『るろうに剣心 最終章 The Final』:2021、日本

1879年(明治十二年)、横浜駅。内務省警視局の藤田五郎を名乗っている斎藤一は部下たちを率いて、停車中の蒸気機関車に乗り込んだ。彼は上海の武器商人である雪代縁を見つけると、志々雄真実に鋼鉄艦を売ったことを指摘する。縁は斎藤の正体を知っており、連行しようとする警官たちを軽く蹴散らす。彼は「人斬り抜刀斎の頬に、まだ十字傷はあるか?」と質問し、傷があることを知ると「姉さんは、まだあの男を恨んでいるんだろう」と口にした。縁は「掛かって来いよ」と斎藤を挑発し、警官たちを次々に倒しながら別の車両に移動した。追って来た斎藤が攻撃態勢を取ると、縁は「捕まってやるよ」と不敵な笑みを浮かべて投降した。
東京、浅草。緋村剣心は神谷薫、相楽左之助、明神弥彦、高荷恵と町に出た時、花嫁行列を目撃した。内務省警視局巡査教習所に出向いた彼は、中越流前川道場の前川宮内や警察署長の浦村と会った。前川は剣心に、いつ清と戦争になってもおかしくない状況だと話す。大警視の川路利良は日朝修好条規に基づき、縁の身柄を清の領事館に引き渡した。斎藤が抗議すると、川路は警視局の密偵になっている沢下条張を呼んだ。彼は「縁を泳がせて張に清の動きを探らせる」と説明するが、斎藤は張を信用していなかった。
夜、縁は手下の鯨波兵庫、乙和瓢湖、乾天門、八ツ目無名異らを率いて上野山に現れ、復讐の狼煙として『赤べこ』に砲弾を撃ち込んだ。剣心と左之助は警官隊に同行して上野山に赴くが、既に一味は去っていた。警官隊は「人誅」と書かれた紙を見つけ、剣心に見せる。そこへ斎藤が現れ、上海の武器商人が「人斬り抜刀斎の頬に、まだ十字傷はあるか?」と言っていたことを教えた。『赤べこ』で被害に遭った人々は、小国診療所で恵の手当てを受けた。店員の関原妙は軽傷で済んだが、三条燕は重傷を負っていた。
剣心と左之助は前川道場が襲撃を受けたと知り、急いで向かおうとする。その途中で浦村と連絡が取れないことを聞いた左之助は、そちらへ向かうよう剣心に指示した。天門は前川道場の門下生を余裕で叩きのめし、左之助が駆け付けた時には姿を消していた。瓢湖が浦村の家を襲撃していると、剣心が駆け付けた。剣心と戦った瓢湖は大きなダメージを負うが、不敵な笑みで「苦しめ」と言い放つ。彼は「さあ、人誅の時間だ」と告げ、体に仕込んでいた爆弾を起動して自害した。
浦村家を去った剣心の前に縁が現れ、上海に渡ってマフィアの頭目になったこと、姉を殺された復讐のために戻って来たことを語った。彼は「待ってろ、間もなく人誅の時間だ。俺がお前に与えたいのは痛みではない。苦しみだ」と告げ、その場を去った。川路は一連の事件を警察への挑戦と受け止め、部下たちに厳戒態勢を指示した。張は斎藤に、横浜の倉庫の一角が縁の武器庫になっていると教える。彼は地図を渡し、所有者は上海の大富豪である呉黒星だと告げた。
黒星は縁の元を訪れ、約束を確認する。縁は彼に「終わり次第、全ての組織を譲る」と約束しており、それを守る考えを改めて伝えた。剣心は薫、左之助、弥彦、恵を集め、縁との関係について「自分が斬った妻の弟」と告白した。幕末、剣心は浪人に絡まれていた巴を助け、彼女と暮らし始めた。巴は剣心に、婚約者が京の動乱で命を落としたことを話した。巴の婚約者は清里明良で、彼女は夫の無念を晴らすために近付いたのだった。しかし剣心が敵と戦っている時、巴は彼に味方した。剣心が巴を斬る現場を、縁は目撃していた。
薫は剣心の巴に対する強い思いを知り、恵に「忘れられるはずがない」と漏らした。すると恵は、「でも、貴方も剣様も生きてるじゃない。生きていれば、新しい思い出を作ることが出来る。それは死んでしまった巴様には出来ないことだわ」と述べた。張は縁を訪ね、警察に偽の場所を教えたことを伝えた。剣心の外出中、巻町操が四乃森蒼紫と共に神谷道場を訪れた。彼女は寺の住職から預かった巴の日記を剣心に渡すため、道場に来たのだ。先代の住職は剣心から、自分は生きてもいいのかと相談を受けていた。
斎藤が警官隊を率いて横浜の倉庫街に赴くと、待ち伏せていた上海マフィアの連中が襲い掛かった。その様子を見ていた黒星は警官隊を一掃できると思っておらず、目的は時間稼ぎにあった。縁は気球で東京の上空に行き、「人誅」と書かれたビラを撒いた。兵庫が町の砲撃を開始し、八ツ目も暴れる。剣心は兵庫を見つけて攻撃し、蒼紫は八ツ目の一派と戦う。神谷道場には縁が現れ、左之助が襲い掛かるが歯が立たなかった。操は蒼紫の元に駆け付け、一緒に戦った。蒼紫は市民を爆弾から守り、怪我を負った。剣心は兵庫を圧倒し、止めを刺せという要求を拒否した。道場に戻った彼は、薫が拉致されたことを知った…。

