『笑う大天使(ミカエル)』:2006、日本

高校2年生の司城史緒は、湖の上に立っている超名門お嬢様学校の聖ミカエル学園に転入した。最近、アジアでは良家の娘ばかりを狙った 誘拐事件が多発していた。警察庁長官は聖ミカエル学園を訪れ、ロレンス先生に校内警備の強化を要請した。慣れない環境に疲れた史緒が 豪邸に帰宅すると、兄の一臣が迎えた。夕食にはシェフの吉田がフランス料理を作るが、史緒は全く手を付けなかった。
史緒は最近まで、兄と会ったことも無かった。彼女は母と2人で、ずっと庶民の生活を送っていた。しかし母が亡くなった時、一臣が家を 訪れ、兄だと告げた。父が亡くなった後、母は祖母に追い出されていたのだ。翌日、授業開始のチャイムが鳴っても、史緒は教室に来ない 。学級委員の更科柚子はクラスメイトの斎木和音に声を掛け、捜しに行くことにした。柚子は上級生の白薔薇の君、紫の上、桔梗の宮から 「コロボックルちゃん」と可愛がられ、和音は下級生から「オスカル様」と好意を持たれていた。
柚子と和音は学園で飼われている黒い犬ダミアンを見つけ、後を追った。すると、史緒が焚き火で湯を沸かしてチキンラーメンを食べて いた。焚き火を消火するため、3人が近くにあった物を適当に投げ込むと、モクモクと煙が発生した。全員がチキンラーメン好きの庶民派 だと判明し、たちまち3人は意気投合した。柚子は大手レストランチェーンの娘で、和音は企業グループ会長の令嬢だった。
帰宅した史緒は、一臣が握った手を軽く払おうとするが、彼は大きく吹き飛ばされて腕を骨折した。柚子の元には強盗が現われるが、彼女 がライフルを掴むと電流が流れて退散した。たまたま柚子を訪問しようとしていたロレンスは、それを目撃した。秘書の若月俊介と剣道の 稽古をしていた和音が激しく竹刀を振ると、彼女は竜巻を起こして壁を破壊した。そこへ史緒と柚子が駆け付け、3人が超人的な能力を 持ったことを認識した。3人は一臣たちから、「以後、無用な力を使うのは慎むこと」と釘を刺された。
史緒は柚子と和音から、もうすぐ学園伝統のガーデンパーティーが催されることを知らされた。音楽教室でチキンラーメンを食べてお喋り していた3人は、シスター・セシリアに見つかって聖堂を掃除する罰を与えられた。聖堂を掃除していた3人は、シスター・マレーナが 忘れた聖書を発見した。聖書には数名の生徒たちの写真が挟んであり、その裏には名前や住所など詳細な情報が記されていた。それを見た 史緒たちは、マレーナがロリコンのレズビアンなのだと考えた。
史緒は一臣に言われ、彼の見合いに同席した。見合い相手の桜井敦子は、史緒にネックレスをプレゼントした。史緒は、幼い頃に姉を 欲しがっていたことを思い出した。ガーデン・パーティー当日、和音は史緒と柚子に騙され、一人だけ男装させられた。そんな彼女に、 熱烈なファンである1年生の沈丁花がお菓子を渡した。史緒は敦子から、スイスの全寮制学校に留学する話を持ち掛けられた。史緒は一臣 と敦子の幸せを考え、「兄を説得してみます」と告げた。
史緒と柚子と和音は、クラスメイトの万里小路静、沈丁花、白薔薇の君、紫の上、桔梗の宮の姿が見えないことに気付いた。捜索を開始 した3人は、ダミアンを見つけて後を追った。桟橋に行くと、マレーナと手下が静たちを拉致し、船で去ろうとしていた。マレーナは 連続誘拐グループのリーダーだったのだ。史緒たちは出航した船を追い掛け、マレーナ一味と激しい戦いを繰り広げる…。

