『るろうに剣心』:2012、日本

今から約140年前、幕末の動乱期。「人斬り抜刀斎」と呼ばれる暗殺者がいた。倒幕派の命により京都を暗躍し、その修羅の如き強さと冷徹さから人々に恐れられた。時は天下分け目の戊辰戦争、1868年1月。京都・鳥羽伏見の山中で、新選組の斎藤一たちは薩長軍と戦っていた。斎藤は「人斬り抜刀斎」こと緋村抜刀斎を見つけ、戦おうとする。その直後、錦の御旗を掲げた薩長軍の勝利が確定し、抜刀斎は「来たか、新しい時代が。やっと」と呟いた。
戦場を去ろうと彼に、斎藤は「これが終わりだと思うなよ。例え世の中が変わろうとも、剣に行き、剣に死ぬ以外に、俺たちに道は無い」と告げた。しかし抜刀斎は挑発的な斎藤の言葉に全く反応を示さず、刀を地面に突き刺して歩み去った。鵜堂刃衛は雪の降り出した戦場で立ち上がった、「なぜ俺は生き残った」と心の中で漏らした。彼は抜刀斎が残した刀を見つけ、その持ち主が誰なのかを悟った。
1878年(明治11年)、実業家の武田観柳は女医の高荷恵と数名の医者たちを呼び寄せ、「成功だ。この新型の阿片は人間どもをケダモノに変える」と告げた。彼は恵ともう1人の医者を部屋に残し、残りの面々は刺客の外印、戌亥番神、我荒兄弟に始末させる。観柳は「作り方を知っている人間は一人で充分だ」と言い、「どちらにしようかな」と選び、男性医だけを残そうとする。しかし恵が歩み寄ると、観柳は静かに彼女を抱き締めた。男性医は窓から飛び出し、屋敷を脱走した。観柳は側近である児玉や菊池、三井たちが追い掛けようとすると、「放っておけ。あの医者は抜刀斎に任せる」と口にした。
巷では半年ほど前から、「神谷活心流 人斬り抜刀斎」と署名した斬奸状を残す犯人による殺人事件が何件も発生していた。潜入捜査中の警官も殺されるが、藤田五郎と名を変えて警官になっている斎藤は、抜刀斎を騙る偽者の仕業だと確信していた。一方、本物の抜刀斎は「剣心」と名を変え、流浪人として暮らしていた。東京にやって来た彼は人相書きを見て、抜刀斎が警視局の御尋ね者になっていることを知った。そこへ神谷活心流道場師範代の神谷薫が現れ、刀を持っている剣心を怪しんで「お前が噂の人斬り抜刀斎か」と口にする。薫が木刀で襲い掛かって来るので、剣心は「誤解でござる」と慌てて逃げ惑う。彼は持っている刀について問われ、逆刃になっていて人を斬れないことを説明した。
観柳の屋敷を訪れた斎藤は、「新橋の倉庫で何をしている?」と尋ねる。すると児玉が「あそこは今、使っておりません」と言い、菊池「どうしてもお調べになりたいのでしたら、正式なお手続きを」と述べた。観柳は明治になって食いっばぐれた浪士や侍たちを護衛として雇っており、斎藤に「奴ら腕がいいから、放っておいたら大変なことになる。腹を空かせた犬は、何に噛み付くか分かりませんからな」と笑う。斎藤は「用心しろ。警察は証拠と言うが、俺は違う」と告げ、その場を去った。
観柳は恵が逃げ出して警察署に駆け込んだという報告を受け、番神と我荒兄弟に「あの女をすぐに連れ戻せ」と命じた。すると、観柳に雇われている刃衛が3人の前に立ちはだかり、「俺がやる」と告げた。観柳は「殺すなよ。あの女の頭には“蜘蛛の巣”の精製方法が入っている。まっ、後は好きにしろ、抜刀斎」と述べた。恵は保護を願い出たにも関わらず、警官たちに対して何も喋ろうとしなかった。刃衛は警察署に乗り込んで次々に警官を惨殺するが、その間に恵は逃亡した。
町を歩いていた薫は、血まみれの警官が橋から落下して死ぬのを目撃した。そこに刃衛が現れ、薫は人相書きの男だと確信した。彼女は刃衛に挑み掛かるが、まるで歯が立たなかった。薫が斬り殺されそうになったところへ剣心が駆け付け、彼女を助ける。警察の呼び笛が響く中、剣心は薫を連れて走り去る。薫は剣心を神谷道場に連れ帰った。薫は剣心に、以前は死んだ父を慕って大勢が稽古していたこと、半年前に抜刀斎騒動が始まって門弟が1人もいなくなったことを話す。
「一刻も早く奴の凶行を止めないと」と口にする薫に、剣心は「よした方がいいでござるよ。あの男は薫殿より遥かに強い」と告げる。「流儀の威信なんて、命を懸けて守るほど重いものではござらんよ」と言う彼に、薫は「剣は人を殺すための道具に非ず。人を活かす剣を理想とする神谷活心流が、殺人剣に汚されるとは。たかがるろうに風情に、この悔しさは分からないわよ」と声を荒らげた。「亡き父上殿も、娘の命を代償にしてまで流儀を守ることを望んだりはしないでござろう」と剣心は告げ、道場を後にした。