監督は大友啓史、原作は和月伸宏『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』(集英社ジャンプ コミックス刊)、脚本は大友啓史、製作は高橋雅美&池田宏之&千葉伸大&瓶子吉久&森田圭&田中祐介、エグゼクティブプロデューサーは小岩井宏悦、プロデューサーは福島聡司、アクション監督は谷垣健治、撮影監督は石坂拓郎、照明は平野勝利、美術は橋本創、録音は湯脇房雄、編集は今井剛、アソシエイトプロデューサーは藤田大輔、衣裳デザイン / キャラクターデザインは澤田石和寛、VFXスーパーバイザーは小坂一順、脚本協力は藤井清美&赤松義正、音楽は佐藤直紀、主題歌『Renegades』はONE OK ROCK。
出演は佐藤健、武井咲、新田真剣佑、青木崇高、蒼井優、伊勢谷友介、土屋太鳳、江口洋介、有村架純、北村一輝、神木隆之介、窪田正孝、渡辺大、福山雅治、三浦涼介、音尾琢真、大西利空、中原丈雄、鶴見辰吾、小市慢太郎、阿部進之介、柳俊太郎、丞威、成田瑛基、荒木飛羽、平田薫、柿原りんか、小久保丈二、テイ龍進、戸田昌宏、赤間麻里子、小野花梨、西原誠吾、米村亮太朗、笠松将、江藤修平、江原大介、三村和敬、橋渡竜馬ら。


和月伸宏の漫画『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』を基にした2部作の前篇で、「人誅編」をベースにしている。『るろうに剣心 伝説の最期編』から7年ぶりのシリーズ第4作に当たる。
監督&脚本は、シリーズ1作目から手掛けてきた大友啓史。アクション監督も谷垣健治が続投している。
剣心役の佐藤健、薫役の武井咲、斎藤役の江口洋介、左之助役の青木崇高、恵役の蒼井優は、1作目からのレギュラー。蒼紫役の伊勢谷友介、操役の土屋太鳳、川路役の小市慢太郎は、2作目からのレギュラー。宗次郎役の神木隆之介と張役の三浦涼介は、2作目からの復帰。妙役の平田薫は、1作目からの復帰。
縁を新田真剣佑、巴を有村架純、辰巳を北村一輝、黒星を音尾琢真、弥彦を大西利空、前川を中原丈雄、浦村を鶴見辰吾が演じている。

冒頭、縁は「掛かって来いよ」と斎藤を挑発するのだが、その場で戦い始めるのかと思いきや、さっさと逃げて他の警官たちと戦う。その場で戦わないのに「掛かって来いよ」は、ちょっと台詞としておかしくないか。
しかも、斎藤が追って来て戦おうとすると投降するし。それなら警官たちと戦った意味も無いだろ。斎藤が来た時点で投降すればいいだろ。
っていうか、実は縁が警官隊に投降する必要性も全く無いんだよね。圧倒的な戦闘力の差を考えると、本気になれば縁は余裕で警官隊から逃亡できたはずなのよ。わざわざ投降するからには、その行動自体に何か意味を持たせるべきじゃないかと思うんだよね。でも実際のところ、何の意味も無いわけで。
たぶん戦闘シーンから始めたかったんだろうけど、そのせいで縁の行動がデタラメになっている。

