌田にしても、その指摘が全く見当外れというわけではない。
ただ、「どの口が言うのか」という状態になっている。
何しろ、みのりのキャラ設定が「わざと嫌われようとしてんのか」と言いたくなるような状態になっているのだ。

「流行りの後追いで二番煎じ、三番煎じの仕事続けてさ。生活できるから、まあいいかってなりたいの?」という鎌田への批判は自分の仕事を重ね合わせての発言だし、みのりを「自己批判も含めて他人を攻撃している」という風に描きたいんだろうとは思うのよ。
だけど、結果的には「軽薄で身勝手で性根が腐り切ったアバズレ女」にしか見えないわけで。
彼女は金持ちの阿部と庶民の鎌田という2人の男から惚れられて、最終的には「同じ庶民だから」ってことで鎌田を選ぶんだけど、それも全くハッピーエンドに思えないし。
少なくとも、その2人を応援したくなるようなエンディングじゃないことは確かだ。

この映画、どうやら「仕事にも恋愛も疲れてしまったヒロインが、ハワイで癒やされてリフレッシュし、本当の幸せに気付く」という物語を描きたかったようだ。
しかし実際には、そんなことを全く感じさせない見事な仕上がりとなっている。
まず、そもそも「ヒロインが仕事にも恋愛にも疲れている」という様子が全く伝わって来ない。
仕事の方は、社長を軽く脅せばハワイに行かせてもらえるような職場だ。みのりが必死で仕事をしているとか、苦労しても報われないとか、そういう様子も無い。

恋愛の方も、田嶋が出産祝いを貰う様子はあるが、みのりの私生活が充実していないという描写は全く無い。酷い失恋をしたとか、恋人との付き合いが上手く行っていないとか、何度も合コンに行くけど成果が出ないとか、そういう「恋愛が上手く行っていない」という様子は何も無い。
しばらく話が経過し、みのりが田嶋からのメールを読むシーンで、「なるほど、ここが不倫関係なのね」ってことが伝わる。
だけど、それでみのりに対する印象が大きく変わることは無いのよね。田嶋と不倫関係にあっても、「みのりが恋に疲れている」という印象は全く受けないのよ。
何しろ、ハワイで浮かれて遊びまくっているし、ホイホイと鎌田の家まで付いて行くし。

みのりがハワイへ行く直前、仕事に頑張っているサラリーマンを観察する様子が挿入されている。
しかし、彼女が仕事や私生活で疲弊している様子は全く見えないので、「お前らは汗水垂らして真面目に働いているけど、こっちは会社の金を使ってハワイで遊びまくるぜ」という軽薄なノリにしか見えない。
そんなヒロインに共感したり、「幸せになってほしい」と応援したり出来るかって、そりゃ無理でしょ。
むしろ、この女は不快感や嫌悪感を抱かせるようなキャラクターになっている。

みのりが全く精神的に疲れていない状態でハワイへ行くので、そこに「気分転換」とか「癒やし」といった要素は無い。彼女が茜と親しくなると、しばらくは2人がハワイで飲み食いし、遊びまくって楽しむ様子を見せられる。
これが『榮倉奈々と高梨臨のハワイ食べ歩き』というテレビ番組なら、それでもいいだろう。だけど、これは商業映画であり、2人は与えられた役を演じているわけで。
さすがに、そんな時間帯は長く続かないけど、でもザックリ言ってしまえば全体を通して「出演者が映画の撮影という名目でハワイを楽しんでいる」という様子を見せられるだけだ。
いっそのこと、「観光ガイド」としての色を濃くした方が、まだマシだったんじゃないかとさえ感じる。
実はハワイが舞台なのに、「観光ガイド」としての意識は薄弱なのよね。ぶっちゃけ、「これハワイじゃなくても良くね?」という内になっている。何しろ、榮倉奈々と高梨臨が水着姿になることさえ無いんだし。

この映画が凄いのは、「ハワイで映画を撮りませんか?」という前田監督へのオファーから企画が始まっているということだ。具体的にハワイで何を撮るのか、どういう内容にするのかは、全く方針が決まっていなかったのだ。
それでも、例えば「ハワイをPRしたい」とか、その手の目的があったのなら、まだ分からないでもない。しかし、そうではないのだ。
ただ「ハワイで映画を撮る」というだけで企画がスタートし、実際に映画が作られるんだから、まるでバブル景気真っ只中みたいだ。
しかし、これが作られたのは2014年である。
日本の映画界ってのは、恐ろしい場所だね。

そもそものオファーがザックリしていても、もちろん内容を練り込んでいけば内容の濃い作品、質の高い作品に仕上げることも可能だろう。
しかし、出来上がった映画は、前述した企画スタートの経緯が納得できるような状態になっている。
「そういう企画なんだから、こんな映画になってしまうのも当然だよね」と、妙なトコロで納得できてしまうのだ。
「映画を撮影するという建前を用意して、関係者がハワイで遊びたかっただけじゃないのか」と邪推したくなるし、たぶん真実じゃないかと思うぞ。

(観賞日:2017年7月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会