翌朝、薫が道場を掃除していると、居候している孤児・明神弥彦が現れた。飯を食わせるよう求める彼に、「稽古が先でしょ」と薫は言う。そこへ我荒兄弟と手下たちが乗り込み、「ここの道場を貰い受ける。あるお方が高い値で買いたいと言ってるんでなあ」と告げる。一味は道場を荒らし、反抗して来た弥彦を殴り付けた。そこへ剣心が現れ、一味を叩きのめして全員を気絶させた。警官隊が駆け付けると、剣心は全て自分のせいで道場とは無関係だと証言し、警察署に連行された。
牢に入れられた剣心の前に斎藤が現れ、「久しぶりだな、人斬り抜刀斎」と声を掛ける。その様子を、牢に入っていた喧嘩屋の相楽左之助が見ていた。斎藤は剣心を牢から出し、陸軍卿である山県有朋の元へ連れて行く。山県と斎藤は、“蜘蛛の巣”と呼ばれる新型阿片が売買されていることを話し、陸軍の要職に就いて力を貸してほしいと持ち掛けた。しかし剣心は「人斬り稼業で要職に就く気はないでござる」と断る。斎藤は「腑抜けになったか」と刀を抜き、彼に襲い掛かる。しかし斎藤に追い込まれても、剣心は「拙者は過去を捨てた身。もう人は斬らぬ」と告げる。山県は斎藤を制止し、剣心を釈放した。
弥彦は町で恵と出会い、「お願い、助けて。追われてるの」と懇願される。剣心が警察署を出ると薫が来ており、「行くとこ無いんでしょ。ウチへ来て」と言う。薫が道場に帰ると、弥彦が恵を連れ込んでいた。恵は自分の家のように、何の遠慮も無く堂々と振る舞った。薫が素性を尋ねても、恵は笑って受け流すだけだった。薫が3人を連れて牛肉鍋店「赤べこ」で食事をしていると、観柳が手下を引き連れて現れた。恵は見つからないよう、厠に身を隠した。
観柳は剣心に気付き、大金を差し出して「この金で貴方を雇いたい」と持ち掛ける。剣心が断ると、観柳は「自分が侍だったことなんて忘れちまいな。楽しく生きることを覚えろや」と告げる。それでも剣心が考えを変えないので、観柳は怒りを露わにする。そこへ牢屋から出て来た左之助が現れ、「じゃあ、その金は俺が頂く。俺を雇ってくれよ」と言う。観柳が「この金に見合うだけの腕はあるのかな」と問い掛けると、左之助は剣心に目をやって「試してみるかい、伝説の人斬り、緋村抜刀斎さんよ」と大声で告げた。
「こいつに勝ったら俺を雇うってのはどうだ」と左之助が観柳に言うと、剣心は「ここでは店の迷惑でござる」と外に出るよう促した。しかし剣心は「剣を合わせる理由が無い」と告げ、左之助が襲い掛かっても刀を抜こうとしなかった。彼に「あんな男のために、その腕をくれてやるでござるか」と問い掛けられた左之助は、戦いを終わらせた。観柳は児玉たちに「あれは本物だ。上手くやってくれよ。抜刀斎の怒りなど買わぬように」と述べた。
刃衛の偽抜刀斎は、我荒兄弟の一味と警官たちを惨殺する事件を起こした。現場検証を行っていた斎藤は、そこへ現れた剣心に嫌味をぶつけた。亡骸にすがり付いて泣き崩れる女性を目にした剣心の脳裏に、過去の出来事がよぎった。14年前の京都で、彼は桂小五郎から「新時代のために、暗殺稼業をやってくれぬか」と頼まれた。「犠牲になった命の向こうに、必ず誰もが安心して暮らせる新時代がやって来るのなら」と、剣心は承諾した。彼は京都見廻組の4人を斬った。その中には祝言を挙げたばかりの清里明良も含まれていた。「俺には大事な人がいる。死ねない」と瀕死の状態で立ち向かって来る清里を、剣心は殺害した。翌朝、現場に駆け付けた彼の新妻が泣き崩れる姿を、剣心は目にしていた。
観柳はガトリングガンを手に入れ、不敵な笑みを浮かべた。彼は道場周辺の土地を土地を全て潰して港を作り、船で新型阿片を世界中に送り出そうと目論んでいた。彼は儲けた金で武器を購入し、自分の帝国を築き上げようと考えていた。翌朝、恵が井戸水を汲んでいると、外印が現れた。彼は「お前が阿片精製に関わっていたことは事実。お前と阿片は一蓮托生だ。仲間だからな。教えてやる。気を付けろ」と告げて去った。
剣心たちが朝食の準備をしていると、近所に住む久保夫妻が幼い娘を連れて駆け込んで来た。急に体が痺れ、息が荒くなって倒れたのだという。この辺りの医者は一昨日から行方が分からなくなっており、診察してもらえなくなっていることを夫妻は語る。恵は井戸水を調べ、毒が混入されていることを悟った。そこへ左之助と赤べこの店員・妙が、同じく店員の少女・燕を連れて助けを求めて来た。燕も毒にやられて倒れたのだ。その後ろから、毒に苦しむ近隣住民が次々に現れた。
恵は剣心たちに指示を出し、治療に当たった。治療が一段落した後、恵は剣心と2人きりになり、観柳に拾われたこと、生きていくために彼の女になったことを話す。その夜、考え込んでいた剣心が立ち上がると、左之助が現れて「観柳の私兵団はおよそ250人。その中で維新に食いっぱぐれた腕の立つ士族たちが紛れ込んでる。俺も一緒に行くぜ」と声を掛けた。そこへ薫が走って来て、恵が置き手紙を残して姿を消したことを話す…。

