『わが青春のアルカディア』:1982、日本

航空探検家のファントム・F・ハーロックI世は複葉機のアルカディア号を操縦し、ニューブリテン島のラバウルへ向かっていた。世界の空を征服することが、彼の夢だった。ハーロックI世は「スタンレーの魔女」と恐れられる山を越えようとするが、退却を余儀なくされた。ハーロックI世の著書『わが青春のアルカディア』を持つキャプテン・ハーロックは、太陽系連邦軍戦艦デスシャドウの艦長を務めていた。イルミダス艦隊との戦いに敗れたハーロックは、降伏旗を掲げて地球に着陸するよう命じられた。
難民を乗せて地球に向かったハーロックは、マーヤの声を受信して船内に流した。それは「自由アルカディアの声」と呼ばれる地下放送で、地球人を勇気付けようとしていた。ハーロックはイルミダスがデスシャドウを操縦することを阻止するため、わざと乱暴な着陸で船体に損傷を与えた。かつてイルミダスとの戦いに敗れたトカーガ人のゾルが傭兵としてデスシャドウに乗り込み、ハーロックを武装解除した。ゾルはハーロックと戦ったことがあるが、強敵として認める言葉を口にした。
10時に出頭するよう指示されたハーロックは、その前に行きたい場所があると告げる。ゾルはハーロックを信じ、町へ行くことを許可した。ハーロックが町を歩いていると、イルミダスの兵士たちが自由アルカディアの声の主を捜索していた。ハーロックは兵士を始末し、彼らが乗り込もうとしていた建物入った。そこにマーヤの姿は無く、一輪の花が残されていた。ハーロックは約束通りに出頭し、地球占領軍司令官のゼーダと副官のムリグソンに対面した。そこへ地球連邦政府協力内閣首相のトライターが現れ、報告を入れた。ゼーダは彼に自由アルカディアの声の主を逮捕させ、利用しようと企んでいた。
トライターはハーロックがいると知り、「この男は危険だ」と顔を強張らせた。ハーロックはゼーダから自分の下で働くよう誘われ、即座に拒否した。彼はゼータの秘書のラ・ミーメから食券を受け取り、食堂に赴いた。ハーロックは元太陽系連邦軍技術士官のトチローと知り合い、イルミダス兵たちから嫌がらせを受ける彼を助けに入った。ハーロックはイルミダス兵たちを蹴散らし、トチローと共に食堂を脱出する。トチローが隠し持っている銃をハーロックに見せている場所にゾルが現れ、2人を捕まえた。
ゾルはハーロックとトチローを機械に拘束し、2人に共通の遺伝子があること、以前からデータを入手していたことを教えた。ゾルは先祖まで遡る共通体験に基づく同じ記憶を持っていることをハーロックとトチローに説明し、その出来事を再生した。第二次世界大戦の末期、ドイツ空軍のファントム・F・ハーロックII世は技術交換で来ていた日本海軍の大山敏郎と知り合った。『わが青春のアルカディア』を愛読する敏郎は、新しい照準器を開発中の技術者だった。愛機を失ったハーロックII世は、行く場所の無い敏郎を予備機に乗せてスイスへ向かう。スイスの国境付近で不時着したハーロックII世は、敏郎が斬れたワイヤーを必死で引っ張ってくれていたことを知った。彼は敏郎をスイスまで運び、戦地に戻った。