監督・VFXは小田一生、原作は川原泉、脚本は吉村元希&小田一生、脚本協力は下山由紀子、プロデューサーは宮崎大&柴田一成、 エグゼクティブ・プロデューサーは三宅澄二&熊澤芳紀&西村敬喜、コ・エグゼクティブ・プロデューサーは公野勉&吉岡正敏&細野義明 &杉山章、撮影監督は岡田博文、編集は滝石大志、照明は林広一、美術は花谷秀文、VFXスーパーバイザーは仲西規人(木村俊幸は 間違い)、コンセプトアート・デザイナーは木村俊幸、アクション監督は谷垣健治、衣裳は北村道子、制服デザインはタナカサトル、 プロローグ・エピローグ衣裳デザインはススキ・タカユキ、茶会制服デザインは津田修、音楽はMETALCHICKS、 音楽プロデューサーは千石一成。
主題歌は つじあやの「そばにいるから」作詞:つじあやの、作曲:つじあやの、編曲:根岸孝旨(Dr. Strange Love)。
出演は上野樹里、関めぐみ、平愛梨、伊勢谷友介、西岡徳馬、松尾敏伸、菊地凛子、手塚理美、Brian Davis、Delcea Mihaela Gabriela、 加藤啓、村木仁、伊藤修子、佐津川愛美、谷村美月、キタキマユ、宮下ともみ、松岡璃奈子、宮内佳奈子、岩井七世、渕内希実子、 早瀬英里奈、工藤晴香、岡本奈月、葵、北上史欧、大田ななみ、松本光生、西村敬喜、石垣光代、Richard Gazzo、Ricaya Spooner、 岩本淳也、Federico Aletta、Paul Baca、Shelley Sweeney、Michael Anthony Donnella、Mia Dambron、Gow、Dylan Evans、 Kayleigh Richards、三上瓔子、斎藤あきら、宮本聖也、斉藤ふみ他。
ナレーションは広川太一郎。


川原泉の同名漫画を基にした作品。
監督はVFX畑出身の小田一生。
史緒を上野樹里、和音を関めぐみ、柚子を平愛梨、一臣を伊勢谷友介 、警察庁長官を西岡徳馬、俊介を松尾敏伸、敦子を菊地凛子、ロレンスをBrian Davis、シスター・マレーナをDelcea Mihaela Gabriela、 柚子の兄・孝志を加藤啓、柚子の父を村木仁、柚子の母を伊藤修子、静を佐津川愛美、沈丁花を谷村美月が演じている。

まず冒頭、史緒が聖ミカエル学園へ向かう際に乗っている列車の安いCGに萎える。
そもそも、わざわざCGを使って列車を描く必要性を感じない。「湖の上に立っている」という聖ミカエル学園の設定を変更すれば、 列車通学じゃなくても済むはずだ。
あと、モノローグを関西弁で話す史緒にもゲンナリだ。
上野樹里はネイティヴな関西弁を話すことが出来るので、「変なイントネーション」という意味での違和感は無い。
しかし、この作品のテイストを考えると、関西弁は似つかわしくない。
もう1つの問題として、それが関西弁かどうかに関わらず、モノローグが邪魔。

お嬢様学校のはずなのだが、制服がダサいし、お嬢様っぽく見えない。
それと、演じている女優たちにも、お嬢様っぽさが足りない。
だから、そこでは史緒はアウトサイダーのはずなのに、ちっとも「お嬢様学校に庶民が一人」というギャップの妙が伝わらない。
学園生活の描写にしても、「これが世に言う別世界だ」と史緒が漏らすけど、ちっとも「浮世離れした別世界」には見えない。

転入した初日のシーンで、「いかに史緒が聖ミカエル学園では場違いな存在か」というのを観客にアピールしておくべきなのに、その設定 が全く活用されていない。
生徒たちが口に馴染まない丁寧な言葉を話しているだけで、学校のしきたりや生活風景によって上流階級の 雰囲気を描写するようなことは全く無い。
この映画って、そういうのを描くためのアドバイザーは付いていなかったのか。

聖堂でロレンス先生の話を聞いている際、史緒はダミアンを見るが、少し目を離した隙に消えている。CGで描かれているので、てっきり 「史緒だけに見えている存在」という設定なのかと思ってしまった。
なぜ、わざわざCGで黒い犬を描く必要があるのか。本物の犬を使えばいいでしょ。
しかも本物の犬っぽく描くのかと思ったら、レイ・ハリーハウゼン的に動きがカクカクしているし。
あと、序盤で柚子と和音が焚き火をしている史緒を見つける時も、後半に3人がマレーナ一味を見つける時もダミアンを追い掛けている のだが、なぜ追い掛けるのかが全く分からない。
それと「ダミアンはチョコが好き」という設定は、全く使われないのね。