監督は大友啓史、原作は和月伸宏『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』集英社 ジャンプ・コミックス刊、脚本は藤井清美&大友啓史、製作総指揮はウィリアム・アイアトン、製作は久松猛朗&畠中達郎&茨木政彦&高橋誠&内藤修&喜多埜裕明、エグゼクティブプロデューサーは小岩井宏悦、プロデューサーは久保田修、共同プロデューサーは樋口慎祐&江川智、アソシエイトプロデューサーは松橋真三、ラインプロデューサーは平野宏治、撮影は石坂拓郎、照明は平野勝利、美術は橋本創、録音は益子宏明、編集は今井剛、アクション監督は谷垣健治、キャラクターデザイン 衣装デザインは澤田石和寛、ヘアー&メイクディレクションはShinYa、美術プロデューサーは竹村寧人、VFXスーパーバイザーは小坂一順、スーパーバイジングサウンドエディターは勝俣まさとし、脚本協力は黒碕薫、音楽は佐藤直紀。
主題歌『The Beginning』ONE OK ROCK 作詞:Taka/作曲:Taka/編曲ONE OK ROCK,akkin。
出演は佐藤健、香川照之、江口洋介、奥田瑛二、武井咲、吉川晃司、蒼井優、青木崇高、綾野剛、須藤元気、田中偉登、斉藤洋介、平田薫、永野芽郁、平山祐介、深水元基、窪田正孝、宮川一朗太、本田大輔、岡本光太郎、山崎潤、矢柴俊博、阿南敦子、有福正志、落合モトキ、永堀剛敏、松嶋亮太、徳永淳、原田裕章、光宣、高野漁、川鶴晃裕、内藤和也、渡辺菜月、河村愛子、松尾諭、中村僚、マット奥井、鷲尾直彦、古賀英鉄、野々村仁、奥深山斬、越中晃一、竹岡常吉、高杉佳幸、吉岡択、山下徳久、いわすとおる、草野達也、勇成真也、窪田光男、柴田裕司、高橋弘志、東山龍平ら。