ハーロックはトライターから地球への忠誠を示せと言われ、トカーガ星へ義勇軍を運ぶ仕事を要請された。それはイルミダスがトカーガを絶滅させるための手伝いをしろという意味であり、ハーロックは激怒して拒否した。クイーン・エメラルダス号が墜落するのを目撃したトチローは、現場へ向かう。クイーン・エメラルダスと会った彼は、「宇宙のスタンレーの魔女」と称されるプロミネンスの火の河を渡り損ねたことを聞かされた。
ラ・ミーメはゾルたちの元へ行き、イルミダスがトカーガ星を滅ぼすつもりだと伝える。ハーロックはマーヤの放送場所を襲撃しようとするイルミダス兵たちを発見し、攻撃を仕掛ける。外の騒ぎに気付いたマーヤが出て来て、ハーロックに気付いた。ハーロックはマーヤを守ろうとして、右目を撃たれた。ハーロックがエメラルダスの元に行くと、トチローがクイーン・エメラルダス号の修理を終えていた。マーヤはハーロックに向けた放送を終えると、イルミダス軍に捕まった。
ゾルと仲間たちはハーロックたちの元に現れ、銃を構えた。同行したラ・ミーメは、ゾルたちがクイーン・エメラルダス号を奪って母星へ向かう気だとハーロックに明かす。エメラルダスは船を貸すことを了承するが、トチローが「それだと彼女は自由貿易人の資格を失う。それに、出発と同時にトカーガ星は攻撃される」と語る。彼はハーロックに「俺たちが代わりにトカーガ星へ行こう」と持ち掛け、自分の宇宙船を動かす日を待っていたのだと告げた。
ラ・ミーメは自分がトチローの船に乗るとゾルに、告げ、イルミダスに忠誠を尽くすフリで地球人を守ってほしいと説得した。トチローはハーロックとラ・ミーメ、老トカーガ兵の3人を地下へ案内し、作っていたアルカディア号を見せた。ハーロックたちは宇宙へ飛び立つが、イルミダス軍はエメラルダスとマーヤを磔にした。トライターは特殊電波をアルカディア号に送り、翌朝までに戻って降伏しないと2人を公開処刑すると通告した。
ハーロックは地球に戻らず、アルカディア号に留まって翌朝を迎えた。エメラルダスとマーヤの処刑が迫ると、ゾルと仲間たちが決起した。すると地球人も加わり、イルミダス軍と激しい戦いになった。ゾルは命を落とし、マーヤも銃撃を浴びた。ハーロックは髑髏の旗を掲げ、地球を離れた。彼らがトカーガ星に着くと、ほぼ死滅状態となっていた。それでも老トカーガ兵は、生き延びていた若い兵士たちと再会した。ゾルの弟たちも殺されていたが、幼い妹のミラは衰弱しながらも何とか生き残っていた。
アルカディア号に残っていたトチローは、惑星破壊超重力波爆弾がトカーガ星に埋められていることを突き止めてハーロックに知らせた。ハーロックとラ・ミーメはミラを保護し、アルカディア号に戻った。アルカディア号が全速離脱した直後、トカーガ星は大爆破を起こして消滅した。イルミダス地球増援艦隊が迫って来たため、ハーロックはプロミネンスの火の河を目指すことにした。アルカディア号は火の河に突入するが、ミラは回復せずに息を引き取った…。

