『龍が如く 劇場版』:2007、日本

熱帯夜の神室町に、桐生一馬が戻ってきた。同じ夜、コンビニ店員の悟は、ヤクザの客に「極道がコンビニに来ちゃ悪いのかよ」と難癖を 付けられた。ヤクザは電話を受け、何か連絡があった様子を見せた。ヤクザは電話を受ける。きらめき銀行神室町支店では、覆面の2人組み が「今西」「中西」と互いの名前を呼びながら強盗している。しかし銀行に金は無く、2人は怒っている。支店長は「本店の指示に従った だけなんです」と説明する。
警視庁4課の刑事・伊達真は、銀行の向かいにある理髪店へと向かう。中に入ると、1課の野口たちが詰めている。伊達は野口から、銀行 に金が無いことを知らされる。そこへ店主が現れ、麦茶を差し出す。店のクーラーの調子は悪く、とうとう壊れてしまう。銀行では今西が 誤って発砲し、クーラーが停止してしまう。悟は仕事を終えて、コンビニに来た唯と三軒茶屋へ行くことにした。
桐生は三軒茶屋の激安店に立ち寄り、店員に探し物を告げようとしたところで、コンビニにいたヤクザたちに襲撃される。ホストクラブの スターダストでは、オーナーの一輝がホストのユウヤに1人の男を紹介し、「風間さんから預かった。しばらく置いてくれと言われた」と 説明している。その謎の男は、何も喋らない。桐生がヤクザたちを倒すと、店に来ていた悟と唯が見つめていた。桐生が「危ないぞ、 逃げろ」と告げた直後、新たなヤクザたちが現れた。桐生は一味を蹴散らし、悟と唯は店から逃げ出した。桐生は店員に、ドッグフードを 探していることを告げた。
バッティングセンターでは、真島組組長・真島吾朗が子分から「東城会がきらめき銀行に溜め込んでいた百億が消えました」という情報を 知らされていた。しかし真島は「たかが百億で目を丸くしてどないすんねん」と言い、子分の頭をバットで殴る。彼は他の子分たちに、 「他におもろい話は無いのか」と尋ねる。1人の子分が、「元東城会の桐生がムショから出たらしいです。消えた百億に絡んでいるという 噂です」と語った。真島は子分を引き連れ、桐生を捜しに出掛ける。
唯は悟にバッグを渡す。中には金が入っていた。激安店で店員が目を離している隙に、こっそりレジから盗んだのだ。悟が返しに行こうと すると、唯は「簡単に金って手に入る。強盗しよう」と笑って言う。「捕まるぞ」と悟が告げると、唯は「だって武器あるもん」と言い、 バッグの中のドスを見せた。激安店で拾ったのだ。悟が消極的な態度を示すと、唯は「じゃあアタシ一人でやる」と口にした。
強盗2人組は、銀行が暑くなったので、顔を隠しているニット帽が脱ぎたくなった。伊達や野口たちは、銀行から消えたのは東城会の金の 一部であること、誰かが一斉に東城会の預金を引き出したこと、金を積んだ現金輸送車は全て行方不明だということを知った。野口が 「俺たち、どうすりゃいいんです?」と尋ねると、伊達は「知らねえよ」と冷淡に告げて理髪店を後にした。
犬を連れた9歳の少女・遥に、桐生は激安店で買ったドッグフードを与える。桐生が「行くぞ」と告げて歩き出すと、遥は後を追った。 謎の男はカクテルを作り、一輝に差し出した。悟と唯はグラサンとマスクで顔を隠し、牛丼店で金を奪った。悟が「お前、なんか金、必要 なの?」と尋ねても、唯は笑うだけだった。真島が子分を引き連れて桐生を捜していると、ピンク通りで他の組の連中と喧嘩になった。 真島は金属バットでボールを打ち、相手のリーダー格を殺害した。
子分たちが激しい戦いを繰り広げる中、真島はDVD店「ビーム」へ足を踏み入れ、エレベーターで地下へ向かった。彼は武器屋を脅し、 三軒茶屋で桐生を襲ったのが錦山組だと聞き出した。襲撃の理由は分からないが、桐生が連れている少女が何か知っているかもしれないと 武器屋は話した。真島は武器屋で散弾銃を調達し、店の外に出て乱射した。敵を蹴散らした真島は、道路に唾を吐いた子分を見据え、 「街が汚れるやないか」と金属バットで殴り倒した。
伊達が桐生を見つけ、声を掛けた。「10年前の事件で4課送りよ」と言う伊達に、桐生は出所が昨日だったことを告げる。「どの組も百億 にお前が絡んでいると思ってる」と言う伊達に、桐生は「この子の母親を捜しているだけですよ。この街のどっかの店で働いているらしい 。行方が分からなくて」と語る。彼が「風間のおやっさん、元気ですか。連絡が取れなくて」と訊くと、「最近、名前を聞かねえな」と 伊達は言い、その場を立ち去った。
銀行強盗はニット帽を濡らし、何とか暑さを凌ごうとする。支店長が「仰向けになっていいですか」と頼むので、2人は承諾した。 警官は野口に、うつ伏せだった行員が一斉に仰向けになったことを報告した。理髪店の店主は、缶ビールを差し入れした。悟と唯は、質屋 へ強盗に入った。高級な香水を手に入れ、唯は興奮した。店を出た悟は70万ぐらいあったことを告げるが、唯は「その程度か」と淡白に 言う。唯は「そうだ、ピストル買おう」と口にした。