和月伸宏の漫画『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』を基にした作品。原作の「斬左編」「黒笠編」「恵編」をベースに、物語が再構成されている。
監督はNHKの連続ドラマ『ハゲタカ』や『龍馬伝』などを手掛けた大友啓史。映画は劇場版『ハゲタカ』に次いで2作目。NHKを退職して事務所を設立し、ワーナー・エンターテイメント・ジャパンと監督契約を締結し、最初に撮ったのが本作品だ。
剣心を佐藤健、観柳を香川照之、斎藤を江口洋介、山県を奥田瑛二、薫を武井咲、刃衛を吉川晃司、恵を蒼井優、左之助を青木崇高、外印を綾野剛、番神を須藤元気、弥彦を田中偉登、赤べこの店員・妙を平田薫、同じく店員・燕を永野芽郁、我荒兄弟を平山祐介&深水元基、清里を窪田正孝、桂を宮川一朗太が演じている。
香港のスタントマン組合に所属する谷垣健治が、アクション監督を務めている。

まずキャスティングに触れておくと、男優陣は、おおむね悪くない。一方で、武井咲&蒼井優という2人の女優の配役がマズい。
武井咲に関しては、日常生活や会話シーンでは特に問題は無いのだが(演技力に関してはひとまず置いておくとして)、剣術を披露するシーンになると、途端にダメっぷりが露呈する。
彼女は神谷活心流道場の師範代なんだから、雑魚キャラ程度なら軽く倒せるレベルの強さが無いと困るのに、むしろ彼女が雑魚キャラレベルの弱さなのだ。
蒼井優に関しては、「少女」の薫に対して恵が「大人の女性」じゃないとダメなのに、ちっともそんな風に見えない。
私生活では魔性の女かもしれんが、童顔で見た目が幼いのよね。

佐藤健に関しては、セリフ回しが陳腐すぎる。「おろっ」とか「〜でござるよ」ってのは原作と同じ喋り方をしているだけなんだけど、違和感しか無い。
まだ「おろっ」の方がマシで、「待つでござる」「誤解でござるよ」と「ござる」を連発する台詞回しの方が無残。
それは佐藤健の責任ではないとも言えるんだが、ただし、語尾に「ござる」を付ける台詞を松形弘樹や北大路欣也辺りが低音ボイスでクールに喋ったら、たぶん気にならなかったとは思う。とは言え、彼らに剣心を演じろってのは無理な話だが。
そう考えると、やはり漫画のキャラ設定をそのまま持ち込んだのが失敗なのかなと。
原作ファンからは批判されるかもしれんが、いっそのこと語尾の「ござる」は無くしても良かったんじゃないか。

映画は戊辰戦争のシーンから始まる。
だが、そうじゃなくて、いきなり明治時代から入り、まず「不殺」を誓った後の剣心を登場させて、それから「実は過去に人斬りだった男」という見せ方をしていった方がいいと思うんだよな。
戊辰戦争から始めないと、刃衛が抜刀斎の刀を手に入れるシーンを冒頭で描写できず、ちょっと構成が難しくなるという問題はあるのだが、そもそも、そこで刃衛のエピソードを盛り込んでいること自体が上手くないし。
そこは「剣心と斎藤の関係を描くエピソード」か、「刃衛が抜刀斎の刀を入手するエピソード」か、どっちから絞らないと、オープニングシーンとしてボヤけてしまう。

後半、近隣住民が毒で倒れた身内を連れて神谷道場に駆け込み、薫に助けを求めるのだが、どういう思考回路なのか理解不能。
薫は単なる道場の師範代であって、医術の心得があるわけではない。知り合いに医者がいるわけでもない(その時点では、恵が医者であることを誰も知らない)。
医者がいなくて診てもらえないからと言って、まだ若い娘である薫に、なぜ助けを求めるのか。
しかも、神谷道場って、まだ人斬り抜刀斎事件の嫌疑が晴れたわけではないはず。そんなトコに駆け込むのか。近所の住民たちは、薫や道場を以前から信じていたってことなのか。
そこの設定も不鮮明だし。