監督は勝間田具治、企画・原作・構成は松本零士、脚本は尾中洋一、製作総指揮は今田智憲、企画は有賀健&高見義雄、製作担当は関良宏、企画協力は岡道明&松島忠、作画監督は小松原一男、美術監督は伊藤岩光、美術補佐は海老沢一男、撮影監督は町田賢樹、編集は千蔵豊、録音は今関種吉、メカニックデザインは板橋克己、主題歌『わが青春のアルカディア』歌は渋谷哲平、音楽は木森敏之。
声の出演は井上真樹夫、富山敬、武藤礼子、田島令子、池田秀一、石田太郎、森山周一郎、高木均、青野武、増山江威子、山本百合子、鶴ひろみ、柴田秀勝、大竹宏、矢田耕司、田中秀幸、蟹江栄司、塩沢兼人、堀秀行、佐藤正治、寺田誠、間嶋里美、佐久間あい、中野聖子、岡本りん子ら。
特別出演は石原裕次郎。


松本零士が企画・原作・構成を務めた長編アニメーション映画。
監督は『マジンガーZ対デビルマン』『アンデルセン童話 にんぎょ姫』の勝間田具治。
脚本はTVドラマ『新・座頭市』『必殺仕事人』などに参加していた尾中洋一で、これが唯一の映画作品。
ハーロックの声を井上真樹夫、トチローを富山敬、マーヤを武藤礼子、エメラルダスを田島令子、ゾルを池田秀一、ゼーダを石田太郎、老トカーガ兵を森山周一郎、トライターを高木均、ムリグソンを青野武が担当している。

ハーロックI世のエピソードは戦場まんがシリーズの『スタンレーの魔女』、II世のエピソードは同じく戦場まんがシリーズの『わが青春のアルカディア』がベースになっている。
つまり、本来は『宇宙海賊キャプテン・ハーロック』と無関係の作品だ。最初から「宇宙海賊の先祖がI世とII世」という設定があったわけではなく、完全に後付けだ。
だが、それは別に構わない。
問題は、わざわざ後付けの設定を作ってまで用意したI世とII世のエピソードが、まるで必要性を感じないってことだ。

無理に他の漫画から引っ張って来たエピソードは、ただ邪魔なだけになっている。
全体の構成やストーリー展開を考えると、まるで上手くハマっていない。丸ごとカットした方が、絶対にスッキリする。
こんな余計なエピソードを盛り込むために、わずか5分の出番で1千万を超えるギャラを石原裕次郎に支払ったのかと思うと、その感覚には呆れ果てるばかりだ。
訴求力という意味では少しぐらい役に立ったかもしれないけど、それよりもデメリットの方が遥かにデカいわ。

「I世の著書をハーロックや敏郎が愛読している」とか、「ハーロックとトチローがII世と敏郎の記憶を共有している」という設定があるが、「だから何なのか」としか思えない。
そんなのは、今回の物語には何の関係も無いことだ。
先祖が知り合いかどうかに関わらず、現在のハーロックとトチローは強い絆で結ばれる関係になるんだし、それだけで充分だ。
ハーロックとトチローの中で、先祖が出会っていたと知ることで意識が大きく変化した様子も見られないし。

今回は「キャプテン・ハーロックの誕生編」となっており、ハーロックが宇宙海賊になるまでの経緯を描いている。
言ってみれば前日譚のような映画であり、そこから翌年のTVシリーズ『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』へ繋げる形になっている。
だから、この映画におけるハーロックは、いきなり敗北を喫して降伏している。その後もプライドの高さは示すものの、マーヤは守れず、右目を失い、ミラもトカーガ星も救えていない。
ちっともカッコ良く活躍してくれないのである。

キャプテン・ハーロックと言えば、松本零士ワールドにおける絶対的なヒーローという印象が強い。
劇場版『銀河鉄道999』や『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』でも、鉄郎のピンチに駆け付けて助けてくれる存在だったと記憶している。
そんなハーロックの英雄らしさに欠ける姿を見せられても、コレジャナイ感が強い。
ハーロックが主人公の映画を作るのなら、誕生編ではなく、ヒーローとして悪を倒す勇ましい姿を描いてほしかった。

導入部から状況説明が圧倒的に不足しており、続編なのかと思ってしまうほどだ。
ハーロックの敗北から話は始まっているが、イルミダスがどういう存在なのか、どういう経緯で地球と戦争になったのかが良く分からない。
なぜハーロックの船には大勢の難民が乗っているのか、既に地球がイルミダスの手に落ちているのならデスシャドウの難民はどこにいた面々なのか、そういのも良く分からない。
世界観や状況を具体化するための情報が、まるで足りていない。後から少しずつ情報を出して、説明していくわけでもない。

地球人やトカーガ人が辛い思いをしているとか、イルミダスが圧倒的な戦力で宇宙を征服しようと企んでいるとか、あらゆる要素が表面的な設定ばかりになっていて、ドラマとして伝わって来る力が乏しい。
だからハーロックとトチローがトカーガを救うために立ち上がっても、ゾルが感激の涙を流しても、これっぽっちも高揚感が無いし、何も心に刺さらない。
これはハーロックとマーヤ、ゾルとラ・ミーメなどの人間関係においても同じことで言えて、あまりにもドラマが弱すぎるのだ。