桐生はスターダストへ行き、一輝に風間のことを尋ねる。しかし一輝も風間の行方を知らなかった。「風間さんは最近、東城会会の幹部会 で揉めてたって」と彼は言う。桐生は「美月という女が店に来ていなかったか。この子の母親だ」と口にする。ユウヤは、良く来ていたが 、1ヶ月ほど前に見たのが最後だと告げる。遥は施設に預けられていたが、母からの連絡が途絶えたため、捜しに来たのだ。一輝は桐生に 、風間から預かった男を紹介し、「何かあったら使ってください」と携帯電話を渡した。
伊達は大勢のヤクザが殺されているピンク通りへ行き、所轄の連中に「撤収しろ。桐生と真島が対決するかもしれん」と告げる。所轄の 刑事たちは、慌てて撤収した。桐生は遥から、一枚の写真を見せられた。彼は遥と一緒に写っている女・由美を見て驚いた。彼が「昔の 友達だよ」と説明すると、遥は「お母さんのお姉さんなんだよ」と言う。由美はセレナという店で働いているらしい。
謎の男は路地裏へ行き、理髪店の店主と韓国語の合言葉をやり取りする。謎の男・朴は、韓国政府諜報機関のスナイパーだった。店主は弟 だと野口たちに説明し、朴を店内に入れた。朴は店主に、代議士の神宮京平を消すためにソウルから来たことを告げる。店主はビームの 地下に武器屋があることを教える。桐生がセレナへ行くと、店内は荒らされ、誰もいなかった。「お姉ちゃん、死んじゃったの?」と言う 遥に、桐生は「分からないのに決め付けるな」と告げた。
桐生に一輝から電話があり、謎の男がいなくなったことが告げられた。桐生はビームへ行くよう指示し、そこで合流することにした。店へ 向かう途中、桐生は真島の一味と遭遇する。桐生にとって真島は兄貴分だった。彼らはバッティングセンターへ移動した。真島は10年前の 決着を付けたがっていた。武器屋には悟と唯が現れた。2人がピストルを買おうとしていると、そこに朴がやって来た。
桐生はドスを振り回す真島と戦い、ノックアウトした。朴は武器屋に、神宮について尋ねた。武器屋は、神宮がミレニアムタワーの66階に あるバー「アレス」にヘリコプターで行くことを教えた。そこに彼の女がいるのだという。朴は悟たちに、簡単に使えそうな拳銃を教えて 立ち去った。悟と唯が去った後、武器屋は電話を掛け、「若い2人が9ミリオートを持ってウロウロする」と誰かに密告した。
病院へ向かう救急車で復活した真島は、「早く神室町に戻れ」と命じる。彼は運転席を乗っ取り、救急車をUターンさせた。悟と唯は、 ヤクザたちに見つかった。唯を知っているらしい男が、彼女に詰め寄った。悟と唯は、その場から逃げ出した。雑居ビルの屋上で観察して いた朴は、悟の発砲に合わせてヤクザを狙撃した。武器屋に来た桐生たちは、美月と由美のことを尋ねる。武器屋は「美月は知らない、 由美は身を隠すとしたら桃源郷だろう」と語る。桃源郷はソープランドだ。
武器屋は、セレナを荒らしたのは錦山組だろうと言う。かつて桐生は、錦山とつるんでいた。桐生、錦山、由美の3人は、同じ施設の出身 だ。桐生は一輝に「男を捜しに行け」と言い、彼と別れた。悟たちが逃げていると、唯を知っている男が追い付いて来た。「どういう つもりだ」と言われた唯は、拳銃を発砲して射殺し、「アンタの子供なんて産むわけないから」と喚く。彼女は悟に、男に大金を借りて いたことを明かす。彼女は男の銃弾を浴びており、腹から大量に出血して倒れた。
桐生と遥は桃源郷へ赴いた。店員はロビーへ案内して姿を消す。カーテンの向こうからの発砲を察知し、桐生は回避した。カーテンが開く と、真島と手下たちが現れた。桐生は遥を先に2階へ向かわせた。彼は一味を蹴散らし、真島を殴り倒して2階へ向かう。だが、店に由美 はいなかった。そこへ真島が追ってくる。超人的なタフネスを見せる真島の前に、桐生は絶体絶命の危機に追い込まれた。だが、危うく 殺されそうになったところで、真島の背後から誰かが発砲した。それは風間だった。
風間を店に連れて来たのは伊達だった。彼は桐生に「風間さんは錦山組に監禁されてた。連れて来てやったぜ」と言う。風間は「その子の 母親はミレニアムタワーのアレスにいる。そして消えた百億もそこにある」と教えた。伊達によれば、神宮が東城会と組んで溜め込んで いた金を、美月が奪ったのだのだという。それを錦山が狙っているらしい。アレスへ向かおうとした桐生は、錦山組の発砲を受けて腹に 大怪我を負い、遥を拉致された。桐生は薬局で応急手当を済ませ、遥を連れ戻しに向かった…。