134分という上映時間は、ちょっと長すぎる。チャンバラをメインにした娯楽映画であることを考えても、せめて2時間以内に収めるべきだろう。
その一方で、エピソードを追い掛けるだけで精一杯になっているという印象を受ける。
矛盾する批判に感じるかもしれないが、そもそも内容を詰め込み過ぎなのだ。
「斬左編」「黒笠編」「恵編」の内、「黒笠編」か「恵編」の片方は外して構成すれば良かったのだ。
つまり、剣心が刃衛と戦う話か、観柳の陰謀を阻止する話か、どちらか一方に絞り込んだ方が良かった。

原作における観柳のエピソードと刃衛のエピソードを組み合わせようとして、そこが上手く絡んでいない。
観柳に原作の比留間喜兵衛の役割も担当させて、その刺客として雇われた刃衛が偽の抜刀斎として人斬り事件を繰り返しているという設定になっているのだが、かなり無理がある。
観柳が偽抜刀斎に辻斬りを繰り返させているのは神谷道場の土地を手に入れるためだが、それって変でしょ。
道場の評判を落として安く買い叩こうってことなんだろうけど、チンピラどもを雇って地上げ屋まがいのことをさせているんだから、最初からそういう手口でいいんじゃないのか。その後には毒を使って住民たちを始末しようとしているけど、最初からその手口でいいんじゃないのか。
半年も使って評判を落とすって、無駄に手間を掛けているとしか思えん。
もしも、それが道場の評判を落として安く買い叩くための作戦でないとすれば、それこそ何のためにやっているのかサッパリ分からないし。

あと、そこで抜刀斎の名前を使うのも無理があるぞ。
道場の評判を落としたいのなら、実際に所属している門弟の名前でも使った方がいいでしょ。抜刀斎が神谷活心流の門弟の中にいないことぐらい、すぐに分かりそうなものだし。
刃衛が「俺の方が抜刀斎にふさわしい」ってことで偽抜刀斎として事件を起こすのも、やっぱり無理がある。
抜刀斎へのライバル心があったとして、だったら自分が抜刀斎を名乗ろうとは思わんのじゃないか。刃衛のキャラ造形を考えると、偽者扱いで満足しているのは解せない。

中身を無理に詰め込み過ぎたせいで、個々のキャラクターの描写が薄くなっている。
例えば恵なんかは、弥彦に助けを求めて神谷道場で暮らし始めるが、その後の展開における必要性に乏しい。恵が助けを求めたのは観柳に追われているからなんだけど、彼は中盤辺りから、恵の捜索なんて忘れてるし。
で、斎藤は新型阿片を観柳が作っていると見抜いた上で剣心に協力を依頼しているから、恵がいなきゃ剣心が観柳の阿片精製を知ることが出来ないってわけでもない。
恵は観柳を殺そうと決意して屋敷に戻り、そこで捕まるけど、剣心は「彼女を救い出すため」という目的が発生する前の段階で、既に観柳の屋敷へ乗り込むことを決めている。
そうなると、実は恵がいなくても、話は成立してしまうのだ。

それでも恵はマシな方で、左之助なんて、ホントに何のために登場したのか良く分からないような存在と化している。
クライマックスになって剣心と共に観柳の屋敷へ乗り込むという役回りを与えられているのだが、そこは剣心だけでも構わないし。
剣心との友情を深めるドラマがちっとも描かれていないので、ぶっちゃけ、ただ邪魔なだけにしか感じない。
あと、警察署長の浦村も出て来るのだが、存在感は皆無に等しい。原作の主要キャラだから、とりあえず出してみました、という程度だ。

刃衛のキャラクターも薄くなっている。
彼は剣心のダークサイドみたいな奴であり、つまり2人は表裏一体の存在なのだ。しかし、そういう部分の掘り下げが甘いため、そんな2人の対決に深みが無くなっている。
外印と番神も、それぞれ終盤に剣心、左之助とのタイマン対決があるキャラだが、中身は何も無い。
番神に関しては、「元格闘家の須藤元気が演じている」ってことで、『最後のブルース・リー ドラゴンへの道』におけるチャック・ノリスや『スパルタンX』におけるベニー・ユキーデのような存在だと解釈すれば中身はペラペラでも構わんかもしれない。
でも外印の方は、もうちょっと肉付けしてやらないと厳しいでしょ。

(観賞日:2013年10月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会