ゾルはハーロックとトチローを装置に拘束し、先祖の記憶を再生する。それが終わってシーンが切り替わると、トライターがハーロックに仕事を依頼する様子が映し出される。
つまりゾルはハーロックとトチローを解放しているわけだが、じゃあ何のために捕まえたのか。
装置に拘束して2人に先祖の映像を見せることが、彼の目的だったのか。それは何のための行為なのか。
ゾルにとって、そんなことをして何の意味があるのか、まるで分からない。

右目を撃たれたハーロックがマーヤに歩み寄ろうとするが、マーヤは来ないよう忠告する。そこからシーンが切り替わると、ハーロックはエメラルダスの元に来ている。
あの状況から、どうやって脱出できたのか。
その後にハーロックはマーヤの放送を聞いているが、あの時点でマーヤは捕まらなかったのかよ。どうなってんのか、サッパリ分からんよ。
トライターの要請を拒否したハーロックが拘束されず自由に動き回っているとか、他にも疑問点は幾つもあるぞ。

ハーロックはトライターから地球に戻って降伏するよう要求された時、それを受け入れず翌朝まで待っている。じゃあ何か策があるのかと思ったら、ゾルや地球人が決起するのを傍観しているだけ。
それはハーロックが事前に計画していたことではなく、自然発生的な決起だ。つまりハーロックは何の策も無いまま、マーヤとエメラルダスの処刑を眺めようとしていただけなのだ。
いやいや、地球へ戻って助ける気が無いのなら、さっさとトカーガ星に向かった方がいいだろ。
ただ翌朝まで待つだけって、何のつもりなんだよ。

ハーロックとラー・ミーメはゾルの弟たちが死んでいるのを見て嘆くが、ミラが生き延びているのを見つける。2人はミラを保護し、爆発するトカーガ星を離脱する。
そういう流れを描いたんだから、ミラは絶対に助からなきゃダメでしょ。
ところが離脱した直後、あっさりとミラは命を落とすのだ。だったら、ほんの短い時間だけミラを生かしておいた意味は何なのかと。
しかも火の河を突破する前に死ぬので、「彼女が人身御供になることで火の河を突破できた」みたいな解釈も成立しないし。
可哀想だけど、キャラとしてはホントに「無駄死に」でしかないんだよね。

ゼーダはハーロックがトカーガ星から戻って来ると、「立派な戦士」と評して着陸を許可する。手下たちに攻撃させず、地球から永久追放という処分だけで済ませる。
そしてハーロックに賛同する地球人の脱出も認め、ハーロックに一騎打ちでの勝負を要求する。
「気概のある素晴らしい軍人」としてゼーダを描いているが、それ以外の部分では卑劣で残忍や行為を繰り返しているんだから、無理があるわ。
あと、「タイマンという形を取らないとハーロックに勝ち目が無い」という裏事情も見えちゃってるし。

1974年のTVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』は、本放送時は低視聴率だったが再放送で人気に火が付き、1977年の劇場版は大ヒットを記録した。
この『宇宙戦艦ヤマト』に松本零士は途中から参加し、TVシリーズの監督も務めていた。
その後、1978年には映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が公開され、TVアニメ『宇宙海賊キャプテンハーロック』と『銀河鉄道999』が放送された。
1979年には映画版の『銀河鉄道999』、1980年には『ヤマトよ永遠に』が公開された。

これだけ携わった作品が立て続けに映像化されるのは、もちろん言わずもがなだろうが、それだけ松本零士作品の人気があったからだ。この頃のアニメ界は、完全に松本零士ブームだったのだ。
1981年には『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』が公開され、これまたヒットを記録した。そんなブームに乗って、本作品も製作された。
しかし興行的には成功せず、『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』も視聴率が振るわず打ち切りとなった。
これにより、松本零士ブームは完全に終焉を迎えたのである。

(観賞日:2023年1月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会