誘拐事件の多発を受けて警察庁長官が聖ミカエル学園を訪れているが、警備の強化を要請するためだけに、わざわざ警察庁長官が来るのは 変でしょ。
自分の身内が通学しているとか、そういう設定ならともかくとして。
そんで、そういうシーンがあるからには、校内警備が強化されるのかと思ったら、まるで強化されてないんでやんの。
警備員も見当たらないし、警備システムも設置されていない。
あと、説明が無いから、ロレンス先生の役職が何なのか良く分からないぞ。

帰宅した史緒が夕食に手を付けなかった後、最近まで彼女が庶民の生活を送っていたことが説明されるが、これって手順として失敗してる でしょ。
先に庶民としての生活をしている彼女の姿を描写しておくべきでしょ。
彼女が貧しい庶民だというイメージが観客に無いままで転入シーンを見せてしまうから、彼女がいかに名門お嬢様学校には似つかわしく ない存在なのかが、ちっとも伝わらない。
しかも、史緒が母の死を回想するシーンは短く、庶民として生活していた情景は全く描かれない。

3人が焚き火を消火する際に映像が加工され、紫の煙が発生するが、何がどうなっているのか良く分からない。
あと、その段階で3人は特殊能力を手に入れたのに、それに気付くまでに時間が掛かるという構成もマズい。先に意気投合する手順を済 ませておいて、それから特殊能力を体得し、その直後に気付くという流れの方がいい。
それと、「以後、無用な力を使うのは慎むこと」と言われているが、3人は自分たちの能力に気付いたばかりで、意識してパワーを使って 何かをやらかしたわけではない。
だから、それを注意されるのは、展開として早すぎる。
一臣たちが3人の特殊能力を認識するのも早すぎるし。

敦子との見合いシーンで史緒は幼い頃を回想するが、それって全く要らないでしょ。
それだけじゃなくて、敦子というキャラも要らない。正直、何のために登場したのか良く分からない。
史緒が彼女を姉のように感じるのも、スイス留学を持ち掛けられる展開も、取って付けたような感じで、上手く処理できていない。
あと、そこに限らず、史緒の回想シーンが何度も入るが、これも要らない。

ガーデンパーティーは安い仮装パーティーになっているが、なんか間違ってる気がするぞ。ガーデン・パーティーって、そういうモノ じゃないでしょ。
その「なんか違うだろ」というところを笑いにしているなら分かるけど、そうじゃないし。
単純に、ちっともエレガントじゃないと感じさせるだけだ。
この映画って、ひょっとして「上流階級のお嬢様」と「金持ちの娘」をゴッチャにしてないか。

話が全くまとまっていないし、どこへ向かおうとしているのかもボンヤリしている。
後半になってメインとなる誘拐事件は、一応は序盤からネタを振ってあるけど、そこへ向けての流れをキッチリと作っていないから、 ギクシャクした印象になってしまう。
マレーナ一味とのバトルも、特殊能力はあっても戦闘技術を会得したわけじゃない3人が見事な戦いぶりを見せるのは不自然だし。
そこから急にアクション映画になるのも違和感があるし、特殊能力があるはずなのに普通の人間であるマレーナたちに苦戦しているのも 不可解だ。

そのバトルシーンでは潜水艦やヘリコプターまで登場し、それをVFXで表現しているが、必要性が薄い。
必要の無いところまで、やたらとVFXで処理したがるんだよな。本末転倒でしょ。
小田監督は映画を撮りたいんじゃなくて、VFXを使いたいだけなんじゃないのか。
しかも、その使い方には、全くセンスが無い。
巨大化した史緒をCGで表現するとか、もうサイテーでしょ。
そもそも史緒が巨大化する展開自体がどうかと思うが、それを置いておくとすれば、本物の上野樹里を巨大化させないと、巨大化の意味が 無いでしょ。

(観賞日:2011年1月5日)


第3回(2006年度)蛇いちご賞

・作品賞

 

*ポンコツ映画愛護協会