監督は三池崇史、脚本は十川誠志、製作総指揮は岡村秀樹、共同製作は金周成&松下順一、エグゼクティブプロデューサーは名越稔洋& 梅村宗弘、プロデューサーは土川勉&前田茂司、アソシエイトプロデューサーは植村幸司、撮影は山本英夫、編集は島村泰司、録音は 小原善哉、照明は小野晃、美術は稲垣尚夫、音楽は遠藤浩二、楽曲提供はCRAZY KEN BAND、 エンディングテーマソング「12月17日」、挿入歌「黒い傷跡のブルース」「ハマのアンバサダー」。
出演は北村一輝、岸谷五朗、塩谷瞬、サエコ(現・紗栄子)、夏緒(子役)、加藤晴彦、コン・ユ(Gong Yoo)、高岡早紀、遠藤憲一、 荒川良々、ムロツヨシ、真木蔵人、ミスターN(名越稔洋)、塩見三省、哀川翔、松重豊、田口トモロヲ、伊藤高史、森本慧、 東根作寿英、TEAH、山川恵里佳、白鳥百合子、諏訪太朗、中倉健太郎、高田宏太郎、真勝國之、ERIKU(現・与座重理久)、南部虎弾、 松田ケイジ、BJ BOSS、幸将司、木村浩一郎、アレクサンダー大塚、大久保聡、稲宮誠、春木珠杏、山本勲、瀬川誠、安田龍二、藤代雅貴、 佐藤大介、ロキシー、副島龍一、高味光一郎、大谷章文、阿波加貴文、Mr.Shin、吉田大蔵、大賀太郎、大岩永徳、齋賀正和、佐野元哉、 高見悠、津野岳彦、後藤健、四方宗ら。


セガから発売されたプレイステーション2用ゲームソフト『龍が如く』を基にした作品。
私はゲームをプレイしたことが無いが、どうやら「ムショ帰りの桐生が遥と出会って母親捜しを手伝い、東城会から盗まれた100億円を 巡ってヤクザが動く」という粗筋は、ゲームと同じらしい。
桐生、真島、遥、一輝、由美、錦山、神宮、風間、伊達といった面々は、ゲームにも登場するキャラクターだ。
監督は『着信アリ』『妖怪大戦争』の三池崇史。脚本は『交渉人 真下正義』の十川誠志。
桐生を北村一輝、真島を岸谷五朗、悟を塩谷瞬、唯をサエコ、遥を夏緒、一輝を加藤晴彦、朴をコン・ユ、由美を高岡早紀、今西を 遠藤憲一、武器屋を荒川良々、中西をムロツヨシ、錦山を真木蔵人、風間を塩見三省、野口を哀川翔、伊達を松重豊、理髪店店主を田口 トモロヲが演じている。
ゲームの総合プロデューサーである名越稔洋が、「ミスターN」という名義で神宮を演じている。ただしセリフは無い。