今さら言っても仕方がないことだが、「おろろ」「ござる」といった剣心の台詞は滑稽なだけだ。久しぶりに聞いてみると、やっぱり変だ。幾ら佐藤健が頑張って世界観に溶け込もうとしても、まるで口に馴染んでいない。
しかも、今回は冒頭からずっとシリアスモードが続くため、余計に邪魔な口調になっている。
不幸中の幸いなのは、そういう台詞回しは序盤ぐらいしか無いってことだ。
さすがに製作サイドも、それが邪魔になることは気付いていたのかもしれないね。

これまた今さら言っても仕方がないことだが、敵は卑劣で残忍な人殺しばかりなので、剣心が「不殺」を貫くことへの苛立ちを覚える。
敵の殺人も、「対象は殺されても仕方のない奴」とか、「動機に情状酌量の余地がある」とかじゃないからね。何の罪も無い庶民を無差別に攻撃している連中だからね。
まさかとは思うが、「死者は出ていない」という設定だったりするのか。
そんな風に思うのは、明確な形で「死体」を見せるシーンが無いからだ。でも、仮にそうだとしたら、無理があり過ぎる。
あれだけ派手に暴れておいて誰も死んでいないとしたら、それは意図的に殺人を避けたわけじゃなくて、ただの奇跡的な偶然に過ぎないだろうし。

剣心が縁との関係について薫たちに打ち明けるシーンでは、回想という形で2部作の後編『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の映像が挿入される。
しかし、まるで「既に発表された作品のダイジェスト」のような扱われ方になっているので、まあ不親切なこと。
巴が剣心に斬られるシーンなんて、どういう状況なのかサッパリ分からないぞ。
夫の無念を晴らすために剣心に近付いたはずの巴が、なぜ彼と戦う敵を妨害して一緒に斬られるのか、その理由は全く教えてくれない回想劇なのよね。

物語の中身は、ものすごく薄い。そもそも「アクションが一番でストーリーは二の次」みたいなシリーズではあるのだが、今までの3作と比較してもダントツに薄いんじゃないか。
そもそも、今回の敵である縁の目的は「姉を殺した剣心への復讐」であり、ものすごく個人的でスケールが小さい。
しかし映画としてはスケールの大きな展開を用意する必要があるので、無駄に大勢の手下がいるし、町で大規模な破壊活動をさせている。
そのため、目的と行動の整合性は完全に破綻している。

登場人物の扱いが雑なのも、シリーズでダントツじゃないだろうか。ザックリ言うと、大半のキャラは「ただ出しているだけ」なのだ。
例えば、最終決戦では剣心の元に斎藤&左之助&操が駆け付けて加勢する展開がある。だが、そういう段取りだから登場させているだけであり、「3人が駆け付けて加勢する」という展開に至るドラマを全く描けていない。だから3人が駆け付けても、何の興奮も高揚も無い。
瀬田宗次郎を登場させるのも、「シリーズのファンなら喜ぶだろう」という考えだったんだろうが、「別に」としか思えない。
どのキャラも中身が空っぽで、ほぼ「アクションシーンのための駒」に過ぎない存在なんだよね。
だから、「いっそのこと剣心だけでも良くね?」と思ってしまうのよ。

ネタバレになるが、縁が薫の殺害を偽装する手順を削除したのは、完全なる改悪だろう。そこで剣心を絶望の底へと叩き落としておいて、希望に転じる展開を用意した方がいいでしょ。
ただでさえドラマが弱いのに、この物語で重要なポイントだった「殺害偽装」のエピソードを捨てたことによって、ますます味がしなくなっちゃってるぞ。
あと、これって2部作にする必要があったのかと。1本にまとめておけば、少しはドラマの薄さも何とか出来ただろうに。
まあ、たくさん稼ぐために2部作にしたことは明らかなんだけどさ。

(観賞日:2022年10月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会