序盤、銀行強盗が「今西」「中西」と互いの名前を呼びながら強盗している。互いに「お前が撃てよ」と発砲を押し付け合う。
その辺りで、「ああ、これはマジな暴力映画じゃないんだな。三池監督の好きなバカテイストを盛り込んだ映画なんだな」と理解しなく てはいけない。
三池作品を多く見ている人なら、そのユルさは御馴染みのモノだろう。
激安店の乱闘では桐生がパンチを放つ際に拳から青白い炎が出るが、それはゲームを意識した演出と言うよりも、三池監督が好きなノリ だろう。

真島は子分の頭をやたらと金属バットで殴り倒すイカれた荒くれ者だが、しかし冷徹な極悪人というキャラ造形ではない。
下手な関西弁や、「おのれら、日経新聞さん読まなアカンで」という言い回しなどは、完全にコメディー・キャラだ。
彼が子分を引き連れ、桐生を捜して街を練り歩くとCRAZY KEN BANDの『ハマのアンバサダー』が流れるが、桐生たちは周囲の面々を殴り まくっているのに、軽快で明るい曲で、緊張感を意図的に消している。

真島がボールを金属バットで打って相手の額にぶつけて殺すとか、マヌケな銀行強盗&刑事たちとか、そのようにコメディーのノリが多く 持ち込まれている。
「普通に演出したら、今までのヤクザ物のVシネマや映画と同じようなモノになる」と考えて、それを避けて差別化を図りたかったん だろうか。
でも、クレイジーなキャラ、エキセントリックなキャラを投入し、ハイテンションに演出するだけで充分だったのに。
喜劇ノリは、緊張感のある暴力映画に適度な按配で融合することが無く、最初から最後まで邪魔をするばかり。

とにかく説明が不足しすぎている。
話もキャラも相関関係も、まるで掴めない。
桐生が何者かを明かさず、ミステリアスなキャラとして入るのは別にいいよ。でも、それ以外の部分も説明が足りていないから、物語が 理解できない。
「桐生は何者なのか」というのが次第に明らかになっていくという小池一夫スタイルのストーリーテリングで良かったのに。
しかも、他の部分が説明不足だというだけでなく、最後まで「桐生が何者なのか」もハッキリしない。
10年前にムショに入った理由も分からないままだ。

悟と唯のカップルとか、銀行強盗とか、神宮という男を狙う朴とか、様々な面々の様子を描いているが、群像劇にしたかったのか。 でも、ただ散らばっているだけだ。
それらが遥の母親を捜す桐生の話に絡んでくるのかというと、まるで関係が無い。
「バラバラに思えた幾つかの線が、終盤になって1つになる」という爽快感は味わえない。バラバラのままで終わる。
だったら、もっと桐生に集中して物語を構築すべきではなかったか。

桐生と真島が殺し合いを始めても、その時点で2人の関係性がほとんど明かされておらず、どんな因縁があるのか分からないので、戦いに 熱くなれない。
燃えるためのモノが何も無い。
最後まで、桐生と真島の2人の因縁も、組織の対立の構図も、ちゃんと説明されることはない。
ゲームの設定によれば、真島も錦山も東城会直系の組長なんだけど、それも映画を見ているだけだと分からない。

真島の時と同じように、桐生と錦山との戦いも、2人の関係を伝える情報量が少なすぎて、やはり高揚感が無い。
「遥を連れ戻す」という動機はあるけど、それもテンションを高める要因にならない。
桐生と彼女の交流、絆を深めるためのドラマが全く描かれていないのでね。
あと、桐生が倒れたところで、栄養ドリンク「スタミナンスパーク」を飲んで復活するというギャグまでやっちゃうしね。

桐生と由美の関係も、たぶん恋人なんだろうということは推測できるけど、良く分からないままだ。
桐生と錦山の関係も、桐生が東城会においてどういう立場なのかも、由美が神宮を殺そうとする理由も、由美と神宮の関係も、なぜ百億を 奪ったのかも、まるで分からない。
最初に分からなかったことは、ほんの申し訳程度の情報を小出しにするだけで、最後まで曖昧模糊としたままで終わる。
たぶんゲームをやっていれば理解できるんだろう。
だけど、映画を見ていても全く分からないんだから、映画としては赤点でしょ。

(観賞日:2011年2月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会